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ペンギンの別れの挨拶

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第一章

               ペンギンの別れの挨拶
 ニュージーランドの話である。
 この国の海洋生物保護団体のカイコウラ=ワイルドライフ=レスキューは今一匹のコガタペンギンを保護していた、このペンギンは人間が置いたもののせいで頭を怪我していた。
 そのペンギンを保護した時にスタッフの若い男が言った。金髪で顔にはソバカスがある。水泳選手を思わせる引き締まった長身だ。
「このペンギン小さいですね」
「コガタペンギンですから」
 スタッフにいる海洋生物学者が彼に話した。穏やかな顔で眼鏡をかけていて癖のある白髪と無精髭が印象的だ。
「四十センチ位なんです」
「そうした種類ってことですね」
「はい、ペンギンも色々種類がありまして」
 それでというのだ。
「その中にはです」
「こうした種類もいるんですね」
「はい、それでこの子ですが」
 学者はそのペンギンを見つつ話した。
「怪我をしていますが助かります」
「大丈夫ですか」
「ですから我々で保護をして」 
 そうしてというのだ。
「的確に手当てをして」
「回復させてですね」
「自然に返しましょう」
「わかりました」
 男は学者の言葉に頷いた、そうしてそのペンギンをマイノスと名付けて手当をしていった。すると。
 マイノスは学者の言う通り順調に回復した、男はそれを見て言った。
「本当にです」
「回復していっていますね」
「ええ、重傷でしたが」
「若し我々が手当てをしていないと」
 学者は男に真面目な顔で答えた。
「駄目だったでしょう」
「そうでしたか」
「ですが手当をすれば」
 そうすればというのだ。
「充分にです」
「助かる怪我でしたか」
「はい、ですから」
「今回はですか」
「我々が保護してです」
 そうしてというのだ。
「よかったと思います」
「それが僕達の仕事ですし」
「はい、ですから」
「それで、ですね」
「この子も助けられて何よりです。では完治したら」
 その後はというと。
「自然に返しましょう」
「海にですね」
「そうしましょう」
「それも僕達の仕事ですね」
「環境保護もですから」
 そこには生態系も入っているというのだ。
「そうしましょう」
「それでは」
 こうした話もしながらマイノスの手当てをしていった、そして彼の怪我が完治していよいよだった。
 彼を海に返す時が来た、それで学者は男に言った。
「ではです」
「これからですね」
「マイノスを海に返しましょう」
「それでは」
「その時が来ましたから」
「では。それじゃあマイノスこれでな」
 その彼にも声をかけた。
「お別れだ、達者で暮らせよ」
「クエ」
 マイノスは一声鳴いた、そうしてだった。
 海に向かっていった、ペンギン特有のヨチヨチとした足取りで。だが。
 いよいよ海に足を入れようとする時にだった、彼はスタッフ達の方を振り向いた、スタッフ達はその動きを見て言った。
「振り向いた!?」
「俺達の方を」
「そうした?」
 まさかと思った、だが。
 海に入って身体の半分まで海の中に入った時にまた振り向いてきた、そうしてから海に完全に入って。 
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