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輝きを取り戻した犬

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第一章

                輝きを取り戻した犬
 この時ジョン=マクローリンは自分が勤務している動物達を保護しているセンターのシェルターを見て暗い顔になった。
「やっぱりです」
「アナベルはですか」
「はい」
 ある犬を見て答えた。
「変わらないですね」
「シェルターの隅で、ですか」
「はい、小さくなっています」
 灰色の目で少し日に焼けた顔である、背は一八〇近くやや太っている。くすんだ金髪の髪の毛は背右に流している。全体的に清潔な感じだ。
「そうなっています」
「そうですか」
「食事も食べますが」
 それでもというのだ。
「最低限で」
「もう後は死を待つ様な」
「そうした感じです、全部諦めて」
「最初は明るい犬だったそうです」
 後輩はこう彼に話した。
「本当に」
「それがですか」
「はい、飼い主が変わって次の飼い主に虐待されて」 
 それでというのだ。
「完全に心を閉ざして」
「そうしてですか
「ああなったんです」
「人間と同じですね」
「そうですね」
 後輩はジョンに難しい顔で答えた。
「他の犬とも付き合おうとしないで」
「それで私達にも」
「心を開かないで」
「もうずっとああして」
「シェルターの隅でじっとしていますか」
「そうです、十歳で高齢と言っていいですが」
 ここでジョンはシェルターの隅を見た、そこには。
 顔の左右と耳が茶色で他の部分は白い毛の犬を見た、毛はボロボロで表情は弱々しい。身体は大きめだが随分痩せていて軽そうだ。表情は極めて悲し気で隅で小さくなっていて動く気配も全くない。他の犬達が元気なのに対して。
「まだです」
「犬の人生もこれからですよね」
「ええ、本当に」
 こう後輩に話した。
「そう思いますが」
「それでもですね」
「どうしたものか」
「女の子で大人しくて」 
 後輩はその犬の性格も話した。
「いい娘なのに」
「もう一度幸せになって欲しいですね」
「全くですね」
 アナベルを見て心から心配した、彼女はずっと悲しい顔でじっとしていた。だがその彼女についてだった。
 カルフォルニアでボランティアをしているタウニア=カロゾロフ年老いた彼女がジョン達の施設に連絡してきた。
「あの、アナベルという娘ですが」
「あの娘のことですか」
「はい、私が引き取って」
 そうしてというのだ。
「家族に迎えて宜しいでしょうか」
「お願い出来ますか」 
 ジョンは電話の向こうの老婆にすがる様に言葉を返した。
「そうしてくれますか」
「そちらのホームページで確認しましたが」
「はい、虐待を受けていて」
「心を閉ざしていますね」
「可哀想な娘です」
「はい、そうした娘ですから」 
 それ故にというのだ。
「私もです」
「引き取ってですか」
「そして」
 そのうえでというのだ。
「家族として暮らします」
「お願いします」
 ジョンは切実に答えた、そしてだった。
 アナベルはその老婆タウニアに迎えられた、シェルターのある施設で最初に対面した。だがこの時もだった。
 アナベルは縮こまり小さくなっていた、如何にも温厚そうな老婆を見ても怯えきって震えて目も弱々しかった。
「クゥ~~ン・・・・・・」
「大丈夫よ」
 老婆はその彼女に優しい声をかけた。 
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