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ハイスクールD×D イッセーと小猫のグルメサバイバル

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第75話 空の危険区域、ベジタブルスカイに向かって駆けあがれ!

 
前書き
 ドラクエのマホカンタの設定を魔法だけでなく炎や雷など自然現象も跳ね返せると変えましたのでお願いします。 

 
 
side:イッセー


「ありゃ積乱雲だ!親父の奴、人が悪いなんてもんじゃねえぞ……!」


 俺は頭上に渦巻く巨大な雲の塊を睨みつけながら親父へ悪態をついた。いくら修行のためとはいえ空の立ち入り禁止区域に入らされることになるとはな。


「イッセー、積乱雲とはなんだ?」


 すると積乱雲の意味が分からないゼノヴィアが俺に質問をしてきた。


「積乱雲っていうのは別名『雷雲』と呼ばれる巨大な雲だ。『入道雲』とも呼ばれている」
「入道雲って夏とかに見るあの大きな雲の事?」


 俺の説明にかつて日本に住んでいたイリナがそう答えた。


「そうだ。あの雲の中は乱気流と雷で渦巻いている危険地帯で航空機も絶対に近づかない。あんな所に近づくのは恐れ知らずのアホくらいだ」
「今からアレに近づこうとしている僕達はまさにアホなんだろうね」
「まったくだな」


 祐斗の呟きに俺も同意する。あんなもの普通は使づかずに離れようとするからな。


「皆、ここから先はライタースーツを着るんだ。あれだけの大きさの雲だ、『ダウンバースト』が起こる可能性が高い」
「ダウンバースト……?」


 流石にリアスさんもダウンバーストについては知らなかったか。


「簡単に言うと雲から地面に向かって冷たい空気が叩きつけられる現象の事だ。さっき感じた冷たい風は辺りの熱を乱気流が奪ったから起きたのだろう。いつ落ちてくるか分からねえから急いで着るんだ」
「分かったわ!」


 俺の説明に全員が頷き急いでライタースーツに着替えていく。


「よし、全員着たな。じゃあ次はこれを皆に渡すぞ。ルフェイ!」
「了解です!」


 俺はそう言うとルフェイに頼んで異空間から酸素マスクと『酸素の葉』を出してもらった。


「これをこうして……よし、出来た!」


 俺は酸素の葉を酸素マスクに入れて全員にそれを渡した。


「イッセーさん、これは何ですか?」
「これは貴重な『酸素の樹』から取った葉でな、少しの光さえあれば息に含まれている二酸化炭素と水分で光合成をおこなって酸素を作ってくれるんだ。ここから先は呼吸もままならないはずだ、だから酸素マスクが必要になる」


 アーシアの質問に俺は酸素の葉について説明する。希少なものだが普通の酸素マスクでは壊れてしまう恐れがあるからな、あのカバーは大型の猛獣が踏んでも壊れない耐久がある。


「でもイッセー君、辺りは太陽の光が遮られて真っ暗ですわよ?」
「大丈夫ですよ。何せ雷があんなに落ちていますからね。光に困ることはないでしょう」


 朱乃さんの言う通り辺りは分厚い雲に覆われていて太陽の光は遮られてしまっているが、あちこちで雷が落ちているので光の問題は無いだろう。因みにマスクには声を大きくする機能もあるので音が聞こえずらい場所でも会話もできるぞ。


「雷って……あんな凶暴そうなエアゴリラ達が真っ黒こげにされているんだけど……」
「あんなものに直撃したら命はなさそうだね」


 ティナの視線の先には強風で飛ばされたエアゴリラ達が落雷で焼かれているのが見えた。それを見た祐斗は直撃すれば命は無いと言うがその通りだろう。


「イッセー君、わたくしが雷を感知して防ぎますわ」
「おおっ!助かります、朱乃さん」


 朱乃さんに雷の対策のしてもらうことになった。でもまだ風が心配だな。


「ルフェイ、風を防げるアイテムはないか?」
「ごめんなさい、師匠。流石に風をさえぎるアイテムは用意できなくて……」
「僕が風を吸収する魔剣で強風を押さえるよ。完全に防ぐことは難しいけど……」
「何も対策しないより全然良いさ。ありがとうな、祐斗」

 
 風の対策は祐斗の魔剣に頼ることにした。だがそれでもアーシアやギャスパー、ティナは厳しいだろう。


「よし、ここからはアーシアとギャスパーに加えてティナも俺が担いでいく」


 一般人であるティナにとってこの先はかなり危険だ。俺が担いでいった方がまだ安全だろう。


「でも三人も担いでいくのはキツくないかい?」
「問題ないさ。三人とも軽いからな。ただアーシアかギャスパーが前に来てもらう事になるが……」


 流石に三人は背中に乗せられないから体の小さいアーシアかギャスパーを抱っこしていく必要があるな。あとティナは駄目だ、大人の女性だから絵的にもアレだし何より小猫ちゃん達に怒られてしまう。


「じゃあ僕が前に行っても良いですか?僕の方がアーシア先輩より小さいですし……」
「よし、じゃあそうしよう」


 俺はアーシアとティナを背中におんぶしてギャスパーを抱っこする。そして頑丈な紐で体を固定した。そしてクルッポーとユンを魔法で異空間に保護して俺は空を見上げた。


「皆、覚悟はできたか?」
「ええ、いつでも行けるわ!」
「なら積乱雲に向かうぞ!」


 俺達はリアスさんの合図と共に積乱雲に向かって登り始めた。すると早速自然の驚異が俺達に襲い掛かってきた。


「皆、ダウンバーストが来るぞ!」


 俺達に向かって放たれた圧倒的な冷気が辺りを凍てつかせていく。大体マイナス50℃くらいか、アイスヘルの冷風並みの威力だな!


「ぐううっ……!なんて凄い冷気だ!」
「こ、凍っちゃいます……!」


 かつてアイスヘルで体験した地獄を思い出すかのようにゼノヴィアと小猫ちゃんが苦痛の声を上げる。俺以外にはルフェイにフバーハをかけてもらっているとはいえコレはキツイぞ……!


 凍てつく冷気の爆弾は俺達から体力と熱を奪い氷漬けにしていく。


「こ、このままじゃ死んじゃいますぅ!」
「安心しろ、ギャスパー!直ぐに温めてやるからな……シバリング!」


 俺はシバリングを使い氷漬けになるのを防いだ。だが何度も叩きつけられる冷気の爆弾に体力をどんどん削られていく。


(くそっ、シバリングは体力を大きく消耗する。唯でさえ酸素が薄い高地にいるんだ、これ以上体を消耗させるわけにはいかねえ……!)


 俺はシバリングを解除して息を整える。だがそこに何かが勢いよく落ちてきたので回避する、俺がいた場所に硬い何かが激突した。


「イッセー先輩!雹が降ってきました!」
「まるで爆撃みたいだわ!」


 小猫ちゃんは空から降ってきた物の正体を明かしイリナはまるで爆撃のように降ってくる雹を見て悲鳴を上げる。


「ぐうっ!?モタモタしていたら雹で穴だらけにされちまう!皆、一気に駆け上がるぞ!」


 俺は皆に指示を出してスカイプラントを駆け上がっていく。


「イッセー!前から巨大な雹が飛んできたわ!」
「私に任せて!滅びよ!」


 ティナの言うように前方から俺よりも大きな雹が飛んできた、それをリアスさんが滅びの魔力で消し去った。


「ナイスです、リアスさん!……!?リアスさん、危ない!」
「リアス!」


 リアスさんに賞賛の声をかけたが、一瞬嫌な予感がしてリアスさんに回避するよう指示を出した。だがそれよりも早く動いた朱乃さんがリアスさんを押し倒した。すると次の瞬間にはリアスさんの立っていた場所に雷が落ちてスカイプラントを焦がした。


「び、ビックリした……朱乃がいなかったら直撃していたわね……」


 焦げた個所を見てリアスさんが冷や汗を流す。だが今度はいくつもの雷が束のようになって俺達に降り注いできた。


「させませんわ!」


 朱乃さんはのの様棒を避雷針として使い雷を防いでいく。だが雷の量が多いため体力を消耗していく。


「凄い数ですわ……!このままでは……」
「朱乃先輩!僕が魔剣で雷を引きつけます!その間に移動してください!これ以上は危険です!」
「俺も協力するぞ、祐斗!」


 このままでは朱乃さんが危ない、そう思った俺と祐斗は協力して朱乃さんのフォロ―に入った。


「魔剣よ!」


 祐斗は雷を引き付ける魔剣を数本生み出して空に投げた。すると雷がそちらに流れていき朱乃さんから離れていった。


「ドライグ!5回倍加だ!」


 俺は赤龍帝の籠手で力を倍加して跳躍した。


「フライングレッグナイフ!」


 そしていつもの何倍もあるレッグナイフを飛ばして雷を打ち消した。その余波で一瞬雲に切れ目が出来て雷が中断した。


「今の内に上に上がるぞ!」


 あの程度では積乱雲はビクともしないだろう、時間稼ぎにしかならない。俺達は必至になって積乱雲に向かっていく。


「よし!積乱雲に突入するぞ!」


 俺達は積乱雲の中に突入する。実際に中に入ったのは初めてだ、一体どんな……!?


「なんだ!?暗すぎて何も見えないじゃないか!?」


 積乱雲の中は漆黒の闇が広がっており、雷が放つ光すらも一瞬で消えてしまうほどだ。


「なら嗅覚を頼りに前に進むしか……!ぐぅ……!?」


 俺は視界が効かない積乱雲の中を嗅覚を頼りに進もうとしたが、あまりの空気の冷たさに鼻の内部が凍り付き呼吸が出来なくしまった。


(息が……!)


 呼吸が出来なくなり膝をついてしまう俺、だがそんな俺の隙を狙ったかのように乱気流が俺達を飲み込んだ!


「うわぁぁぁぁぁぁ!?」
「きゃああああああ!!」


 皆の悲鳴が聞こえ俺は大いに焦った。まさか乱気流がここまで激しいとは思ってもいなかったからだ。


「これは予想以上のパワーだ……!まるでミキサーに入れられたような感覚……早くみんなを助けないと……!?」


 俺は皆を助けようとするが俺も乱気流に巻き込まれてしまい動けなくなってしまった。


(まさか250㎏はある俺の体すら容易に動かすとは……!これがG×G界の自然の猛威か!)


 今までいろんな場所に向かったが『環境』を相手にしたのはアイスヘル以来だ。俺は何とか動こうとするが体の自由が利かない。俺ですら体の自由を奪われる乱気流だ、いくら祐斗の魔剣で風を抑えているとはいえこのままじゃ皆の体がバラバラになってしまうぞ!


 皆の場所を匂いで探ろうとしても呼吸が上手くできずに匂いを嗅ぐことが出来ない。それどころか上下左右の間隔すら朧げになってきたぞ……
 

 そんな俺を乱気流はあざ笑うように吹き溢れ弄ぶかのように吹き飛ばしていく。意識が朦朧とする中、一瞬視界が光ったように見えた。


「雷か……!」


 俺は咄嗟にフライングナイフを放つ。すると俺達に向かって落ちてきた雷が四散した。


(危ねぇ……あと一瞬気が付くのが遅れたらアウトだった!……そうだ!皆は大丈夫なのか!?)


 俺は皆に雷が落ちる可能性を思い浮かべて何とか視界を動かして皆を探す。だが漆黒の闇の中、皆の姿が見えるはずもなく皆の悲鳴だけが聞こえてきた。


(クソッ……なんてザマだ。皆を守るって言っておきながら自然に翻弄されているなんて……)


 俺は甘かった。皆と一緒ならどんな困難も乗り越えられると思っていた。だが自然はとても強大でとてもじゃないが適うような相手ではなかった。


「意識も……薄れてきた……こんなことなら皆を誘うんじゃなかった……俺のせいで皆が……ごめんよ……」


 安易に皆を修行に誘った己の浅はかさとそれに対する後悔で押しつぶされそうになる。だがその時だった、アーシア達を繋いでいた紐が切れた音がした。


「……!ッアーシア!ギャスパー!ティナ!」


 俺は3人が飛ばされてしまったと思い声を荒げた。だが俺の体には3人分の温もりがあった。


「お、お前ら……」


 アーシア、ギャスパー、ティナは必至に俺の体を掴んで飛ばされないようにしていたんだ。意識だって朦朧としているはずなのに俺を掴む手には強い力が込められていた。


(イッセーさん、信じています……!)
(イッセー先輩、僕は先輩を信じます……!)
(信じてるわよ、イッセー……!)


 三人はそう言った訳じゃないが、俺には分かるんだ。三人は俺を信じてくれている。


 だがそこに再び雷が落ちてきた。俺はまずいと思ったが雷は俺を避けて別の場所に向かった。


「あれは……!」


 雷が向かった場所は朱乃さんの方だった。彼女の周りにはいくつのも雷が引き寄せられており、それが彼女が俺達を守るために先程のように雷を引き付けていたんだと理解した。


「僕も役に立つんだ……!」


 祐斗も雷を吸収する魔剣を生み出してそれで皆を守っていた。


「ゼノヴィア、諦めたら駄目よ!」
「ああ……この程度で挫けたりはしない……!」


 イリナはゼノヴィアと手を繋いで何とか体制を立て直そうと『黒い靴』で乱気流に抗っていた。そしてゼノヴィアは朱乃さんと祐斗がカバーしきれなかった雷をデュランダルで受け止めていた。


 だがその時だった。再び俺達に目掛けて雷が落ちてきたんだ。流石に朱乃さんもフォローしきれなかったらしく、俺はアーシア達を守ろうとするが……


「これは……!?」


 だが雷は俺に当たる瞬間にまるで撥ねかえるように違う場所に落ちていった。


「私も……出来る事をします……!」


 ルフェイの声が聞こえ視線を向けるとルフェイは俺に何かの魔法をかけているのが見えた。


「これはマホカンタか……!」


 マホカンタと呼ばれる魔法や自然系の攻撃を撥ねかえすバリアを使い雷から自身を守っていた。アレはかなり魔力を消耗するので使い続けるのは危険だ。だがルフェイは俺にマホカンタを使い続けた。


「リアス部長、ごめんなさい……こんな時に何もできなくて……」
「小猫、謝る必要なんてないわ!私達はイッセーが助けてくれることを信じて動き続けるのよ!」


 リアスさんは小猫ちゃんを守りながら自身に向かって落ちてくる雷を滅びの魔力で迎撃していた。こんな上下左右も分からなくなるほど激しし乱気流の中、リアスさんは必至になって小猫ちゃんを守っていた


「皆だって相当に辛いはずだ。なのに皆は自分の使命を果たそうと頑張っている……それに比べて俺は!」


 俺は自分の馬鹿さ加減に頭に来てしまった。アーシア達は俺を信じてくれたのに……朱乃さんも祐斗も皆も……全員が頑張っているのに何をやっているんだ、俺は……!


 俺は少しでも弱気になってしまった事を恥じた。そして自分の顔を殴って喝を入れる。


「目が覚めたぜ……!」


 俺がしなければいけないのは後悔じゃない!この状況を乗り越える為に進化するんだ!


「皆を守るためにも俺が成長しなくちゃいけないんだ!その為には考え方を変えるんだ!」


 自然の力はあまりにも強くグルメ細胞や赤龍帝の籠手を持っていても到底太刀打ちできないだろう。だがその考えが間違っているのかもしれない。


(自然は敵じゃない……あくまで現象だ……なら立ち向かうのではなく自然に委ね適応すればいい……)


 俺はシバリングで冷気に抗おうとしたがそれでは駄目だ。この体感マイナス80℃はある冷気の中で如何に効率よく呼吸をするためには……


 そんな中、俺は親父が白い息を吐くのは未熟者がする事だと言っていたことを思い出した。


(息が白くなるのは人間の体温と外の温度の差が大きいことでなる。つまり体内で温まっていた息の中に含まれる水蒸気が急に外の低い気温で冷やされて細かい氷の粒に変化する、それが白い息の原因だが……もし息を吐く際に二酸化炭素だけを外に出せれば……)



 俺は息を吸い込み気管の上部の咽頭部で呼気を止めて酸素を体内に留まらせた。そして再び息を吸ってマイナス80℃の冷気を体内に入れる。


 すると体内に留めていた息の中に含まれる沸点・融点が最も高い二酸化炭素が真っ先に凍り付いた。


 俺は凍った二酸化炭素だけを器用に吐き出してそれ以外は体内に留め続ける。するとあれだけ困難だった呼吸がスムーズに出来るようになってきた。


(これだ……!これが酸素と水分、体温を極力保つ呼吸法……!これなら体力を消耗することなくこの異常気象の中で活動が出来るぞ!)


 俺は遂にこの環境に適応する術を身に着けることが出来た。まだ完璧とはいかないがさっきまでと比べれば十分自由に動ける!


「赤龍帝の鎧……!」


 俺は赤龍帝の鎧を顔以外に纏い匂いを嗅ぐ。そして皆の居場所を見つけると腰に生み出したブースターを使って無理やり乱気流の中を移動する。


(極力鎧の力には頼りたくなかったが、今は緊急事態だ!)


 拘りを捨てて兎に角皆を救出することを優先した俺は、一番近くにいたリアスさんと小猫ちゃんをまず助け出した。


「イッセー!?助けに来てくれたのね!」
「遅くなってしまって申し訳ないです、リアスさん。でももう大丈夫!俺が皆を助けます!」
「イッセー先輩!絶対に先輩が助けてくれるって信じていました!」
「ごめんな、小猫ちゃん。助けるのが遅くなっちまった」
「そんなことはありません!先輩はやっぱり私のヒーローです!」
「小猫ちゃんにそう言って貰えて嬉しいぜ!」


 俺は二人をスカイプラントに下ろした。そして赤龍帝の贈り物でリアスさんの張った結界を強化する。そして意識が朦朧としていたアーシア、ギャスパー、ティナを結界内に下ろした。


「俺は他の皆を助けてきます。二人はこの結界の中にいてアーシア達を守ってください」
「お願いね、イッセー」


 俺は結界から出て次にゼノヴィアとイリナを救出しに向かった。ゼノヴィアがカバーできなかった雷が二人に当たる前に俺は雷を打ち消した。


「二人とも、無事か!?」
「イッセー君!来てくれたんだ!嬉しいよ!」
「済まない、イッセー……手間をかけさせてしまって……」
「謝るなよ、ゼノヴィア。お前らが諦めないでいるのを見たから俺も頑張れたんだ。俺の方こそ睡魔なかった、そして頑張ってくれてありがとうな」
「イッセー……」


 イリナは俺に抱き着いてきたが、ゼノヴィアは申し訳なさそうに謝ってきた。でも俺は皆の頑張っている姿を見て諦めずにこの環境に適応するための呼吸法を見つけられたと彼女に礼を言った。


「君はズルいよ……そんな風に言われたら私も……」
「ゼノヴィア……?」
「……いや何でもない。残りの皆も助けてやってくれ」
「応ッ!」


 二人をリアスさんのいる場所に送ると今度はルフェイを救出した。


「ルフェイ、大丈夫か!?」
「し、師匠……来てくれたんですね……」
「ああ。お前のマホカンタのお蔭で助かった。ありがとうな」
「えへへ……お役に立てたのなら良かったです……」


 魔力を大きく消耗したせいで疲れているルフェイをそっと抱きしめた。本当にこの子は俺にはもったいないほど良い弟子だ。


 そして今度は祐斗を助けに向かった。朱乃さんは雷を引き付けているため祐斗に雷を吸収する魔剣を借りないといけないな。


「祐斗、朱乃さんの負担を減らしてくれてありがとうな。もう大丈夫だ」
「イッセー君、この魔剣を使って……これで朱乃先輩を助けてあげて……」
「ああ、後は俺に任せろ!」


 いくつもの魔剣を生み出して祐斗も消耗してしまったようだ。俺は祐斗から魔剣を譲り受けると彼をリアスさん達の入り結界に送り届けた。


「後は朱乃さんだけだ!」


 俺は今も雷を引き寄せてくれている朱乃さんの元に急いで向かった。彼女のお蔭で安全に皆を助けることが出来た。彼女は自身が言ったことを懸命に果たそうとしてくれたんだ。


「今行きますよ、朱乃さん!」


 俺はそんな彼女に感謝しながら朱乃さんの元に向かう。そして祐斗から譲り受けた魔剣を勢いを付けて投げた。


「うおおおおッ!!」


 俺の投げた魔剣に向かって雷が引き寄せられていく。その隙に俺は朱乃さんを救出した。


「朱乃さん、無事ですか!?返事をしてください!」
「だ、大丈夫ですわ……」
「朱乃さんが頑張ってくれたおかげで被害は出ていません!貴方のお蔭です!」
「良かった……わたくしは約束を守れたのですね……」
「ええ、惚れなおしましたよ」


 朱乃さんはかなり体力を消耗したらしく弱弱しい声を上げた。こんなになるまで頑張るなんて……


「ふふっ、なら頑張った甲斐があったかしら……」
「まったく貴方って人は……」


 だが朱乃さんはペロッと舌を出してほほ笑んだ。恐らく俺を気遣ってそうしてくれたのだろう。


「さあ皆の元に行きましょう、ここからは俺が頑張る番です!」
「ええ、行きましょう」


 俺は朱乃さんを連れて皆の元に向かった。


「朱乃!?怪我はない?どこも以上ないわよね?」
「大丈夫ですわ、リアス。かなり疲れたけど怪我はしていません」


 皆の元に戻るとリアスさんが朱乃さんに駆け寄って安否を確認した。それに対して朱乃さんは大丈夫だと笑顔で返す。


「これで皆を救出できたがここからどうするか……」
「イッセー先輩、先輩はこの乱気流の中でも呼吸をできるようになったんですよね?」
「ああ、俺はこの環境に適応することが出来た」
「ならその呼吸法を私にも教えてくれませんか?そうすれば私は足手まといにはなりませんから」
「なるほど、グルメ細胞を持つ小猫ちゃんなら出来るかもしれないな」


 呼吸がしっかり出来れば悪魔の小猫ちゃんなら乱気流にも耐えられるかもしれないな。


「なら僕も教えてくれないかい。グルメ細胞は僕も持っているから出来るかもしれない」
「わたくしもお願いできますか?」
「でも二人はかなり消耗している。無理はしない方が……」


 祐斗と朱乃さんも俺にこの環境に適応するための呼吸法を聞いてきた。だが二人は雷を防ぐために神器や魔法を使って体力・精神力と共に消耗している。無理をしないようにと俺は言うが……


「いや、君にばかり頼っていたら駄目だ。僕もグルメ界に行くために環境に適応できるようにならないと」
「わたくしもイッセー君と共にグルメ界に行きたいです。お願い、イッセー君……」
「……分かりました。でも無理はしないでくださいね」


 祐斗と朱乃さんの覚悟を見て俺は二人にも呼吸法を教えた。それから40分ほどかけて3人は何とか俺のような呼吸の仕方が出来るようになった。


 その際に結界が壊れないよう維持するためにリアスさんとルフェイが限界まで魔力を消耗してくれた。二人が頑張ってくれなかったらこんな危ない場所で訓練は出来なかったから感謝しても足りないくらいだ。


 当然俺と比べればまだ荒いがそこは悪魔の身体能力でフォローすることでカバーできたようだ。


(しかしいくら悪魔の体が人間より強いとはいえ、まだ3人はグルメ細胞を得てからそんなに時間はたっていないのにこの呼吸法を不完全ながら会得するとは……)


 コカビエルもそうだったが人間よりも悪魔などの方がグルメ細胞と適合しやすいのかもしれないな。これは今後も研究していく必要がある。


 だが今はこの積乱雲を抜けてベジタブルスカイに向かう方が先決だ。だが朱乃さんも祐斗もかなり体力を消耗してしまった。もう二人に雷を防いでもらうのは危険だな。


「うん?あれは……」


 その時だった。乱気流が吹き溢れるこの場所に巨大な鳥が現れたんだ。


「あれは『ライトニングフェニックス』!?雷雲の中に住むと言われている伝説の雷鳥だ!しかも前にココ兄が捕獲してきた子供と違い大人のライトニングフェニックスだ!」


 そう、俺達の目の前に現れたのはライトニングフェニックスだったんだ。


「こいつは運がいいぞ!ライトニングフェニックスの羽は雷を弾くと言われている、いくつか羽根を貰って雷の防御に使おう」
「でもあんな大きな鳥にちょっかい出して大丈夫なのかしら?」


 俺はライトニングフェニックスから羽根を貰おうとしたがリアスさんの言葉に確かに……と思った。もし羽根を抜かれたライトニングフェニックスが怒って襲ってきたらかなりマズイ。なにせ大人のライトニングフェニックスは捕獲レベルが75もあるからな。


「そうだ、ギャー君が時を止めて羽根を取ればいいと思います」
「確かに時間が止まっていればライトニングフェニックスも気が付かないかもしれないな」
「ええッ!?ぼ、僕の神器を使うんですかぁ!?」


 小猫ちゃんはギャスパーの神器を使ってライトニングフェニックスの動きを止めてその間に羽根を取れば良いと話す、それに対して俺は頷き同意する。


 だがギャスパーは不安そうに答えた。


「危険ですよ!だって僕は神器をコントロールできないんですから!」
「それは前までの話だろう?お前はさっき今までコントロールできなかったスタンドを僅かながらとはいえコントロールできたじゃないか。神器だって同じだ、お前の想いにきっと答えてくれるさ!」
「……ううっ、分かりました!僕やってみます!」


 俺の言葉にギャスパーは覚悟を決めた目になりライトニングフェニックスの姿を視線に入れる。そしてギャスパーの目が赤く輝きライトニングフェニックスの動きを止めた。


「や、やった……!ライトニングフェニックスの動きを止めました!」
「でかしたぞ、ギャスパー!」


 ギャスパーは俺達を停止させずにライトニングフェニックスの動きだけを止めることが出来た。俺はその隙にライトニングフェニックスの背中に飛び乗って羽根を数枚抜いた。


 そして俺がスカイプラントに戻ると神器の効果が切れてライトニングフェニックスが動き出して雷雲の奥へと飛んで行った。


「良くやったな、ギャスパー。今日は大活躍だな」
「えへへ……」


 俺はギャスパーの成長に嬉しくなってしまいギャスパーの頭をガシガシと撫でた。


「よし、ここからは俺がティナとアーシアを背負ってギャスパーを抱っこする。リアスさん、ルフェイ、ゼノヴィア、イリナは俺の後ろについてきてくれ。小猫ちゃん、祐斗、朱乃さんはライトニングフェニックスの羽を使って落ちてくる雷を防御しながら先に進むぞ!」
『応ッ!』


 そして俺達は再び乱気流が吹き溢れるスカイプラントを登り始めた。落ちてくる雷は小猫ちゃん達が防いでくれるお蔭で俺はリアスさん達のフォローに専念できた。


 それでも厳しいこの環境を俺達は互いに声を掛け合って励まし合い、時には助け合って一緒に進んだ。疲労も堪り疲れもピークに達してきた頃になって少しだけ辺りが明るくなってきた。


「イッセー、これって……」
「ああ、雲のてっぺんが近いんだ!」


 積乱雲の出口が見えた。それによって俺達にも気合が入り最後の力を入れてスカイプラントを登っていく。


「皆!あともう少しだ!」
「ようやく出口が見えてきましたのね……」
「ええ、最後は皆で一緒に雲を出ましょう!」


 俺の言葉に朱乃さんが笑みを浮かべリアスさんがはしゃぐようにそう言った。そして……


「出口だ――――――ッ!!」



 俺達は雲を突き抜けて晴天が広がる青空の下に飛び出した。眩しい太陽の光が肌に染み込んでくるみたいだぜ。


「太陽の光をこんなにも嬉しく感じるなんて……悪魔らしからぬ発言で困惑してるけどとにかくそう言いたくなるほど気持ちが良いのよね」


 太陽の光を浴びるリアスさんは悪魔なのに太陽の光を気持ちよさそうに浴びていた。まあ先程まで積乱雲の中にいたんだ、そう感じてしまうのも仕方ないだろう。


「……皆、ありがとうな」


 俺ははしゃぐ皆を見てそうポツリと言った。


「イッセー先輩?どうしたんですか?」
「俺、乱気流に巻き込まれてどうしようもなくなった時皆を連れてきた事を後悔したんだ。自分の無力さに打ちのめされて諦めかけていた。情けないよな……」


 あの時俺は皆を巻き込んだ自分の浅はかさと計画の甘さ、そして自分の弱さを思い知らされた。


「でも皆は最後まで諦めなかった。それを見た俺は心が震えたよ。そして思い出した、初めて死にそうになった時、俺は生きようと必死にもがいた。死にたくない、行きたいと力の限りを振り絞っていたんだ」


 俺も昔はそうだった。上手くいかずに死にかけた事も何度もあった、でも……


「でも今の俺は美食屋のカリスマだの期待の若手だのと煽てられて天狗になっていた。トミーロッドに勝てなかったのも心の何処かで『俺ならやれる』と無意識に慢心していたのかもしれない。事実皆がいなければ俺は殺されていただろう」
「そんなことは……」


 小猫ちゃんは俺を庇おうとしてくれたが俺は彼女の手を握って言葉を遮った。グルメ細胞や赤龍帝の籠手という強力な力をコントロールできるようになったことで油断があったのかもしれない。


「俺は今回の旅で自分の甘さを思い知った。だからこそ、俺はもう一度皆に誓うよ。俺は皆と一緒にGODを食いたい!だから俺はもっと強くなる!皆を守れるように……」


 俺は皆を見渡しながら最後に手を握っていた小猫ちゃんの顔を覗き込んだ。彼女の目は真っ直ぐに俺を見ていてコクッと小さく頷いた。


「私も強くなります。料理の腕も上げて先輩の力になれるようにもっと頑張ります!」


 小猫ちゃんの言葉にこの場にいる全員が頷いた。そしてリアスさんが一歩前に出て俺に話しかけてきた。


「イッセー、貴方の気持ちは良く分かったわ。でも一つだけ言わせて頂戴。私達は自分の意志で貴方についてきたの。だから貴方がそれについて責任を感じる必要はないの。私も強くなるわ、イッセー。貴方だけが私達を守るなんて嫌、私も貴方を支えたい」
「リアスさん……」


 リアスさんはそう言って俺と小猫ちゃんの手に自分の手を重ねた。そして他のメンバーたちも次々に手を重ねてきた。


「わたくしも精進いたします。愛する人を苦悩させるなど大和撫子と恥ずかしいです」
「僕もイッセー君を支えたい、だから一緒に行かせてほしいんだ。苦しいことも楽しいことも一緒に分かち合いたい」
「ぼ、僕はまだまだ弱っちいです……でも僕を信じてくれたイッセー先輩の力になりたい……だから僕も連れて行ってください」


 朱乃さんは凛々しい表情でそう言い祐斗は優しい笑みを浮かべながら俺を見つめていた。そして今回初めてG×Gの世界を共に冒険したギャスパーも怯えることなく俺と一緒に行きたいと言ってくれた。


「新参者だが私も同じ気持ちだ、イッセー。今更ついてくるなと言われても私は付いていくぞ」
「私はイッセー君の恋人なんだからダーリンを支えるのはハニーの仕事でしょ?もう絶対に離れないもん」


 ゼノヴィアは強い眼差しでそう言いイリナは満面の笑みを浮かべてそう言ってくれた。


「師匠と私はどこまでも一緒ですよ。最後までお供させてください」
「私もこんな美味しいスクープを逃すつもりはないわ。死んだら死んだで後悔なんていないしイッセーを恨んだりしない。こんな時代だからこそ私は自分がしたいようにするの」


 ルフェイは気合を入れた表情をしてティナは自身のしたいようにすると話した。


「まったく……皆も命知らずだよな……」
「しょうがないじゃない。私達も食いしん坊なんだから未知なる美味があるのなら食べたいって思っちゃうのよ」
「そっか……ならこれから先もよろしく頼むぜ、皆!」
『応ッ!』


 俺はもっと強くなってやる。そして皆と一緒に美味い食材を分かち合っていきたい。


「よし、ならまずは腹ごしらえだな。苦難を乗り越えたんだ、滅茶苦茶美味しく食べられるはずだ。あっちを見てみろよ」


 俺はスカイプラントの伸びる先を指さした。そこには雲の上だと言うのに緑が生い茂った陸地が存在していた。


「うわぁ……雲の上に大地があるわ!あれがベジタブルスカイなのね!」
「ええ、あそこに極上の野菜たちが……そして野菜の王様オゾン草があるんですよ!」


 リアスさんの驚きの声に俺もはしゃぎながらオゾン草の事を話す。するとお腹がギュルルと鳴って腹が空いてきた。


「さあ行こうぜ!美味しい野菜を食べにな!」
『おおー――――ッ!!』


 そして俺達はスカイプラントを渡っていき天空の大地に向かった。
 
 

 
後書き
 イリナだよ。イッセー君の弱音を聞いて私も頑張らなくっちゃって思ったわ。でも弱気になるイッセー君も可愛いなぁ、もっと私にも甘えてくれてもいいのに。


 私、おっぱい大きいんだからギューってしてあげたらイッセー君喜んでくれるかな……えへへ♡


 えっ?なに、小猫ちゃん?さっさと次回予告を言えって?……まったく他人の次回予告にまで首を突っ込んでくるなんて。そのちっちゃなお胸と一緒で心も狭いのね……って痛い!?掴みかかってこないでよ!


 えーとっ次回予告しなくちゃ……次回第76話『オゾン草を捕獲せよ、イッセーと小猫コンビ結成!?』で会おうね……っていった―――っ!?お尻蹴るなんて酷いよ、小猫ちゃん! 
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