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エターナルトラベラー

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外典 【H×H編】

 
前書き
申し訳ありません。気が付けばもう二年も放置している状況でした。そして節分記念ッ!となるはずが何と今年は124年ぶりに昨日が節分らしいのです。重ね重ね遅れてしまい申し訳ありません。
今回のこの話はHUNTER×HUNTERの世界の話になりますが、アオ達は一切出て来ません。それでも楽しんでもらえれば幸いです。 

 
少女はただ茫然と立ち並ぶビルの隙間から空を見上げていた。

少女の体は薄汚れていて、もう何日も風呂に入っていないのだろう髪にはふけが溜まりべた付いた髪は櫛を通さない程にガチガチと固まっている。

着ている服は擦り切れていてこれも洗っていないのだろう白かった色が黄ばんでいたり灰色に染まっていたりと元の色を想像する事も出来ない様相だ。

歳の頃は7歳ほどだろうか、痩せ細っていて碌に食べ物を食べていないだろう彼女の体は骨と皮しかないのではないかと思えるほどである。

アスファルトに仰向けで倒れ込み虚ろな瞳が見上げていた空は日が差すどころかポツリポツリと冷たい雨が降り始めた。

温かみを感じないその雨は少女の汚れを洗い流すどころではなく確実に彼女の命を削るだろう。

「……し…」

硬いコンクリートに背を預けた少女は空を見上げて手を伸ばし、そうか細く呟いた。

死ぬのかな…?と。

「……く……な……」

瞬間、少女は恐怖で否定する。死にたくないな、と。

伸ばした腕には数えきれないほどの青痣があり痛々しい。

その腕を首元へと持ってくると首に掛けてある紐をたくし上げると衣服の中に隠されるようにしまってあった鈍色に輝く宝石が姿を現した。

目を引くほどの美しさは無い。宝石と言うよりはただ磨かれた綺麗な石ころと言われても誰もが信じよう。

だが少女にとってそれは宝石だったのだ。

亡き母から唯一渡された形見だからこそ、服の中にしまい込み寂しい時や辛い時にこっそり取り出して見つめ不安を払拭してきたものだ。

それももう意味を成さなくなってしまうかもしれない。

それくらい少女の命は風前の灯火だった。

少女がここで死んでしまえば手に持った宝石は他の同じような境遇の物が持ち去ってほんの一握りのパンと同等の価値で売り払ってしまうだろう。

母の形見だ。母からもらった唯一の物だ。少女にはそれは耐えられなかった。

だから…

「…うっ……うぅっ…」

首紐を取り外した鈍色の宝石を少女は口に含み飲み込んだ。飲み込んでしまえば誰の手にも渡らない。自分が死んでも死体置き場で一緒に燃やされる事だろう。

これがわたしの最後の晩餐かと無味の鉱物に自嘲する。

飴玉なら良かったのに。

何とか少女の細い首元を通り過ぎたその鈍色の宝石は体内に入った事で思いもよらない効果を発揮する。

それは回帰の宝玉と呼ばれたアーティファクトで、二個で一対のアイテムだった。

その片割れは既に使用されてこの世界には存在していない。だが、それが幸いしたのだ。

この宝玉は回帰。つまり…


転生の宝玉からダウンロード…一部エラーにより読み取り不能

エラーをスキップしてインストールします

「うっ…ふっ!?」

突然少女の体が熱を帯び始めた。

どこからか流れて来た温かな何かが彼女の体を包み込むと同時にわずかしか残されていなかった少女の命の灯火に燃料が足されたかのように勢いを取り戻し少女の体から湯気のような物が立ち昇った。

少女はそれをどうすれば良いのか分かった。先ほどまでの自分ならば絶対に分からないはずのそれを少女は何故か理解していた。

吹き出る湯気を体に留めると僅かばかり体が楽になったようだ。

更に漏れ出る湯気押し込めれば体力の回復も得られると知っているが、しかし一時的にもち直しただけの少女の体は今動かなければいずれ燃料切れで死んでしまうだろう。

少女は何とか背中をビルのコンクリートに押し当てると上半身を起こす。

「う…はぁ…はぁ…」

ポツリポツリと当たる雨粒はやはり冷たかったがそれで死ぬ事は無くなった。

少女は今度はしっかりとビルの隙間から大通を見据えると一呼吸。

盗んででも食べ物を摂らないと本当に死んでしまう。

「おや、あんた…使えるんだね」

見つめていた大通とは逆の方向、暗がりから年かさの女性だろうか、しわがれた声に少女は振りむいた。

使える…?ああ、念能力の事か。

今自分の周りに留め置いている生命エネルギー、オーラ。これを操る技術。

少女は理解した。

でも、何で知っているんだろう?

それと、わたしの中の温かいオーラはいったい…

それに触れようとするたびに知識が流れ込んでくるよう。

「汚い娘だ…だが、何かに使えるだろう」

「…う?」

老婆は少女に近寄ると少女の細い腕を掴んだ。

「骨と皮しかありはしないね」

老婆とは思えない力で引かれた少女は勢いそのままに立ち上がった。

クルリと踵を返す老婆を茫然と見送っていると振り返って口を開く。

「なにボサっとしている。食事と…その前にまずは風呂か」

着いて来いと言う事なのだろう。少女はようやくその足を動かして老婆を追った。

老婆はなにも親切心で少女を拾った訳では無い。

老婆の仕事は裏社会への人材斡旋であった。念能力が使えるのならば少女は老婆にとっては立派な商品たり得る。それ故に気まぐれに手を貸してやっただけだったが、少女が救われたと言う事実だけ見ればどちらでも良いのだろう。

「三回以上体を洗うんだよ、臭いったらありやしない」

老婆に服をひん剥かれた少女はブルリと震えている。

狭く、湿度の高い部屋だった。

風呂なんていつぶりだろうか。むしろ自分は眼前の蛇口やシャワーヘッド、バスタブなどを使った事があっただろうか?

シャンプーとボディソープの違いは?

ただ、使い方は何故か知っていた。

シャワーのノズルを押し込むとシャワーヘッドから暖かいお湯が少女の汚れを流す。

「あたたかい…」

ポシュポシュとボディーソプのノズルを押し込むと適量より少し少ない程度の薬液が手の平へと落ちるが、足りないと二度三度ノズルを押し込んだ。

老婆に言われた通り念入りに体を洗って浴室を出ると清潔な下着と簡素なワンピースが置いてあった。

「わたしの服…」

「あんなボロは捨ててしまったよ」

「そう…」

老婆は少女に簡素な食事と狭い寝床を与えた。

老婆のお陰で命が助かった事は確かなので、老婆の為に何かしようと考え始めた頃、少女はあっさりと老婆に売られてしまった。

「こいつか?」

黒い服を着た大柄の男だった。どう見ても堅気と言う感じはしない。

「条件にピッタリ合うだろう?」

「使えるのか?」

「もちろんさね」

念能力は使えるのか、と言う事なのだろう。

少女は確かに纏は出来ていた。

「育てるなら若い方が良い。大人は言う事を聞かないからね」

「たしかにな。…貰っていく」

「まいど」

少女は老婆が彼女に使ったお金の何倍で売られたのだろうか。それだけが気になった。

…高ければいいな。それくらいしか返せないから。

大柄の男に連れられて少女は扉の外へと、振り返って老婆を見るが既に少女に関心が無い様で別れの挨拶も無かったが、少女は深々と頭を下げた。

狭い路地を抜けると大通りに黒塗りの車が止まっていて男と一緒に後部座席に座ると男が運転席にいる別の男性に声を掛けるとゆっくりと発車した。

高級車なのだろうか、振動もエンジン音も控えめで、暖房の所為だろうかウトウトと眠気が襲ってくる。

うみゅう…ねむねむ…

どうして車はこうも人を睡眠へと誘うのか。もうダメ、もう絶対眠ってしまう。そう考えていた時、ようやく車が停車したようだ。

「降りろ」

目の前には大きなお屋敷。左右を見渡せば敷地は広大で隣の家はいったいどれほど離れているのだろうと思えるほど。

四方は石垣で囲まれていて庭には番犬だろうか、いかにも凶悪な犬が何匹も放されていた。

「これからお嬢様にお目通りする。せいぜい愛想よくしろよ」

「…あいそ」

そんな物でお腹が膨れた事は無かった少女には縁のない言葉だった。

正面の大きな入り口の扉とは別の小ぢんまりとした入り口から屋敷の中に入り少女にとっては雑多な高価な過敏やら絵やら骨董が立ち並ぶ廊下を歩き目的の部屋へと到着。

コンコンコン

ドアを三回ノックする。

「お嬢様」

「なによ、今忙しいのよ」

と中から小さな少女の声が返ってくる。

「新しいおもちゃをお持ちしました」

「え、そうなの?早く入って」

「失礼します」

ガチャリと扉を開いて入室する大柄の男に続いて少女も中に入る。

ベッドの上で足をパタパタとさせて雑誌を読んでいたのだろうそれを投げ捨てた少女がこちらを見ている。

紫色の髪を後ろで一つに括り、活発そうな元気の有り余ってそうな少女だった。

「それで新しいおもちゃは?」

「ネオンお嬢様だ。ほら挨拶しろ」

どうやらベッドの上の彼女はネオンと言うらしい。

大柄の男に背中を押されて前に出る。

「よろしくおねがいします?」

「え、なにその子が新しいおもちゃ?」

トトトとベッドから歩いて来たネオンは少女をしたからのぞき込んだ。

「あなた、お名前は?」

「名まえ…」

「無いの?いつもなんて呼ばれていたのよ」

そうネオンの眉根が寄った。

「オイとかお前…そこのゴミとか?」

「お母さんには?」

お母さん…?なんて言っていただろうか…もう思い出せないや…

「まぁいいわ。名前が無いならわたしが付けてあげる」

うーん何が良いかなと考え込むネオン。

名まえ…か。

「そうだなぁ…あなたは四人目だから、テトラって事で決定ね」

「…テトラ」

わたしの名前。ちょっとだけ、嬉しい。

「そう、あなたはテトラ。あたしの新しいお友達よ」

ちなみに、四人目と言う言葉の意味はお気に入りの人形が三体いて、単純に四人目だった事から古い言葉で四を意味するテトラと名付けられたと知ったのは大分後の事である。

その時のテトラはただ単純に与えてもらった名前に純粋に喜んでいたのだった。

テトラの売られた先は地方のマフィアでノストラード組(ファミリー)と言うらしい。

ここでのテトラの仕事はネオンの遊び相手兼護衛。護衛と言ってもいざと言う時の肉壁に等しい。

念能力が使えるから他よりは硬いだろうと言う事なのだ。

さて、衣食住が安定したテトラは念能力…と言うよりあの鈍色の母親の形見を飲み込んだ時に植え付けられた知識、経験が一体どう言うものなのかと言う事が気になり始めた。

念能力がどう言ったものか知っている。

効率の良い修行方法も目途がついている。しかもそれだけではない。習得できる技術がそれは山のように詰まっていた。

それはこの裏社会で生きていくならば習得して損はない物であった。

それならばやる事は1つだ。

強くなる、それだけ。

まず最初に記憶にある影分身と言うものを覚えた。

これで作った分身は実体を持ち行動できる。これにより開いた時間をすべて修行に費やす事に成功したテトラは自分が出来る事、出来ない事を先ず確かめる事にした。

念能力は使える。

忍術も得手不得手は有るだろうけれど使えるだろう。

魔法はどうか。これは才能が無かった。

魔導も不可能。

ならば剣術は?

食義はどうか?

権能は?

出来る事、出来ない事、覚えられるもの、覚えられないものを確認していったテトラはとりあえず念と忍術、食義にもてる時間のすべてを使う事にした。

そうして記憶に触れているといつも一つの事を強迫観念の様に反芻させられる。

『………から逃げてはいけない』

どうやらこれは飲み込んだ宝玉の副作用らしい。

念能力で言う所の誓約のような物だろう。この記憶と温かいオーラ(チャクラ)を取り込んだ代わりに植え付けられた誓約だった。

でも、あの事が無ければ多分死んでた…だから…

逃げられないのなら強くなるしかないっ!

結局そこに落ち着くのだった。

よく分からない記憶の誰かよりも圧倒的に時間のないわたしは覚えるものを絞らなければならない。

基礎修行に念を基本形にしてそこから合うものの取捨選択だ。

忍術は比較的に相性がいい。しかしすべての性質変化を極めるのは不可能だろう。

どうやらこの記憶なのか記録なのか分からないものは到底一度の人生で修められるものではないと分かったからだ。

自分を連れて来たダルツォルネと言う大柄の男を見るに念能力者は存在するらしいが、忍者が存在するかは不明。魔法使いなども居るか分からない。

「写輪眼…か」

知識の中に有る便利そうなその能力を知らず口に出していたテトラ。

それは特定の血筋にのみ発現する能力らしい。

その瞳は視認する事であらゆる術を解析したり催眠補助に使えたり多岐にわたる。

「とっても欲しい…」

屋敷から離れた所にある大木に腰を掛けてテトラは思案する。

写輪眼の初期能力は言ってしまえばとても高性能な『凝』である。

熟練の念能力者同士の戦いほど凝は重要で、初歩にして奥義なのだ。

だが過分に集中力を要するそれは、戦闘中ずっと行使して戦い続けられないのもまた事実だった。

「凝を使い続ける事になれるか…そう言う能力を創るか、だね」

普通の念能力者ならそう言う能力は作らない。なぜなら必殺たり得ないからだ。

覚えられる固有念能力には限界がある。いくら強力だからと言って複数の別系統の念能力を習得している人間は稀だ。

これを誰かはメモリが足りないと表現していた。

「創れたとしたら多分それでメモリいっぱいだろうな…空とかも飛んでみたいけれど…うーん」

二択の問題だった。

どちらかを選べばどちらかは永遠に届かない。

「どうしよう…決められないや…とりあえず今は凝の修行をしよう」

問題を先送りにするテトラであった。

それからのテトラにもいろいろな事があったが物語が動くのはそれから数年ほど後の事。


テトラは買われてから一応自室は与えられているのだが、夜は必ずネオンのベッドで一緒に寝ていた。

これはネオンがテトラをお人形さんのように気に入ったと言う理由も確かに有るが、一番はネオンの護衛のためだ。

実際これには効果があり、何度か刺客を追い払った事がある。

ネオンが深夜のテレビに飽きてベッドに入り、テトラの腕を抱いて眠りにつき、使用人も就寝したのか屋敷の明かりが落とされ屋敷に響くのは時計の針の音くらいとなった頃、ネオンの部屋の天井裏から忍ぶ黒い影。

どうやって忍び込んできたのか、その影は目標を定めると天井からその体を投げ出し落下エネルギーも加味しつつ目標へと短刀を突き出す。

キィン

突き出された短刀にテトラの手に持っていた何かがぶつかり金属が擦れる音が響きネオンの命を奪うはずの短刀を跳ね返したのは咄嗟に手に持ったネオンのヘアピン。

黒い影の男は短刀を弾いた物を視認して驚愕したが、すぐさま落ち着きを取り戻し再びネオンへと空いてる左手を振り下ろす。

凶器こそ持っていなかったがこの男の力で振り下ろされたその手刀は難なくネオンの命を奪うだろう。

だがそれをテトラは許さない。

バンとベッドを叩くと木造のベッドから大量の枝が生え男を突き刺そうと伸びた。

「っな!」

これには男も驚いたよう。

そして暗殺失敗を悟ってからは速かった。

すぐに逃げの一手で音が立つことも構わず部屋の窓を割り外へと逃亡。

庭にはスクワラの操る多種多様な番犬が居るはずだが反応しない所を見ると犬を無効化する手段を持っているのだろう。

スクワラの操る犬は確かに賢いが犬の常識を大きく超えるものではない。

この部屋にはダルツォルネがすぐに駆け付けるだろう。

追う。

すぐにテトラは決断するとパジャマ姿に武器はヘアピンだけを持った状態で窓の淵に足を掛け蹴った。

男の姿は離れているがまだ視認できている。

前を行く男が懐から何かを撒いたようにテトラには見えた。

落ちていく小さな粒を瞬時に読み取り形状を記憶。

撒菱(まきびし)?

それは追手の速度を緩める為に使うトラップの一種だ。

小さな突起がいくつも付いたものを投げおいて、それで死ぬ事にはならないだろうが踏めば傷を負うし避ければ移動を妨げる厄介なものだ。

しかもこの暗闇で常人ではこの撒菱をすべて避ける事は不可能に近いだろう。

ふっ

にやりとテトラは笑う。

この程度で遅れを取らないように修行してきた成果が試されるのだ。

それに…相手は多分忍者。

その事が普段は余り感情を動かさないテトラにしてみればどこか楽しそうに口角が上がっていた。

眼を開き進行ルートの撒菱の隙間を確認するとその隙間を正確に踏みさらに加速。

男は既に城門を一飛びで飛び越えて死角へ入っている。

円。

一瞬、テトラのオーラが薄く伸びると城門を超えて気配を探った。

居た、城門の影。

しかし敵もさるもの。テトラのオーラに包まれたと理解した瞬間地面を蹴っていた。

テトラが警戒したのは自分も城門を飛び越えてからの後ろからの攻撃だ。逃げる分には不意打ちを貰う確率は減るので状況は元に戻ったが悪くはない。

暗闇から風を切る音が聞こえて来る。

クルクルと風を切り飛来する三つの黒い何かは放物線を描きテトラを襲う。

クンッ

テトラは持っていた唯一の武器であるヘアピンを投げると正確にぶつけられ軌道を変えられたその何かは1、2、3と飛来した物上空に弾き飛ばすとジャンプ。

行き掛けの駄賃にとその何かをヘアピンと交換する形で入手。

手裏剣だ。

テトラの手に収まった三つの手裏剣。

追いつき始めた敵は前傾姿勢で両手をだらりと後ろに流した所謂忍者走り。

武器を入手したテトラも腕を自由にすべく忍者走りで敵を追う。

再び手裏剣が投擲された。

増えてる…4…いや6。

死角に隠す様に二つ投げられているそれを見切ったテトラは手持ちの三つの手裏剣を投げてぶつけ威力を殺し跳ね上げると自身の移動速度に合わせたかのように落下してくる手裏剣を回収。

9枚。

増えた手裏剣を左右に掴む。

さて、いつまでも追いかけっこはしてられない。

周りは市街地を抜け森林公園の入り口へと差し掛かっていた。

「ふっ」

今度はこちらからと手裏剣を投げる。

一枚と見せかけて死角に二枚目の手裏剣を投げる影手裏剣の術だ。

「ちぃっ!こんな国で同輩かっ!?」

悪態を吐いた男は囮の一枚目と本命の二枚目のその両方をいつの間にか手に持っていた短刀で弾いていた。

が、そこにさらに投げ込まれる三枚目。さらに…

投げたはずの腕を引き戻しテトラは素早く印を組み上げていた。

「手裏剣影分身の術」

「なんてインチキっ!?」

途端十重二十重に数を増やす手裏剣に男は堪らず声を漏らした。

だが敵もさるもの。最小限のものだけ弾き返すと軽い身のこなし手地面を踏み抜き手裏剣の強襲を潜り抜けて走る。



畜生、今日は厄日だぜ。

ハンゾーと仲間からは呼ばれる年若い青年は一人ごちる。

ようやく隠者の書を手に入れて里に戻ったは良いが、このオレに暗殺の依頼が回されて来るとはな。

だがまぁ、仕事は仕事だ。どこかのマフィアの令嬢の暗殺らしいが暗殺依頼が出るなど運が悪かったと諦めてくれ。

マフィアの幹部や護衛には正規ハンターや野良の念能力者を囲っている場合があると聞くが、ハンターでも一部の者以外念が使えると言うだけで大差なく、野良の能力者などゴミも良い所。少々面倒ではあるが、特段難しくない任務。そのはずだった。だが…

なんで、こんなことになってんだよチクショーっ!!!

マフィアの警備と言ってもこっちはプロの忍だ。あの程度の警備などあって無いような物だ。楽勝にターゲットの居る部屋へと忍び込むと感情のこもらない一撃で任務完了のはずだった。

前情報ではお嬢様はいつも添い寝をしている下女が居るらしいが、騒ぐのなら両方の口を塞ぐまで。

そう思って突き出した短刀をまさかヘアピン如きで弾かれるとは思わなかった。

確かに油断はしていた。念を込めていれば違った結果になったかも知れない…なんて考えも次の瞬間に消え去った。

ターゲットだけでもと振り下ろした手刀よりも速くベッドが襲って来るとは思ってもみなかったのだ。

念能力者か。

このままでは分が悪い。すぐに逃げの一手を打つ。

ターゲットは討ちこそなったがそれよりもあの女が問題だ。

なりは可愛いパジャマにあどけない表情をしているようだがアイツはどこかヤバイ気配だ。

こういう時の勘ははバカにならないんだよな。

案の定、すぐに追いかけてくる少女の行動の速さに危険度を上げる。

刺客がオレ一人とは限らないのだがすぐに打って出る胆力。あのままターゲットを離れても安全だと言う確証。

ヤバイな…

時間稼ぎにばら撒いた撒菱もほとんど役に立たなかった。

それになんだよっ!投げた手裏剣にヘアピンを投擲して軌道をそらし三つとも無効化しやがった。しかも無効化したどころの話ではなくヘアピン一本で手裏剣3枚を手に入れやがったっ!

わらしべ長者かよっ!

自分ならそんな事が出来るだろうか?と考えて今考える事では無いと考える事を止める。

これならどうだ。

四枚の手裏剣の死角にもう二枚隠して投げたものの、相手は手に持った三枚の手裏剣を投げ返して無力化する化け物だった。

しかも相手の獲物が九枚に増えただけだマイナスだぜ。

お返しとばかりに投げ返される手裏剣。

その程度でやられるオレ様じゃないぜっ!…くっこれは影手裏剣の術っ…これはご同輩の気配がするぜ。

が、その程度じゃこのオレは殺れねえなぁっ!…てうぉおいっ!三枚目も隠してあんのかよどんだけだよアイツっ!

だがまだまだ…って!増えやがった!?

そんなバカなっ!幻影…いやっくそっ実体かっ!

慌てて眼前の手裏剣を弾き飛ばすとオーラを足に集めて地面を蹴り距離を取る。

だがアイツの念能力は物質を増やす事だな。ベッドのあれもそれの応用なのだろう。

ならば追っかけっこは終いだっ!ネタが分かったんならやってやらぁっ!忍者の恐ろしさ説くと見やがれっ!

くらえッ!火遁の術っ!

ってうぉいっ!何で口から水が出てくるんだよっ!




距離を取った男が片手を前にして大きく息を吸い込んだ。

印を組んではいなかったが別に印だけが術じゃない。

むやみに突っ込むのは危険とすぐさま身構えているとパチンと鳴らした指から火花が散り吹き付けられた何かが燃え上がりつつこちらへと向かって来た。

火遁っ!

ならばっ水遁、水流弾の術っ!

テトラは素早く印を組むと状態を大きくのけぞらし胸元で生成されたチャクラを思い切り吐き出す勢いで口から水の玉を撃ち出した。

遅れて放った水遁はしかし威力はこちらが上のようで火遁を飲み込んで男に迫る。

「ちぃっ!」

「あ、逃げるなっ!」

すたたと転げるように射線上から抜け出ると再び走り出す男を再び追いかけるテトラ。

逃げる男を追っていると森林公園にある大き目の湖畔が見えてくる。

いつの間に装着したのか、男は足元に丸い何かが装着されていた。

それを使い男は水面を蹴る様に沈む事も無く進んで行く。

確かに湖畔の近くにボートはあるがそれを今から用意していては移動速度で見失ってしまう。

水蜘蛛かぁ…あれ?あの人水の上を歩けないのかな?

速度を落とす事もなくテトラは水面を蹴って進む。

「おおいいぃぃいっ!なぜ水蜘蛛も無く水面を走れるっ!?」

「修行したから?」

「はぁああっ!?くそっ!」

先ほどとは比べ物にならない量の手裏剣が飛んできた。

手持ちは六枚。

上手く当たってっ!

赤い瞳で見つめた先へと一枚の手裏剣を投げると弾いた手裏剣がさらに先の手裏剣を弾き一枚ですべての手裏剣が水中へと消えて行った。

「化け物かよっ!?」

「…?」

確かに自分はいっぱい修行した。だけど化け物と呼ばれるほどだろうか?記憶の中の人はもっと…

逃げきれないと悟ったのか、男は動きを止めた。

「雲隠れ上忍。ハンゾーだ。これから死合う相手に名乗らせてくれ」

「やっぱり忍者」

「あんたはどこの忍だ」

「忍じゃないんだけど…しいて言えば…木ノ葉隠れ流?」

「聞いた事は無いが…やはり忍か…ならば」

チャプリと水蜘蛛が水をかく。それが合図だった。

「水遁・霧隠れの術」

テトラは素早く印を組むとスゥと煙を巻くように姿が消えた。

ここは湖畔で水分は豊富にある。

一瞬で周囲が霧に包まれ互いの視界を奪い去った。


ハンゾーは焦っていた。

手裏剣を分裂させたのだから具現化系の能力者なのだろうとあたりを付けていたのだがこちらの火遁を相殺する以上の水遁を使いこなし手裏剣の腕も超一流。その上で水蜘蛛も無いのに苦も無く水面を歩いている。

くそっ!湖畔に逃げたのは失敗だったな…

水遁を使われた時点で気が付くべきだった。

水を操る能力が有るのならこういう事も出来る、と。

ちぃっ!

キィン

短刀と手裏剣が触れる音が霧の中に響く。

視界は奪われ相手の位置は分からないのに相手はどう言う訳かこちらの位置が分かっているようだ。

長年の修行と勘で今まではどうにか致命傷は避けているが…くそっ!

キィン

何度目かの攻撃を弾き返し更に悪態を心の中で吐く。

視界が霧で覆われているのだ、どう言う理屈でこちらの位置を把握しているのかは分からないがわざわざ悪態を声に出して相手に位置を悟らせる事もあるまい。

がやはり状況は不利だ。

やはりこの霧が邪魔だ。こうも視界と五感を封じられると戦い辛くでしょうがない。

一か八かだが、やるか。

決断したハンゾーは懐から丸みを帯びた小さな箱のような物を取り出すとボタンのような物を押し込み上空へと放り投げた。

3、2、1…

ハンゾーは水蜘蛛を外すと水底へ向かって潜水。そして放り投げられた何かが湖面から一メートルほどの所まで落下してきた辺りで爆発、轟音が響き渡る。

一分、二分、三分。

水上では爆破の衝撃で霧は分散している頃合いだろう。衝撃の爆風で立った波飛沫も落ち着きを取り戻し始めた。

そろそろ水面に出なければ息が続かねぇ…岸にはまだ付かないしあの程度の爆発であの少女が殺れてる訳がねぇが、出るしかないな。

そう考えた次の瞬間、湖が割れた。

「なっ!?」

浮上するはずだった湖の水を失ってハンゾーは驚愕の声と共に湖の底へと落下する。

驚愕の声と共に見上げた水面に立ってこちらを見ているのはやはりパジャマ姿の少女だった。

「あー…これは死ぬ…かな?」

次にハンゾーに襲って来たのは湖の水と言う圧倒的な物量攻撃。

挟まれ、揉まれ、回転する水流に翻弄されるだけ。それほど強力な渦潮がハンゾーの体を捉えて離さない。

その力はどれほど念で体を強化しようとも振り切れるものでは無くなすすべもなく意識を失ってしまう。

これはもはや捉えて逃がさぬ水の牢獄だ。彼はこの湖畔に逃げると思いついた時にもう詰んでいたのだった。




次にハンゾーが目を覚ますと森林公園に生えている木にグルグルと縛り付けられていて、持っている暗器はすべて取り外されていた。

まじまじと珍しそうにクナイやら忍者刀をいじっているテトラに自然と声が出る。

「あ、それはオレのっ!」

パジャマ姿のテトラにはあれだけの戦闘があったと言うのに綻んでいる所が一つもないと言う事にハンゾーは実力の差を思い知らされていた。

視線が交差し、テトラが口を開いた。

「幾つか聞きたい事があるんだけど。あなた、その…雲隠れ?では何番目に強いの?」

「ちっ誰が喋るかよ。オレは死んでも話さねーぞっ」

ダンッ

テトラが手に持っていた忍者刀手がハンゾーの後ろにある気に刺さって止まる。その刀身はハンゾーの左の首筋に触れており咄嗟にハンゾーが首を右に傾げなければ頸動脈を切っていた事だろう。

「もう一度聞くよ。あなた、何番目?」

次はその手に持ったクナイを投げる気なのだろう。

そんな物、念でガードすれば無傷。…いや、本当にそうか?相手も念を使えるのだぞ。

ジロリとかわしたために木に刺さっている忍者刀を見ると強烈なオーラが未だにその刀身に留まっていた。

ヤベー…多分あの手裏剣を俺の右側に投げてくるつもりだろ、あんな量のオーラを込められた手裏剣…避けなきゃ死ぬ、避けても死ぬ。

避けた結果刺さっている刀身で首を斬られる。逃げ道は無かった。

チクショウ、これでオレは抜け忍かよ。

拷問に対する訓練など受けたはずだ。里を危険にさらすくらいなら自死を選べと教えられていたはずだ。

だがそんなもの結局目の前に迫る死には何の意味も持たなかった。

この別嬪さんは答えなければ諦めてオレを殺す。しかしゲロっちまえば多分殺さない。

それは認めたくねーが、オレが圧倒的に格下だと言う証拠だ。

「十指に入ると自負している」

「そう…後10人かぁ」

面倒そうにつぶやくテトラ。

「あ、今一人倒したから9人?」

「いや、その必要は無い。オレは里を抜ける。雲隠れの上忍としての任務を全うできなかったんだからそれはしかたない。だが生きて里を抜けたと知れば雲隠れはオレを始末するまではターゲットには手を出さない」

よく分からないけれどそう言うルールーなのだろうとテトラは理解する事にした。

なるほど、ここでこの男を殺すよりこの男が刺客を始末してもらった方が楽…かも…ん?

「でも、それってあなた以上の使い手が来たら意味がない」

十指に入ると言ったが最強とは言っていない。つまり彼より強い刺客は何人も居る。

「そうだな…だがオレが見たと所、棟梁は別としても他の上忍があんたに敵うとは思えない。そこで、だ」

ハンゾーは言葉をいったん切ると言葉を続ける。

「オレをお前の弟子にしてくれ」

「はい?」

「オレを鍛えてくれればオレがうちの里の刺客は何とかする」

ハンゾーが討たれない限り雲隠れはネオンを襲わない。これは彼の里の厳粛なルールなのだと言う。

そのハンゾーが強くなって刺客に倒されなくなれば実質この問題は解決するのだ。

「…たしかに雲隠れ?の里に乗り込んでいくより簡単そう?」

「おいおい…うちの里に乗り込んで行って何を…いや、え?そう言う事なの?こいつ本当にヤバイやつなの」

暗殺依頼を履行できなくさせるのは二択だ。依頼主をボコる、もしくは依頼された組織をボコる。またはその両方か。

それを考えればこっちの方が面倒が少ない?

「でもでも、弟子と言ってもわたしはそんなに強く無いよ?」

「は、いやいや何言ってんだ…いや、そうだっ!オレは忍だ、お前がお嬢様の傍を離れなければならない時の保険として傍に置いてくれ、な、な?ついでにあんたが使った忍術なども教えてくれ」

首を右に傾げている上に木にグルグル巻きしているハンゾーが不格好に頭を下げた。

頭は下げているが中々に図々しいお願いでは無いか?

「お金は払えない」

「だ、大丈夫だ…あんたが鍛えてくれればそれが報酬だ、な?悪い取引じゃないだろう」

お得だぜっ!みたいに破顔するハンゾー。

「嘘じゃない?」

「オレを殺すまで雲隠れがターゲットを害さないと言う事か?」

コクリとテトラは頷いた。

「信じてもらうしかないが、本当だ」

たしかにその目は嘘をついているようには見えなかった。

「分かった」

テトラはハンゾーの首筋を気づかわし気に触った後縄を解く。

「逃げるとは思わないのか?」

「逃げてももう追える。それに逃げ帰ってもらった方が好都合。探す手間が省ける」

その確信に満ちた視線にハンゾーは観念した。いまそっと自分に触れた時に何かしたのだ。だから理解する。きっと本当にこの少女からはもう逃げられないのだろう、と。

「昼間は大体あの二本杉の辺りで修行している。興味が有ればくれば…?」

そう言ってテトラは少し離れた小高い小山を指す。

テトラの言葉にコクリと頷くとハンゾーは音も無くテトラの前から姿を消したのだった。


森林に隠された中にそびえる二本杉。

その周辺で時折キィンキィンと金属音が響く。

もう自分が何歳から忍として訓練してきたかなど覚えていない。

念能力と外の世界で言われているその術も下忍になる頃には教わっていたし修行も欠かしてねぇ。

キィン

だと言うのに目の前でクナイを合わせる少女に良いようにあしらわれているこの現実はどう言う事だ。

スッとハンゾーの首筋にクナイが押し当てられる。

「なぜ勝てねぇっ!」

「単純。わたしはあなたの何十倍も修行した」

「それが尚更意味が分からねぇ。自慢じゃないが俺だって人生の殆どを修行に費やして来た。その何十倍だと?それじゃあんたはババアかってんだ」

ポカリ

「あだっ」

「わたしは花も恥じらう17歳。ババアじゃない。それと10を掛けても世界ギネスのご長寿番付ぶっちぎり。ハンゾーくん、頭悪い?」

ポカポカ

「ウガーっ!オレの頭は太鼓じゃねぇぞ」

「髪の毛が無いから叩きやすい?ハゲ?」

「誰が禿じゃっ!これはわざと剃っているんだよっファッション」

ハンゾーとの修行はテトラに足りていない戦闘経験値と言う形で支払われ、逆にハンゾーはテトラから忍術を教えてもらっていた。

一日の修行の流れは、柔軟、走り込み、筋力トレーニング。そして堅、流を使った模擬戦と来て最後が忍術修行になる。

オーラを内側へと練り上げる訓練、正確にはチャクラを練り上げる訓練だが、これにハンゾーは躓いていた。

もう何年も外側へと放出し留める訓練をして来たのだ。その常識を覆しての修行は難しい。

内側に練る…だがこれはオーラを外に出さない絶とは違うんだよなぁ。

テトラの見せる見本を凝で見ていてもちゃんとオーラを纏で纏っている上で内側で練り上げているのが分かる。

いや見ても分からんけれどもそう言う事だと理解した。

で、さらに理解できないのがアレだ…アレはなんだ?

大きな杉の木に背を預けてあぐらをかいているテトラは、自然体で瞑想しているかのように見える。

瞑想を始めてからある程度経つと途端オーラを感じれなくなってしまうのだ。

絶をしている訳じゃねぇのは分かるんだがな。

「ほら、サボるな」

「アタっ!?」

これだよ。瞑想しているテトラの他にオレに付いている彼女は実態を持っているしきちんとした意思を感じられる。

幻影だけの分身や外見がそっくりなだけの念獣なんかではない別の何か、か。

アイツは影分身の術と言っていたか。

実体を持った幻影、それも意思を持ちオーラを操る。

おっかねぇな…だけど…

絶対この技を盗み取ってやるぜっ!と意気込んでいるオレに最初に習得を命じたのが影分身だった…

意気込んでいただけに地味にショックだった…


実際ハンゾーくんはわたしに足りない戦闘経験値を得るにはうってつけだった。

記憶や記録では理解しているが実感として体に覚えさせなければ使い物にならない。

その習熟にはやはり相手が必要で、そう言った意味ではハンゾーくんは自分よりも先達と言える。

それに相手は本職の忍者だ。体術や手裏剣術などをハンゾーくんとの修練で確かめて行けばまだまだわたしは強くなれる。

それにしてもハンゾーくん、チャクラを練るのが下手。

さっさと影分身くらい覚えて欲しい。

さて、皆忘れているかもしれないが本来影分身は高等忍術なのだ。

それをどこかの銀色の奴をはじめとする彼らは裏技として一番最初に会得させようとしてしまう。つまりは記録の弊害であったのだが、それにテトラが気が付く事は無かった。

幸いしたのはハンゾーに忍術を扱う才能が有ったと言う事だろう。そうなければ影分身の習得は何年先になるか分からない話なのだから。 
 

 
後書き
今回はヨークシン、GI、蟻とGI以外は二次にはあまりない所の二次小説となります。
人気が高いのはやはり試験、ゾルディック、GI辺りですからね。隙間をぬってみました。 
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