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魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者

作者:niko_25p
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第五十三話 誰が強いの? 1

それは、ヴィヴィオの一言で始まった。



魔法少女リリカルなのはStrikerS 前衛の守護者、始まります。



outside

いつものように、午前の訓練に勤しむ六課フォワード。


今日はギンガは訓練に参加していなかった。


午後から108部隊に出向研修に行く為に、その準備をする事になっていたからだ。


「じゃあ、午前の訓練はここまで。お昼休みにしよう」


「「「「「はい!ありがとうございました!」」」」」


なのはの終了の合図に、一際元気な声で応えるアスカ。


「アスカ、何か元気いっぱいだね?」

スバルが絶好調なアスカに話しかける。

「当然!シグナム副隊長やシスターの訓練と違って、そんなに痛くないからな!ありがとー!神様!」

おかしなテンションになっているアスカに苦笑するみんな。

ワイワイと話しながら、隊舎まで歩いて行く。

そした、休憩室を通りかかった時に、なのはは中にヴィヴィオがいる事に気づいた。

ヴィヴィオもなのはに気づくと、すぐに駆け寄ってきた。

「ママー!」

なのはに抱きつくヴィヴィオ。

「もうお昼休み?」

抱きついたヴィヴィオが、なのはを見上げた。

「うん。お昼ご飯、一緒に食べようね」

なのははヴィヴィオを撫でて微笑む。

母親と言うには若すぎるなのはだが、その光景は本当の親子のように見える。

「ヴィヴィオ、ママ達のビデオ見てたの?」

キャロが先ほどまでヴィヴィオが見ていた端末を覗いてみると、なのはとフェイトの戦技教導の映像が流れていた。

「教材用のビデオだ」

エリオも、同じようにのぞき込む。

「なのはママもフェイトママも、カッコイイでしょう?」

「うん!」

スバルがそう言ってヴィヴィオを撫でると、嬉しそうに笑った。

そのヴィヴィオを、なのはが抱き上げる。

「ねえ、なのはママとフェイトママ、どっちが強いの?」

何気ないヴィヴィオの一言。子供らしい質問だ。

「うーん、どうだろねぇ?比べたりしないから、分からないな」

ヴィヴィオの無邪気な質問に、なのはも何気なく答える。

「そっかー」

特に何かを気にしての質問ではなかったのだろう。ヴィヴィオがギュッとなのはに抱きついて、この話は終了した……筈だった。

「「「「……」」」」

だが、何気なく終わらなかった人も……いや、人たちもいた。

「あはは、子供らしいよな」


アスカが笑ってフォワードメンバーを見ると、そこには何か真剣に考え込んでいるみんながいた。

「……あれ?」



アスカside

とりあえずシャワーを浴びてから、オレ達は休憩室に集まる事にした。

108部隊に行くまでは自由時間だから、のんびりしようと思っていた矢先にスターズとライトニングの主張がぶつかり合った。

と言う事でスターズの主張。

「やっぱ、なのはさんじゃない?航空戦技教導隊の教官で、負傷ブランクがあったとは言え、10年飛び続けた歴戦の勇士なんだし」

「エース・オブ・エースは伊達じゃないだろうしね」

スバルとティアナがそう言うが、それで黙るライトニング……と言うか、エリキャロじゃない。

「でもフェイトさんだって事件の現場に向かい続けて、手荒な現場でも陣頭に立って解決してきた一線級の魔導師ですよ!」

「空戦ランクは、なのはさんもフェイトさんも同じS+ですし!」

エリオとキャロがそう反論する。

とまあ、それぞれの隊長が強いとか言い合っている。

「いや~、ヤッパなのはさんでしょ!」

とスバルが言えば、

「フェイトさんも負けてないと思いますっ!」

珍しくエリオも返す。

その様子を、オレは缶コーヒーを飲みながらボケラー、と眺めていた。

まあ、スバルにとって高町隊長は憧れだし、エリオとキャロにとってハラオウン隊長は家族だからな。お互いに譲らないか?

いや、スバル。お姉さんなんだから、そこは譲ってやれよ。

のんきにそう考えていたら、今度はティアナが別角度で切り込んで来やがった。

「ってか、六課で一番強いのって誰なのかしらね?八神部隊長や副隊長達もかなりのもんだし」

「「「あ……」」」

どうやら、六課で誰が一番強いかに興味が移ったらしい。

「おいおい、強いって言ったって……」

さすがに呆れてオレが口を挟んだ時、そこに乱入してきた人物がいた。

「そーゆー事なら私も交ぜなさーい!」

「ア、アルト!?」

突如現れたアルトさんが、テンション高くスバルの手を引っ張る。

「さあさあ、移動移動!みんなもきて!」

訳が分からないままオレ達はアルトさんに引っ張られ、ヘリの整備場まできた。

そして……

「と言う訳でっ!」

いつの間にか集まった整備スタッフにアルトさんが煽るように叫ぶ。

ノリノリだ。

「第一回!機動六課で最強の魔導師は誰だか想像してみよう大会!」

なぜかスバルまで司会しているし!?

「……なぜこうなった?」

「さあ?」

オレとティアナは、このジェットコースターな展開についていけないでいる。エリオとキャロも、キョトンとしてるよ。

そんなオレ達を置き去りに、スバルとアルトさんがその場を仕切る。

「鉄板の最強候補は5人!」

高いテンションのまま、アルトさんが進行する。

「近接最強!古代ベルカ式騎士!ヴィータ副隊長とシグナム副隊長!六課最高のSSランク!超長距離砲持ちの広域型魔導騎士、リイン曹長とのユニゾンって裏技もある八神はやて部隊長!」

……こういうノリでも大丈夫なアルトさん。いいねぇ、うん。

「そして六課のオールレンジアタッカー、フェイト隊長と、説明不要の大本命!エース・オブ・エース、なのは隊長!」

スバルのテンションも、アルトさんに負けてなかった。つーか、進行上手いじゃないか!

「「最強は誰だー!!」」

進行の二人がグッと拳を突き上げると……

うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!

そのテンションに当てられた連中が、異様に盛り上がっていた。

暇なのか、アンタ等は!

「あわわ……何だか大事に」

フォワードのちょっとしたお話の筈が大きくなっていった事に、キャロが戸惑う。

エリオも何だかキョロキョロして、どうしたら良いのか分からないようだ。

「アルトさんとスバル、ホントにもー……」

はぁ、とため息をつくティアナ。

まあ、それは同感だけど……ん?

なんかコッソリと整備場から出て行く人影にオレは気づいた。

あれは……ルキノさんだ。

コソコソと早足で歩き去って行く。

ルキノさんは真面目だから、ロウラン副部隊長に一応報告しに行くんだろうな。

…………苦労性だな。



outside

昼休み。

グリフィス、シャーリー、シグナムは隊長室側の休憩室で一息入れていた。

そこにルキノが現れる。

「フォワードとメカニック陣が?」

ルキノの報告を受けたグリフィスが、その内容を聞いて苦笑する。

「隊長達のうち誰が強いのかで、ちょっとしたお祭り状態に……」

ルキノも、微妙な、どう言っていいのか戸惑う感じで言う。

「まあ、昼休みをどう過ごそうか自由ではあるけど、あまりにも過ぎるようなら僕から注意するよ」

「そーだねぇー」

真面目に答えるグリフィスに、完全に他人事のシャーリー。

「それで良いでしょうか、副隊長?」

ルキノがシグナムに尋ねる。

「かまわんよ。戦いの合間に仲間同士、笑顔でいられるのは悪い事ではない。切り替えさえしっかりしていれば文句はないさ」

歴戦の勇士、シグナムがそう言うのであれば、誰からも文句は出ないだろう。

「お前も参加してきていいんだぞ?」

シグナムがルキノを促す。

「あ、いえ、私は……」

ルキノはイエイエと首を横に振る。そして、チラッとグリフィスを見ていた。

「ルキノは真面目ですからね。報告ありがとう」

労いの言葉をルキノに掛けるグリフィス。

「いえ……はいっ!」

頬を赤く染め、ルキノが嬉しそうに笑う。

「……ほほぅ?」

そのやりとりを見ていたシャーリーのメガネがキラン!と光る。

シャーリーはルキノの笑顔の意味に気づき、ニヤニヤとグリフィスを見る。

幼なじみの視線にグリフィスが気づいた。

「……シャーリー、何だその目は?」

自分を見る目が、完全にからかう時の目になっている事に、訝しげにシャーリーを見返す。

「べーつーにー?」

シャーリーはあさっての方を見てとぼける。

「やれやれ……」

我関せず、とシグナムはお茶を啜っていた。



「と言う事で、調査開始!」

スバルは意気揚々とフォワードメンバーに号令を掛ける。

だが……

「オレ、パスな」

アスカがアッサリと降りた。

「えぇー!何でよ~!アスカも知りたいでしょ?誰が一番強いかってさぁ!」

出鼻を挫かれたスバルがゴネ始める。

「別に気にならないよ。まあ、調べるってんなら邪魔はしねぇよ。108に出張るまでヴィヴィオと遊んでっからさ」

じゃあな、と手を上げてアスカは休憩室に向かって歩いて行ってしまった。

「もう!まあ、いいや。じゃあみんな、今度こそ調査開始!」

スバルの合図で、ティアナ、エリオ、キャロ、アルトがばらけ始める。

だがティアナは、なぜアスカがこの事について興味無さそうだったのかが気に掛かり、後を追う事にした。

「ねえ、アスカ。ちょっといい?」

「んあ?」

ティアナが休憩室に向かう途中でアスカを捕まえて質問する。

「アスカが六課最強に興味無いって言ったのがちょっと意外だったんだけど、理由聞いてもいい?」

それを聞いたアスカが何やら考え始める。

「んー。それを教えるとお前達がやろうとしている事が無駄になるからなぁ」

「?」

どうするかと考えているアスカを、キョトンとした表情で見ているティアナ。

「なあ、ティアナ。派遣任務で地球に行った時、オレが出したクイズって覚えているか?」

ふと、アスカは以前出したクイズを思い出した。

「え……あー。確か、ジャンケンで一番強い手、だっけ?」

急にそんな事を言われて面食らったものの、何とかティアナは思い出した。

「そう。それがヒントな」

そう言ってアスカはスタスタと歩いて行ってしまった。

「え?ヒントってどう言う事よ!」

残されたティアナは、ただ頭を捻るしかなかった。



ティアナ・ランスターの調査。

調査対象、八神はやて部隊長。

「個人での戦闘能力?」

お茶とお菓子を持ってきたティアナにそう質問されるはやて。

「私は弱いよ~。そやからランクも空戦やのうて、総合で取ってるんやし」

「はいですぅ」

はやての口から出た言葉に、リインも同意する。

「でも、総合SSって言ったら、単純な魔力だけでも凄いんじゃ……」

砲撃事件の時に垣間見たはやての魔法からして、弱いという事はないだろうとティアナは思っていた。

「まあ、魔力はな……そやけど、高速運用はできひんし、並列処理も苦手やからなぁ」

のんびりとお菓子を食べながらはやてが答える。

ティアナがどうも納得がいかないような表情をしていたので、はやては言葉を続けた。

「大魔力と高速、並列処理は衝突するんが普通や。そやから、私の魔力運用は”立ち止まって展開・発射”だけなんよ」

「わたしも、そのお手伝いだけです」

「後方支援専門に殴り合い用のスキルなんか無意味やからな。適性の低いスキルを鍛えたところで効率も悪いし……ぶっちゃけ、六課の前線メンバーで私がガチンコで勝てるのなんて、キャロぐらいとちゃうか?」

「もちろん、フリードやヴォルテールは使用禁止ですよ!」

はやてとリインのぶっちゃけすぎる言葉に、ティアナの目が点になる。

意外過ぎるからだ。謙虚な言葉、ではない。恐らく本心から言っているのだろう。

「いや、最近のキャロは高町教導官仕込みやからなぁ、体力あるやろーし……アカン、勝てへんかもしれん」

急に真剣な表情になるはやて。ちょっと自信が揺らいだようだ。

「そやけど、なんで急に?」

なぜティアナが個人戦力に興味を抱いたのか、それをはやてが尋ねる。

「あ、いえ、その……勉強の為にと」

さすがに、昼休みでお祭り騒ぎになったとは言えないティアナ。

「ふ~ん。そう言う事なら、アスカ君の意見を聞いてみるとええと思うよ?」

「え?アスカに?」

思わず聞き返すティアナ。ここでアスカの名前が出るとは思って無かったからだ。

「シグナムから色々聞いてるからなぁ……ティアナ。前線メンバーの中で、防御魔法が一番硬いのは誰かわかるか?」

今度は逆に、はやてから質問が来た。いや、問題を出してきたと言った方がいい。

「え……それは、アスカです」

戸惑いながらティアナは答えた。今更の質問だったからだ。

訓練はもちろん、これまでの出撃からもアスカの防御魔法は群を抜いている事は、六課の人員なら誰もが知っていた。

まあ、同時に攻撃力の低さも知られてはいたが……

「アスカ君は防御魔法が”上手い”んや。その違いが分かれば、ティアナの質問の意味も解けると思うよ?」

ニッといたずらっぽくはやてが笑った。



エリオ・モンディアルの調査。

調査対象、ヴィータ副隊長。

「個人戦技能?」

ティアナと同じように、お茶とお菓子を持ってエリオはヴィータの所にいた。

「個人戦ったって、色々あんだろ」

お菓子に手をつけるヴィータ。今一つ、エリオの質問の意味が分からないようだ。

「えーと……とりあえず平均的な”強さ”って事で……」

エリオ自身、どう質問したものかと考えながらの返答だ。

「平均的な強さぁ?」

その言葉に、ヴィータはエリオが質問の本質を理解していない事を感じ取った。

「追跡戦か決闘か、戦闘状態や相性の違いにだって左右される。どんな状況でも平均的に強いってのは、要は何でも屋って事だが、マルチスキルは対応力と生存率の上昇の為であって、直接的な強さとは関係ねぇぞ」

ヴィータは一度区切ってお茶を飲む。

「一人の人間がその時できるのは、いつだって一つの事だけだ。ウチにも一芸だけのバカがいるけどよ、それが通用しなきゃ強いとは言えねぇだろ?」

「あ、はい……」

ヴィータの言葉に、エリオが頷く。

「エリオ、お前は強くなりてーのか、便利な何でも屋になりてーのか、どっちだ?」

「あ……」

ようやくエリオも、自分のした質問の本質に気づいたようだ。

強さとは何か?

「……もう少し考えてみます」

朧気ながら、エリオは何かを掴みかけていた。

一礼して、エリオは離れていった。

そのエリオの背中を見て、ヴィータは呟いた。

「ヒヨッコが、もうそんな事を考えるようになったか……」

その表情は、どこか優しげだった。



アルト・クラエッタの調査。

調査対象、シグナム副隊長。

「まったく、お前まで一緒になって……先輩らしくしていろと言った筈だが?」

シグナムはため息混じりにアルトを見る。

「すみません。でも、交流も大事かなーとか……」

一緒にどころか、率先してお祭り騒ぎにしたとは言えないアルトは、アハハと乾いた笑いをした。

「まあな」

呆れるように呟くシグナム。

「で、副隊長的にはどなたが?」

騒ぎを煽った事はひた隠しにし、アルトが尋ねる。

「隊長達4人でトーナメントでもすれば、試合条件にもよるが、やった回数だけ優勝者は違うだろうな。そのくらい力は伯仲している」

ふと、以前なのはと行った模擬戦をシグナムは思い出した。

「本局の戦技披露会でやった高町隊長との試合は心踊るものだったが、決着がつかなかったからな」

そう言われ、アルトもその試合を思い返す。

「みんなに見せてあげたいんですけどね~」

「とてもじゃないが、教材にならんそうだ。あれは血戦だったからな」

シグナムが苦笑する。自分でもやりすぎたと思っていたからだ。

「あ、でもアスカには参考までに映像を見せたんですよ」

「ほう、アイツは何か言っていたか?」

「真っ青な顔して”いつか殺られる”って言ってました」

それを聞いたシグナムが仏頂面になる。

「アイツは私を何だと思っているんだ?」

次の模擬戦で思い知らせてやるか、とちょっと良からぬ事を考えてしまうシグナム。

「いや~、普段の訓練見てたらそう思いますよ。時々、軽くオーバーキルしてるじゃないですか」

アルトがすかさずツッコム。

自覚があるのか、これにはシグナムは何も言えなくなってしまった。

「アスカか……アルト。フォワードメンバーの中で、一番防御魔法が硬いのは誰だと思う」

不意にシグナムがアルトに問題を出した。

奇しくも、はやてがティアナに出した同じ問題だ。

「え?そりゃアスカですよ」

訓練時のデータから、アスカが一番防御力があるのをアルトは知っている。

だが、シグナムの答えは違っていた。

「一番防御魔法が硬いのはスバルだ。アスカは防御魔法は上手いが、硬さはティアナやキャロと大して変わらん」

「???」

アルトは訳が分からず考え込んでしまう。

「まあ、お前は前線に立つ事はないから、この違いは分からないかもな……フォワードメンバーと相談してみるといい」

シグナムはそう締めくくった。



キャロ・ル・ルシエの調査。

調査対象、シャリオ・フィニーノ一等陸士。

「フェイトさんの個人戦?戦闘訓練は結構好きだよねぇ」

キャロの質問にそう答えるシャーリー。

「戦うの自体は、間違っても好きじゃないと思うけど……」

デバイスチェックをしながらシャーリーは答える。

「シグナムさんとは仲良く訓練してるし、結構負けず嫌いで、見てるとちょっと可愛かったり」

シャーリーはニヘラ、と笑う。

「なのはさんと試合とかされてないんでしょうか?」

ふと疑問に思った事を、キャロは口にする。

「……昔は軽い練習くらいはしていたそうだけど、あの事故以降は一度もやってないって」

「あ……」

8年前の撃墜事件で大怪我をしたなのは。

入院生活とリハビリの過酷さを知っているフェイトは、怖がって全力を出せないだろう。

「まあ、来月辺りから分隊単位での模擬戦とかやるそうだし、その時にお二人の対戦も見られるかもね」

ふっふっふっ、と不気味に笑うシャーリー。

「その時は、自分達が生き延びるので精一杯そうです」

結構リアルにその時を想像したキャロは、引きつった笑いをした。



スバル・ナカジマの調査。

調査対象、高町なのは隊長。

「えーと、高町なのは一尉戦闘記録、映像データ検索……と」

スバルはオフィスで端末をいじくって、なのはのデータを引き出していた。

その背後に……

「スーバル♪」

「うっひゃあぁぁぁっ!」

こっそりと近づいてきたなのはの声に、スバルは飛び上がって驚いた。

「あわわわ!ななな、なのはさんっ!」

全力で動揺するスバルに、なのはが苦笑いを浮かべる。

「そんなに驚かなくても……」

「すすすす、すみません!」

なのはは、とりあえずスバルが落ち着くまで待つ事にする。

何とか落ち着きを取り戻すスバル。それを見て、なのはは口を開いた。

「グリフィス君に聞いたんだけど、隊長達で誰が一番強いのかに興味があるんだって?」

「あの……すみません。その、昼休み時間中のちょっとした雑談で……」

バツが悪そうにスバルは上目遣いでなのはを見る。

「いいよ、別に。よく聞かれる事だしね」

なのはは笑い、そしてスバルに問題を出した。

「ね、スバル。こんな問題聞いた事ない?」

「はい?」

「自分より強い相手に勝つ為には、自分の方が相手より強くないといけない」

「???」

辻妻の合わない言葉に、スバルは首を傾げる。

「あ、えと、聞いた事ない……です」

「そっか、じゃあ問題。この言葉の矛盾と意味をよく考えて答えなさい」

なのはがニコッと笑う。

「みんなで相談して考えてみて、答えが出たら訓練の時にでも聞かせてもらうから」

そう言い残し、なのははオフィスから出て行った。

「は、はいっ!ありがとうございます?」

一人残されたスバル。

「……え?」

どうやら、まったく何も分からないようである。



「ヴィヴィオ、もう一回、もう一回!今度こそ絶対に勝つから!」

休憩室でアスカはヴィヴィオと何やら遊んでいた。

「いいよ~♪でも、お兄ちゃん隠すの下手だよぉ」

ニコニコとヴィヴィオは楽しそうに笑っていた。

「言ったな~!よーし、これでどうだ!」

一枚のコインに紙コップを乗せて、二つの空の紙コップとシャッフルしてどの紙コップにコインがあるかを当てるゲームをしているようだ。

激しくシャッフルした紙コップを一列に並べるアスカ。

「さあ、ヴィヴィオ!今度こそ「真ん中!」え?」

アスカが言い終わる前に、ヴィヴィオは真ん中の紙コップを持ち上げた。

ヴィヴィオの宣言通り、真ん中の紙コップの下にコインがある。

「おー、凄いぞ!どうして分かったんだ?」

アスカはヴィヴィオのホッペタをプニプニと突っつく。

「えへへ~♪」

どんなもんだい、とドヤ顔のヴィヴィオ。

その様子を、なのはは休憩室の外から見ていた。

微笑ましい光景ではあるが、他のフォワードメンバーは隊長達の中で誰が一番強いかを調べる為に奔走しているのに、なぜアスカだけノンビリしているのだろうと首を傾げる。

「あ、ママ!」

なのはに気づいたヴィヴィオが手を振る。

「ヴィヴィオ、アスカ君に遊んでもらってたんだ」

なのはも休憩室に入る。ぎゅ~っと掴まってくるヴィヴィオを抱き上げるなのは。

ここ数日で、ヴィヴィオは六課のメンバーにも慣れ、明るい笑顔を見せるようになってきた。それ自体は非常に良い事なのだが……

「アスカ君、ちょっといいかな?」

一人ヴィヴィオと遊んでいたアスカに尋ねるなのは。

「はい?何かご用ですか?」

「えーとね、何かみんなは色々忙しそうだったけど、アスカ君はいいのかなって思って」

ヴィヴィオの面倒を見てくれるのは良いが、メンバー一丸となって行動している時に、アスカが外れている事になのはは違和感を覚えた。

いつもなら、アスカが率先してやっていそうだったからだ。

「あぁ、誰が一番強いかってヤツですか。まあ、あんま意味ない事ッスから」

アスカは他人事のように言う。

「ふーん。じゃあアスカ君。こんな問題聞いた事ない?」

なのははスバルと同じ問題をアスカに出した。

アスカは少し考えてから、

「なるほど。そう言う出し方もありましたか……」

ウンウンと頷いた。

「オレ、ティアナにクイズを出したんですよ。ジャンケンで一番強い手はなーんだって」

なのはの問題には答えず、アスカは自分のクイズを言った。

今度は、それを聞いたなのはが頷く。

「そっちの方が分かりやすかったかな?アスカ君は分かっていたから参加しなかったんだ」

「六課にくる少し前ですよ、答えが出せたのは。それも正しいかまでは分からないし」

「ふふ、一つの答えではあるけどね。じゃあ、スバル達がどこまで近づけるか見物だね」

アスカとなのはは、お互いに笑い合った。



それぞれの調査を終え、スバル達は休憩室へと戻ってきた。

その頃には、なのはもヴィヴィオもすでに居なく、アスカがただ一人缶コーヒーをチビチビと飲んでいた。

スバル達は、お互いの調査報告をして色々と話し合っている。

それを横目に、アスカはノンビリとしていた。

「……なんかムカつくわね。アスカはなのはさんの問題、分かったの?」

スバルが出された問題に、アルトを含めたフォワードメンバーが頭を悩ませているのに、アスカはノホホンとした態度だった。

ティアナが少しばかり頭に来ても、罪はないだろう。

「ん~?さっき答えたぞ、隊長には」

トボケた感じでアスカが答える。

「えー!アスカ分かったの!?じゃあ教えてよ!」

アッサリと答えたアスカに、スバルがにじり寄る。

アスカはそのスバルの頭を押さえて追求を避けた。

「言っても良いけど……本当にいいのか?」

さっきまでトボケていたアスカが、急に真面目な声を出す。

「え?」

何の事だか分からずにスバルがアスカを見た。

「隊長が問題を出したって事は、知っているオレがみんなに答えを教えるんじゃなくて、答えを知らないみんなが一生懸命考えて答えを出して欲しかったからじゃないか?」

「「「「「……」」」」」

この切り返しに、全員黙ってしまう。

「まあ、焦らず考えてみろよ。その方が、絶対良いって」

ヒラヒラろ手を振って、アスカはまたぼけらーっとする。

そこにヴィータがやってきた。

「おう、お前等。108行きだが、ちと先行しててくれ。訓練開始時間にはアタシも入ってるからな」

「あ、はい」

ティアナが答えると、言うだけ言ったヴィータはそそくさと立ち去って行った。

「まあ、クイズの答えは帰ってきたからだな」

空になった缶を、アスカはゴミ箱に放り込んだ。
 
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