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歪んだ世界の中で

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第五話 少しずつその五

「どちらもね」
「そうなんだ、よかった」
 千春のその話を聞いてだ。希望もだ。
 ほっとした笑みになりだ。こう言ったのだった。
「それじゃあ一緒に食べよう」
「そして飲んでよね」
「うん、そうしよう」
「千春も今まで映画館は一人で来てたの」
「一人で?」
「そう。街に出て来た時はね」
 そのだ。その時にはだというのだ。
「そうしていたの」
「千春ちゃんも一人だったの」
「そうだったの。けれど今はね」
 希望がいるからだ。それでだというのだ。
「二人だから。千春も嬉しいの」
「千春ちゃんもだったの」
「千春家族いないし」
 ここでは寂しそうな顔になりだ。千春は俯いた。
「御友達もね」
「いなかったんだ」
「御友達は一杯いるの」
 そうした存在はだ。多いというのだ。
 だがそれでもだとだ。千春は言うのだった。
「それでも。一緒に街に行く御友達はね」
「いなかったんだ」
「千春の居場所は山の中にあるから」
 それでだというのだ。このことは希望も知っていた。
 そのことは彼も千春の家の前に来たことがあるから知っていた。だからわかった。
 しかしそれでもだ。彼は千春の話に矛盾を感じていた。
 それでだ。千春にそのことを言おうとした。
「山の中に御友達が?」
「いるけれど?」
「そうなんだ。いるんだ」
「そうだけれどそれがどうかしたの?」
「どういった御友達なのかな」
 山の中に人がそれ程いると思えなくてだ。そのうえでの言葉だった。
「千春ちゃんのその御友達って」
「うん、それはね」
 千春もにこりと笑ってだ。希望のその問いに答えようとしていた。しかしだ。
 ここでだ。希望はちらりとロビーの壁の時計を見た。そしてだ。
 そのうえでだ。こう千春に言ったのだった。
「あっ、もうすぐだよ」
「上演時間?」
「うん、その時間だよ」
 こう千春に話したのである。
「だからもうね」
「行かないと駄目なのね」
「さもないとはじまり観られないからね」
「そうね。それじゃあね」
「早く中に入ろう」
 こうしてだった。二人で一緒にだった。映画館の中に入った。
 そしてそのうえで映画を観ることにした。暗いその中にだ。
 二人で入り映画館の席に二人並んで座ってだ。
 早速コーラを飲みながらだ。千春は言った。
「あのね」
「あのねって?」
「映画館の中って不思議だよね」
 希望に言ってきたのである。
「とてもね」
「不思議かな」
「うん、不思議だよね」
 こう言ってきたのである。
「何かね」
「不思議っていうかね」
 その千春に対してだ。希望はだ。
 幸せな笑顔を暗がりの中で見せてだ。そうしてだった。千春に述べたのである。
「幸せだけれど」
「千春と一緒だから?」
「うん」
 こう答えたのである。 
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