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幻の月は空に輝く

作者:国見炯
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フラグは回収される為にあるらしい


 カンカンッ、と金属を叩く音が部屋中に響き渡るが、私にとっては既に慣れ親しんだ音。今更とばかりに気にせず、自分の手の平に入ったサイズのクナイを作っていく。いっそのこと金型でも作ろうか。火力は火遁で何とかするとして、肝心の鋳物は――…父さんかな。父さんに頼めば何とかなりそうな気がする。
 小さい頃からといってもまだ十分小さいけど、父さんにくっついて回って技術を盗みまくっているこの私。しかも両親が手先が器用なおかげか、その血をひいている私も手先が器用という特典があってすごく便利。
 前の時も不器用じゃなかったけど、ここまで器用に指先が動くかといえば怪しい。そんなわけで、私は豊富にある資材を好き勝手使ってたりした。まぁ、切れ端を繋ぎ合わせてとか、溶かして打ち直して、といった節約方式だけど。
 まだまだまだ半人前以下の私が、大きな塊を使うわけにもいかないしね。
 しかし金型かぁ。そうなると木型の作成が無難だよね。
 型を上手く作れるかわからないけど、とりあえず作ってみよう。量産体制をとっておいても損はないし。絃で操るなら尚更、一つ一つを入魂したクナイを使う必要はないし。切れ味さえ損なわれていなければ。
 ナルトも器用そうだから誘ってみよっかなぁ。そうだ、母さんに聞いてみないと。友達が出来たから、今度ここに連れてきていい?って。
 そう思うと初だよね。初友達。
 良い響きだなぁ、なんて微妙にテンションが上ってきたんだけど、扉を叩く音が聞こえて急に現実に引き戻された。
 集中してたのに。愚痴っても仕方ないけど、思わずそんな言葉を漏らしながら、私は来客を迎える為に扉まで歩いていく。
 これが父さんだったら、ノックなんかしない。
 家族用の通路から入って私の様子を見たり、依頼をこなしたりするから。母さんも同じだね。

「誰?」

 そろり、と子猫一匹分の隙間を開けて問いかけてみる。
 黒い壁が出来て外の光が遮断される。身長は私より高いけど、大人の身長じゃない。視線を徐々に上へと移動していくと、そこにいたのはイタチ。
「イタチさん?」
 声に出す時はさん付けで。
 それを確実に守っている私は、不思議そうにイタチを見上げながら首を傾げた。任務はどうしたんだろうとか。この間依頼された品はまだ完成してないんじゃないかな、とか疑問が浮かぶ。
「暇なら、俺の弟に会わないか?」
 口の端を上げるだけの笑み。
 微妙に目元も笑ってるけど、ちょっとわかりにくいイタチの微笑。
 それ、絶対誤解されるよ?
 あぁ。だからうちはの人と何となく微妙になる場面が漫画で書かれていたのか。それとも二重スパイだから態と気まずくさせたのか。
 イタチ自身は気にしなさそうな人間関係の綻び。
「サスケ君と、今日、ですか?」
 確かに、数日前に今度、という話しをしたのは記憶に新しすぎる。ここでまさかのサスケフラグか!?と思ったから尚更だ。
 でも、まさか今日イタチから声がかかるとは思わなかったと思えば、どうやらそれが表に出ていたらしい。
「奇襲をかけないと、ランは逃げそうだからな」
「…奇襲……流石に、逃げないよ」
 別にいいって言ったのは私だし。
「そうか」
 そう言ってまた私の頭を撫でるイタチ。丁度いい位置に私の頭があるからか。それとも撫でやすそうな髪質をしているからなのか。
 うん。母さんに似た私の髪質はサラサラですよ。イタチやサスケは硬そうだけどね。見た目。だから撫でたくなる気持ちは解らなくはないけどね。
 私だってテンちゃんを撫でまくるし。ふわふわーのもふもふーな感触が病みつきになってるし。ひょっとしたらイタチにとって私の頭はそうなんだろうかと半ば本気で悩みながら、
「待ってて下さい。片付けます」
 会う覚悟を決めたであろう私の言葉に、イタチは満足そうに頷く。
 なんだろう。このフレンドリーな感じ。サスケに対してはクール系な兄ちゃん。実際は家族愛というより弟愛が凄まじい人だったんだけど、最期まで表に出すようなタイプじゃなかった。それなのに、この年下を猫かわいがりしているような撫で方や、弧を描く目元はなんでしょか。
 流石に片付けは私しか分からないから手伝わなかったけど、イタチは準備を終えた私の頭をもう一回撫でた。
 …結局撫でたいだけか。
 とりあえず気にしたら何かが負けると、私は母さんに声を掛けてからイタチの横に並ぶように歩いた。
 コンパスの違いで、どうしても私が遅れるんだけどね。けれどイタチは私に合わせてくれてる。瞬身を使ってもいいけど、それでもやっぱりイタチよりは遅い。
 あぁぁあああ。中途半端!
 もっとバビュンとかっこよく出来ないのかな。
 ひょっとしたら私は通行人Aじゃなくて、CやDの微妙な立ち位置なのかもしれない。となるとバビュンと颯爽と移動する事には限度があるかと、折角NARUTOの世界に来たのにと密かにガックリと肩を落とした。

 しかし、いつまでもへこんでいた所で通行人DがCに昇格するわけがない。さっさと立ち直ってみたけど、会話がない。
 この沈黙の突破口は何処だ?
 二十何年間生きていた話術をここで発揮させろよと?
 いや、無理無理。イタチに何を話せば話しが弾むのかがわからない。
 先ほどから私の頭の中だけで行われている脳内会議。終盤に差し掛かってみた所で解決策は生まれてこない。はっはっは。ここは無意味に笑っておこう。笑顔は最強だ。穏やかな笑顔を浮かべて場を和ませておけば全てが上手くいくはずだ!
 思考回路が変な方向にいっているような気もするが、あまりに気まずすぎて軌道修正する余裕もない。
 多少。いや、かなりぎこちなく手足を動かしてイタチの横を歩いていたら、イタチが私の方をちらりと見た後、視線を木々の方へと移す。
 ………。
 そこまで今の私は危険人物だっただろうか。
 この子供らしい可愛らしい笑顔。自分で言っている時点で色々と終わっているような気もするけど、そんな可愛らしい笑顔は目を逸らす程?
 何?
 歩き出してそれ程の時間が経っているわけでもないのに、このへこみ時間は。時間と精神疲労が明らかにあっていないがどうだろう。私の気のせいなのか。
 思わず天華に助けを求めようとしたけど、天華は危険を察知してか私の肩から飛び立ってしまう。
 …………。
 そうだね。
 天華もこの状況どうしようと聞かれた所で困るよね。相手はイタチだし。なんだろうなぁ……この会話能力のない三人。
 たそがれている私とは対照的に、イタチはあくまでもマイペース。表情を崩す気配すらない。
 私の方が嬉しくないけど中身は大人なのに、と言ってみた所で、状況は何一つ変わらなかった。


 ぽてぽてぽて。
 忍らしくない足音が響く。
 勿論犯人は私だったりする。足音をさせないで歩けるけど、子供らしくという事を前面に押し出して足音をたててみる。
 しかし、私の家は里の外れ。うちは一族の居住区からは結構離れていてね。つまり疲れたんだよね。
 距離あるし。コンパス短いし。沢山手足を動かせばどうしてもかったるくなってくる。そういえば庵に篭って少し睡眠時間を削っていたっけ。ご飯は両親と一緒に食べるから、三食はきっちりだけど。まぁ、そんな感じで今日は早めにバテ気味なんだと思うんだけどねー。

「大丈夫か?」
 私の表情に疲れが出ていたのか、イタチが足を止めて私の顔を覗き込むように問いかけてきてくれた。
「大丈夫」
 疲れたけど歩けない程じゃないし。
 けれど先が見えないっていうのは体力的にキツイから、後どれぐらいかだけは聞いておこう。そうすれば多少なりとも楽になると思うしね。
「イタチさん。後、どれぐらい?」
 歩けば着くのかな?
「もうじき……後5分程か?」
 曖昧に答えようとしたイタチに、はっきり答えてほしいなぁ、という視線を向けてしまう。この疲労で曖昧な答えは堪えるんだよね。
 けれど語尾にハテナマークをつけられても私もわからないと肩を竦めてみる。
「俺に聞かれても」
「それもそうだな」
 ここでイタチの天然疑惑を持ち上げてもいいだろうか?
 それもそうだなと真顔で答えたイタチに、私はそんな疑惑の眼差しを向ける。こうしてみると、幾ら大人びているといってもまだ子供だ。
 イタチの子供らしい一面を見れてホッとしていたら、まだ離れているけどうちはマークが見えた気がした。
 あぁ、あの一角がうちはの居住スペースなんだ。広いなぁ。流石木の葉の名門うちは一族。

「ここがうちはの居住区域だ」
「そうみたいですね」
 大丈夫だよ。この距離だと色々と見えてるし、皆うちはの家紋入りの服着てるし。しかし自己主張の激しい一族だなぁ。これ見よがしな家紋って。
 日向ってどうだったっけ。今度観察に行こうかな。父さんは取引があるし納品にも行くから、それについていけば問題なく観察出来るだろうし。
 思考が一瞬今度の日向一族観察に向きかけたけど、イタチの頭ぽん+撫で撫でに強制的に現実に引き戻される。
「この中に入らなきゃ駄目ですか?」
 しかし空気が良くない。子供に向けてなんだこのよそ者は?と言わんばかりの目線を向ける、大人気ない奴等はなんだ。
 写輪眼がそんなに偉いのか。木の葉最強は今の所日向の看板だぞ。うちはの瞳術を極めちゃえばどっちが最強か分からないんだけどね。
 感じる不躾な視線に、思わず私が本音を漏らしながらイタチを見上げれば。
「問題ない」
 迷いのない返事が返ってきた。
 いや、まぁ木の葉の一員だしね。問題はないと思うんだよ。思うんだけど何となくイヤって言うかね。
「ラン。行くぞ」
 渋る私の手を取り、イタチはどんどんと突き進んでいく。
 なんだろうね。このお兄ちゃんと手を繋いで楽しい散歩的な構図は。
 楽しくはないんだけど、見た目的にはひょっとしたら微笑ましいのかも。私が微妙に現実から目を逸らしている隙に、イタチは私の手が痛まないように引っ張りながらも目的地まで強制的に連れて行く。
 あぁ、うん。気にせずに我が道を行く所はホント原作サスケの兄って感じだよね。

 
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