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幸せが逃げて当然

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第一章

                幸せが逃げて当然
 この時大久保美里は仕事から帰ってきた夫の洋太郎に家で夕食の後に怒って言っていた。
「酷いでしょ」
「えっ、義姉さんそんなこと言ったの」
「そうなのよ、お義兄さんも唖然としてたわ」
 赤がかった茶色のセミロングの髪の毛で丸い目をしている、面長で色は白い。ズボンが似合う一六一位の体格である。
「もうね」
「僕も話聞いてそうなったよ」
 茶色でショートヘアにしている細面の彼も言った。
「よくそんなこと言えたね」
「妊娠していてこれから子供産んで育てるのにね」
「そうでなくてもだよ」
 夫は妻に言った。
「普通の人は言わないよ」
「そうよね」
「猫が嫌いだ匂いが嫌とか毛が付くとかね」
「そうした人はいてもね」
「保健所に送って殺処分しろとか」
「普通の人は言わないわよね」
「僕もうあの人と付き合うの無理かな」 
 夫は妻にこうも言った。
「これまでは何ともなかったけれど」
「私もよ、ちょっとね」
 妻も顔を顰めさせて答えた。
「今日姉さんに言われてね」
「そう思ったんだ」
「お義兄さんが必死に宥めたけれど」
「元々お義兄さんが飼ってた娘だったね」
「ええ、タマはね」
 美里は猫の名前も出した。
「そうだったのよ」
「十五年飼ってて」
「姉さんもわかってて結婚したけれど」
「あちらのお義父さんとお義母さんが故郷に帰ってから」
「その時からタマ嫌ってね」
「それでなんだね」
「そんなこと言いだしたから、妊娠したら」
 そうしたらというのだ。
「マリッジブルーかも知れないけれど」
「いや、それ地だと思うよ」
 夫は難しい顔で答えた。
「人間って逆境とかそうした時に地が出るよね」
「辛い時にこそね」
「そう言われるから」
「姉さんの地ね」
「その地がね」 
 まさにというのだ。
「出てるんだよ」
「そうよね、それでお母さんに言ったら」
「どうなったのかな」
「猫なんて殺処分しろ、よ」
「お義母さん猫嫌いだったんだ」
「そうみたいね、これまで知らなかったけれど」
「嫌いだったら殺処分なんだ、それって」
 このことからだ、夫は言った。
「そのままね」
「姉さんと一緒よね」
「親娘だね」
「嫌なことにね、お義兄さん困ってたけれど」
 美里は夫に怒った顔で言った。
「このままじゃタマ本当に殺処分されるから」
「どうしようかで」
「うちで引き取らない?」
 夫のその目を見て提案した。
「そうしない?」
「そうしよう」
 夫の返事は即答だった。
「僕もあと数秒でね」
「その言葉出していたのね」
「そうなっていたかもね」
「じゃあ明日ね」
「うん、タマを引き取りに行くんだね」
「そうするわ」
 美里は決心した、そしてだった。 
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