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幻の月は空に輝く

作者:国見炯
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欠食児童は栄養をとれ



 只今、ナルトと向かい合わせでお弁当を食べております。
 なんていうか、イメージがまったく違うけど、こんな感じもいいのかもなぁ、と精神年齢だけは結構いってしまっている私は思ったりとかね。
 精神年齢があがると、少しの事じゃ動じないし立ち直りも早いんだよね。
 さっきから天華とナルトの視線の応酬が凄かったりもするんだけど、間に挟まれた私はといえば気にせずにお弁当をパクパクと食べているとも!
 お腹もすいたしね。術を使うとやっぱお腹がすくのよ。まぁ、たいした術は使ってないけど。


「………」

《………》

 ある程度視線の応酬が終わったのか、今度は天華とナルトがジッと私の方を見てくるけど、あえてスルーで。ものすっごく物言いたげな眼差しだけど、やっぱスルーで。

「とりあえず食え」

 ナルトの実力が高いのはわかる。正直言って今の私と同等かそれ以上。通行人Aの私にしては相当頑張って下忍以上の実力は得ていると思うんだけど、その辺りはいまいち自信がない。
 というわけで、多分私以上だとは思うんだけどね。
 そう。それはいい。だがしかしその細さは何だ!? これでも生前は結構いい年をした未婚な女。やんちゃだったけど。男前だったけど。姉御や姐さんよりもアニキと呼びたいなんて下僕候補――それは謹んで辞退した――も居たりなんかしちゃったけど! 裏の顔は料理好きな動物好き。可愛い物も好きの割りに表の顔はシンプルに。
 やせ細った子供と動物は肥えさせなければ許せんという、ある意味魂にしっかりと刻み込まれ、現在の私の人格形成の礎となっている根底にあるものを、今発揮せずにいつ発揮する。

「食いながら話せ。俺も答える。テン」
 私に名前を呼ばれた瞬間、わかりやすく天華の身体がビックゥと揺れる。食事に関して例外はないのだ。天華用の皿に盛り付け、肩にのっている天華をその前へと置く。食え。食ってしまえと言わんばかりの無言の圧力。
 反論する事を諦めたのか、天華はチラリ、とナルトに諦めろと言わんばかりの眼差しを向けた後、大人しく食べ始めた。
「変わったヤツ…だな。食うよ。食うから睨むな」
 止めていた口と手を動かし始めたナルトに私は満足気に頷くと、最後のおにぎりを口の中へと放り込む。後はナルトと天華の分。
 食後のお茶とデザートに移った私とお弁当を交互に見比べた後、ナルトは何も言わずに無言のままでお弁当を食べ続けた。
 欠食児童に量が多かったかな。始めはお粥の方がいいだろうか。
 ちょっと悩むなぁ、と私はチラリ、ではなく真正面からナルトを見据えると。
「食べれる量でいい。胃が吃驚したら大変だ」
 次は粥だな、と言葉を付け足す私に、最早ナルトには返す言葉がないらしい。変な奴変な奴と呪文のように繰り返すだけ。
 失礼な。
 中身がこんなんだからちょっと変わってる自覚はあるけど、でもそれ程オカシイ言動はしてない。何故ならば、そこまで話さないようにしてるからね。
 デザートの桜餅を頬張りながら、ほうじ茶を喉の奥へと流し込む。うん。美味~。今度は洋菓子がいいかなぁ、しかし自分が作っても不自然じゃない年齢まで我慢すべきか。いやそれだと時間が掛かりすぎる。
 ならばお母さんと挑戦するしかないだろうと、すっかりデザートの事で占められている私の耳に、ナルトのわざとらしい咳払いが届いた。
 あ…。忘れてた。
「食ったってばよ」
「口調」
「…出たり出なかったり。表だとてばよ、って話すから割と癖になってる。で、ちゃんと自己紹介してくれんだろ?」
 下から睨みつけるようにしてくるナルト。瞳の色は同じ青色。そんな事を思いながら、私は一回だけ頷く。
「勿論。俺は夜月ランセイ。相棒は天華。お前の腹の中の対の存在だ。となると俺はさしずめ裏人柱力という所か」
 天華は影尾獣って呼ばれる存在で、尾獣以上に闇に葬り去られた存在なんだって。十尾が九つに分かれる時に生まれた存在だとかいうけど、その辺りは不明。
 私の一族に伝わりつつ、ひっそりと暮らしたとか。
「…裏人柱力?」
「あぁ。天華は銀毛白面九尾の狐だ。これは内密にな。俺の一族に伝わる…多分四代目しか知らない事実だ」
 私の言葉に、ナルトは息を飲み込んだ。
 これは両親からじゃなくて天華から聞いた話しだけど、四代目に保護されたとか。まぁ、実際は四代目になる前みたいだけどね。
 その辺りの経緯はまだ詳しく聞いていないけど、きっと録でもない事があったんだろうなとは予想がつく。
 だから両親も天華も、詳しく話さないんだろうと思うしね。まだ、だけど。
「だから、対だ。まぁ、対だから友達になりたいわけじゃない。その辺りの判断はナルトに任せる」
 
 はっきり言って傷の舐めあいなんかじゃない。
 私は天華といる事で傷なんて負った事がない。
 ナルトに対して申し訳ない気持ちもないわけじゃないけど、元々それがなくても友達になりたいと思ってたし。
 けれど淡々と喋る私を怪訝に思ったのか、ナルトの整った顔が突如目の前に沸いた。沸いた? うん。沸いたで問題なし。
「ふぅん。邪魔になりそうなら遠慮なく切り捨てるけど――いいよ。友達になってやるってばよ?」
 にかっと、表のナルトの笑みを浮かべるんだけど。
「ぅわ。その笑顔引くな」
 どうにも裏の、本当の顔で今まで話していた所為か、原作らしいナルトの笑みに拒絶反応がっ。あのニヤリ、な口元の端だけを上げるアルカイックスマイルから一転、にこやかな人懐っこい笑みを浮かべられてもねぇ…。
 鳥肌のたった腕を撫でていたら、ナルトが微かにだけど眉間に皺を寄せた。
「アンタ…相当失礼だな。無邪気な子供らしい微笑だろうが」
「それを言う時点でアウト」
「セーフだ」
「アウト」
「寧ろ全然いけるだろ!」
「寧ろまったくいけずに拒絶反応が起こる」
「なッ!」
「俺の前じゃ素で居ろ。でないと気色悪い」
 漫画じゃあの笑顔に救われてたんだけどねー。裏の顔が素でそれを見た後だと違和感しかないナルトの無理をしてる表の表情(カオ)
「ッ~~~!!!」
 無言というよりも吐き出す言葉がなく、握り拳を作って地団駄踏むナルトは、年相応に見えてちょっと可愛い。
「食べれるなら、デザート」
「マイペースな奴だな! 俺以上にマイペースな奴、初めて見たぜまったく!!!」
 そして食えばいいんだろ。食えば!!と叫んで桜餅を掴み、八つ当たりをするかのようにガツガツと食べまくる。
 うん。胃薬を用意しよう。
 多分胃もたれが起こりそうなナルトの食べ方に、私はお茶を用意しながらそんな事を思っていた。
 その予感は間違いじゃなく、後日粥と胃薬の差し入れをしたわけだけど…。

「……いや、美味いよ。美味いんだけど量が多いだろ?」

 とぼやくナルトに、私は慣れろ、の一言だけを残して厨房へと消えていく。さてさて。始めに冷蔵庫と厨房を整えなきゃな。
 やる事は沢山ありそうだと、私は腕まくりをしながら今後の予定について頭をフル回転させてたりとか。
 まぁ、ナルトが後の方で戦々恐々と私を見てたのはご愛嬌だろう。うん。


 
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