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提督はBarにいる。

作者:ごません
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ホーネットと巡るブルネイ鎮守府探訪・2

「えぇと、日本の空母と海外の空母の艤装の違いについて、でしたっけ?」

「えぇ、是非とも聞いてみたいわ」

 工廠の中を案内してもらいながら、メカニック専門のアカシに尋ねる。

「日本と海外の空母の最大の違いは、装備の規格化が為されているか?という点が一番大きいかと」

「装備の規格化?」

「そうです。日本の空母の発艦方法は大きく分けて3パターンあります。『弓術型』と『式紙型』、それに『ボウガン型』ですね」

「弓術型はその名の通り、艦載機を矢に変えてつがえ、弓を使って射出する発艦方式です。発艦時に余計なエネルギーを使わない分、航行や攻撃にその分のエネルギーを回せるのが強みですね」

「式紙型は艦載機を特殊な紙人形に変化させ、携帯している巻物型の飛行甲板を展開してそこから発艦させる方式です。弓道型よりも発艦時に消費するエネルギーは大きいですが、その分妖精さんとの連携が取りやすく、緻密なコントロールと展開能力の高さがウリですね。後、艤装がコンパクトになるので敵から発見されにくく、奇襲や隠密行動に向いてます」

「ボウガン型も見ての通り、ボウガン型の射出装置から矢に変化させた艦載機を射ち出す方式ですね。弓術型に近いですが、射出の際の飛距離や消費するエネルギー量が艦娘個人の力量に左右されず、一定です。取り回し易さが特徴的ですが、整備性は3パターンの中では最悪ですね」

 ふむふむ、とアカシが説明してくれた内容を自分なりに理解する。

「統一性を持たせる最大のメリットは、ある程度の互換性がある事です。同じ弓術タイプの艦娘同士であれば、万が一戦場で装備が破損したとしても融通が効く可能性がありますから」

「成る程」

「勿論、個人の力量に合わせて微調整はしてありますから100%の力を出せるとは言えませんがね」

「海外の空母の皆さんは、個人で装備の仕様が全然違いますから。色々と模索している結果なんでしょうが……そこは多少大変ですね」

 言われてみれば、とホーネットも納得する。自分も含めて日本以外の国の空母の艦載機の射出装置はバラバラだ。弓を使うのがいたり、ライフルを使うのがいたり、カタパルトをバズーカの様に使ってる奴もいる。結果的に性能は上がっているのかも知れないが、軍として考えた場合運用しやすいのは統一性のある装備の方だ。

「ありがとう、とても解りやすかったわ」

「ならよかったです」

 と、そこへ整備員らしき男がアカシに駆け寄って来た。

「明石さん、溶鉱炉の準備出来ました」

「あ~、じゃあ始めちゃって下さい。くれぐれも気を付けて」

「うっす、んじゃあ深海鋼の精製始めます」

「シンカイコウ?なぁにそれ」

「えぇと、その、何というかですねぇ」

 明らかに言葉に詰まるアカシ。そのシンカイコウとやらがこの鎮守府ならではのアドバンテージなのではないか?これは是非とも確かめねばなるまい。

「大丈夫デスよ明石、darlingには『全部見せていい』と許可を取ってありマス」

「え、いいんですか!?」

「YES、寧ろガンガン見せて本国に報告させろって言ってたヨ?」

「えぇ~……?(困惑)」

「何を考えてんですかあの人は……。はぁ、まぁ提督の許可を得てるんならこっちとしては別にいいんですけど。こっちです、どうぞ」

 そう言ってアカシとユウバリは工廠の奥へと私達を誘った。




 奥に進むにつれ、工廠の内部はその気温がどんどん上がっている様だ。やがて一番奥にある広場の様なスペースにたどり着くと、

「で……っかいわねぇ」

 そこには、巨大な機械が、火花を上げて鎮座していた。

「ここが深海鋼の製造プラント……まぁぶっちゃけた話熔鉱炉です」

「ねぇ、さっきも言っていたけれどシンカイコウって何なの?」

「まぁ、今から作業開始ですから見た方が早いですよ」

 そう促され、作業を見守る。熔鉱炉の投入口らしき開口部に、天井から吊るされたクレーンのバケットが掬ったスクラップがどんどんほうり込まれていく。しかもそのスクラップに、私は見覚えがあった。

「ねぇ、まさかアレって深海棲艦の……」

「そうです、奴等の艤装の残骸です。深海棲艦から作る金属だから深海の鋼、深海鋼と私達は呼んでいます」

 クレイジーだ。どうしたらそんな発想に至るのだろうか?というかそもそも、

「そんな事をして何か意味があるの?」

 という話だ。

「現在の所、深海鋼には艦娘及び深海棲艦の細胞を劇的に破壊する効果が認められています。駆逐イ級位なら、深海鋼で作られたナイフ一刺しで5分と経たずに絶命させられますよ」

「何よそれ!反則じゃない!」

 まさか深海棲艦に対する猛毒……いや、この場合は狼男や吸血鬼に効く銀の弾丸だろうか?そんな物が開発されて、既に運用も開始されていようとは。

「まぁ、そんなメリットだらけの物でもないんですがね」

「デメリットは何?」

「まず、絶対的に数が作れない事です。材料は撃沈した奴等の艤装を、潜水艦の娘達に協力してもらって集めるしか現状方法がありません」

「量産が難しいって事ね」

「第二に、艤装用の砲弾には加工出来ません。正確には加工は出来るんですが、いざ発砲しようとすると艤装に何かしらのエネルギーが干渉して、艤装が機能停止を起こすんです」

「砲撃は出来ないのね」

「なので、ウチの鎮守府では刀や槍、ナイフ等の近接武装に加工してます」

「でも待って、艦娘の艤装で撃てなくても通常の兵器……例えば戦車や普通の艦船の砲弾や銃弾には加工出来るんじゃないの?」

「えぇ、出来ますね」

「なら、そうすれば人間は奴等と対等以上にーー」

「そこが提督の危惧する第三のデメリットですよ。確かに深海鋼は深海棲艦にも劇的な効果を及ぼします。ですがそれと同時に、深海鋼の砲弾は私達艦娘をも一瞬で殺してしまうんです」

「犯罪者に流れたら、とでも言うの?」

「それもありますが、提督は寧ろ私達と人間が争う可能性を危惧しておられます」

「私達と人間が?」

 馬鹿馬鹿しい、とその考えを否定しようとしたが、すぐには出来なかった。僅かにだが、その可能性も『有り得る』と思ったしまったから。艦娘保有国でも、艦娘排除論者は一定数居る。それこそ、軍内部にもある程度の規模の派閥が出来上がる程度には。そこに艦娘に頼らずとも深海棲艦を殺せる武器が登場したとしたら?人かすらどうか怪しいと考える排除論者は嬉々として艦娘と深海棲艦を諸共に始末しようとするだろう。そうなれば、深海棲艦も巻き込んで艦娘擁護派と排除論者による世界大戦の可能性すら出てくる。

「提督はお優しい人です。見た目は恐いですけど、とても温かい心を持った人ですよ」

「出来れば私達もこんな物に頼りたくはないんですがね。それでも、有用な物は全て使ってこの争いを鎮めると覚悟してますから」

 アカシとユウバリの目には、どんな事をしても提督を守るという決意が見えた。一体、あの軽薄そうな提督の何が、彼女達にこんな決意をさせるのか。

「さて、工廠の見学はそろそろおしまいにして次に行くデース!」

 ちょっとだけ、興味が湧いてきた。



  
 

 
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