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特殊陸戦部隊長の平凡な日々

作者:hyuki
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第17話:新体制の幕開けー5


作戦が終了したあと、銀行ビルの機能が回復するとゲオルグとティアナは、
最上階で拘束されていた幹部たちを連れてエレベータで1階に降りた。
1階ではクリスティアンとウェゲナーが待っていた。

「おう。2人ともお疲れさん」

ゲオルグがねぎらいの言葉をかけると、2人は笑みを見せた。

「いえ、部隊長もお疲れさまでした」

「そっちもな。 お前が来てくれたおかげで助かったよ」

そして、ゲオルグは2人とそれぞれに握手を交わした。

「じゃあ、ティアナには最上階で拘束されていた方を連れて本局に行ってもらうとするか」

ゲオルグがそういうと、クリスティアンは顔色をさっと変えた。

「ちょっと待った、それには少し段取りがいる」

「どういうことだ?」

「もうマスコミさんに囲まれててな。表から出すのはまずい」

「そういうことか・・・」

ゲオルグは右手を顎に当てると思案顔で対応を考え始める。

「銀行でお持ちの車をお借りできませんかね?」

ティアナが案を出すが、ウェゲナーが首を横に振った。

「安全確認が取れてませんから。 犯人グループが何か仕掛けたかもしれませんし」

「確かに」

ティアナは深く頷くと、腕組みをして再び考え込む。

「本局から車をまわしてもらうか。ハラオウン閣下に報告もしないといけないから
 そのついでにお願いしてみよう」

ゲオルグがそういうと、その場にいた全員が頷く。
そしてゲオルグが通信をつなごうとした瞬間、彼を呼ぶ声が響いた。

「ちょっと待ってください!」

そう言いながら駆け込んできたのはシンクレアだった。
彼は息を切らせながらゲオルグに話しかける。

「先ほどハラオウン閣下には一報を入れておきました。
 で、幹部の方からお話を聞くために本局へ来ていただくための車を派遣していただいてます。
 裏口に回すように話してありますので、少々お待ちください」

「了解した」

ゲオルグはシンクレアに向かって頷くと、銀行の幹部たちをソファに座らせた。
そして、外を取り囲んでいるマスコミや野次馬の列が見える位置に移動する。
そこには、警邏隊員たちが警備にあたっている姿が見えた。

「CTVがすっぱ抜いてなきゃこんなことにはならなかったんだけどな」

「ですね。奴らのせいでずいぶんと面倒なことになりました」

つぶやくような小声だったのだが、シンクレアには聞き取れたようだった。

「カメラの前で顔に出すなよ」

「わかってますよ」

ゲオルグが釘をさすと、シンクレアは苦笑を浮かべて頷いた。
そのとき、裏口のほうに車が止まる音がして、ゲオルグは裏口へと移動した。
すると、そこには捜査部の面々を10人ほど引き連れたはやてが立っていた。

「はやてか。 ずいぶん早かったな」

ゲオルグが声をかけると、はやては苦笑を浮かべて肩をすくめた。

「ゲオルグくんがメディア対策の手を抜いたせいで、えらい面倒なことになっとるから
 慌てて来たんよ」

「はいはい。 それはすいませんね」

来て早々に冗談を言うはやてに、同じく冗談で返すゲオルグ。
周りで見ていた彼らをよく知る人々は苦笑を、あまり知らない人々は
引きつった表情を浮かべていた。

「で、どうなん?」

「銀行内部は調査してかまわない。
 ただ、最上階は安全確認中だから担当者に指示を仰いでくれ。
 えっと、誰に聞くのがいいかな、ランスター分隊長?」

「うちのマイラー曹長に指揮を任せてますので、彼女に聞いてください」

ティアナがはやてに向かって告げる。

「了解。 ほんなら、鑑識作業から始めてや」

はやてが指示を出し、捜査部の面々は動き出した。
その時、もう一度裏口に車が止まる。

待っていたクロノが手配した車が到着したかと思ったゲオルグは
また裏口に向かって歩き出す。
だが、甲高い足音とともに一人の女性がゲオルグ達の間に現れた。
その顔を見たゲオルグとシンクレア、そしてはやては、驚きで真円になったのではないかと
思うほどに目を見開いていた。

「ご無沙汰ね、ゲオルグ」

「なんでお前がここにいるんだよ、アリエル」

驚いている3人とは対照的に、ほかの人間は誰なのかわからないようで
互いに顔を見合わせて首をかしげていた。

「誰なんですか? クロス3佐」

「あの人はアリエル・ホーナー3佐。 情報部の人だね」

ティアナが小声で尋ねると、シンクレアはゲオルグの様子を伺いながらこちらも小声で
アリエルの名前をティアナに伝えた。
そんな彼らのやり取りを横目で見ながら、アリエルはゲオルグに近づいていく。

「シュミット1佐。 彼らの身柄は情報部で預からせていただきます」

「はあ? テロ事件に関しては特殊陸戦部隊に初動捜査権限があるはずだ」

「そんなことは知ったことではないわ。 私たちは正式な手続きを経て、
 彼らの身柄を抑える許可を得ています」

アリエルは制服の懐から一枚の紙を取り出して、ゲオルグに差し出した。
ゲオルグはそれをひったくるように受け取ると、中身に目を通す。
途中でサッと表情が変わった。

「どこが安全保障にかかわる緊急事態だよ」

「それをあなたに話す必要はないでしょ。 情報部ではそのように考えていて、
 司法府と立法府が私たちの説明に納得した。 それだけよ」

冷たい目線を向け、突き放すような口調でアリエルは言う。

「私たちの妨害をするのであれば、それなりの処分は覚悟してもらうわ」

「・・・わかった」

苦々しい表情を浮かべて、幹部たちの引き渡しに同意する。

「ちょっ、待ちいな!」

はやてが慌てて詰め寄ろうとするが、ゲオルグが右手で彼女を制した。

「やめとけ。 この場でこいつを覆すのは難しい」

ゲオルグが手に持った紙をはやてに渡すと、はやてはその中身に目を通す。

「・・・これはあかんわ」

はやてはつぶやくように言うと、力なくうなだれてしまう。

「では、彼らの身柄は預からせてもらうわね。 ご同行をお願いします」

前半はゲオルグたちに勝ち誇ったような笑みを向けて、
後半は銀行幹部たちに向かって微笑みかけながらアリエルは言う。

そしてアリエルとその部下たちに促されて、幹部たちは去っていった。

一方残されたゲオルグたちは、無力感に苛まれながら立ち尽くしていた。

「すまない、遅くなった・・・・・。って、どうしたんだ?」

そこに、銀行の幹部を迎えに来たクロノが姿を見せた。
クロノはうなだれるゲオルグたちを見て怪訝な表情を見せた。
そんな彼に、はやては手に持った紙を無言で手渡した。
クロノはそれを読むと、"そういうことか・・・"とつぶやくように言ってから
ゲオルグたちの顔を見回した。

「いつまでもどうにもならないことにこだわっても仕方ないだろう。
 さあ、やるべきことをやるぞ!」

クロノの言葉にそれぞれが力を得て動き始める。

「ほんなら私らは鑑識作業から始めるで。 まずは店舗エリアから。
 あと、映像記録の押収や!」

はやての言葉とともに、捜査部の人間が動き始める。

「俺は戻って犯人グループの情報収集を進めます」

シンクレアは本局へと戻るべく裏口に向かう。

周りが動き出したのに勢いを得たのか、ゲオルグも顔をあげる。

「ティアナは犯人グループの聴取に同席しろ。
 イーグル分隊には最上階の安全確認を継続するように伝えてくれ。
 ウェゲナー、ファルコン分隊は隊舎に帰還だ。
 アバーライン3佐にティルトローターを寄越すように伝えてくれ」

ゲオルグが指示を出すとティアナとウェゲナーは"了解"と声をあげて動き出した。

「301はどうする?」

ゲオルグがクリスティアンに向かって尋ねると、彼は首を横に振った。

「ウチは突入作戦の終了でお役御免だ。 帰投するよ」

クリスティアンの言葉に頷き、ゲオルグはクロノの方に歩み寄った。

「クロノさん。 これから行くんですよね?」

声を抑えて言ったゲオルグの言葉を聞いたクロノは、わずかに目を細めてゲオルグを見る。

「そのつもりだ」

「同行させてください」

「いいだろう」

クロノが小さく頷き、2人は裏口に向かって移動していった。
そしてクロノが乗ってきた公用車の後部座席に乗り込む。
ドアが閉められたところでクロノは運転手に向かって声をかけた。

「CTV本社に向かってくれ」

「かしこまりました、閣下」

車が動き出すと、ゲオルグはクロノに向かって頭を下げた。

「すいません。 ちょっと思考停止してました」

「頼むよ。 君が思考停止すると現場が止まるんだ」

クロノは横目でゲオルグのほうを見て言う。
そして小さくため息をつくと、無言でゲオルグの肩をポンと叩いた。





15分後。
2人を乗せたクラナガンの市街地を走り、CTVの本社ビルに到着した。
正面の車寄せに止まると、運転手がゲオルグとクロノが乗る後部座席のドアを開ける。
ゲオルグは先に車を降りると、続いて降りてきたクロノが歩いていくのに続いて
本社ビルの中に入った。
2人は正面の受付にまっすぐ歩いていく。
そこにいる受付係の女性にクロノは声をかけた。

「ご用件は?」

クロノが着ている将官の制服を見た女性の表情と声は緊張を帯びていた。

「編成局長にお会いしたいのだが、取り次いでもらえるだろうか」

「お名前を伺ってもよろしいでしょうか」

「時空管理局のハラオウン少将だ」

「かしこまりました。 そちらに掛けて、少々お待ちください」

クロノたちに少し離れたところにあるソファをすすめた後、
女性は電話をかけ始めた。

クロノとゲオルグは勧められたソファに並んで腰を下ろす。

「威圧感バリバリでしたよ、クロノさん」

ゲオルグはニヤニヤと笑いながら、クロノに小声で話しかける。

「今回のようなことがないように釘をさしに来たんだから
 怒ってるとわかるようなポーズをとることも必要なんだよ」

そのとき、何者かが近づいてくる足音がした。

「ハラオウン閣下。 お待たせしました」

男の声で呼ばれ、クロノは声のしたほうを振り返った。
そこに立っていたのは、クロノが会いたいと伝えた編成局長ではなく、CTVの社長だった。

「これは社長。 ご無沙汰しております」

「いえ、こちらこそご無沙汰しております。 部屋をご用意いたしましたので
 こちらへどうぞ」

社長自らの案内で2人は会議室に通された。
そこには、一様に青ざめた表情を浮かべた、4人の男が待っていた。
クロノとゲオルグが入室すると、そろって深々と頭を下げる。

「どうぞ、おかけください」

社長に促され、クロノとゲオルグは男たちの真向かいに腰を下ろした。
全員が着席したところで、社長が口を開く。

「さてハラオウン閣下。 この度はどのようなご用件でお越しいただいたのでしょうか?」

クロノはピクリと眉尻を跳ね上げる。

「私が何の用で来たか察しがついているからこそ社長自ら対応され、
 この場に編成局長に報道局長、制作局長までがいらしゃるのではないですか?」

クロノの言葉で、社長は顔をこわばらせる。

「私がアポイントメントもとらずに伺ったのは、先ほど発生し、こちらに座っている
 シュミット1佐が突入作戦の指揮をとったグランドミッドチルダ銀行本店の
 人質立てこもり事件における貴局の放送内容について、同様の事態の再発防止を
 要請するためです」

さらに言葉をつづけると、社長以下の全員が背をピンと伸ばしてクロノの方を見る。

「当然ご存じとは思いますが、人質の発生している事件の報道においては、
 人質と作戦に関わる管理局員の安全を確保するために、管理局の対応を放送しない
 という包括協定を報道各社と締結しています。もちろん、貴局も。 まちがいありませんね?」

クロノの問いに対して、CTV側の4人は黙って頷く。

「今回、事件発生直後に人質立てこもり事件であることが判明し、私が室長を務める
 テロ対策室から各局の登録担当者にその旨を通達しています。
 貴局の場合は編成局長だったはずですが、まちがいありませんね?」

「はい、まちがいありません。 今回も通達を受領しています」

編成局長が固い口調で答える。

「であるにもかかわらず、ヘリからの映像が生放送されたわけですが、
 なぜそのようなことになったのですか?」

クロノが低い声で尋ねる。
すると、CTVの3局長は互いに顔を見合わせる。
そして、しばらくして制作局長がおずおずと口を開いた。

「実は、あの時間に放送していた番組は制作局の娯楽番組を担当するチームの制作するもので
 人質事件における包括協定について、担当ディレクターもまったく把握していなかった
 ようなのです」

「つまり、放送に関する基本的なルールを指導しないまま、放送業務につかせていた
 ということですか?」

「結果的にはその通りです。
 当然、包括協定の重要性は重々承知していますし、必要と思われる部署には
 徹底した指導を行っておりました。
 しかし、今回の放送に関わっていたメンバーはそこから漏れてしまっていた。
 そのために発生した事態と考えておりますので、今後は指導の対象を放送業務に
 関わる全社員へと拡大する対応をとる予定です」

「そうですか。 原因と対策についておおむね理解しましたので、これをもって了とします」

クロノの言葉にCTV側の4名は安どの表情を浮かべる。

「ですが、発生した問題は発生した問題として、議会へと報告させていただきます」

その言葉で4人の表情は再び青ざめた。

「それでは・・・」

「そうですね。 放送業の認可取り消しもあり得ます。
 ですが、それだけのことをされたのだとご認識いただきたいものですね」

そこまで言って、クロノは椅子から立ち上がった。
彼に続いてゲオルグも立ち上がる。

「では、これで失礼を」

そう言ってクロノとゲオルグは会議室をあとにした。
会議室を出ると、案内役の社員が待っていた。
その社員の案内に従って、2人は受付ロビーへと戻ってきた。
そして車寄せから公用車に乗り込む。
車が滑らかに走り出したところで、ゲオルグはクロノに話しかけた。

「すごい迫力でしたよ、クロノさん」

「それはそうだよ。 彼らには僕たちを敵に回してはいけないと思ってもらわないと
 いけないんだからね」

クロノはゲオルグに向かってニヤッと笑う。

「ハラオウン閣下の敵でなくてよかったですよ」

ゲオルグはクロノに向かって苦笑を浮かべた。

「ところでゲオルグ」

クロノがトーンを落とした口調に変えてゲオルグに話しかける。

「なんですか?」

「この後はどうするつもりだ?」

「まずは犯人グループの素性の特定でしょうね。
 今回は捜査部も動きが速いんで、はやてたちの協力も得やすいでしょうから
 早めに特定できると思ってます」

ゲオルグは腕組みをして、右手の指で左腕の肘のあたりをトントンと叩きながら話す。

「おそらくどこかの反次元管理派集団に所属していると思いますけどね」

「だろうね。 ほかには?」

「拘束されていた銀行幹部からの聴取をしたいんですが・・・」

ゲオルグの言葉に対して、クロノは顔をしかめる。

「それはそうだが・・・」

「難しいのはわかってますが、誰が何のために彼らを拘束したのかを知りたいんです。
 なので、明日にでもあいつのところに行こうと思ってます」

クロノはわずかに目を見開いてゲオルグの方に顔を向ける。

「ホーナー3佐か。 僕は彼女についてよく知っているわけではないのだが、
 話し合う余地はあるのかい?」

「さっきのあいつの態度からするとなさそうなんですが、
 ちょっと腑に落ちないんですよ」

「というと?」

「もともとあいつは脳から記憶を引き出す魔法のエキスパートとして
 情報部の尋問班に配属されてるんで、そんなに外に出張ってくるタイプではないんですよ」

ゲオルグの言葉にクロノは頷きながら相槌をうつ。

「まして、今のあいつは尋問班の班長ですから、まずあの場面で表に出てくる必要は
 なかったはずなんですよ。
 でも、ああいう形で出てきたってことは・・・」

「何か裏があるということかい?」

クロノが尋ねるとゲオルグは無言でうなずいた。

「まあ、単に俺に対してあてこすりたいだけって可能性もあるんですがね」

「そんな個人的な感情だけで、あそこまでの準備ができるものかな?」

「あいつと付き合ってた時期に、女性の考えは俺にはわからないと思い知りましたから」

「なるほどね」

クロノは渋面を浮かべるゲオルグを苦笑しながら眺めていた。




2人を乗せた車が本局の車寄せに到着すると、はやての部下が歩み寄ってきて
後部座席のドアを開けた。
ゲオルグとクロノは彼らのあとに続いて、犯人グループが拘束されている捜査部の
フロアへと向かう。
いくつかの施錠された扉を抜けて取調室の並ぶ区画に入ると、
先導するはやての部下が一つのドアを開けた。

「あ、閣下。お戻りになられたんですね」

そこには監房の監視用モニタが並んでいた。
そのモニタを腕組みをして眺めていたティアナは、
クロノとゲオルグが部屋に入ると彼らの方を振り返った。

「少し寄るところがあったんでね。それで、何か分かったことは?」

「まだなにも。これから事情聴取を始めるところですし」

「身柄の調査は?」

「そちらはDNAと指紋の採取を済ませて既に検索をかけてますが、もう少しかかりますね」

ゲオルグの問いにティアナが答えると、クロノは無言でうなずいた。

「わかった。まずは彼らの素性を明らかにすることを最優先に頼むよ。
 僕はミゼット提督に現状を報告してくる」

クロノはゲオルグたちに向かって片手を上げながら部屋から出ていった。

「ゲオルグさんはどうされるんですか?」

「しばらくは取り調べに立会うよ。シンクレアからも何か情報が来るかもしれないしな」

「いいんですか?チンクは早く戻ってほしいって思ってるんじゃないですか?」

「かもな」

ゲオルグはモニタに目を向けながら顎に手を当てて考え込む。
その時、部屋の扉をノックする音がして、ティアナがどうぞと答えたあとにドアが開かれた。
扉の向こうから入ってきたのはシンクレアだった。
シンクレアはティアナの顔を見て話し始めようとするが、
その後ろにいたゲオルグの姿を見つけるとその目をわずかに見開いて驚きを露わにした。

「ゲオルグさんもいるとは思いませんでした」

「いいから、わかったことを話せよ。そのためにここに来たんだろ?」

「そうですね。じゃあ、俺の方でやってる調査の現状を話しますね」

そこから、シンクレアは犯人ひとりひとりの素性についての調査の進行について
資料を交えながら15分ほどかけて2人に説明した。

シンクレアの説明を聞き終えたゲオルグとティアナは揃って渋い表情を浮かべていた。

「マフィア崩れ、ですか・・・」
「まあ、ただの銀行強盗ならやりそうな連中だけどな・・・」

シンクレアの調査によると、犯人グループの全員があるマフィアの元構成員で、
定職についていないということだった。

「なんだかこの感じ、前にもありましたよね?」

ティアナが他の二人の顔を見ながら言うと、ゲオルグとシンクレアは揃ってうなずいた。

「次元航行船乗っ取り事件のときだろ?確かに似てるよな。あのときは海賊集団だったか」

「そうですね。海賊集団の背後関係の調査はどうなってたかな・・・?」

そのとき、部屋の扉がふいに開かれ、一人の女性が入ってきた。

「ふぃー。お、みんなおそろいやな。今日はお疲れさん」

入ってきたのははやてだった。
彼女は制服の一番上のボタンを外して胸元を緩めながら、
部屋の隅にある椅子にどかっと腰を下ろした。

「現場はどうだった?」

「鑑識作業は終わらせてきたで。イーグル分隊が最上階の安全確認を手早くやってくれたから、
 助かったわ」

後半はティアナに向かって笑いかけながらはやてが言うと、
ティアナははやてに向かって軽く頭を下げる。

「それで?」

「ビルの防災センターにあった監視カメラの動画データは全部押収してきたけど、
 店舗エリアに犯人グループが突入してきた時点で監視カメラの機能が切られたみたいで、
 大した記録はなかったわ」

「他には?」

「店舗エリアと最上階からとれた指紋は照合中やね。ほかも分析にちょっと時間が必要やわ」

ゲオルグが短く尋ねると、はやては自分が指揮してきた初動捜査の状況を伝えた。

「そういえば、なんかあったんかいな?私が入ってきたとき、みんなして難しい顔してたけど」

はやてが首を傾げて尋ねたのに応じて、シンクレアが犯人グループの素性についての
調査の状況とハイジャック事件の犯人グループとの類似性について話して聞かせると、
はやてはやはり難しい顔になってうつむいた。

「なあ、はやて。あの海賊集団の背後関係の捜査ってどうなってる?」

ゲオルグの問いかけに、はやては顔を上げてから首を横に振った。

「全然進んでへんねん。旦那とか呼ばれてた男のほうからあの連中に接触してきたみたいで、
 男の素性についての有効な情報はあの連中からは得られてへんのよ」

「そうなのか。うちの方では衛星写真で捉えたその旦那とやららしき男のその後の
 足取りを追わせてるんだが、こっちも今のところ成果は上がってない」

「せやねんな・・・。今回の事件との類似点ありっちゅうことで、
 関連をもたせた捜査をしたほうがええんやろか?」

「それを決めるのは早計だろ。犯人グループを使嗾したやつがいたと決まったわけでもなし。
 そのあたりの証言が出てきた時点でどうするか考えても遅くはないと思う」

「せやね。ほんならあとは、株価と株式売買の追跡か」

「その調査ですけど、私のほうでやらせてもらえませんか?」

ティアナが調査の引受を申し出ると、ゲオルグはその表情を曇らせる。

「俺としてはあまり嬉しくないんだけどな。
 分隊長としての通常業務も安定したとは言えないし。
 できれば捜査部に任せたいんだけど、どうだ?」

「せやねえ。ゲオルグくんの言うてることはわからんではないんやけど、私が使える人員では
 株価と株式売買の追跡までは手が回らんのよ。少なくとも、現場の鑑識結果の分析が完了する
 1週間後まではティアナに頼めるとありがたいんやけどな」

「そうか・・・。じゃあ、1週間を目処に株式取引の調査をティアナに頼む。
 証券取引監理室と協力してグランドミッドチルダ銀行株の不審な取引がないか調査してくれ。
 ただし、分隊長としての業務は滞りなく実施すること。いいな?」

「はい。ありがとうございます」

ティアナは深々と頭を垂れた。






 
 

 
後書き

新オリキャラ アリエル・ホーナーについて、説明がないので簡単に補足を。

アリエルは他人の脳内の記憶を引き出す魔法を使う能力を持つ魔導士で、
ゲオルグとはゲオルグが情報部に異動してきたときに出会い、すぐあとに交際に発展。
ゲオルグの初体験の相手は彼女ですw

 
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