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針女

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第一章

               針女
 伊予、今の愛媛県の宇和の海の方に伝わっている話である、ある漁村で若い漁師達が村の長老にこう言われた。
「いいか、針女には注意しろ」
「針女?」
「何だそりゃ」
「針を持ってる女か?」
「裁縫か機織りでもするのか?」
「縫うことも織ることもせん」
 それは違うとだ、長老は若者達に話した。
「どっちもせん、そもそも人じゃない」
「人じゃないとすると幽霊か」
「それとも化けものか」
「どっちかか」
「そのどっちかなんだな」
「化けものだ」 
 そっちだとだ、長老は答えた。
「針女はな」
「そうか、化けものか」
「それで化けものに注意しろっていうんだな」
「爺様はそう言うんだな」
「そうだ、針女は海の傍の道に出てな」
 そうしてとだ、長老はさらに話した。
「若い男をたぶらかして捕まえてだ」
「そして取って食うか?」
「それとも海に引き込んで殺すか?」
「どうするんだ?」
「憑くんだ」
 そうしてくるというのだ。
「そうして死ぬまで離れない」
「それは難儀だな」
「祟られるのと変わらないな」
「そんな厄介な化けものか」
「それが針女か」
「そうだ、だからな」
 それでというのだ。
「おめえ等も気をつけろ」
「その針女にはか」
「くれぐれもか」
「そうしないと駄目か」
「そうだ、憑かれたくないならな」 
 それならというのだ、もっともこれは誰もが思うことであるが長老はあえてこのことを強く言ったのだ。
「いいな」
「ああ、わかった」
「海の傍の道だな」
「そこに出るんだな」
「針女は」
「針女は一目見たら奪われる位の別嬪でな」
 長老は今度は針女の姿のことを話した。
「髪の毛の一本一本の先に釣針があるんだ」
「釣針か」
「あれがあるか」
「そうなんだな」
「ああ、だからよく見ればわかる」
 その女をというのだ。 
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