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弱小球団

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第一章

                弱小球団
 近鉄パールスと聞いても誰も強いとは言わなかった、むしろ誰もがだった。
 弱い、そう思っていた。
「近鉄?あの弱いチームか」
「パリーグは南海か西鉄だろ」
「去年も最下位だったか?」
「どうせ今年もだろ」
「買ってる姿見たことないよな」
「ああ、ないない」
「というか名前自体弱そうだな」
 誰もが興味なさそうに行っていた、親会社の近鉄沿線にいる人達ですら。
「何か名前は伊勢の真珠かららしいけれどな」
「本当に弱そうだな」
「実際稲尾にずっと負けてるしな」
「セリーグにもあんな弱いチームないぞ」
「浪商とかの方が強いだろ」
 当時の大坂の高校野球の強豪の方が強いというのだ。
「見るからにやる気がないし」
「どうせまた最下位さ」
「誰か知ってる選手いるか?」
「特にいないよな」
 ただ弱い、そうしたチームだった。だが。
 当時巨人の二軍監督をしていた千葉茂こうした話が来た。
「わしが監督にか」
「はい、声がありますよ」
「わしは多分巨人の監督にはなれん」
 千葉は苦い顔で言った。
「カワが監督になったからな」
「あの人のことはご存知ですよね」
「わしはあいつと一二間組んでたからな」
 千葉はカツカレーを食べつつ話を持ちかけて来た者に話した、洋食好きの彼がカツとカレーを一度に食べたいと思って考え出した料理だ。
「他の奴も知ってるが」
「千葉さんは特にですね」
「俳優の丹波さんが言ってたな」
 丹波哲郎、彼がというのだ。
「人間の本性を見たってな」
「あの人軍隊で川上さんの部下でしたね」
「それで随分やられたらしいな」
「そうみたいですね」
「階級が上の人にはへらへらするが」
 それでもというのだ。
「下だとな」
「辛くあたるんですね」
「それで戦場では後ろから撃てと回覧が来た」
「そんな人ですね」
「そして戦争が終わったらあの時はああするしかなかったってな」
「丹波さんに謝ってたんですね」
「あちこち回ってた、頭はいいが」 
 しかしと言うのだった。
「そうした人だ」
「その川上さんが監督になったので」
「わしはもうか」
「巨人の監督には」
「そうだろうな、監督になりそうな人はな」
 巨人の中でそうした者はというのだ。
「これから次々にな」
「そうなりますね」
「ウォーリー君にベーやんにな」
 与那嶺に別所にというのだ。
「あと後々はタツもな」
「広岡さんもですか」
「ああ、どんどん何かされるぞ」
「それじゃあ千葉さんも」
「そうなるだろうな、それでそれならか」
「はい、うちの監督になってくれませんか」
 その者はカレーヲ食べつつ千葉に提案した。
「近鉄の」
「そっちのか」
「監督は監督ですし」
「そうか、しかしな」
 千葉はカツを食べつつ苦い顔で話した。
「正直近鉄さんはな」
「弱いですか」
「かなりな、わしは巨人にいる」 
 言うまでもなく何度も日本一になった強いチームである。 
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