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魔法絶唱シンフォギア・ウィザード ~歌と魔法が起こす奇跡~

作者:黒井福
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無印編
  第63話:希望を灯す大魔術

 
前書き
読んでくださりありがとうございます。 

 
 時は少し遡る。

「ぐ、うぅ……」

 二課本部最奥区画アビスにて、フィーネ・メデューサ・ヒュドラの3人に敗れた颯人。メデューサとヒュドラから特大の攻撃魔法を放たれた彼だが、彼はまだ生き延びていた。
 バニッシュストライクが放たれた瞬間、颯人はランドスタイルで壁を作ると即座にフォールの魔法で穴を作りその中に逃げ込んだのだ。お陰で致命傷は避けることが出来、ついでに自分の死を偽装する為にフレイム・ウィザードリングを放る事で3人からの追跡を逃れることが出来た。

 とは言えそれも完璧ではなく、それ以前に喰らっていたダメージに加えて完全に回避しきれなかった爆発のダメージで彼は満足に動く事さえ儘ならなかった。おまけに魔力もすっからかん。どうあっても戦える状態ではなくなってしまった。

 それでも彼はまだ戦う気だった。フィーネ達の気配が無くなったのを見計らい、穴から何とか這い出るとそのまま地べたを這いずってアビスから出ようとしていた。

「待ってろよ、奏…………今、くっ!? い、行くからな――――!」

 行って何が出来るかとは考えない。ネガティブな考えはとっくの昔に捨ててきた。例え千に一つ万に一つの可能性しかなくとも、そこに奏が居るのであれば彼に諦めると言う選択肢は無かった。

 そんな彼の前に、テレポート・ウィザードリングで転移してきたウィズが姿を現した。

「全く、お前と言う奴は……」

 ウィズは呆れと安堵が混じった溜め息を吐き、颯人を米俵の様に担ぐとアビスから出た。
 そして適当な所に連れていくと、彼を壁に寄りかからせた。

「い、つつ…………もうちょっと優しく扱ってくれても良いんじゃねぇか?」
「人の忠告を聞かずに先走った罰だ」
「仕方ねえだろうが。逃げ場無くなっちまったんだからよ」
「逃げる前に追うな。せめて私が来るのを待っていればこんな事にはならなかっただろうに」

 ウィズからの説教に顔を顰める颯人。尤も今顔を顰めるのは、説教にうんざりしたからだけでなく痛みによるものでもあるだろうが。

「説教は後にしてくれ。それよりウィズ、体力の回復と魔力を分けてくれねえか? 流石にこのままじゃちと辛い」

 先程はボロボロのままでも奏の所へ行こうとしていた颯人だったが、折角ウィズが来てくれたのだから彼に回復を頼む事にした。
 とは言え今の颯人は満身創痍。例え体力を回復させ魔力を分け与えられても、傷が癒えなければすぐにまた体力を消耗してしまうだろう。そうなっては例え奏達の元に駆けつけても直ぐにガス欠を起こしてしまう。

 颯人の状態を見てウィズは悩んだ。彼は一応今の颯人の状態を何とか出来る魔法を持っている。だがこれは切り札とも言える魔法だ。おいそれと使えないし何より魔力の消費が激しい。使えば今度はウィズが著しく魔力を損ねてしまう。

 しかし――――――

「…………可能性に賭けてみるか」
「え、何?」

 よく聞こえなかったウィズの呟きを颯人が聞き返すが、ウィズはそれには取り合わず颯人が見た事の無いウィザードリングを取り出し右手に嵌めた。
 変わったウィザードリングだ。右手に嵌めるタイプの装飾は琥珀色の魔法石ばかりなのだが、そのウィザードリングの装飾に使われている魔法石は赤い色をしていた。

 初めて見るウィザードリングに颯人が首を傾げていると、ウィズはハンドオーサーにその指輪を翳した。

〈ホープ、ナーウ〉

 ウィズが魔法を発動すると、颯人の真下に鮮やかな赤い魔法陣が広がり彼の体を光が包み込んだ。光は眩いが、温かくとても心地いい。それに何処か懐かしさを感じさせる光だった。

 颯人が光に包まれていたのは僅か数秒ほど。だが光が収まった時、颯人は己の身に起きた変化に驚愕していた。

「ん? えっ!? き、傷がッ!? それに魔力もッ!!」

 先程まで満身創痍だった体は戦う前と同じ状態に戻り、傷もなければ体力も魔力も万全の状態になっていたのである。

「お、おいなんだよそれ!?」

 こんな魔法は今まで見た事が無い。これがあれば助けられる命もあったのではないかと、颯人は抗議混じりに問い掛けた。

「……こいつは希望だ」
「希望?」
「そうだ。ありえない事を覆し、絶望を振り払う希望の魔法だ。だが扱いが非常に難しい。一歩間違えば不幸を撒き散らすかもしれない。だからおいそれと使えなかったんだ」

 颯人はウィズの手からそのウィザードリング――ホープ・ウィザードリングを借りしげしげと眺めた。
 こうして手に取って見ると分かる。確かにこのウィザードリングは他のとは違う。彼が今まで手にしてきたウィザードリングとは、根本的に違う力を感じていた。

 暫く眺めた後、颯人は指輪を一度握り締めその感触を確かめてから返した。ウィズは受け取った指輪を素早く懐に仕舞った。随分と大事にしている。

「あ! そう言えばあの新しい指輪、結局使えなかったんだけど?」

 別に使えなくても良かったが、それはそれこれはこれだ。使える指輪は多いに越した事は無い。

「あれはお前の魔力を更に引き出す指輪だ。私の見立てではお前はあの指輪を使える筈だぞ」
「じゃあ何で?」
「気持ちの問題だろ。気合が足りなかったんだ」
「え、気合の問題なの?」
「物の例えだ。本気で自分の中の魔力を掌握する気でやってみろ。私から言えるのはそれだけだ」

 そう言ってウィズは踵を返しその場を離れた。颯人もその後に続こうとしたがそれはウィズに止められる。

「お前は向こうへ行け。地下施設内に避難してきた者が居る。上の状況は私が調べておくから、その間お前は避難してきた者達の安全を確保しろ」

 言うだけ言ってウィズは足早にその場を離れていった。その様子に何か違和感を感じた颯人ではあったが、ウィズの言う事が確かなら逃げてきた人達を放ってはおけない。上でまだ戦ってるだろう奏達は気になるが、今は彼女達を信じ逃げてきた人達の安全を確保すべくその場を動いた。

 そうして颯人がその場を離れると、通路の陰で彼が離れるのを待っていたウィズがその場に崩れ落ちた。それだけに留まらず、変身が解除され本来の姿が露わになる。
 魔法使いとしての仮面の下に隠れていたのは、白いコートを纏った壮年の男性だった。彼は額に汗を浮かび上がらせ、座り込んで呼吸を整えている。

「はぁ、はぁ……全く、世話の焼ける奴だ」

 先程使ったホープの魔法によって、ウィズの魔力が底を尽きかけてしまったのだ。完全になくなった訳ではないので少し休めばまた変身できるだけの魔力は貯まるだろうが、これ以上の戦闘は不可能だろう。

 暫しウィズはその場で体を休め、魔力が少し回復したのを見計らって再び変身し魔法使いとしての仮面を被るとその場を移動した。
 その後彼は、同じように地下施設内を弦十郎達と移動し使える部屋を見つけたアルドと合流するのだった。

 一方颯人は、ウィズと別行動を取り地下に逃げ込んだ一般人達の捜索を行った。使い魔達を総動員して探すと、慎次が数人の避難民と行動を共にしているのを見つけた。

「よ! 緒川さん」
「あ!? 颯人君! 無事でしたか?」
「この通り、ピンピンよ! それより、その人達で全部?」

 慎次の後ろにはそれなりの数の避難してきたと思しき人々がいる。大人も何人か居るが、場所が場所だからかリディアンの学生服を着た少女が多く、それどころか小さい女の子迄居た。

 ちょっと不安そうな顔をしている少女に、颯人は手品でハンカチの下からクマのぬいぐるみを取り出し女の子にあげてみた。女の子は最初驚き、次に渡されたぬいぐるみに笑顔を浮かべる。

「わぁ! ありがとうお兄ちゃん!」

 お礼を言ってきた女の子に笑顔で手を振り、 慎次には真剣な目を向ける。

「えぇ、恐らくこれで全員でしょう。颯人君の方は?」
「こいつら使ってあちこち探したけど、この辺には他に居なさそうだ。んで、その人達何処連れていくの?」

 この状況下だ、下手な所へ連れて行っても危険なだけだろう。上に比べれば安全だろうが、地下でも戦闘があった事を考えると安易な所へ連れてはいけない。

「通信施設が生きている部屋を見つけたので、とりあえずはそこへ連れていきます。司令や、アルドさん達もそこに」
「ってことは、ウィズもそこに居るかもな。俺も一旦そっちに合流するか」

 颯人が慎次の後について行って応急司令室とも言える部屋へと入ると、お馴染みの司令部要員に加えてアルドとウィズ、そして未来の他数名のリディアンの制服を着た学生達が居た。
 部屋に入った颯人達に何人かは目を向けるが、室内の殆どの者、取り分け未来を始めとした学生達はそれどころではなさそうだ。1人――弓美はわんわんと泣いており、その泣いている弓美の前に居る未来も静かに涙を流している。

 颯人がチラリとディスプレイに目を向けると、そこでは奏達がジェネシスの魔法使いと戦闘している様子が見て取れた。だが見た所状況は芳しくなさそうだ。翼の姿は見えず、透は倒れたクリスに覆い被さりその背をヒュドラに滅多切りにされている。あまりに凄惨な光景に、創世と詩織は顔を青くしてディスプレイから目を背けている。

 そして今、ディスプレイの向こうで奏が魔法によって空間を繋げられた響の一撃に倒れ、その響もヒュドラの魔法により倒れてしまった。

「チッ!? あいつら、俺が居ないからって好き勝手しやがって――――!?」

 やりたい放題なジェネシスに颯人が怒りを感じすぐさま彼女らの救援に向かおうとする。

 その前に一緒に部屋に入ってきた少女が声を上げた。

「あっ! おかーさん、カッコいいお姉ちゃんだ!」

 少女が母親を離れ、朔也の座る席へと駆け寄っていった。母親は直ぐに少女の後を追い、朔也に頭を下げた。
 その際颯人はさり気無く一緒に移動し何気ない顔で朔也の周りに出来た人だかりの中に加わった。

「ビッキーの事、知ってるんですか?」
「えぇ……詳しくは言えませんが、うちの子はあの子に助けてもらったんです。自分の危険も顧みず、助けてくれたんです。きっと、他にもそう言う人が……」
「響の、人助け……」

 少女の母親の言葉を未来が噛み締めるように繰り返した。

 そう言えば、と颯人も思い出す。以前翼から聞いたことがある。響にとって人助けとは趣味の様なものであると。翼や奏はそんな響をどこか危なっかしく見ていたが……。

「ねぇ、カッコいいお姉ちゃん、助けられないの?」

 少女はディスプレイを見て、無垢な目で朔也に問い掛けた。こんな小さい子供ながら、上が危機的状況なのを理解したらしい。朔也だけでなく、室内に居る者達を心配そうな顔で見回した。

 この子の気持ちは分からないでもないが、しかしこの場にいる者達で出来る事は少ないと言わざるを得ない。颯人はそう思わずにはいられなかったし、未来もそれは同様の様だった。

「……助けようと思ってもどうしようもないんです。私達には、何も出来ないですし……」
「じゃあ、一緒に応援しよ! ねぇ、ここから話し掛けられないの?」
「ん? 応援…………ッ!!」

 少女が口にした応援と言う言葉を聞いた瞬間、颯人の脳裏に雷が落ちた。天啓と言ってもいい。

 以前クリスがネフシュタンの鎧を纏って現れた後、あの鎧の出自などを了子らに訊ねたことがある。あれが二年前、運命のライブ会場で実験を行った際に持ち出されたものであると。

 その際に行われた実験、この場に集まった者達、そしてシンフォギアとフォニックゲインの何たるか。

 颯人の中で次々とピースが組み合わさり、一つの絵を描き出す。

 条件は、揃った。

「あ、応援――――!」

 どうやら未来も同じような何かに思い当たったらしい。覇気を取り戻した顔で弦十郎の隣へと向かった。

「ここから響達に私達の声を、無事を報せるには、どうすればいいんですか?……響を助けたいんです!!」
「助ける?」
「ここって学校の地下だろ? 藤尭さん、校内の放送用スピーカーとかにアクセスする事は出来ないのか?」
「それは……出来るぞ! 学校の施設がまだ生きていれば、リンクしてここから声を送れるかもしれない!」
「よしッ!」
「何をすればいいんですか!」

 朔也の言葉に颯人はガッツポーズをし、未来は希望を見出した。そして未来は、響を助ける為自分に出来る事をすべく名乗りを上げた。

 名乗り出たのは未来だけではなかった。

「待って、ヒナッ!」
「止めても無駄だよ。私は響の為に――――」
「私もです」
「え――――?」
「あたしも、あたしにも手伝わせてッ! こんな時、大好きなアニメなら、友達の為に出来る事をやるんだ!!」

 創世に続き詩織が手を上げ、更には先程まで泣き続けていた弓美も気合の入った目で声を上げた。

 彼女らの決意と友情に、颯人は内心で称賛を送りつつ指をパチンと鳴らした。

「オーケー! それじゃ一つ、悪党退治の大魔術と行こうじゃないか!」
〈コネクト、プリーズ〉

 颯人は魔法で小型通信機を取り出し一つを自分の耳に装着すると、もう片方を未来に手渡した。颯人が使った魔法に弓美達は驚いているが今は無視だ。

「未来ちゃん、用意が出来たらこいつで知らせてくれ。俺はその間に上で色々準備するから」
「準備?」
「こう言うのは演出が大事なんだよ、演出がね。その方が皆気合が入るだろ?」

 そう言って颯人はウィンクし、部屋を後にした。目指すは地上、奏達が戦っているカ・ディンギルの真下だ。

 地上に出た颯人は、ジェネシスの連中の目に見つからないようにスモールの魔法とブルーユニコーンを使って演出の為の準備を整えていく。

 その間、奏は颯人が生きている事に気付き大笑いしてメデューサ達を馬鹿にしている。良い感じに連中の気を引いてくれているようだ。お陰で準備がスムーズに出来た。

「あぁ、そっかそっか。お前演出に拘るもんな。オーケーオーケー。それじゃ今回はアタシが一丁やってやるよ!」

 準備が粗方完了した時、奏がそんな事を口にした。その言葉に颯人は噴き出すのを堪えるのに必死だった。流石奏だ。良く分かっている。

――こいつは応え甲斐がありそうだぜ!――

 颯人は奏の演出を待った。
 そして――――――

1(ワン)!……2(ツー)!……3(スリー)!」

 奏が3秒数え、最後に指をパチンと鳴らした。それを合図に、颯人は仕掛けを動かし彼の周囲で花火が弾け派手な音と火花が辺りを包んだ。

 煙と紙吹雪の中をゆっくりと歩み出た颯人の姿に、奏と響は嬉しそうな顔をしている。

「ったく、遅いんだよ!」
「良かった、本当に――――!」

「「颯人(さん)!!」」

 2人の声に颯人はウィンクを返しながら帽子のツバを人差し指で押し上げる。

 その一方で、メデューサは現れた颯人に驚きを隠せなかった。

「な、何だとッ!? 貴様、生きていたのかッ!?」
「ふっふ~ん! どうよ俺の脱出マジックは? 思わず本気で死んだと思っただろ?」
〈テレポート、プリーズ〉

 メデューサを口先で揶揄いながら、颯人は魔法で奏達の傍に移動した。彼の出現に完全に調子を狂わされたメデューサ達は、彼の姿を忌々し気に睨んだ。

「ケッ! 死にぞこないが、随分と余裕ぶっこいてんな?」
「そりゃ余裕だからな。何しろここからは俺のステージだ」
「何?」

 颯人の言葉にフィーネが怪訝な顔をする。

 同時に、颯人が耳に装着している小型通信機に未来の声が響く。

『颯人さん、こっちの準備は出来ました!』

 通信機から聞こえた声に颯人は笑みを深め、チロリアンハットを被り直すと両手を広げて声を上げた。

「レディース、アーンド、ジェントルメーン! 長らくお待たせしました! 今宵行う大魔術! 奇跡の手品師の息子、明星 颯人のマジックショーの開幕だ!!」

 今この瞬間、颯人が立っているのは戦場のど真ん中ではなく大舞台の上だった。そこは彼が世界で最も輝ける場所。そこに立った時、彼は万能感に包まれどんな不可能も可能にできる気になる。いや、気になるではない。出来るのだ。

「強大な力に敗れ、心折られそうになった戦乙女達。その彼女達に、今から奇跡で新たな力を授け、蔓延る悪を見事打倒してみせようじゃないか! ここから先は瞬き禁止! 刮目せよ!」

 三本の指を立てた右手を上げ、颯人は声高らかに告げた。

3(スリー)!」

 地下の未来たちはそれが合図だと分かった。だから待った。その瞬間を。

2(ツー)!」

 フィーネ達は何が起こるのかと警戒した。あの颯人の事だ。無意味な事はしないと、いい加減分かった。

1(ワン)!!」

 奏は信じていた。颯人なら、きっと彼女ですら驚く何かをやってくれると。そしてそれが、この場での勝利に繋がるものであると。

 そして最後に颯人が指を鳴らした。

 その瞬間、周囲の壊れていないスピーカーが一斉に起動し歌が流れだした。突然流れ出した歌に、フィーネは顔を顰めた。

「チッ、耳障りなッ! 何が聞こえているッ!?」
「歌? まさかこれが奇跡だとでもいうつもりか?」

 フィーネが忌々し気に周囲を見回し、メデューサが颯人に侮蔑の籠った目を向ける。特にメデューサとヒュドラにとっては、意味のない事にしか思えなかったのだ。

 だが響達には違った。彼女達は、この歌に込められた願い、熱意を確かに感じ取っていた。それは心だけでなく、彼女達が纏う鎧にも力を与えた。

「チッ!? 何処から聞こえてくる? この不快な、歌…………歌、だと――!?」
「あん? 歌がどうした?」

 メデューサの何気ない発言に、聞こえてきたのが歌だと気付いたフィーネが戦慄しだした。こんな歌で慌てる理由が分からずヒュドラは首を傾げる。

 彼ら魔法使いに分からないのは当然だ。彼らはシンフォギアがどういう物かを知らない。精々がノイズと戦う事が出来る、歌で戦う鎧程度の認識しかないのだ。

 だから、次の瞬間起こった出来事に困惑するしかなかった。

 歌と共に無数の黄色い小さな光の粒子が空へと昇っていく。その幻想的な光景に、メデューサとヒュドラは驚愕を隠せない。

 一方で、颯人はその光景に満足そうな笑みを浮かべ奏と響に目を向けた。気付けば2人はしっかりと両脚で地面を踏みしめ立ち上がり、その顔には希望が満ちている。

「奏さん……聞こえますか。みんなの声が――――!!」
「あぁ、聞こえてるよ。みんなの歌が…………アタシ達を支える心が!!」

 奏と響が拳を握る。希望を胸に宿した2人に、光が集う。

 光は願い――

 願いは歌に――

 歌は力――

 力は希望――

 希望は、奇跡を巻き起こす!

「みんなが唄ってるんだ。だから、まだ唄える!!」
「アタシ達はまだ終わってない! みんながアタシ達を信じてくれてる! それならまだ――」

「「戦える!!」」

 集った光が力となって溢れ出し、フィーネを、メデューサを、ヒュドラを吹き飛ばした。

「くぅっ!?」
「なっ!?」
「うおっ!?」

 思わず後退りながら顔を手で覆うフィーネ達。その一方で颯人と、同じように力が溢れるクリスに覆い被さっていた透はその場から微動だにしていなかった。透はクリスに支えられながらもその場に立っている。

 メデューサ達は訳が分からなかった。装者達は今の今まで死に体だった筈だ。少なくとも、立ち上がれたとしても弱々しい筈だ。
 だがあの様子はどうだ。今の奏と響、そしてクリスには弱さなど微塵も感じられない。見ればカ・ディンギルの天辺からも光が立ち上っている。そこに誰が居るかなど考えるまでも無い。

「何だ、これは? 何が起こっている――!?」
「おいフィーネ!? ありゃ一体何なんだ!?」
「私に聞くな!? 誰よりも私が一番知りたい!? まだ戦えるだと? 何を支えに立ち上がる? 鳴り渡る不快な歌の仕業か? そうだ、お前達が纏っているものは何だ? 心は折り砕ける寸前だった筈!? お前の仕業か、明星 颯人ッ!? こいつらが立ち上がったのは何故だ? こいつらは何を纏っている? それは私が作った物か? お前達が纏うそれは一体何だッ!? 何なのだぁぁぁッ!?」

 朝日が昇り、戦場を日の光が照らす。その戦場から立ち上る4色の光の柱。

 崩壊したカ・ディンギルの頂点に、青い光に包まれた翼。透の傍には、彼を支えるクリスが赤い光に包まれている。そして颯人の後ろに立つ奏と響からは、黄色と燈色の光が溢れている。

 光が限界まで輝き、弾けた瞬間4人の戦姫が空へと飛び立つ。

「シンフォギアァァァァァァァッ!!」

 朝日を背に、色鮮やかに光り輝く羽を広げる4人の戦姫。

 彼女らの雄姿に颯人は、何時の間にか近くに来ていた透と共に笑顔を浮かべた。
 そして颯人は、徐に懐から一つの指輪を取り出した。

「さぁ、クライマックスはこれからだ!」

 取り出したのは、アビスでは使えなかった指輪。だが今なら使える、そんな気がする。理屈ではない、心がそう確信しているのだ。

〈シャバドゥビタッチ、ヘンシーン! シャバドゥビタッチ、ヘンシーン!〉
「変身!」

 颯人はその指輪――フレイムドラゴン・ウィザードリングを嵌めた左手をハンドオーサーに翳す。すると今度はハンドオーサーが確かな反応を返した。

〈フレイム、ドラゴン。ボー、ボー、ボーボーボー!〉

 普段と同じプロセスで変身する颯人だったが、彼を包む魔法陣の放つ炎は何時もより激しい印象を受ける。

 そして魔法陣が彼を包んだ瞬間、彼の意識は闇に閉ざされた。

 突然黒一色となった視界。しかし颯人の心に困惑は無かった。ここがどこで、目の前に何が現れるのかを察していたからだ。

 彼の目の前に現れたのは一体のドラゴン。白銀の体を持つ、雄々しい体のドラゴンだった。
 颯人の前に降り立ったドラゴンは、その力強い双眸で颯人を見据える。それはまるで獲物を品定めしているかのようであった。

 そんな視線を受けて、颯人はドラゴンに対し挑発的な視線を返した。

「――――来いよ。今の俺は絶好調だ。お前を絶対満足させてやれるぜ」

 その言葉を理解したのかは分からない。だがドラゴンは一声鳴くと、勢いよく彼の体に飛び込んだ。

 次の瞬間、視界が元に戻り彼の前にフィーネ達が映る。

 同時に変身が完了した。その姿はいつものフレイムスタイルとは異なっていた。

 普段は黒一色のコートが赤く染まり、鎧の形状も変化した。そして頭部には、ドラゴンのそれを彷彿とさせる二本の角が加わった。

 それこそがウィザードの新たな力、フレイムドラゴンであった。奏達4人の戦姫と朝日を背に、新たな力を会得した颯人が炎の中に佇んでいた。 
 

 
後書き
と言う訳で第63話でした。

ここでまさかのホープの指輪の登場です。この指輪、効果がイマイチ分からないんですが小説版でコヨミが存在と引き換えに死に掛けの晴人を救っているので、使い方によってはゲームで言うところのエリクサー的な使い方が出来るのではと考え颯人復帰の為の仕様となりました。勿論これでホープの出番は終わりません。この指輪が真価を発揮するのは最終決戦後です。
何に使うのかは…………勘の鋭い方は察しがついているかもしれません。

そして奏達がエクスドライブすると同時に、颯人もフレイムドラゴン解禁です。次回は透にも特別な力を用意していますので、お楽しみに。

次回もよろしくお願いします。それでは。 
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