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歪んだ世界の中で

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第二話 二人のはじまりその十

 真人は希望が答えるより先にだ。彼に言ったのだった。
「楽しまれて下さい」
「あの娘と一緒にいる時間を」
「ずっと。この一学期の間」
 希望がどうだったのかを。知っているからこその言葉だった。
「辛かったですよね」
「うん・・・・・・」
 その通りだとだ。希望も辛い顔になって答えた。
 そしてだ。こう述べたのである。
「本当にね。何処にいてもね」
「居場所がなくてですね」
「白い目で見られて罵られてでしたから」
「ですから。今はです」
「楽しめばいいんだね」
「はい、とても」
 そうすればいいというのだ。
「心からそうしてきて下さい」
「わかったよ。それじゃあね」
「心に受けた傷は身体に受けた傷よりも辛いものです」
 真人はこのことも希望に話した。ここでは悲しい目になって。
「そして残るものですから」
「心に残るんだね」
「それだけ心に受ける傷は辛いものですから」
「言われてみれば確かに」
「上城君もそうでしたね」
「この一学期のことは全て忘れたことはないよ」
 一度も、一瞬もだというのだ。
「忘れられないよ」
「忘れることは難しいです。それでもです」
「それでもだね」
「はい、癒していけばいいです」
「すぐには無理かな」
「すぐには無理でもです」
 それでもだとだ。真人は希望のその辛い顔も受け止めてだ。
 そうしてだ。彼に話すのだった。
「それを少しずつでもです」
「癒していけばいいんだね」
「そうです」
「少しずつでもいいんだ」
「身体に受けた傷は癒せますね」
「うん、そうだね」
 骨折でも打ち身でも断裂でもだ。それはできた。
 そしてだ。それと同じくだというのだった。
「じゃあ心に受けた傷も」
「癒せますから」
「本当に少しずつでもです」
 心に受けた傷をだ。それをだというのだ。
「どうか。それで」
「あの娘と一緒にいて」
「僕が今こんな有様ですから」
 事故で入院して動けない。だからだというのだ。
「是非その方と」
「うん、じゃあ」
「それにです。実は僕もですから」
「上城君もって?」
「僕も上城君といて楽しいんです」
 彼自身のことをだ。真人は話したのだった。
「僕にしてもなんです」
「そうなの?」
「意外ですか?」
「僕みたいな人間と一緒にいても何にもならないんじゃないかな」
「そう思われますか」
「うん、僕はね」
 自分では真人の厄介、お荷物、そうしたものになっていると思っていた。
 だがそうではないと言われてだ。希望は戸惑いながら言うのだった。
「だって。運動神経はないし勉強もできないし」
「だからですか」
「外見だってこんなのだから」
 太っていて風采の冴えないだ。その外見を自分で振り返って述べたのである。 
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