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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第99話『予選⑤』

第1の関門を乗り越え、意気揚々に前進する晴登は、ついに分かれ道の終着点へと辿り着いた。そこでは3つの道が1つの道へと収束しており、他の選手がそれぞれの道から続々とやって来ている。
ただいまの順位はちょうど70位。といっても、若干下降気味だ。このままだと、また3桁の順位に戻ってしまう。

どうしたものかと、そう晴登が考えながら走っていると、左の道から見知った人物が合流点して来るのを発見した。


「あ、猿飛さん!」

「三浦君? へぇ、凄いじゃない、こんな順位だなんて」


その正体は、チーム【花鳥風月】の猿飛 風香だった。彼女はあまり息を切らさず、余裕の表情をしている。
しかし、その言葉通り驚いてもいた。何せ晴登は中学生。周りが大人だらけの中で、70位まで上り詰めていること自体が凄いことなのだ。


「いえ、分かれ道様々ですよ。これがなかったら今頃最下位でした……」

「……なるほど、やっぱりそういう仕掛けだったのね」

「え?」


晴登の言葉を聞いて、風香が独りでに頷く。一体何に納得したのだろうか。
するとそんな晴登の気を察してか、彼女は言葉を続けた。


「三浦君の通った道は"当たり"だったということよ。逆に、私の通ってきた道は"ハズレ"。だって順位を50位も落としたもの」

「ごじゅっ……!?」


さも当たり前かのように、風香は淡々と言った。だがこれには驚く他ない。
今の順位が大体70位だから、風香は分かれ道の前まで20位くらいだったということになる。彼女はまだ高校生で、大人という訳ではないはずなのに、そんな実力を秘めていたというのか。晴登とは大違いである。


「そういう訳だから、私は急がなくちゃいけないの。残念だけど、ここでお別れね」

「あ……!」


そう言うや否や、風香はスピードを上げる。
スタートの時は見れなかったが、その彼女の加速には目覚しいものがあった。音もなく、まるで突然追い風に吹かれたかのように一瞬で前へと進み出る。

また、引き離されてしまうのか。晴登がそう思った時だった。


「あれ、この感じ……」


ここであることに気づく。これは晴登が魔術師としての経験を多少なりとも得て、一人前に近づいているからこそ、気づけたことだ。それすなわち、


「猿飛さんの魔術って風属性……?」


風がいきなり彼女の味方をするかのような加速。ただの脚力強化という可能性もあったが、間違いなく風が操作されていたとわかった。
もし彼女が本当に風属性の魔術師ならば、晴登が黙って見逃す理由はない。その技術を、技量をこの目で見て、学びたいからだ。あわよくば、彼女を師匠にでも──


「なら、是が非でもついて行かなきゃ!」


晴登はそう心に決め、強引にスピードを上げるのだった。







「とりあえず上を目指して進んではいるが……あんまり進展はないな」


そうため息混じりに呟くのは伸太郎。彼は独りで迷宮の中をさ迷っている。
ちなみに、上を目指している、というのは、ゴールが地上にあると考えられるからだ。とはいえ、そんなことは誰だって思いつく範疇なので、もしかすると違う可能性もある。しかし、今はそれを当てにせざるを得なかった。


「近道はまだ見つからねぇのか……」


競技開始から10分は経っただろうか。
この迷路は山全体に広がっていてかなりの規模だと思うが、そろそろゴールした人が出てきてもおかしくない気がする。未だに誰とも遭遇しないし、とても不安だ。


「あ〜くそっ、同じような景色ばっかでゲシュタルト崩壊しそうだ」


右も左も前も後ろも全く同じ景色が広がり、頭の中できちんとマッピングしてなかったら、今頃同じ道をグルグルと回っていたに違いない。地下ゆえの暗さや閉塞感も、方向感覚を狂わせる要因だろう。
迷う前に、少しでも進展したいところだが──


「ん?」


そんな時、ある十字路で伸太郎は立ち止まる。
ちょうど前方、行き止まりになっているようだが、その壁に不自然にも松明が2本掲げられていたのだ。目を凝らして見れば、その下に何か台のような物が見える。


「まさか……」


行き止まりだというのに、伸太郎の足は迷うことなくそこに向かっていった。
ここに来て新たなパターン。それすなわち、


「これが近道の鍵ってことか」


眼前、土でできた四角い台の上に、立方体の石のキューブが乗っていた。パッと見は何かはわからなかったが、光にかざしてよく見てみると、キューブには一面を9つに分けるように線が引いてあり、分けられた部分のそれぞれに模様が付いている。


「これ、もしかしてルービックキューブか?」


ルール説明では、「近道を進むには知力が必要」とあった。それすなわち、近道の鍵として何かしらの問題やパズルが用意されていると考えるのが妥当だろうが、どうやらその通りだったらしい。

目の前にあるこの物体は、色の代わりに模様で区分されていることを除けば、まさしくルービックキューブだ。見たところ、どの面も揃ってはおらず、シャッフル済みである。


「つまり、これを揃えりゃ近道に進めるってことか」


そう零しながら、伸太郎は密かに口角を上げる。そしてキューブの全ての面に一通り目を通すと、早速カチャカチャと動かし始めた。

素人がルービックキューブを6面とも揃えるとなれば、難しいし時間もかかるだろう。よって、この近道を通ることは現実的ではない。しかし、


「……ま、こんなもんか」


動かし始めてから僅か15秒。ピタッと彼が手の動きを止めた時、模様が綺麗に揃ったキューブが台には置かれていた。
すると、それが鍵となったかのように目の前の壁が突然音を立てて上がり出す。そして、先へ進む通路が姿を現した。


「こちとら伊達にぼっちやってねぇんだよ」


伸太郎のパズル歴を侮るなかれ。彼は物心ついた頃から、あらゆるパズルに触れてきていたのだ。
コミュ障ゆえに現実の友達はほとんどいなかったが、もはやパズルが親友だったと言っても過言ではない。それほどまでに、彼のパズル技術は卓越したものであった。


「やっぱりワンチャンあるんじゃねぇの?」


伸太郎は上機嫌のまま、近道へと足を踏み入れる。これがどれくらいのアドバンテージになるかはわからないが、上位を取れる自信は不思議と湧いてきた。


鼻歌混じりに先へ進む伸太郎の背後で、壁が再び閉じられるのだった。







「灼き尽くせっ!」


緋翼が焔を纏った刀を振るうと、狼型のモンスターがバタリと地に伏せる。同時に、4Ptを獲得した。
これで今の所持ポイントの合計は12Pt、順位は64位だ。妥当ではあるが、当然納得はできない。


「もっと強いモンスターを狩らないと……」


この狼型のモンスターは一撃で仕留められた。ならば、まだまだ上は目指せる。10Ptのモンスターはさすがに厳しいかもしれないが、6、7Ptのモンスターまでは頑張って挑みたいところ。もっとも、一度倒すまではポイントはわからないのだが。


「でも、地道に稼ぐのも怠らないっ!」

『ギェッ!』


背後、緋翼の不意をついて襲ってきた猿型のモンスターを無慈悲に灼き払う。ポイントは3Pt。物足りない気もするが、今は良しとしたい。
強敵を倒して稼ぐのも良いが、こうして一撃で片付くモンスターばかりを狙うのも1つの作戦だろう。どちらの方が効率が良いのかわからないが、少なくとも緋翼の作戦は、


「両方狙うに決まってるじゃないの!」


強敵も倒し、弱敵も倒す。もはや強欲に、貪欲にポイントを稼ぐしか勝ち目はない。2Ptのモンスターだって、5体倒せば10Ptと同義。それならば、強弱に拘らず手当り次第に狩っていけばいいだけのこと。

……これが最後の大会なのだから、妥協はしたくないのだ。

予選を突破することは、何も終夜だけの願いではない。初めてこの大会を目にした時から、緋翼だって本戦に出てみたいとずっと思っていた。
これには想い出になるからという理由もあるが、何より一番の理由は彼女自身が負けず嫌いだからだ。予選で敗北するなんて性にあわない。


「絶対に勝ち残ってやるんだから」


──しかし、緋翼が決意を固めていた、その瞬間だった。



『ブルァッ!!』

「なにっ……きゃあっ!?」


突如として茂みから現れた猪型のモンスターに、緋翼は弾き飛ばされた。
ちなみに猪型とは言っても、その大きさは緋翼の身長を超えるほどの巨大猪だ。当然、その突進の威力は馬鹿にならない。
緋翼は咄嗟に刀でガードしていたとはいえ、衝撃までは抑えられなかった。


「あっぶな……何よこいつ……」


地面で受け身をとりながら、緋翼がそう零す。まるで車にでも轢かれた気分だが、幸い怪我には至っていない。まだ動ける。


「ようやく歯応えがありそうな奴が出てきた訳ね」


見ただけでわかる。このモンスターは今までの雑魚とは訳が違う。ポイントで言えば、恐らく7、8Ptくらいか。挑みたいギリギリライン。


「なら、やるしかないじゃない」


安全策でいくのであればここは退くのが妥当だが、今回取るのは強硬策。すなわち多少の無理は許容範囲なのだ。

緋翼は刀を構え、モンスターと対峙する。
このモンスターは、緋翼が焔を使うと知っていながら襲ってくるほどの胆力の持ち主だ。侮ることはできない。少しでも隙を晒せば、やられるのはこちら側だ。ここは慎重に──


「ってなる訳ないでしょ! "紅蓮斬"っ!」


緋翼は刀を振り払い、焔の斬撃を飛ばす。それは空気を焦がしながら、一直線にモンスターの元へと向かっていった。
ただでさえ時間が限られているのだ。慎重に戦ってなんていられるものか。そう思って放ったのだが、


『ブルゥ!』

「弾かれた!?」


どうやらこのモンスターは一筋縄ではいかないらしく、なんと緋翼の十八番を象牙のような牙で軽々と防いだのだった。

そして、今度はこちらの番だと言わんばかりに、猛スピードで緋翼へ突進してくる。


「やばっ!?」


それを見て、緋翼は咄嗟に横へと飛び込む。その直後、彼女の数cm横をモンスターは通り過ぎていった。
まさに間一髪。さすがに突然曲がることはできないらしく、モンスターは木の幹へとぶつかってようやく止まる。──木の幹はへし折れた。


「あんなのまともに喰らったら、普通に死ぬわよ……」


今の突進を見て察してしまった。奴の最初の突進は全力ではなかったのだ。恐らく、奴からすればちょっと小突いた程度ではなかろうか。でなければ、刀でガードしただけで無傷なんてありえない。


「これは、想像以上にヤバいかも……」


全身から血の気が引いていくのを感じながらも、緋翼は再び刀を構える。

ヤバいとわかっていても、ここで逃げる訳にはいかない。いや、逃げたくないのだ。負けず嫌いの血も騒ぐし、逃げたと知られたら、後で"あいつ"に何を言われるかわかったもんじゃないから。


『ブルゥ……』


木にぶつかったダメージなんて瑣末なものだと、何事もなかったかのようにゆっくりとモンスターは緋翼の方を向く。もう一度突進する気なのだろう。何度も地面を踏み鳴らしている。──好都合だ。


『ブルァ!!』

「この一撃で沈めてあげるわ」


モンスターが突進してくるのを見てから、緋翼は左足を後ろに下げ、刀を横向きに構え直す。
"紅蓮斬"が弾かれた以上、並大抵の攻撃では歯が立たないだろう。それならば、"この技"を使うしかない。突っ込んでくる相手の勢いを利用して斬るカウンター技。その名も、



「──"不知火(しらぬい)(がえ)し"」



『ブァッ……!?』


モンスターの突進を、今度は僅かな動作で右に避け、通り過ぎ様に焔の刀を素早く横に振り抜く。

直後、モンスターは先程の様に木にぶつかるよりも前に、音を立てながらその巨体を地面に倒れ伏せた。


「……ふぅ、上手くいったみたいね」


緋翼は額の汗を拭いながら、刀を下ろす。
腕輪を確認すると、『+7Pt』と表示されていた。うん、ちゃんと討伐できている。しかも予想通りの得点だ。これはおいしい。


「あ〜もうヒヤヒヤした〜!」


そうとわかった瞬間、緊張の糸が切れた緋翼は地面にへたり込んだ。

"不知火返し"とは、緋翼が唯一使えるカウンター技で、『突っ込んでくる相手限定』という、時と場合を選ぶ微妙な使い勝手をしている。
とはいえ、その威力は相手の突進の速さや勢いに比例して何倍にも膨れ上がるため、相手によっては緋翼の技の中で最高火力となりうる代物だ。

だがしかし、もしタイミングを違えれば、相手の攻撃に直撃することになるという一か八かの大技でもある。
今回は上手くいったが、いつも上手くいくとは限らない。だから正直、この猪とはもうやり合いたくな──



『ブルル……』


「えっ」


そんな緋翼の元に、新手のモンスターが現れた。それは猪の様な見た目をしており、鼻を鳴らしながら、真っ直ぐに緋翼を見据えている。──まるで、今にも突進しそうな雰囲気で。


「この、"不知火返し"ぃぃぃ!!」


こうして緋翼は、若干泣き目になりながらも、再び刀を振るうのだった。
 
 

 
後書き
今回は結月パートはありません! 許してくだせぇ! どうも、波羅月です。
いや、だって"射的"は競技時間が一番短いんですよ。そりゃ出番も少なくなりますって。
ちなみに、一番長いのは"競走"です。つまり、晴登オンリーの回もあるかもしれないという訳ですね。う〜ん、間のもたせ方が難しそうですね!(清々しい笑顔)

今回は、伸太郎も緋翼も隠れた力を発揮するという、かっこいい展開を踏襲した訳ですが、やっぱこういうのいいですよね。自分は好きです。

はい、唐突な自分語りをしている暇があるなら、次を書き始めろって話ですよね、すいません。今から書きます。是非とも今年中にもう1話は更新してやりたい所存です。
それでは今回も読んで頂き、ありがとうございました! 次回もお楽しみに! では! 
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