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岩魚法師

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第二章

 その僧侶が村人達に言ってきた。
「一つお話があって参上しました」
「と、いいますと」
「どういったお話でしょうか」
「一体」
「これから川に毒を流して漁をされますね」
 僧侶は村人達に問うた。
「毒流しを」
「ええ、そうします」
「今から」
「それで川のものを獲って食います」
「そうします」
「それはよくないです」
 僧侶は村人達に必死の顔で言った。
「どうも」
「といいますと」
「どうしてですか?」
「それは駄目とは」
「またどうして」
「普通の漁なら獲られた魚や蟹だけが死にます」
 僧侶は滔々とした口調で話した。
「そうなります、ですが」
「それでもですか」
「毒流しは違う」
「そう言われますか」
「川の者を全部殺します」
 そうするというのだ。
「よくありません、無駄な殺生になります」
「いえ、死んだ生きものは全部食います」
「そうしますから」
「問題ないです」
「無駄な殺生ではないですか」
「いえ、食わない魚や蟹も出て」
 そしてというのだ。
「そうした命はどうなるか」
「そう言いましても」
「わし等も食わないといけません」
「どうしても」
「ですから」
 それ故にというのだ。
「ここはです」
「そうします」
「そうせずにはいられないです」
「よかったら」
 ある村人がここでだった。
 僧侶に団子を差し出した、そうして言うのだった。
「これを」
「団子ですか」
「はい、召し上がって下さい」
 これをやるから帰れというのだ。
「どうぞ」
「そうですか」
 僧侶は団子を無理に渡されたがまだ何か言いたそうだった、だがもう村人達に言っても仕方ないと思ったか。
 項垂れて帰った、村人達はその後姿を見てひそひそと話した。
「怪しいな」
「どうもな」
「見たことのない坊さんだし」
「この近くの寺にあんな坊さんいるか?」
「いないな」
「随分変わった顔だから一目見たら覚えるが」
 その左右に離れた目と尖った小さな口の顔のことも話した。
「まるで魚だからな」
「あんな顔忘れられんぞ」
「しかし近くの寺にあんな顔の坊さんはいない」
「そうだな」
「一体どんな坊さんだ」
「怪しいな」
「ここはだ」
 村人の一人がここで言った。
「後をつけてみるか」
「それがいいな」
「一体どの寺の坊さんか」
「見に行くか」 
 こう話して村人達のうち二人が僧侶の後をつけてどういった者か確かめに行った、僧侶は山の中を歩いていったが。
 不意に毒を入れることになっている淵のところで姿が消えた、このことに後をつけていた村人達は驚いた。
「何処に行った?」
「何処に行ったんだ」
「不意に消えたぞ」
「急にいなくなったぞ」
「何処に行ったというんだ」 
 村に帰ってこのことを話しても誰もが不思議がった、だが毒を流すことは決まっていたので次の日僧侶が消えた淵に毒を流した。
 そうして漁をして魚や蟹達を獲ったがその中に。
 一匹の岩魚がいた、その岩魚を見て村人達は驚いた。
「物凄い大きさだな」
「こんな大きな岩魚いないぞ」
「物凄い大きさだな」
「どんでもないな」
 毒により死んだ魚達の中にいるその岩魚を見て喜んだ、だが岩魚の美味さを知っているのでそれで彼等はすぐにこう言い出した。 
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