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拾った犬は

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第三章

 その人が自分から名乗った。
「岡本紅葉といいます」
「岡本さんですか」
「三丁目の人らしいわ」 
 母が明菜に言ってきた。
「何でもね」
「お隣さんが犬の里親募集をしていまして」
「お母さんが連絡したね」
 母も言ってきた。
「そのつてでね」
「パグの子が来たと聞いてもしかと思って」
 岡本さんがまた言ってきた。
「お邪魔しましたら」
「岡本さんの犬だったのよ」
 母がまた話した。
「何でもね」
「サチといいます」
 犬の名前も言ってきた。
「首輪を取り換えようとしたら逃げて」
「それで、ですか」
「ずっと探していたんですが」
「公園で見つけたんですが」
「有り難うございます」
 これが返事だった。
「本当に」
「そうですか」
「はい、じゃあサチこっち来て」
「ワンッ」
 呼ばれるとだった、ユキコは。
 岡本さんの方に尻尾を振って駆けていった、岡本さんの返事とサチのその態度を見てもう明菜は受け入れた。
 それでだ、彼女を送り出した。その後で。
 娘は母にこう言った。
「行っちゃったね」
「ええ、そうね」
 母はこう娘に返した。
「よかったわね」
「そうね、けれどね」
「どうしたの?」
「お母さん結構あの娘可愛がってたわね」
 ユキコではなかったのでこう呼んだ。
「そうだったわね」
「当たり前でしょ」
 これが母の返事だった。
「それは」
「当然なの」
「命よ」
「だからなの」
「命だから」
 それ故にというのだ。
「大事にしないと駄目なのよ」
「それでお風呂にも入れてあげて」
「ご飯もあげていたわ」
 勿論お水もだ。
「それでお散歩にもね」
「ペットは嫌いなのに」
「先に死なれるからよ」
 母は娘に顔を曇らせて話した。
「だからよ」
「ペットは嫌いなの」
「そうよ、お母さんより先に死なれることはね」
 このことはというのだ。
「嫌なのよ」
「そうなの」
「だからね」
 母は娘にさらに話した。
「そうじゃないとね」
「いいのね」
「そう、だから」
 それでというのだ。
「あの娘も大事にしたつもりよ」
「生きものは嫌いじゃないのね」
「そうよ」
 これが母の返事だった。 
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