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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第98話『予選④』

分かれ道から1つのルートを選び、森の中を駆ける晴登。ただいまの順位はほぼ最下位なので、この先のギミックを如何に素早く突破するかが今の課題と言えよう。

そう思いながら走っていると、徐々に薄暗い森に光が差し込み始め、出口と思われる場所が見えた。

もしかすると、この先にギミックがあるのかも。自然と足に力が入る。


──しかし、その先に見た光景は、


「嘘だろ……」


森を抜けると、そこは少し開けた場所だった。ただし眼前、行く手を阻むのは巨大な岩の断崖。周りも全て囲まれている。
ここに来て、最悪のギミックだった。


「10m以上あるよな……」


崖の上を見上げながら、晴登は嘆息。周りを見渡すと、同じように狼狽える人々の姿が映る。どうやら、この道は"ハズレ"だったらしい。


「今から引き返すか……? でもそれだとタイムロスが……」


ルール上、引き返してはいけないということはないはず。ただ時間の無駄になるだけで。
しかし、その無駄が今回は運命の分かれ道となる。この崖を越えるが早いか、戻って別のルートを進むが早いか……その答えは誰にもわからない。


「でもこの高さはさすがに……」


いくら体育でロッククライミングを経験したとはいえ、人口の壁と自然の壁では勝手が違う。見る限り、登りやすそうな設計になっている訳でもなさそうだし。


「へっ、これくらい楽勝!」

「あっ!」


晴登が悩んでいると、前にいた男が壁面を登り始めた。やけにすいすい登る様子を見るに、恐らく魔術を使っているのだろう。
するとその男を筆頭に、次々と参加者たちが崖を登り始めてしまった。


「このままじゃ置いてかれる……!」


焦燥感を覚える晴登だが、かといってヤケになって登り切れる高さでもない。
せめて、飛ぶことさえできれば──


「待てよ、そういえば俺この前……」


その時、晴登の頭の中にある記憶が蘇る。
それは魔導祭のミーティングを行なった日、飛ぶことを練習していた時だ。結局あの時は飛べずじまいだったが、


「"跳ぶ"ことはできたよな……」


『自由に空を飛ぶ』という望みには程遠いが、それでも高く跳ぶ"だけ"ならできない話ではない。
目の前の崖は校舎よりも高そうだが、確かあの時はそれ以上に跳べたはず。


「ぶっつけ本番だけど、やるしかない……!」


晴登は少しだけ崖に近づき、上を見上げる。障害物は無し、まっすぐ上に跳んでも問題はなさそうだ。


「ふぅ……」


やると決めたら、即やらなければ時間はない。できない可能性は考えるな。
晴登は目を閉じて集中力を高め、足の裏に風を収束させる。そして空気を圧縮して──


「一気に、解き放つ!!」


その瞬間、地面を抉るほどの力で地面を蹴ったかと思うと、晴登の身体はロケットの如く宙へと打ち上がっていった。






舞台は変わって、広大な正方形の広場。ここではそこら中に不思議な水晶が浮かび、奇妙な景色を呈している。
そう、今からここで始まる競技は──


「準備はよろしいですか? それではいきましょう。制限時間は15分! "射的"スタートです!」


ジョーカーの高らかな宣言と共に、魔導師たちは一斉に魔術を放ち始める。この魔術を的という名の水晶に命中させることで、得点が貰えるからだ。


「はぁっ!」


当然、【日城中魔術部】代表の結月も氷片を水晶に向けて放っていた。
本来なら辺り一帯に放ちたいところだが、他の選手への攻撃は減点扱いされるようなので、大人しく水晶を狙っている次第だ。


「でもこれじゃ差が出ない……!」


いくらレベル5の魔術師とはいえ、結月はまだまだ未熟者。的を一つ一つ射抜くスピードは、他の魔術師とそう大差はない。

……やはり、ここは大技でまとめて狙うしかないのだろうか。しかし、それではどうしても他の人を巻き込んでしまう。何か良い案は──


「はっ……!」


その時、結月は上空を見上げた。そこには地上と同じくらい、多くの水晶が浮かんでいる。


「ここなら人がいない!」


結月は上に掌を向ける。
今まで目の前に意識をとられていたが、この競技は2次元ではなく3次元的な仕様だ。当然上方向を狙ってもよい。
空を飛べる人がいない訳ではないようだが、今結月の真上には誰もいない。


「今のうちに……!」


結月は掌に魔力を込めた。ひとまず、真上に位置する水晶を根こそぎ戴くことにする。


「吹き荒れろっ!」


そう叫び、結月は上空へ吹雪を放つのだった。







「思ったより暗いな」


魔導祭予選"迷宮(ラビリンス)にて、開幕早々伸太郎はそう呟いた。
というのも、舞台は洞窟の中なのだが、その暗闇を照らすのは己の持つ松明の微かな光のみ。おかげで3歩先はもう真っ暗だ。
ちなみにこの松明は洞窟の入口付近に設置してあった物で、恐らく参加者に支給されていると思われる。


「ま、俺には必要ないか」


しかし、伸太郎は光と炎を操る魔術師。松明の明かりを強くすることなど造作もない。
本当はいつもの目くらましの時みたいに、懐中電灯の様な使い方をしてもいいのだが、あれは意外と魔力を使うので、一瞬ならまだしも継続して使うのは避けたいところ。


「さて、近道は……」


松明の明かりを若干強めると、伸太郎は近道を探し求める。
というのも、この"迷宮(ラビリンス)"は普通に突破するのも良いが、近道が用意されているらしい。ただし、それには知力が必要とされる試練が伴うのだと。
しかし、それは伸太郎にとって好都合でしかない。頭を使うことに関しては、非凡な才能を持っていると自負できるほどに自信があるからだ。


「げ、分かれ道か……」


しかし、ここで迷路ゆえの障害に当たってしまう。もっとも、この展開は誰だって予想できる。問題は──


「どの道を選ぶか……てか、分かれ道多くね?」


今この通路は道路の幅くらいに広がっているのだが、何ということだろう。前、右、左と3つの分かれ道があるのは良いとして、そのどの道にも上と下に向かう階段が伴っているのは如何なものなのか。
つまるところ、分かれ道が計9本あるのである。


「まぁ100人以上がこの山の中にいるんだもんな……」


ただいま、この迷宮には100人以上の選手がいる。それだけいるのだから、道が多いのも道理と言えよう。未だに誰とも会わないのもそのせいだ。まるでアリの巣に迷い込んだ気分である。


「俺、外に出れんのかな……」


近道を見つけて即脱出するという野心を抱く一方で、このまま近道が見つからずに遭難してしまう未来を想起した伸太郎であった。







「あれがモンスター……」


茂みに隠れながら、目の前で蠢く生物を監視しながら緋翼は呟く。
その生物は地面を這いずり回り、地面に落ちた葉を見つけると、吸収するように食べていた。そんな粘液状で丸い生物の正体は──そう、それはスライムである。


「実際に見てみると、あんまり可愛くないわね。スライムって」


まるでマスコットかのような扱いを受けることが多いスライムだが、実際はピチャピチャと音を立てながら這うその姿に、愛らしさよりも気味悪さが勝ってしまう。何だか背筋がゾクゾクしてきた。


「さて、観察はここまでにして、そろそろ狩りましょうか」


今、緋翼は"組み手"の真っ最中。モンスターを倒すことが目的なのだ。
念のためにと観察をしていたが、モンスターとはいえ動物と同じように考えていいだろう。それに、モンスターと名が付く分、倒すことをあまり躊躇わないで済みそうだ。


「あんたは一体何点かしら、ね!」

『!?』


茂みからの不意打ちの焔。スライムはそれに驚いて逃げようとするも、時すでに遅し。緋翼の焔はスライムを包み、そして瞬く間に溶かしていった。


「スライムに物理攻撃は効かなそうだから魔術で攻撃してみたけど、成功したみたいね」


腕輪を見ると、『+1pt』と表示された。スライムは最弱キャラとはよく聞くが、やはり最低点だったようだ。
まだ周りに数匹見当たるが、これでは狙ってもあまり得をしないだろう。が、


「ま、倒すだけなら5秒もいらないし」


そう言うと、緋翼は目につくスライム全てに焔を灯す。当然、スライム達はなす術もなく倒されていった。結果は『+4pt』。
たかが4点、されど4点だ。もしこの差で予選落ちしようものなら、きっと後悔しか残らないだろう。中学生最後の大会なのだから、悔いのないように挑みたい。だから、


「あいつのためにも、頑張らないと」


今も部員の勝利を願っているであろう、あの憎たらしい少年を頭に思い浮かべ、緋翼は前進するのだった。






上空へと射出される晴登の身体。その勢いはまさに弾丸、言わば人間ミサイルであった。
全身に重力がかかり、空気抵抗が凄まじいが、なるべく身体を一直線にして堪える。


「……よし、届いた!」


次第に勢いが収まり、ふと身体が宙に浮いたような感覚を覚えたので、晴登は目を開けてみると、自分が崖よりも高い所にいることを確認できた。
あまりに一瞬の出来事で、正直実感は伴っていない。が、すぐさま着地の準備に入る。


「もう慣れたもんだけど、な!」


崖の上の地面から2mほどの高さだろうか。これくらいであれば、風を使って着地することは造作もない。晴登は問題なく着地した。


「ふぅ、結構ギリギリだったな」


崖の下を見下ろしながら一言。
今のジャンプには結構力を込めたのだが、それでも崖上2mだったのだ。もう少し力を抜いていれば、崖を登れずに落下していたところだった。やっぱり出し惜しみはするもんじゃない。


「さて、と」


今の晴登のジャンプに驚きながら崖を登る選手たちを尻目に、晴登は順位を確認する。崖を一瞬で登ったことはかなりのアドバンテージだ。少なくとも20位は上がったに違いない。


『63位』

「あれ……?」


ここで晴登の思考が一旦止まる。
おかしい、何かの見間違いだろうか。目を擦ってもう一度見てみる。


『65位』

「これは……」


何度見ても結果はほとんど変わらなかった。少し順位が下がっていただけで、やはり60位代だ。
つまり、崖を素早く登れたことで、順位を半分以上も上げたということになる。


「だとするとおかしいよな……」


というのも、分かれ道に入ってから晴登は『崖を登った』だけであって、あまり『先に進んだ』訳ではない。他のルートにも同じく崖があるならまだしも、そうではないなら順位がそこまで上がるはずがないのだ。


「まさか、実はこのルートは近道だったとか……?」


コースの長さが決まっている、という条件を除けば、この仮説は現実味がある。
……いや、もしかすると「全長15km」という言葉には、ルートごとの距離は含まれていなかったのかもしれない。そう考える方が自然だ。ということは、


「これってかなりのアドバンテージじゃね?」


『崖を登る』という障害こそあったが、恐らくこのルートは最も距離が短いルート。どうやら今回は正解を引き当てたらしい。


「なら、立ち止まってる暇はない。早く行かなきゃ」


まさに天恵。この機を逃す訳にはいかない。

晴登はすぐさま走りを再開し、次のチャンスを狙うのだった。 
 

 
後書き
下書きは終わっていたのに、清書するまでに1週間も費やしてしまいました、どうも波羅月です。

今回は短いですが内容盛り沢山、4人の視点でございます。と言っても、晴登以外は競技時間が圧倒的に短いので、必然的に書く内容も少なくなってしまうのですが。何でこんな不平等な設定なんですかね、誰ですか考えたのは←

まだまだ終わりの見えない予選回。これ本戦入るの来年になりそうで怖いです。そしてこの章が終わるのがきっと来年の夏休みくらいになるんだろうなぁ……(遠い目)

ええい、こうなったら大人になっても、完結するまで書き続けてやる!
ということで、今回も読んで頂き、ありがとうございました! 次回をお楽しみに! では! 
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