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SAO-銀ノ月-

作者:蓮夜
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第三十六話

 
前書き
気がついたらかなり更新が遅れていましたね、すいません。 

 
 第十九層に現れた隠しボス、《The Damascus》を、生きているモンスターからただのデータの羅列にしてやった後、俺たち《COLORS》はというと、「疲れた」という一部の全身真っ赤な人物を主導としての意見から、主街区には戻らず、このモンスター非出現エリアで野外キャンプを行うこととなった……まあ、たまには良いだろう。

「食った食った……」

「食べた食べた~」

 腹が一杯になったアリシャとクラウドの満面の笑みを見ていると、後片付けをしているこちらまで、ちょっとした笑みが伝染していた。

「……アリシャ」

 そこを、笑みなど知らないかと言うような仏頂面のヘルマンが近づいていった……いや、仏頂面なのはヘルマンにとってはいつものことだが、今回はいつにも増して、なんだか真剣な表情であった。

「……《索敵》スキルにプレイヤーが反応した。……反応はオレンジだ」

「え、ホント? ……うわ、ホントだ」

 ギルド《COLORS》のメンバーで、《索敵》スキルを上げているのはアリシャとクラウドのみであり、念のために《索敵》用のレーダーを見ていたクラウドが、遠くにいたオレンジ色の光点を発見したというわけだ。

 近くにいたヘルマンの《索敵》用のレーダーのようなものを覗き込むと、確かに少し離れているところで、オレンジプレイヤーを示すオレンジ色の光点が二つほど輝いていた。

 そしてその光点は、心なしか俺たちのキャンプ場に近づいて来ているようにも見える。

「どうする、アリシャ?」

「……《転移結晶》は前に使っちゃって少ししか残ってないし、逃げようにも辺りは森か崖だし……戦うしかないわね」

 俺たち商人ギルド《COLORS》とて、当然オレンジギルドとの戦闘経験は、豊富とは言わないがそれなりにはある。
アリシャの裁縫スキルによる糸があるために、オレンジプレイヤーを拿捕するのは意外と簡単なのだ。

 そんな俺たちには、今近づいて来ている、たかが二人程度のオレンジプレイヤーたちがどれだけ腕自慢であろうとも捕まえられる自信はあったため、アリシャの提案は最良だった。

 ――そう、その時はそう思っていた。

「うっし! それなら森の中とかで待ち伏せしようぜ!」

 森などのフィールドに入れば、隠蔽スキルを持っていないプレイヤーでも一時的には隠蔽スキルのようなものが働くというボーナスがあるにはあるが、クラウドの真っ赤な服はそれの許容範囲外であろう。
だが、クラウドはそんなことはつゆ知らず、普段はあまりやることがない待ち伏せという状況に、嬉々として木々が生い茂る森の方へと向かった。

 ――止めろ、行くな。

「……?」

 なんだかクラウドが向かおうとしている林に違和感を感じ、近くにいるヘルマンの索敵用レーザーを覗き見るが、違和感を感じた場所には何の反応も示されない。

 気のせいか、と自身の違和感に当たりをつけて、自身もどこか待ち伏せに有効な場所を捜そうと辺りを見回し始め……

 ――ダメだ、気のせいじゃない。

 ……突然違和感のあった場所から、今までに感じたこともない殺気が噴出されたことに、俺のシステム外スキル《気配探知》は鋭敏に捉えた。

「止まれクラウド!」

 ――呼ぶな!

 その鋭い殺気からは、何だか嫌な予感がしたために、違和感がある場所へと向かうクラウドを呼び止める。
別段、俺とクラウドは離れた距離でもないので、クラウドは足を止めて怪訝な顔をして俺の方を振り向いた。

「んだよショウ……え?」

 振り向いたクラウドの左胸……いわゆる心臓と呼ばれる場所から、その真紅の服装から飛び出たように銀色の刃が現れた。

 ……有り体に言ってしまえば、クラウドの心臓に、背後から包丁のような刃が突き刺さっていた。

「おいおい何だよコレ――」

 そしてクラウドは何の断末魔も発することはなく、HPゲージが0になってしまったことにより、身体をポリゴン片に四散させ……消滅した。
このアインクラッドというデスゲームの舞台から……いや、今ごろはこの現実世界からも……あまりにも呆気なく、あまりにも簡単に、クラウドという人間は消滅した。

「One Shot killとはな。ステータス通り、niceな剣じゃないか」

 クラウドの背後であった場所から、マントのような物が剥がれ落ち……おそらく、隠蔽スキルを底上げするようなアイテムであるのだろう……クラウドを刺した包丁を持った、ポンチョ姿の男が姿を現した。

 フードを被ってはいるが、伺いしれる顔には愉悦の笑みが浮かび上がっており、その人物はニヤリと、本当に楽しそうに……笑っていた。

「お前ぇぇぇぇぇぇッ!」

 クラウドが殺されたことのショックによる何秒……いや、何分だったかも知れない硬直時間が終わり、ポンチョ姿の男への殺意が湧き上がってくる。
叫びながらも、脳内でその目の前の人物の名前を検索すると、外見の特徴や喋り方が、有名なオレンジプレイヤー《Poh》ど照合した。

 即座に飛びつこうと思ったところ、俺の側面にいたヘルマンが先に動き、目の前のPohへとその両手矛を突き刺した。

「Hey、なかなかやるじゃないか?」

 しかし相手であるPohもただ者ではなく、ヘルマンの突きをなんなくその包丁でかわし、反撃に出て行く。

「ヘルマン、加勢……」

「ショウキ! 向こうの二人が凄い勢いでこっち来てるわ!」

 このギルド《COLORS》において、《索敵》スキルを持ったもう一人の人物であるアリシャの声が俺に向かって響く。
アリシャは基本的には非戦闘員であるし、リディアもその武器種からあまりオレンジプレイヤーとの戦闘に……というか前衛に向く人物ではない。

「……解った、俺が行くッ!」

 言外ではあったがアリシャからの指示を受け取り、Pohはクラウドに任せて俺は二人のオレンジプレイヤーへと向かうこととなった。



 ……アリシャとヘルマンの《索敵》スキルに反応したのはたかが二人のオレンジプレイヤー……先程の、隠蔽スキルを底上げするマントのような者があれば話は別であるが、あんなレアアイテムであろうアイテムが何個もあるとは思えないし、戦闘中の今ならば、隠蔽スキルが働いていようとも探知出来る自信があった。

 そのまま走っていると、暗闇の向こうから二名の走ってくる人影が見えてくる。
予想よりも接敵が速かったものの、こちらは全力疾走で、あちらも全力疾走なのだからこうなるのは当たり前だった。


 さっさと倒して、さっさとヘルマンの加勢に向かう……!
じりじりと俺の心を焦がしていくような焦りを覚えたが、その焦りの心のままに相応しい技を選出する。

「抜刀術《立待月》!」

 自身も高速で移動しながら、敵には更に高速の抜刀術を叩き込むという技である抜刀術《立待月》。
本来ならば《縮地》と併用しながら使う技であるのだが、今まで全力疾走してきたおかげで、スピードは《縮地》以上であるために、使わなくても助走は充分だ……!

「のわッ!」

 走ってきた俺が見えたために、待ち構えようとしていたオレンジプレイヤーの一人である大男に直撃し、そのHPゲージを大幅に削る。

「せぇぇいッ!」

 大男が大量のダメージを負ったところにすかさず追撃の斬撃を放ち、その手に持った武器であるバトルアックスごとその大きい身体を切り裂き、HPゲージがこれ以上削れないという程に削る。

 大男でない方のオレンジプレイヤーの片割れである、ドクロのような仮面を付けた男の放ったエストックを避け、後ろに下がって少し距離をとる。

 不意打ちとしてはこれ以上ないという程の成功だったが、大男のオレンジプレイヤーのHPゲージを少し削りすぎてしまった。
これでは、アリシャから預かっている捕縛用の糸を絡ませただけで、大男のHPを全損させることになってしまう。

 まあそんなHPなのだから、あのプレイヤーもすぐに回復用ポーションを使うことになるだろうから、さしたる問題点ではない……と、思ったのだが。

「やってくれんじゃねぇかぁぁぁッ!?」

 なんと大男は激昂の叫びを上げると共に、アイテムストレージから予備のバトルアックスを取りだしたかと思えば、回復用ポーションも飲まずに俺に斬りかかってきた!

「なっ……!」

 大男が起こした予想外の行動に反応が数秒遅れるが、幸いなことに大男は無理に重い武器を持っているようで、太刀筋は遅かったために日本刀《旋風》による防御が間に合った……が、その外見に応じてバトルアックスの重さはなかなかのものであり、ずっと支えることは難しそうだ。

 ならば取るべき行動は一つであり、上からのしかかって来ているバトルアックスを一瞬押し上げた後、日本刀《旋風》でバトルアックスの側面を叩いて地面に叩きつけさせ、その隙を突いて武器を持っている大男に手痛いカウンターを喰らわせること……実行は不可能ではないどころか、百パーセント成功するぐらい容易いことだ。

 だが、そんなことをすれば確実に、それこそ百パーセントの確率で目の前の大男はクラウドと同じように……その身体をポリゴン片と化し、この浮遊城と現実から死んでしまうこととなる。

 俺にはそんなことは、出来やしない……!

「死ねヤァァァ!」

 HPゲージがもはや赤ゲージであるというのに、なんでこのオレンジプレイヤーは俺に攻撃してくるのか理解出来ない……!

 しかし、俺と大男のこの硬直時間は長くは続かなかった……いや、元々続くはずがないのだ。
横にいたもう一人のオレンジプレイヤーのドクロ仮面が、その手に持っているエストックで、両手と日本刀《旋風》を上からのバトルアックスに防御に回しているために、むき出しの胴体を……いや、むき出しの心臓を狙っているからだ。

 日本刀《旋風》を防御に回せば、あのドクロ仮面のエストックは防ぐことが可能だ……だが、目の前の大男は確実に死ぬだろう。
しかしこのまま、ドクロ仮面の怪しげな光を放っているエストックに当たり続けていれば……当然、俺が死ぬ。

 俺が思考のループにハマりながら考えている間にも、ドクロ仮面のエストックは着実に俺の心臓へと迫って――

「くそぉぉぉッ!」

 俺は、バトルアックスに抑えられていた日本刀《旋風》を上方へ押し上げることで、一瞬だけ俺と日本刀《旋風》を解放させ、再び振り下ろされる前に俺と同じく大男の胴体に斬撃を入れ、そのままの勢いで迫って来ていたエストックをガードした。

「……あ?」

 ……そして、最期に大男の呆けたような声が聞こえた後……大男は、ポリゴン片となって消滅した。

 ……殺してしまった……!

「不様、だな、お前」

 俺がそのポリゴン片を見まいとしている時、エストックを構えたドクロ仮面からくぐもった声がかかってきた。

「不様、だと……!?」

「お前は、ただ、『死』の、恐怖に負けた、だけだ。俺たち、《レッドプレイヤー》には、及ばない」

 犯罪者を示すオレンジプレイヤーではなく、何故かこのドクロ仮面は《レッドプレイヤー》と名乗ってきた……その意味は解らないが、これ以上コイツと会話する意味がないということは解った……!

 力づくでドクロ仮面を引き離そうとするが、日本刀《旋風》を押し込む前にドクロ仮面は後方へとステップして離れていった……結果的には狙い通りなので気を取り直して日本刀《旋風》を鞘にしまう。

「先程の、妙な技を、使う気、か」

 俺が日本刀《旋風》を鞘にしまったことで、出会い頭での奇襲攻撃に使用した抜刀術《立待月》を警戒したのだろう、ドクロ仮面はエストックを構え直して防御の構えを取った。

「……《縮地》!」

 だが、俺が狙っているのは抜刀術《立待月》ではないどころか、日本刀《旋風》による斬撃ですらない。
《縮地》による高速移動により、ドクロ仮面が俺を視界から見失って戸惑っている隙を突き、そのままドクロ仮面の横を駆け抜ける……置き土産を置いておきながら。

「なっ……!?」

 ドクロ仮面のところに置いてきた置き土産の正体とは、アリシャから預かっている捕縛用の糸であり、ドクロ仮面の身体に引っかけてきた。
引っかかった糸の片割れは《縮地》によって高速移動をしている俺が持っており、自ずと引っかかったドクロ仮面は俺の高速移動に引っ張られることとなり、そのまま近くの大木に背中から直撃した。

「――ぐ、はっ……?」

 そのまま俺はそのドクロ仮面を打ちつけた大木を中心にぐるぐる回って糸を結びつけ、結果として、アリシャの捕縛用の糸でドクロ仮面を大木にくくりつけた。

「……じゃあな」

 トドメに麻痺を付与させるナイフを肩に刺したところで、もはや会話をする気にもなれずにその場から立ち去った。



 アインクラッドに来てから、今までにないぐらいの速さで元来た道を戻って行く。
正直認めたくはないが、俺たちギルド《COLORS》において最強なのは、今まさにPohと戦っている筈のヘルマンであるのだ……負けるとは全く思えないが、胸を切り裂かんばかりの不安感が俺を襲っていた。

「どこだ……?」

「something one is looking for?」

 背後から、日常的にはあまり聞かない英語が聞こえたことにより、ついつい振り向いてしまう……先程の英語が、『探し物』を意味する言葉だということには、振り向いてから気づいたのは不覚だった。

 背後に振り向いた俺に何か長い物が投げかけられ、反射的にキャッチしてしまう。
そのまま腕を見て、何をキャッチしたか確かめると……俺の思考はそのままフリーズした。

 認めたくないけれど……夢ならば醒めて欲しいけれど。
俺の眼は間違わずに、キャッチした物が何かを確かめた。

 ――ヘルマンの、両手矛。

 それを投げてきたのは、暗闇の向こうから歩いてきたポンチョ姿の――持っているのは鎌ではなく包丁だったけれど――死神だった。
 
 

 
後書き
……鬱展開って難しいですね、書ける気がしません。

いい感じに話が切れるところだったので前後編にしましたが……それにしても、過去編のショウキは実力もメンタルも弱めですね。
速く現在に戻ってやりたいところですw


それと、明後日あたりからテスト期間なので、更新が遅れます。

では、感想・アドバイス待ってます。 
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