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GATE ショッカー 彼の地にて、斯く戦えり

作者:日本男児
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第2話 訪日前夜!!

 
前書き
今回から対日外交が本格的に始動します!
また、使節団の団長となる大幹部が誰か、皆さんは予想しましたか?
今回の中盤くらいから登場するので誰だか想像しながら読んでくださると幸いです。

それではッ! (`゚皿゚´)/イーッ!!  

 
帝国 帝都?



「きゃああああ!!!」
「うわぁッ!やめろぉぉ!!」
「助けてくれッ!助けてぇッ!」


帝都は炎に包まれていた。辺りからは黒い煙と悲鳴が上がる。
阿鼻叫喚の火炎と血の沼地獄。
その光景はそう形容するのがふさわしかった。


ショッカーがとうとう本格的な侵攻を開始したのだ。ショッカーは白昼堂々、クライス要塞を運用し、帝国各地を攻撃、占領していた。

この帝都での火災もクライス要塞の腹部から放たれる怪光線による無差別空襲が原因である。元老院や皇宮も例外ではなく燃え盛り、半壊状態となっている。


そんな中、ショッカーの怪人達が帝都の城門を持ち前の怪力で破壊し、凄まじい勢いで続々と入城する。
彼らは市街地に突入すると臣民達を奥へ奥へと追い立てていく。
臣民達が必死に逃げ惑う様を怪人達はゲーム感覚で楽しんでいるようでもあった。
やがて臣民達は壁際に追い詰められる。
すると怪人達は"鬼ごっこ"に飽きたのか始末を始めた。
臣民達は生きながらにして焼かれ、溶かされた。  
なんとか生き残った者も拘束され、奴隷となり、ショッカー世界へ連行されていた。




「はぁ、はぁ………は、早く逃げなければ…!!」


煉瓦造りの建物と建物の間の路地を必死に走る一人の女性。
帝国皇女ピニャ・コ・ラーダである。彼女はクライス要塞による空襲をなんとか生き延び、皇宮を離れて、市街地に落ち延びていた。
いくら市街地とて安全ではない。
至るところで火の手が上がり、石畳の通りを真っ赤に染めていた。


「ショッカーの侵攻が始まってしまった……いくら妾が、妾が彼らの脅威を説いても誰も聞いてくれなかった」


ピニャは必死に走りながら自分の不甲斐なさを悔やむ。自分がもっと講話に向けて皇帝や元老院に働きかけていればこんなことにならなかったのに……。
妾のせいで臣民も、ゾルザル兄様も、ディアボ兄様も死んでしまった。あの怪光線に巻き込まれて爆死してしまった。


路地を脱し、燃え盛る通りを切り抜けた。火の手から逃れようと頭と身体を必死に働かせていると―。




『フハハハハハハハハ……』


その時、ピニャは何かが直接、神経に割り込んでくるような非常に不快な感覚を覚えた。思わず立ち止まる。いや、ピニャだけではない。帝国中の生き残った人々に語りかけているその声に皆、戸惑っていた。

突如、ピニャの遥か後方にある焼け崩れた皇宮の上空に巨大な黄金の骸骨が浮かぶ。その不気味かつ悍しい姿はピニャを含む生き残った者の脳内に平等に恐怖感を植え付けた。


『この世界最強の国家、帝国は負けた。この世界はこれから我がショッカーの支配下に下るのだ。愚かな異世界人共よ。潔く降伏せよ、さもなければ死ね』


あの声は!!!
忘れもしない、ショッカーの支配者…大首領だ!!!
前回、謁見した時とは全く異なる姿だが波のように押し寄せる圧倒的な恐怖のオーラだけは全く変わらなかったため、大首領本人だと分かった。
こんなにも鋭い眼光と禍々しい覇気を放てる者はそういないからだ。



(帝国、いや、この世界は……もうお終いなのか?)



絶望の余り、ピニャがへなへなと地に膝をつく。その時、ピニャは思わず、広場の方に目をやった。その広場は市街地の中心に位置しており、普段なら臣民達でいっぱいになるのだが、今、そこにいたのはショッカーの怪人軍団だった。

それを目にした時、ピニャは逃げようとした。だがその広場に掲げられていたある物が気になり、その光景をより注視した。


十字架だ。


広場の中心に1つの十字架が掲げられ、既に事切れた男の遺体が一体、貼り付けられていた。どうやら怪人達はその男が吊し上げられていることに興奮し、沸き立っているようだった。
男の顔は血の気が引いており、虚ろな目がピニャをじっと見つめる。
その遺体は血と泥で汚れているとはいえ、きらびやかな衣装を纏っており、頭には金色の王冠を載せていた。その出で立ちから自分と同じ皇族であることが容易に分かった。


ま、まさか…………。



ピニャは恐る恐る遺体の顔を見て、絶叫を上げた。



掲げられていたのは帝国の皇帝にして国家元首……モルト・ソル・アウグスタスその人だった。



「やあぁぁ!!!父上ェェーー!!!!」




〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
帝国 帝都 皇宮内にある寝室

  

「ハァッ!!はぁ………はぁ、夢だったのか」


余りの恐怖にピニャは目を覚ます。
そして夢だったことに安堵し、ホッと溜息をつく。心臓がバクバクと激しい鼓動音を鳴らす。
辺りを見回すとそこは先程、夢で見た血みどろの虐殺現場ではなく、自身のきらびやかな寝室だった。


ここ数日、ピニャはこんな調子だった。ショッカー世界に行き、大首領に謁見した日からショッカーの怪人軍団によって帝都が炎に包まれ、皇族・平民問わず皆殺しにされる夢を見るようになった。


ショッカー世界の文明、軍事力、科学力を直に見たことでピニャはショッカーの恐ろしさを嫌と言うほど、理解させられた。



その中でも特にピニャの脳裏からこびりついて離れないものがあった。

大首領、その人である。

謁見した際の息が詰まるような恐怖感、心臓を掴まれたかのような緊迫感は未だに身体が覚えており、毎夜見る悪夢ではその存在が必ずと言っていいほど登場していた。先程の夢では黄金の頭蓋骨だったが、昨晩の夢では牙の生えた異形の生物の全身骨格だった。その前は岩石でできた巨人、さらにその前は6つのメダルを装填したバックルを身に着けた怪人……と毎度の如く、姿を変えて登場し、ピニャに絶え間なく恐怖を与えてくる。


大首領というのは人間の力では抗いようのない絶対的な存在だ。
炎龍や亜神は勿論、神でも勝てるかどうか怪しい。

ショッカーに保護されている少女(レレイ)は『帝国はグリフォンの尾を踏んた』と言ったが、実態はどうだ!
ショッカーはグリフォンがかわいい小鳥の類に見えるほど凶悪で恐ろしい存在だ。
一刻も早くショッカーの脅威を皆に伝えなければならない。

だが現状はどうだ?失意のまま、オ・ンドゥルゴから帰還し、帝都に帰ってみれば臣民達の生活が困窮しきっており、いつ暴動が起きてもおかしくない状況だった。元老院の貴族達はその現状から目を背け、出どころ不明の品々を買い漁っている。
ショッカーが裏で暗躍しているのは明らかであるがピニャにはそれを皇帝や元老院に証明する方法がない。



八方塞がりだ。



ピニャはオ・ンドゥルゴで出会ったショッカー側の軍の指揮官の顔を思い出す。確か、名はゾル大佐と言ったか。彼はオ・ンドゥルゴでの会談でこんなことを言っていた。


『これからの行動次第で帝国、帝国に代わる新政府が困ることになるからな』



早く講話しなければ帝国があの悪夢の通り、滅ぼされてしまう。
だが父上……皇帝陛下は講話する気などさらさらない。それどころか主戦派と共に戦争継続を主張している始末だ。


さらに悪いことに兄上のゾルザル兄様は攫ってきたショッカーとニホンの民を自身の性奴隷にしているという。
これではピニャがどれほど講話に貢献しようとショッカーに攻め込む口実を与えてしまう。
なんとしてもゾルザル兄様には奴隷を手放すように説得しなければならない。だが彼が大人しく聞き入れるとも思えない。ましてや自身の"お気に入り"ともなれば強硬に反対するだろう。


もし、ショッカー側の性奴隷にカイジンや()の世界の異種族がいたならさすがのゾルザル兄様でさえ、ショッカーの脅威に気づき、事態は違っていただろう。
だが攫ってきたのは何れもただのヒト種。
ゾルザル兄様は当然ながら、その取り巻き達でさえ、依然として主戦論を主張していた。


いや、仮にショッカー世界から攫ってきた民にカイジンが混じっていたとしても元老院や皇帝が「この世界最強の帝国が負けるはずがない!」と叫んで彼の世界に攻め込んでいただろう。


やっと今になって元老院内で講話派が誕生したが皇帝が主戦派なため、思うような活動ができていない。


だが主戦派も講話派は知らないのだ。
ジュウの威力も、カイジンの怪力も、セントーインの精強さも、クライス要塞の破壊力も、大首領の恐怖も………。




「どうすれば……どうすれば…」



どうすれば皆に分かってもらえるんだ。


悩みに悩み、ピニャは頭を抱えてベッドにうずくまった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

ショッカー世界 日本エリア 東京



ピニャが亡国の危機を救おうと苦悩する中、ショッカー世界は戦争による特需で経済が潤っていた。
そもそもレレイ達がショッカー世界を訪れた時には銀座の復興は完全に完了していたのだ。さすがに門の周囲、半径数キロ圏内は防衛軍の管理下に置かれているが、商店や企業などの経済活動は再開されている。


財団Xやスマートブレイン、ノバショッカーなどの民間企業が帝国経済を侵食して荒稼ぎしていることに加えてイタリカなどの占領地でインフラ整備、建設事業に挙って参入していることが挙げられた。


通常、占領地で民間企業が復興事業を行えば利権に飛びつき、政治家と結託することで内政の腐敗と格差の拡大を招く。
だがショッカーが送り込んでいるこれらの企業は表向きは民間企業だが重役の殆どが大ショッカー党員なため、政府主導の公営企業と言っても過言ではない。

これらの企業が経済侵食作戦や復興事業などでいくらボロ儲けしようと利潤は政府によって強制的に常に吐き出されていた。そしてその莫大な利潤は医療や教育などの公共サービスや新たなイノベーションに対する投資など、ショッカー世界の次なる発展のために使われた。
当然、企業側にも利益の多くを政府に持って行かれることに反発する者はいたがショッカー警察との愉快な『話し合い』で何とか納得してもらっていた。


企業陣の懸命な働きぶりのおかげで経済はさらなる発展を遂げることが予想されていた。





「蜻蛉帰りだな、こりゃ」


千堂は苦笑いしつつ、銀座の大通りを歩く。
サラリーマン、学生、家族連れ……。
数ヶ月前の帝国軍の襲来が嘘のように銀座は多くの人々で賑わっていた。
自分達、改造人間が帝国と戦っていることでこの平和が保たれているのだと思うと自身が改造人間であることに誇らしく感じる。


千堂はレレイ達を基地に送り届けた後、再び日本エリアに戻っていた。数日後の訪日に合わせ、ショッカー外務省で打ち合わせを行う為だ。
本来なら基地に帰らず、そのまま外務省に赴くはずだったのだが先の拉致事件の影響で一日だけ予定が伸びてしまっていた。これは千堂のせいではなく、次なるテロを警戒しての政府の措置である。


そうこう考えながら歩いているとショッカー外務省に到着した。旧日本国外務省を大幅に改装した超高層の建物である。

入口の両脇には立番として戦闘員が二人、無言で立っており、千堂が敬礼すると彼らも敬礼をして返した。
外務省内部に入ると、エントランスを通り、エレベーターを使って最上階を目指した。最上階に着くと長い廊下を進んで会議室に入る。
既にそこには今回の訪日使節団の面々が勢揃いしており、高級感のある縦に長い机の両端に並ぶように着席していた。




千堂は着席している顔ぶれを見る。 


今いるメンバーだけで千堂を含めても6人。人数こそ少ないが、構成に統一性はなく、白人系もいれば黒人系の者もおり、女性や男性などの性別の垣根もなかった。おそらく日本世界に対して、公平感をアピールするためだろうと千堂は推測した。


しかし、ただ1つ、公平でないと点があるとすらならば、顔ぶれ達の職種だろう。職種に関しては外交官から学者、そして軍人など政府要職が多い形となっている。これには理由がある。派遣先の日本がいくら治安がいいとはいえ、ショッカーからすれば未知なる異世界なため、派遣する人材を厳選したのだ。
さらに日本側に少しでも危機意識を与えないためか、この場にいるのは千堂を除いて、改造人間でない者ばかりだ。



(徹底してるな……それだけ今回の訪日には力を入れているということか)


千堂が感心していると会議室の座席からスーツを着た男が立ち上がる。


「貴方が千堂大尉ですね?ご噂はかねがね……。ご活躍なさっているそうで」


社交的な姿勢、真っ直ぐな視線、微笑み、仕立てられたスーツ。
キッパリとした身なりや洗練された動作を見ると、どうやら彼はショッカー外務省の外交官のようだ。
千堂は会釈して返答する。


「過大評価ですよ。運と人に恵まれてるだけです」
 
 

その時、千堂はまだ一つだけ空席の椅子があることに気づいた。その椅子は会議室のテーブルの一番奥……いわゆる上座に位置していた。
誰がまだこの場にいないかは誰でも分かることだった。


「そういえば……この訪日団の団長がまだですね」


「ええ、聞くところによるとその御方は大幹部なのだとか……。実は私、大幹部の方を直接、目にするのは初めてなんです」



彼は緊張からか手足を震わせ、顔をこわばらせていた。


これが普通だ。改造人間である自分でさえ大幹部にお会いできることなど滅多にない。戦争が始まってからゾル大佐や暗闇大使と顔を合わせる機会を頂いたがそれまでは自分が大幹部の方々と話す日が来るとは夢にも思わなかった。
改造人間でさえそうなのだから、ただの人間ならば普通に生活していればお目にかかれる機会など人生を三回繰り返しても一回あるか無いかだろう。


「団長はどなたなんだろう?死神博士様か、地獄大使様か……。どなたにせよ、きっと素晴らしい方なんだろうなぁ……」



派遣される大幹部が誰か……。
それは護衛を務める千堂にも知らされていない。恐らく、不穏分子や強硬派の妨害を防ぐ為に意図的に情報を統制しているのだろう。 


全く……派閥争いを争いをしている場合ではないだろうに……。
千堂が肩をすくめ、内心で溜息をついた刹那―。






コツ、コツ、コツ………



足音が響いた。
それもただの足音ではない。大首領ほどではないが支配者然としたオーラが音を聞くだけでも感じることができた。


会議室にいる一同に緊張が走る。それは改造人間である千堂も例外ではなく、額に冷や汗が浮かんだ。生唾をゴクリと飲む。



今からこの部屋に入られる御方は自分の比ではないほど強力な改造人間だ。


理屈では説明がつかないようなもっと本能的なものが千堂にそう訴えかける。
いわば改造人間としての直感である。
千堂はこれからその人物が開けるであろう会議室の扉を注視した。



そして、ゆっくりと会議室の両開き戸が開け放たれるとオープンヘルムを被り、ヨーロッパ風の軍服を着た男が入室する。
目の前の男はゾル大佐と違い、千堂と直接の面識はないが、大首領の信任厚い、偉大な大幹部の一人だ。
一同は慌てて立ち上がり、背筋を真っ直ぐ伸ばした。踵を打ち合わせ、右手を頭上に高く掲げる。


「「「「イーッ!!!」」」」



室内には奇声が響き渡った。



「うむ、これで全員揃っているようだな」


その人物は威厳を込めてご苦労とばかりに片腕を軽く上げて頷き、ヘルムのつば越しに一同をジロリと見た。
彼が動くと軍服に付いた様々な勲章がきらめいた。




その人物こそ、ゲルダム団大幹部、ブラック将軍である。



「お目にかかれて光栄です」



千堂は敬礼の姿勢を崩すと賛辞の言葉を述べた。
千堂は表情こそ固いが、内心では感激していた。ゾル大佐、暗闇大使に続いてブラック将軍と、一年間に三人も大幹部の方々をお目にかかれる人民はショッカー世界広しといえどそうそういない。
ここまで来ると幸運を通り越して激運である。


それくらい千堂は感激していた。




ブラック将軍。
元ロシア帝国陸軍将軍でロシア革命を機にアフリカへ移った。その際にゲルダム団に入団し、大幹部となった。
ショッカーが世界を統一する過程においてゲルダム団、とりわけ彼が果たした役割は大きい。その天才的な頭脳を駆使した二弾三段構えの作戦で世界を混沌に導こうとした仮面ライダーを始めとした不穏分子共を翻弄したという。
また、今では当たり前の合成怪人の製造技術を提唱したのもブラック将軍である。
つまり、合成怪人からすれば父親のような存在なのである。
ゲルダム州の繁栄は大首領様を除けば彼の献身と犠牲によって成り立っているといってもいいだろう。


賛辞としては足りないくらいだが、千堂は無理矢理、心の中での独白を断ち切った。じっと考え事ばかりしてもいられない。


千堂はブラック将軍が上座に着席したのを確認すると他のメンバーと一緒に席に着いた。


「さぁ、始めてくれ」


ブラック将軍がそう言ったのをきっかけに訪日に向けた会議が始まった。


同行する外交官が改めて訪日時の日程を一同に伝える。
初日の総理との会談・東京視察に続き、2日目の日本世界のマスコミ対応までの流れの打ち合わせは順調に進んだ。
問題はその後の各国大使らとの会談についての話題だった。


「急なことですが、数日前に日本政府から通達があり、2日目の外国大使らとの会談がアメリカ大使のみ会談に変更となりました」


そう、アメリカはショッカーと単独で接触すべく、日本政府に圧力をかけたのだ。そのせいで各国大使らとの会談が中止され、アメリカ大使のみとの会談となったのだ。当然、中露はこれに抗議したが全て、無駄に終わっていた。


「アメリカ大使だけ?」


一方、千堂は対日外交の場に『アメリカ』という他所の国の名前が出たことに思わず、口に漏らしてしまった。日本世界の国々との交流がメインとはいえ、日本国内で行う以上、日本との会談に時間が多く割かれるのなら分かる。だが日本以外の国々は皆、等しく一時間だけと予め決められていたはずだ。

千堂にはアメリカがなぜ、でしゃばるような真似をするのか理解できなかった。


「はい…どうやらアメリカは単独で我々と接触しようと日本政府に圧力をかけたようでして……日本はそれに屈する形で了承したようです」


メンバーの殆どは想像通りの日本の対応にフッと冷笑するが千堂は驚きを隠せなかった。それではまるで日本はアメリカの属州じゃないか。 
彼は対日外交に他のメンバーほど関わることがなかったので日本の特殊な政治事情を知らなかったのだ。


(これは訪日までに日本世界のことをもっと学ぶ必要があるな………)


千堂は訪日まで徹夜が続くことを覚悟した。幸い、改造人間であるため、長時間の睡眠を必要としない。千堂からすれば睡眠時間など、ほんの数分で十分なのだ。



話題はいつの間にか千堂の『対日親善大使』の役割や仕事内容に変わった。
さっきの報告書に加えてマスコミの予想される質問などをまとめた書類が渡された。


「大変忙しい役割ですがよろしくお願いしたい。なにしろ貴方は護衛兼親善大使なのですから……」


「いえ、こんな私に余りある大役をくださりありがとうございます」


千堂が頭を下げて礼を言うと、上座に座っていたブラック将軍が口を開く。


「千堂大尉、大首領様も君に期待なさっているようだ。このまま武功を上げていけばショッカーの幹部になるのも夢ではないぞ」


「大首領様が!?ありがとうございます!この大役、絶対に成功させてみせます!」


千堂がそう言うとブラック将軍は急に皮肉混じりの顔になった。


「それも結構だが、貴様は護衛でもあるわけだからな。そっちの方も忘れないでくれよ」


「はッ、はい!分かりました!」


千堂が慌てたようにバッと椅子から立ち上がると椅子が倒れた。その様子にメンバーからドッと笑いが起きた。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――

(さて、これからどうしたものか………)


ある程度、打ち合わせが終わった時点でブラック将軍はこれからの対日戦略に思索を巡らせた。



なにも彼は日本世界と"お友達ごっこ"をするために派遣されるわけではない。
彼とて大幹部。偉大なる大首領に服属しない連中など見るだけで虫唾が走る。

それにいくらブラック将軍が穏健派といっても強硬派とは方法が異なるだけで『日本世界征服』という方針は変わらない。
穏健派や強硬派などの派閥に限らず大幹部全員が征服に賛成しているのである。



ブラック将軍は今後のショッカーの出方について頭を悩ませる。


強硬派の言い分も分からなくはない。
武力による征服は手っ取り早いし、反ショッカー的な人間がいるとなれば皆殺しにしたくもなるのも仕方のないことだ。


だが現在、日本世界との接点はアルヌスに開かれた門だけである。ショッカーの精強なる怪人軍団にかかればすぐに占領し、日本世界征服の一歩とすることだろう。しかし、まだ日本世界に対する調査が不十分なこの現状で武力侵攻という選択は非常にリスクを伴う。


もし、侵攻中に門が閉じてしまったら?
核兵器や弾道ミサイルで門が破壊されたら?
亜神や炎龍などの帝国側の存在が妨害したら?


そうなれば補給も増援も行えず、侵攻部隊が孤立する。世界中を敵に回すとなると戦線が広大過ぎて、維持できるかどうかも分からない。それにまだこちらが知らないだけで本郷猛や一文字隼人のような障壁となりうる存在が密かにいるかもしれない。
我々、ショッカーが『門』を独自に作れでもしない限りは武力侵攻というのはこれしか手段がないという時の最終手段にすべきなのだ。


現状ではひとまずは友好的に接しつつ、その裏で各国に支部を作って活動させ、敵の内部に浸透すべきだ。それから各国を背後から操り、ゆくゆくは日本世界をショッカーの改造人間が支配する構図を作るのだ。
日本世界を骨の髄までしゃぶるのはそれからだ。




打ち合わせが終わった。司会を務めていた外交官の男が「明日もここで打ち合わせです。正午に集合してください」と言うとメンバーがぞろぞろと会議室から退室する中、ブラック将軍は千堂を呼び止めた。
ブラック将軍には一つだけ気になって仕方がないことがあった。



千堂の思想である。



ブラック将軍から見て千堂という男はよく分からなかった。大首領への非常に強い忠誠心を持ち合わせ、敵には容赦しないがその反面、敵国人であるはずのコダ村避難民を助けようと必死になったり、来賓の異世界の少女が拉致された時には激怒して単身、救出に向かったりしている。


今後の対日戦略の為にも彼が帝国・日本をどうすべきと考えているのか、また、ショッカーそのものを見ているかを知る必要がある。彼が強硬派に与する可能性があるかを知る必要もあった。

ブラック将軍は急に席から立ち上がった。


「千堂大尉、貴様は残れ」


「はい」


退室しようとする千堂は立ち止まり、ブラック将軍の方へ向き直る。
千堂は何故、呼び止められたか分からず、少し不安そうな素振りを見せた。
しかし―


ほう、中々、真っ直ぐな目をしているな……。


すぐに千堂の目つきが変わった。
ブラック将軍は千堂の目を見つめ、千堂もブラック将軍の目をジッと見つめた。
十秒ほど沈黙が室内を支配した。



先に沈黙を破ったのはブラック将軍だった。


「単刀直入に聞こう。
何故、コダ村の避難民を救った?彼らの命を天に委ねることもできたはずだ。
何故、少女達の救出に自ら向かったのだ?ショッカー警察に任せるという選択を何故しなかった?」


ブラック将軍は、手始めにこの二つの行動の真意について尋ねることにした。行動は思考に直結するため、この質問をすることで彼の思想の一端を知れるような気がしたのだ。
ブラック将軍の問いかけに対して、千堂は腰に手を当て、考える素振りをした。突然の質問に戸惑っているようにも見えた。そして整列し直すとゆっくりと話し始めた。


「私情になりますが……来賓達を救出しに行ったのは居ても立ってもいられなくなったからです。ついさっきまで普通に話していた少女達がテロリストに拉致されたことから心配と怒りで勝手に行動してしまいました。この場を借りて謝罪させてください」


千堂は頭を下げる。
来賓を救ったのは個人的な感情からか……。理由としては悪くない。自分が千堂の立場かは同じことをしていたかもしれない。


「来賓救出の理由は分かった。ではコダ村の避難民を救ったのは何故だ?」


その質問に対して、千堂は頭を下げたまま答える。


「ショッカーの理念は優秀な人間を改造人間にし、迷える人民を導くこと。ならば炎龍に襲われ、露頭に迷う者を救うのは当然と判断したからです」


今度はブラック将軍が顎に手を当て、擦るようにして考え込む。
先程の個人的感情からという理由ではなく、ショッカーの理想を優先した結果という千堂の主張に頭が混乱しそうになる。この男の中では個人と組織の理想、どちらの方優先順位的に上なのだろう。
ますます、この千堂という人間が分からなくなってきた。
それに……助けた相手は何れも異世界人。そのまま、放置したところで彼に責任は及ばない。何故、異世界人相手にそこまで本気になるのだろうか。


「はぁ、何故、貴様はそこまで他人を救う為に全力を出せるんだ。相手はショッカーの人民でもないんだぞ?」


「偉大なる大幹部である将軍にこんな当たり前なことを言うのはおかしな話ですが……」


千堂は頭を上げるとまっすぐブラック将軍の目を見つめた。将軍は目を細める。
意外だ。言葉を返してくるとは……。


「防衛軍は偉大なる大首領様の軍隊です……正義の体現者たる大首領の。
そして私は偉大なる至高の御方、大首領様に選ばれた改造人間です。
であるならば自分には正義を貫き、護るという使命があるはずです」


心の奥底から大首領とショッカーを崇拝しきっている目だった。
千堂の話の内容から、ふとあることが気になったブラック将軍は口の端を引きつらせて尋ねた。



「では聞こう。貴様が貫き、護ろうとしている正義とは何なのだ?貴様の正義とは?」


その質問に対し、ブラック将軍の予想に反して千堂は即答してみせた。


「『大首領様のお創りになった理想郷を御守りし、輝かせ続けること』。この一点に尽きます。
それに……お言葉を返すようで失礼ですが先程、将軍は『"私"の正義とは何か?』と問われましたがそれは違います。正義に公私はありません。常に一つです」



そう静かに言う千堂の顔に曇りはない。
ブラック将軍は「ほう、続けろ」と少し嫌味たらしい口調で告げた。この際、千堂の正義観についても探ろうと思ったのだ。



「正義とは大首領様が示される光り輝く道です。大首領様は統一時に我々、迷える人民に競争と秩序の大切さを教えてくださいました。私は統一当時の生まれではありませんが幼い頃に曽祖父から当時の事を何度も聞かされて育ちました。


そして今、全ての人民、そして世界は大首領様、そしてブラック将軍をはじめとした大幹部方の慈愛溢れる治世によって正しい道を歩んでいます。


対して、帝国世界や日本世界は何百という国家が分裂した無秩序で混沌とした世界です。彼らもまた、かつての我々と同じ正しい道を歩めていない迷える民なのです。改造人間である自分にはショッカー理想に従い、彼らを救う義務があると思うのです。

こちらが正義とは何かを示せばいくら時間がかかったとしてもいつかは彼らの世界もかつての我々の世界のように進歩を続ける理想郷へと変わっていくでしょう。
それでも賛同しない者は大首領様の御思想に賛同しない反逆者か、ただ単純に理解しようとしていない赤子ぐらいな者だけだと思います」


千堂は目を見開き、大げさに両手を広げて語る。その口調は堂々としたもので、表情はどこか優しさと自信に満ちているようにも見えた。


「今回の訪日にしてもそうです。日本世界がショッカーの偉大さ、素晴らしさを目の当たりにすれば彼の世界で虐げられた全ての人民にとって希望の光となるはずです!」


千堂がひとしきり、語り切ってブラック将軍を見つめると彼は顔をうつむかせ、肩を痙攣させていた。
何事かと、不安に思っていると奇妙な声がブラック将軍の口から漏れた。


「フ、フフ…………」


「将軍?」


「フフ、フハハハハハハハハ!!」


ブラック将軍が突然、笑いだし、千堂は何事かと戸惑う。だが対するブラック将軍はどこか嬉しそうだった。


「そうか!それが"貴様の"考えるショッカーの正義なのだな?」


「は、はい」


「よろしい、では下がれ。先程、説明にもあったが明日、またここで集合だ。忘れるなよ」


「え……?あ、イ、イーッ!!了解しましたッ!!」


そう言うと千堂は戸惑いながらもブラック将軍に背を向け、会議室を去った。


(そんなにおかしいことを言ったか?もしかして不敬なことをしてしまったのか!?)


千堂は不安気な気持ちのまま、明日を迎えることになった。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

千堂が去った後の誰もいない会議室は静まり返っていた。
そんな中、ブラック将軍は今一度、上座の椅子にドッカリと座ると、机に両肘を立てて寄りかかり、両手を顔の前に持ってくる。
いわゆるゲンドウポーズである。
彼の口元は先程からずっと弧を描いていた。


 

世界征服から今年で百年。
いくらショッカーの理想が世界に行き渡り、怪人の理想郷が建設されたとはいえ、それほどの時間が経過すれば理想や主義主張の形骸化が発生する。
さすがにショッカーの理想の根幹たる、『新世界秩序』までは形骸化してはいないが、その他の下部組織が統治する州ではそれが顕著に現れていた。
ゲルダム州もその例に漏れず、『1,めいれいにしたがわないものはころす』から始まるゲルダム団の掟すら、一部の条文が形骸化していた。
そんな中、ショッカーに存在意義を見出し、理想を外の世界にまで拡大しようと考える若者がいたことに嬉しさの余り、思わず笑ってしまった。

  
千堂という男はショッカーを正義と信じて疑わない……いわば模範的な人民だ。いや、模範的過ぎて寧ろ、不気味なくらいだ。


ショッカーこそ、至高。
大首領こそ、神聖。


奴の頭の中ではきっとそんな"御託"が渦巻いているに違いない。
もし、千堂がショッカーが征服前に破壊工作を行っていたことを知ったらどう思うだろうか。
それでも変わらず、忠誠心を持ち続けることができるだろうか。それともショッカーを『悪』と見做して戦いを挑んでくるのだろうか。あるいは仕えるべき存在を見失い、自暴自棄に陥って自害するかもしれない。


まぁ、どちらにせよ、千堂という男の正義観が分かった。
はっきり言って教条的かつ夢想的。
征服前の、いわゆる旧世界を知っているブラック将軍に言わせれば日本世界がショッカーの威光を目にしただけで何かが変わるなど幻想に過ぎない。そんなに単純ではないことを分かっていた。
日本世界や帝国世界の人々、とりわけ権力者達の目から見れば彼は『思い上がりの激しい独善家』ぐらいにしか映らないだろう。


だがその独善主義も聞いていて、僅かながら妙な説得感があった。千堂の自身有りげな表情といい、身振りといい、その場で見聞きしていた者にしか分からない妙な説得感だ。
第4世代の風格とでも言うべきだろうか。


さらに注目すべきは彼自身。決して曲がらない信念を持ち、それを以て自分自身すら厳格に律している。
幾ら、このショッカー世界が実力主義的だろうと信念の無い者は総じて無能。いざという時に使い物にならず、ただ上からの指示を待つことしかできないので信用できない。

その点、この千堂という男は多少、思想面が盲目的なところに目を瞑れば非常に優秀な人的資源である。地位も名声も欲さず、ただ『正しさ』のみを求める。
おまけに奴の怪人態に関しては第4世代トップクラスの強さを誇る。



指導者や体制に対する絶対的な忠誠か……。
まるで一昔前の自分だな。


千堂の姿が、ブラック将軍にはゲルダム団入団前のロシア帝国将軍時代の自分自身と重なって見えた。
あの頃の自分は皇帝(ツァーリ)を信じて疑わず、皇帝の為なら命を捨てることも厭わなかった。
帝政が崩壊するまではそれが当たり前だった……今となっては懐かしい過去に過ぎないが。

誰もいない会議室でブラック将軍は鼻で笑った。
だがそこには何処か懐かしさや嬉しさがあった。 
 

 
後書き
訪日団の団長はブラック将軍でした!
皆さんの予想は当たりましたか?
死神博士か地獄大使かブラック将軍で迷いました。
「一番、外交向きな大幹部は誰か?」と自分の中で悩んだ末、ブラック将軍にしました。

ちなみにピニャの悪夢に出てきた大首領の姿ですが、これらは
黄金の頭蓋骨       ……………バダン総統
牙の生えた異形の生物の全身骨格……デストロン首領
岩石でできた巨人     …岩石大首領
6つのメダルを装填したバックルを身に着けた怪人……ヘキサオーズ
                 となっています。 

それと今回、千堂の対日・対異世界観が明らかになりましたね!『ショッカーの正義や理想が広まることでショッカー世界、異世界問わず幸福になれる』という彼の思想には傲慢さがありますが、彼なりの優しさと善意からくるものではあります。
しかし、日本世界の都合や帝国世界の都合を無視して独善的に理想を振りかざしているところを見ると千堂もまた無自覚の悪……ショッカー怪人の一人なのだと気付かされますね。


それでは、またじかイッーーー!! 
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