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気難か婆ちゃんとトラ猫

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第一章

                気難か婆ちゃんとトラ猫
川口蒼汰は学校の帰り道でトラ毛の子猫を見付けた、一匹で寂しそうにしていたので拾って家に帰ると。
 母親は彼にこう言った。
「お母さんは別にね」
「飼っていいんだ」
「お母さんはね」
 黒髪をショートにしてあどけない顔立ちである小学五年生の息子に話した。
「いいと思うしお父さんもね」
「いいって言うんだ」
「お父さんも猫好きだから、けれどね」
「お祖母ちゃんだね」
「どうかしら」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「心配よ」
「そうなのね」
「そう、だからね」 
「お祖母ちゃんだけは」
「どう言うかしらね」
 母はこのことが心配だった、そして実際にだった。
 祖母の空子、六十を過ぎたばかりで短い黒髪が左右ではねている一五八位のすらりとしたスタイルで気難しそうな顔立ちをしている彼女はその猫を見て言った。
「あんたがそうしたいならしな」
「飼っていいんだ」
「どうせ言っても聞かないんだろ」
「それは」
「麗奈さんが言うならいいよ」
 蒼汰の母である彼女がそう言うならというのだ。
「家のことは全部やってもらってるしね」
「そうなんだ」
「けれど言っておくよ」 
 祖母は孫に厳しい目で告げた。
「猫は人より寿命がずっと短いんだ」
「大体十年位だったかな」
「長くて二十年だよ、先に死ぬんだよ」
 人間よりもというのだ。
「その時に悲しい思いをするのはお前だよ」
「それはわかっているけれど」
「先に死なれた時に後悔するんじゃないよ」
 祖母は孫に厳しい声で告げた、だが結局飼うなとは言わなかった。
 そして父の誠司もいいと言ったが。
 父は穏やかなその顔で言った。
「お祖母ちゃんは実は猫好きなんだよ」
「そうなんだ」
「ああ、祖父ちゃんも知ってるよ」
 今は盲腸で入院している誠太郎もというのだ。
「そのことは」
「それなのにああ言うなんて」
「けれど先に死なれてね」
「猫の方が寿命が短いから」
「凄く落ち込んだんだ」
 そうしたことがあったというのだ。
「だからだよ」
「あんなことを言ったんだ」
「そうだよ、確かに厳しいけれど」
 息子としての言葉だった。
「実はそうなんだよ」
「そうだったんだ」
「実際にその子もな」
 父は息子が抱いているその子猫を見た、もうミミと名付けられている。
「お父さん達より早く死ぬぞ」
「そのことはどうしてもだね」
「ああ、猫の寿命は短いからな」
 祖母が言っている通りにというのだ。
「そうなるからな」
「だからなんだね」
「お祖母ちゃんもああ言ったんだ」
「そのことは仕方ないさ、けれど拾ったなら」
 そして家に入れたならというのだ。
「大事に可愛がっていこうな」
「うん、そうしようね」
「ニャーーーー」
 ミミはここで一声鳴いた、蒼汰はその彼女を微笑んで見た。そうしてミミは家族の一員となり家族全員退院した祖父も入れて一緒に暮らしはじめ。
 蒼汰も両親も祖父もミミを可愛がったが。 
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