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SAO--鼠と鴉と撫子と

作者:紅茶派
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17,撫子VS

「じゃあスペシャルゲストのキー坊も来たところで、デュエル大会といこうカ」
いつも通りのコケティッシュな声でアルゴさんが号令をかけた。

「データ取りもするから、オイラも含めて1対1にデュエルを回す形でいいナ?」
「ぇ、アルゴさんもやるんですか?」

思わず、私は聞き返してしまった。
てっきりキリトさんに私かクラインさんがデュエルすると思っていた。

「うん、手加減無用でいいゾ」
返事をしながら両手に装着されたメタルクローが打ち合わされ、キィンと音を立てる。
その光沢からみて中々の高級品だろう。だけど、武器の心配をしているのではない。

キリトさんは攻略組でもトップクラスの実力者。私やクラインさんとてそれに引けを取っているとは思わない。
そんな三人とデュエルをして、何になるのか。データすら取れずに地に伏せるのは明白なのに。

「じゃあ、デュエルのペアは――」
「悪い、すぐに戻る。ヤヨイさん、ちょっと」

キリトさんが急に私の腕をつかみ、民家の端へと走っていく。
敏捷値最大でのダッシュに私の体はふわりと浮き、先ほどの位置の死角に入ったところで急停止した。
勢いでキリトさんにぶつかり、顔を抑えていると、反転したキリトさんががっちりと私の両肩を掴む。
びくっとして顔を向けると、上背のせいで上目遣いになったキリトさんと目があった。

「き、キリトさん。どうしたんですか?」
「頼みがあるんだ、ヤヨイさん――俺とデュエルしてくれ」
狼狽する私に向かって、キリトさんは肩から手を離し深々と頭を下げた。




「つまり、クラインさんとキリトさんがデュエルしないようにして欲しい、と?」

遠回りをし続けた説明を私なりにまとめてみると、こういうことになる。
それに対して、キリトさんは首を縦に振った。
その態度は重々しく、最近の攻略で共に剣を振るった時とは大違いだ。

「構いませんが、理由を聞かせてはもらえませんか?」
「……」

キリトさんは瞳を閉じ、ゆっくりと深呼吸した。やがて観念したかのように力を抜き、
「……俺がこのゲームを始めた時、声をかけてきた奴がいたんだ。俺はそいつと狩りをしながら最初のコツをレクチャーして、そんなタイミングであのイベントが始まった」
「あの、とはチュートリアルのことですね?」

私は聞きかじった最低限の知識で答える。
他のプレイヤーたちは目撃しながら、私だけの知らない茅場明彦のSAOチュートリアル。
その魔術師の姿をしていたらしい巨大な人形の姿を頭の中に描きだした。

「……ぁぁ。その時、俺は自分が生き残ることに必死でさ。初期のモンスターと武器の取り合いに勝つために、俺はそいつを……クラインを見捨てたんだ」

いまさら、虫が良すぎるんだよ。とキリトは目を伏せながら声を絞り出す。
私と言えば、なんて声をかけていいのかも分からず、右手を持ち上げて、そして降ろした。

きっとそれは、特別なことなんかじゃない。誰もがやったしょうがないことなんです。そう言うことも、励ますことも簡単だ。
だけど、それじゃあキリトさんにとっては何の解決にもならないのだろう。

「……わかりました。ご協力します」
結局、私はそういうことしかできなかった。




「どうして、駄目なんですか!!?」
「だから、そこは譲れないって言ってるンダ。オイラとヤー嬢、クー助とキー坊の試合は絶対にやるんだヨ」

不毛な争いが終わることなく続く。
私は思わず、自分の髪を掻き揚げた。黒髪はゆったりと宙を舞い、肩に舞い戻る。
試合相手を選びたい。たったそれだけのことで、私とアルゴさんはもう何度目かわからない堂々巡りを続けていた。

拘りの無さそうなアルゴさんだから、絶対に大丈夫だと思ったのに。
後ろでは居心地悪そうにキリトさんが立っている。

「……どうしてヤー嬢はそんなに相手に拘るんダ?」
「時間もありませんし、私はキリトさんとじっくりと戦ってみたいだけです。時間制限は御免です」
「本当に、それだけカ?」

アルゴさんのふてぶてしい態度がより一段と強まった。
「どういう意味ですか?」
「いや、ヤー嬢はオイラに負けたらプライドがズタボロだもんナ。そりゃ、しょうがないカ」
「安い挑発ですね。私がそれに乗るとでも?」

努めて平静を保とうとするが、アルゴさんはこちらを無視し、キー坊のほうを見ながら言った。

「キー坊なら、問題ないナ。強い男に負けたんなら、前みたく走って逃げても大丈夫だしナ」

プチン、と何かが音を立てて切れた。
同時に私の愛刀はアルゴさんの首筋にぴったりと寄せられている。

アルゴさんは余裕の表情を崩さず、メニューから決闘の画面をクリックした。

「……交渉成立、って事でイイんだナ?」
「あなたのそういう所が気に食わないんだ。私は」

素早くメニューを操作して、<初撃決着モード>で受諾する。
カウントが始まり、私たちは互いに距離を取った。

「おい、ヤヨイさん……」
「大丈夫です。私が一撃も貰わないで、キリトさんとも連戦すればいい話ですから」

キリトさんには申し訳ないが、もう私とて止まる気はなかった。
カウントが零になった瞬間、私は敵を倒すべく突進し、切り落とさんとばかりに愛刀を振るう。

「ぉっと」
アルゴさんはそれをしゃがみ込むようにして躱した。同時に地面を蹴って私の死角へと入りこもうとする。

瞬時に体を回転させながらソードスキルの構えに入る。
――カタナスキル範囲攻撃<飛沫>

私自身の剣速も重なって刃が私の周囲を取り囲む。
鈍い音と共に標的は吹き飛ばされ、そのまま地面に……

「今のは、危なかったナ」

叩きつけられず、ストンと降り立った。まるで人とぶつかったような様子で手のクローを払っている。
ダメージも私の予想よりもはるかに低く、1割程度しか削れていない。

まさか、あの瞬間に武器で防御したとでもいうのか?
アレを防げるのは攻略組でもそうはいない。

構えを正眼に保ち、距離を測る。呼吸を合わせ、再度飛び出した。
マグレかどうかは試せばわかる。

コンパクトに刀を横薙ぎする。難なくクローで弾かれ私の体は一瞬だけ隙だらけになる。
ここぞとばかりに、逆のクローの突きが予想通りに腹へと迫ってくる。
私は内心でほくそ笑んだ。誘い込み、成功。
一撃目を軽く振るったお蔭で私の軸はまったくぶれていない。最初からこの逆の手での攻撃を誘うための罠なのだから。

そのまま開き足の応用で突っ込んでくる側面へと移動する。
避けられたアルゴさんの体は前のめりに倒れこみ、私はフード越しに無防備な首筋を見下ろした。

背後からマントへ全霊を込めた一撃を振り下ろす。
首筋へと真っ直ぐに紫の太刀筋が伸びていく。

取った、確かにそう思った瞬間、マントが翻り、三本髭のペイント顔が私の前に再び現れた。

ガチン。

振るわれた私の一撃を左腕で確かに防ぎきって、アルゴさんはそのまま後退していく。
今度も1割程度しか命の削れていない。考えるべくもない完璧な防御。

「ッッツ!!」

私は構わず前へ出た。
長年の試合勘が告げている。コイツには時間をかけてはならない。速く決めろ。
だが、同時に脳裏では侮るな、焦るなという声が同じくらいの音量で響いてくる。

速く、速く。一撃に力を込めて太刀を振るっていく。
先ほどの一撃と同様、全力を込めた一刀は筋力値の低いアルゴさんでは完全防御は不可能だ。
アルゴさんもそれを悟ってか受けずに躱すことに専念していく。
紫色の剣閃が二人の間を彩った。しかし、その線が緑色のマントと混ざることはない。

私が幾ら振るっても、その体にまともに一撃が与えられない。
ごく稀に追いつめてクローでガードさせ、数ドットを削るのが関の山。
その返しの刃で、私の命を倍の速度で奪っていく。

「ック!!!」
つい、力が入り、大振りになっていく。強い、なんてもんじゃない。
現実も含め、ここまで私の攻撃を見切れるなんて。

均衡は一瞬の焦りで瓦解した。
私の振るった刃は空を切り、焦りすぎた私は僅かに足をもつれさせる。
アルゴさんが再度、私の肩をめがけてクローを突き出してくる。
しかし、先ほどのような速度はない。これがフェイクかどうかを疑い、踏み込みに躊躇したのだ。

振り下ろされるクローを無理やり刀ではじき返した。
お互いに数歩ずつノックバックし、一瞬だが空白のタイミングが生じる。

本能も、理性が私の中で一つになる。
ココしかない!!

「ハァァァ」
気づけば私は自然とソードスキルのモーションに入っていた。
今日、最も多くの仮初の命を奪ったスキル<浮舟>をアルゴさんに向けて放つ。
虚を突かれたのか、アルゴさんは大きく体を仰け反るようにしてその一撃から逃れた。

まだだ、と瞬時に<緋扇>を発動させる。
カタナスキルならではのソードスキルのコンボで上段に伸びた刀はすぐさまライトエフェクトを纏う。
天へと向けられた刀は反転し、アルゴさんを両断せんとしたが、

その軌跡はむなしく空を切る。

「情報通りのスキルコンボだネ」

その瞬間、時間が止まったように思えた。
なぜか遠くからの声。謀られた、と感じるのに時間はかからない。

恐らく、先ほどの私と同じ。体制を崩したのはブラフ。
現にアルゴさんは私の剣が届きもしない位置まで下がりきっている。

カタナスキルの優秀な点はソードスキルが小分けされている点だ。
隙が短く、また追加Modの「連撃」さえ取っておけば、所定のソードスキルを連続で繰り出せる。
今の<浮舟>と<緋扇>のコンボがそれだ。
隙も少なく硬直も少ない。だが、今回のように無駄打ちさせられれば、ソードスキルである以上は時間のロスが生じてしまう。

「ッ!!」
緋扇を無理やりキャンセルし、最後の突きを何とか止める。
だが、硬直は如何ともしがたい。そして、アルゴさんが隙を逃すわけもない。

腰だめに構えられた右腕が金色に染まる。次の瞬間、爆音と共に極限まで貯められた力が解放された。
両手爪の刺突ソードスキル<パイルバンカー>。私の知識では、その威力は敏捷度に依存する両手爪スキルの中でも上位に入る筈。

「ハァァァ」
ギリギリで硬直の解けた私は、苦し紛れで愛刀を振るった。
私の紫電はアルゴさんの腰をとらえたが、手応えと同時に金色の奔流が私の胸を穿った。

肺を潰されたような圧迫と内部をグチャグチャにされる不快感。
踏ん張ることすら許されず、私は愛刀を残して正面から吹き飛ばされた。

HPゲージがじりじりと減少し、私のゲージはイエローに変わっていた。
目の前にウィンドウが形成されていく。
相手を侮り、目を曇らせた私には、当然……

「アレ!!?」

アルゴさんが向こうで素っ頓狂な声を出す。
続いて私の方に出てきたウィンドウには紫色の文字でDROWと表示された。

DROW……引き分け!!?
アルゴさんの方のゲージを見ると、何故か彼女もイエローゲージに差し掛かっていた。

「う~~ん、最後のあの胴打ちがクリティカルしたみたいだナ」
アルゴさんは僅かに口を尖らせて、惜しかったナ、と呟いた。
近づいてきて、メタルクローを外した手で握手を求めてくる。

一瞬迷った後、私は手を差し出した。顔は、そっぽを向いたままだけど。

「いえ、完全に私の負けです」
「昼にやったらオイラの惨敗だろうナ。ここまで攻略法を考えて勝てなかったのはクロちゃんとキー坊以来カナ?」

今、さらりとおかしな事を聞いた気がするが、アルゴさんの後ろから来た人影にその考えはどこかへ行ってしまった。

クラインさんが、私の紫電を持ってこちらにやってくる。
「いや、なんつぅか、おりゃあ心が痺れたぜ!!」

しかし、その顔は先の戦いに酔いしれてはいない。むしろ逆。
ココからの戦いに自身の精神を集中している顔だ。
当然、HPゲージの半分になった私はデュエルの連戦など不可能だ。


「んじゃあ、キリトよう。やり合おうじゃねぇかぁぁ!!」

クラインは自身の刀を抜き放ち、咆哮した。
 
 

 
後書き
天邪鬼なもんで、キリトVSヤヨイとかはやりません(笑)

ちなみに、アルゴさんが立ち回れるのは敏捷値+情報量です。
ただ、強いのは元からの設定です(ザ・デイ・ビフォア曰はく )

カタナスキルの設定は自作ですが、連続技がつながり過ぎると<スキルコネクト>なんだよね……まあきっとそんなに反則的長さのコンボはない(はず。)
 
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