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クラディールに憑依しました

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ソロ狩りのお手本を見せました

「今日はわたし達でPTを組んでパワーレベリングをしたいと思います」


 翌日、アスナの提案で山岳地帯に集まったのは、シリカ、リズベット、そして俺。


「まずはあなたの狩を見せて貰えるかしら? ソロでやってきた実力を見せて貰いたいものだわ」
「各階層三周って、どうやってやってるんですか?」
「あたし今日は日が暮れるまでに帰るんだから、ちゃんと考えて行動しなさいよ?」


 反応は様々だがリズベットにはしっかり釘を刺された。


「別に特別な事は何もしてない、では行って来る」


 そう言って隠蔽スキルを使って姿を消すと――――早速呼び止められた。


「ちょっと待ちなさい!? あなた突然姿を消して何処へ行く気よッ!?」
「先ずはフィールドのマッピングだ、隠蔽スキルを使ってモンスターは全て無視。
 そして俺が好む地形を探し出す、そこにフィールドボスとかを誘い込んで潰すんだ」

「わたし達が一緒に行かないと何の参考にもならないでしょ!?
 もう……みんなで一緒に行きましょう、モンスターに遭遇したら倒しながらね」


 俺とアスナが先行して、スイッチしながらモンスターを狩り尽くしていく。


「……第一層でPTを組んだ時はスイッチの事も何も教えてくれなかったわよね?」
「あの狩場はスイッチ使う程でもなかったろ? それにお前のリニアー地獄に横からスイッチできる訳ねーだろうが」
「あの後、オーバキルだって言われたのよ?」
「敵が沸いた瞬間に投擲スキルでHP削って、リニアーでピッタリ狩れる様に調整してただろ」


「アレってヘイト調整じゃなかったの?」
「ヘイトも兼ねてたよ、お前は横から刺しまくってるだけで楽な仕事だったろ?」
「――確かに楽だったわ……限界ギリギリで良く覚えてなかったけど」
「何か言ったか?」
「何でもない」


 ――――今考えてみると……アスナがオーバーキルしたのは俺も原因の一つか。
 無駄話をしている間に、俺が得意とする地形が見付かった。


「此処だな」
「此処なの? 高い壁があるくらいで特に変わった所なんて無いわよ?」


 俺が見つけた地形は高さ二メートルを超える壁が階段の様になっている場所だ。


「先ずはみんな壁の三段目に昇って待っててくれ、後は狩り方を見るだけで良い、俺がOKを出すまで手を出したり、そこから降りたりは絶対にしないでくれ」
「……本当に一人でやるつもりなんですか?」
「あぁ、後でシリカにもやって貰うから――――良く見ててくれ」
「――――はい」


 身軽なアスナが壁に上がり、下へ手を伸ばしてシリカとリズベットを引き上げた。


「結構高い所ですね」
「それじゃ、狩りを始めるぞ」


 俺は一段目の壁の上から投擲スキルで近くに居たモンスターを攻撃してタゲを取る。
 仲間を攻撃されてアクティブになったモンスターが集団で駆けつけて来るのだが――二メートルを超える壁が邪魔で俺には届かない。


 何とかジャンプして壁を登ろうとするモンスターの頭に、リーチの長い両手剣を振り下ろして倒した――先ずは一匹。
 他にもモンスターが壁の上に手をかけた所を切り刻み、頭に一撃――――簡単なお仕事である。
 石を投擲スキルで投げてくるモンスターは岩の陰に隠れて放置、近付いてきた近接モンスターを全て始末してから最後に狩る。


 暫く狩りを続けてると、地震が起きて頭に刃の一本角を持った巨大ミミズが現れた――――大きさからしてこのフィールドのボスだろう。

 下層でも似たようなのが居たし、行動パターンも把握している、俺はそのまま壁の上で巨大ミミズが行動するのを待った。


 巨大ミミズが地面に穴を掘り、轟音を立てながら潜ると――――壁の上に居た俺の足元から穴を開けて頭を出した。
 俺は巨大ミミズの全身がまだ穴の中から出てないのを良い事に、横から刺して斬り刻んで好き放題HPを削った。


 巨大ミミズの全身が穴から出ると俺を探して辺りを見回す、だが俺は既に壁の下に飛び降りて逃げ出した後だ。
 着地は五点着地と呼ばれるパラシュート等の着地方法で、足の裏、脛、太腿、背中、肩と斜めに受身を取りながら転がるやり方でダメージはゼロ、一ドットもHPは減らない。


 壁の上に残されたミミズは攻撃範囲外に逃げた俺を追う事が出来ず――――再び穴を掘って地中を移動し、俺の近くに穴を開けて出て来た。
 俺はまた巨大ミミズの全身が穴から出るまで攻撃を続けて壁の上に昇る…………そうやって繰り返してると巨大ミミズは大量の消滅エフェクトを撒き散らして力尽きた。

 ちなみにノーダメージクリアだ。


「ね、簡単でしょ?」
「あんたねぇ……はぁ…………モンスターの思考ルーチンを逆手に取るなんて……酷い物を見たわ……運営に通報モノじゃないのコレ?」
「わたし達が真面目に戦って来たのが馬鹿みたいじゃない…………」
「あたしやリズさんでも、簡単に倒せそうですね……」

「コレが段差の恐ろしさだ、二メートルを超える段差があれば――――どんな敵だろうがソロで始末できる。
 俺はこのやり方で三種類のフィールドボスを二体同時に相手して完勝した、取り巻きも二十四体程居たが全部叩き潰した。
 ……二種類のフィールドボスが同時に出現するなんて日常茶飯事だが、一体目のボスを倒した所で三体目のフィールドボス出現は卑怯だと思う。
 後はタイムアタック・クエストと同じボスがフィールドに二体連続で沸くとか、マジで勘弁して下さい――――全部美味しく頂きましたが」


「あんたの出鱈目さは、ゲームバランス崩壊どころの話じゃねー」
「真面目に狩る気は無いの?」
「無いな、少なくともコレが通用する内はずっとコレで行く」

「ジャンプ力のある敵はどうするんですか?」
「大ジャンプのモーションが解り易くてな、見てから逃げ出す事が充分可能だ
 それに助走と違って着地硬直と言うものがあってだな、大ジャンプから地面に足をつけた瞬間は完全に動けなくなるんだよ、そこに一撃入れて逃げてれば倒せる。

 壁の無い螺旋階段とかも良いな、何処までも上れるし何度も敵を叩き落せる。 一対一で戦える。 自分も飛び降りて逃げる事が出来る。 螺旋階段マジ最強ッ!!」


「おーい、モンスターもそこまで馬鹿じゃないよね?
 軽業スキル持ってるモンスターも居るでしょ、そこにタイミング合わせて攻撃もする奴だって」
「うむ、だから攻撃も食らうし俺のバトルヒーリングスキルが上がってる。
 囲まれたら走って逃げて――追って来た足の速いモンスターから振り向きざまに斬り殺しながら逃げてる」
「あんたはどこの幕末剣士だ!? 血の雨でも降らせる心算か!?」
「俺の心のバイブルにケチ付けるのは止めて貰おうか」

「はいはい、あなたの戦い方がソロ以外では使い物にならないのが良く解ったわ――真面目に戦わないとボス戦で苦労するわよ?」
「…………実はコレまでのボス部屋を調べてみたんだが、どの部屋にも使える段差があったんだよ」
「え? ……本当に?」

「うむ、これまでのボス部屋を宝箱や隠し部屋目当てで全部マッピングしたが、最低でも一箇所は二メートルを超える段差があった」
「それじゃあ、あんたは時間は掛かるけど一人で迷宮区のボスを倒せるって事?」
「いや、流石に迷宮区のボスともなるとバトルヒーリングスキルを持ってるだろ? 一人でやると倒せないだろうな」
「それって、同じ様な戦い方をする人が複数居れば段差を使ってボスを倒せるって聞こえちゃうんですけど……」

「多分やれるな、ボス部屋に入った瞬間、ダッシュでマッピングを終えて段差を陣取る事が出来れば――――」
「無理よ、迷宮区のボスは普通に二メートル越えの大物よ、ジャンプ力や俊敏もそこら辺のモンスターとは比べ物にならないわ」
「……どうかな? コレまで段差を試した奴が居たのか? 高さ二メートルってのは人の高さだ、敵として認識できなくなるんじゃないか?」

「つまり、あなたはプレイヤーが想定外の高さに移動すると、フロアボスの思考ルーチンから外れて攻撃できなくなると?」
「うむ、しかし、問題が無い訳でもない、カーディナルが思考ルーチンを書き換えたら通用しなくなる可能性が高い」
「カーディナル? カーディナルってなんですか?」
「カーディナルシステムって言うNPCが売ってる商品とかの値段を裏から操ってる――自己メンテナンス可能なシステムらしい、モンスタードロップまで管理してるとか。
 明らかに効率の良い狩場を調整して経験値を少なくしたり、まぁ、物言わぬ運営って所か、俺達の精神状態をモニタリングして危機に対処もできるそうだが…………」

「あたし達がデスゲームに囚われて困ってるのに、何の対処も無いって事は――壊れてるか茅場に弄られてるって訳ね」
「だろうな、初めからデスゲームを狙ってたんなら、色々仕込んでたんだろうよ」
「行動パターンを書き換えるのが簡単だったら、何で今もこの戦い方が有効なんですか?」
「多分、いや間違いなく――この戦い方をしてるのは俺だけだ。
 思考ルーチンを書き換えるよりも無視していた方が運営……カーディナルにとって効率が良いんだろ」


「あんた、この方法で狩りを続けてたんでしょ? 何で他の人が真似しないの?」
「この狩り方はプレイヤーが複数居るとターゲットがバラけて成立しないからな。
 壁の上にプレイヤーが居るから昇ってくるんだ、地上の方に他のプレイヤーが居たらそっちにタゲが移っちまう。
 だから他に誰も居ない狩場で、深夜遅くにやってるんだよ、街に近い所だと夜でも人が居るから離れた場所で、後はクエスト受注して誰も居ない空間でやってるし」


「誰も居ない空間って何ですか? そんな場所があるなんて聞いた事が無いですよ?」
「お使いクエストとか、場合によっては他のプレイヤーと同じクエストを受けた時に、
 『世界で一つしかない鍵』とやらを持ったプレイヤーが三十人、四十人と群がってたらどう思うよ?」

「……すげーアホらしいわね、こっちは命が掛かってるのに」
「まぁ、そう言う訳で、クエストを受注した瞬間に通常の空間とは別の――――他のPTが居ない空間に放り込まれる、そこで好き勝手やり放題してるのさ」


 適当に無駄話を進めていると、さっき倒した敵がリポップし始めた。


「さてさて、敵さんも復活したし、此処からはみんなで本番と行こうか」
「見てるだけで退屈だったし、鬱憤を晴らすには丁度いいわね」
「がんばります!」
「あなたが作戦を練ってみて、とりあえず聞いてみて、それで良さそうなら試してみるわ」
「へいへい、副団長様に従いますよ」


 とりあえず、雑魚を相手にどうした方が良いか適当に考える事にする…………効率とかは無視で。
 
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