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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第1部
ポルトガ~バハラタ
  ポルトガの関所にて

ロマリアの関所にて

「ポルトガに行けない?!」
  開口一番ユウリが言い放った言葉に、私たちは一瞬耳を疑った。
  イシスからロマリアへと一度戻り、そこから歩いてポルトガに続く関所へとたどり着いた矢先の出来事である。関所の前にはロマリアの兵士が立っており、扉は固く閉ざされていた。
  確かに数日前、ポルトガは輸入規制を始めるという噂を聞いた。関所を封鎖し、諸外国との交易を当分の間禁止するのだという。けれど、まさかこんなに早く実行されるとは思ってもみなかった。
「申し訳ありません。すでにポルトガは他国との交易を全面的に禁止してまして、ここを通ることはできないんです」
「よく見てみろ、俺たちが物を売る商人に見えるか?」
「はあ……。でも規則は規則ですんで」
  形式ばったことを言うだけで、全く取り合ってくれないロマリアの兵士に、私たちは辟易していた。
  こうして扉の前で押し問答をすること数十分。傍目にもすでにユウリがイライラしているのがわかる。そしてそろそろこう言うはずだ。
「仕方ない。話がわからないのなら強行突破するしかないな」
  ああ、やっぱり。頼むから公の場で呪文を唱えるのはやめてほしい。
「なっ、何をする気ですか?! まさかこの扉を壊すつもりでは?!」
 あわてふためく兵士を気にも留めず、呪文を唱えようと手を前に向けるユウリ。眉根を上げる彼の表情に、迷いの色はなかった。
「だったらなんだ」
「それならいくら壊そうとしても無駄ですよ! この扉は特殊な金属で出来ていて、叩いたりするのはもちろん、生半可な攻撃呪文でも耐えられるように設計されていますからね!」
  そう言って少し得意気に話す兵士。確かに攻撃呪文でも壊せないとなると、ユウリのお家芸であるベギラマは使えない。
「……そうか。わかった」
 ユウリは扉を見つめながらそう言うと、意外にも素直に踵を返した。
 まさかレーベの村のおじいさんからもらった魔法の玉でも貰いに行くのでは、とでも思ったが、わざわざそんな危険なことはさすがにしないはずだ。
「おい、ユウリ。本当に諦めちまうのか?」
 ナギが兵士に聞こえない程度の声でユウリに問いただす。ユウリは兵士の方をちらっと見ると、
「あの兵士がいる間は通れない。また後で出直す」
  といって関所に背を向けたではないか。
「は?」
  それがどういう意味をもたらしているのか、ナギ含め皆わからなかった。ただ、ここで問題を起こしては国に関わる一大事となってもおかしくはない。その辺りはさすがのユウリもわかっているはずで、となるとこれは何か考えがあってのことなんだと思う。
「とりあえず、ユウリの指示に従おうよ。ここで揉めても面倒なことになるだけだし」
  私はナギにそっと耳打ちをした。それが耳に届いていたのか、
「間抜けなお前にしては賢明な判断だな」
  と皮肉ったような表情でユウリが振り向いた。
  ともあれ、一先ず私たちはこの場を離れた。一度ロマリアに戻っても良かったのだが、またここまで歩くのも面倒だし、なにより一度ロマリアで王様になったユウリにとっては、居づらい場所でもある。……まあ、自業自得だけど。
 なので、町には戻らず近くの木陰で様子を見つつ、夜になるのを待つことにしたのだった。



  その後、私たちは兵士の目の届かないところまで離れ、身を隠すことにした。日が沈むまであと二、三時間はある。それまでこの何もない草原で何をしたらいいだろう。
  とりあえず、近くにちょうどいい木陰があったので、皆そこで車座になって座り込んだ。
 ちなみに周辺の魔物は、ユウリが『トヘロス』という呪文で近づけないようにしているので襲ってくる心配はない。
  私は側にある木に寄りかかり、空を仰ぎ見た。時折吹く穏やかな風が、私の髪をくすぐっていく。
  まるでピクニックに来ているようで、私はそんな状況でないにも関わらず、安らぎを感じていた。
  対してユウリは自分の剣を磨き続け、ナギは罠の解除に必要な道具のメンテナンスをしている。
 シーラは一人でお手玉をしていたが、ぼーっとしている私と目が合うと、にっこり笑いかけた。
「ミオちん、いっしょにやる?」
「あ、ごめん、そういうつもりで見てた訳じゃなくて、たまにはこうやって皆でのんびり過ごすのもいいなって思ってさ」
「お気楽な奴だな。こういう時こそ鍛錬でもしたらどうだ?」
  すげなくそういわれ、閉口する私。
それを見かねたのか、お手玉をやめたシーラがすっくと立ち上がった。
「よっし! こんなときこそ遊び人のあたしの出番だよねっ♪」
「いや、全然意味がわからねえ」
  顔をあげたナギが真面目な顔でツッコミを入れるが、シーラは気にせず話を続ける。
「こういうときは、遊ぶのが一番! だよ☆ というわけで、これから皆で王様ゲームを始めまーす!!」
「王様ゲーム? 何だそれは」
  作業を中断したユウリが急に口を挟んできた。『王様』という言葉に反応したのだろうか。
「ふっふっふ。さすがユウリちゃん、ノリがいいのはわかるけど、まず準備させてね。ミオちん、紙と書くものちょうだい?」
「あ、うん。ちょっと待ってね」
  私は鞄からロズさんから貰った紙と木炭を出し、シーラに渡す。彼女はそれを小さく千切り、何かを書いたあと、さらに小さく折り畳んで皆の前に並べた。
「ここにある四枚の紙の中から一枚選んで、誰にも見られないように開けてみてね」
 二人とも、未知のゲームに興味があるのか、素直にそれを取り開けてみる。私が取った紙に書いてあったのは、『王様』という文字だった。
「それじゃ、『王様』って書いてあった人!」
「えっ、あっ、はい!」
  シーラの勢いに押されて、つられて私は手を上げる。
「『王様』の命令は絶対でーす☆ だから、王様になった人は、一番から三番の人に何でも命令していいの。で、命令された人は絶対に従わなきゃなんないの☆」
『はぁ?!』
 シーラの説明に、ユウリとナギが口を揃えて反発する。
「なんだそのルールは! 大体王というのはこんなくじびきごときで変わるような存在ではなく……」
「ユウリちゃん、これゲームだから!」
「つーかこいつが素直に命令に従うわけねーだろーが!」
  そう言ってユウリを指差すナギ。シーラはしばし考えたあと、ぱっと笑顔を見せた。
「じゃあユウリちゃんでもできそうな命令にしよう♪ 基本ゲームは皆で楽しむものだからねっ☆ というわけでミオちん、命令をどーぞ!」
「えっ?! えっと、あの、その……」
 急に命令とか言われても、何て言ったらいいのかまったく思い付かない。私が困った顔をシーラに向けると、
「じゃあ、ミオちんがあたしたちにしてほしいこととかってある?」
「してほしいこと?」
 言い方を変えてくれたので、命令よりはイメージしやすくなってきた。それじゃあ……。
「じゃあ、全員の好きなものを教えて欲しいな」
 意を決して言った私の言葉に、皆は三者三様の表情をした。
「いいね、ミオちん!  そんな感じだよ♪」
「そ、そう?」
「あたしはね、やっぱお酒かな。あとはみんなと遊ぶこと!」
「あはは、シーラらしいね。ナギは?」
「オレか?   オレは……ケーキかな」
「えっ!?  意外!!」
 辛いものは苦手とは聞いたが、ナギって思った以上に甘党なんだ。
「つってもめったに食べられねえけどな。たまにジジイが作ってくれるんだよ」
「あのおじいさんが?!  なんかそっちの方が意外なんだけど」
 孫のためにケーキをつくるおじいさん……。ギャップがありすぎて私の中でおじいさんに対する好感度が跳ね上がった。
「あとは……」
「ビビアンさんでしょ。言わなくてもわかるよ」
「なっ、なんだよ。なんか他人に言われると恥ずかしいじゃねーか」
  いや、それ以上の醜態をすでに晒してるんで今さら照れても困るんだけど。
「あとは、ユウリちゃんだね♪   物でも人でも、何でもいいよ☆」
「……じゃあ、肉」
  シーラの言葉にユウリはたじろいだが、抵抗するほどのことでもないのか、吐き捨てるように言った。
「肉って、肉料理? それともヤギの肉とか鶏肉?」
  私はつい好奇心が勝り、ユウリに質問攻めをした。
「……なんでそんなに追求してくる」
「いや、だって情報が少ないから……。せっかくの機会だもん、もっとユウリのこと知りたいし」
「……これ以上お前に教えることなんてない」
  そう言うと、彼は顔を背けてしまった。これ以上言うと機嫌を損ねそうなので、私は聞くのをやめた。
「はい、じゃあ命令終わりだね☆ もっかいやろっか♪」
「うん!  なんかこういうの、楽しいね」
「でしょ?  あたしもはじめてアッサラーム来たときにやって、すっごく楽しかったんだ☆   こーやって皆とやれてあたしも嬉しいよ☆」
 そういうシーラの表情は、本当に楽しそうだ。私も普段とは違う皆の一面が見れて、すごく新鮮だし、なにより嬉しい。
 このあとも何度かやってみた。シーラが王様の時は、『一番が三番の人を褒める』と命令し、ユウリがナギを誉めるという奇跡の瞬間が誕生した。
  といっても内容としては、『バカザルのいいところは自分がバカなことに気づかないこと』とか、『ベギラマからの回復力が異様に早い』等という、褒めてんのかどうなのかわからないのがほとんどだったけれど。
  ナギが王様の時は、『二番が王様の肩を揉む』と言って結局私がやったんだけど、ナギ的にはユウリにやってもらいたかったらしい。
  で、何回かやって結局一度も王様になれなかったのはユウリだけだった。最後の方は何か細工でもしてるんじゃないかと、彼は何度も紙を確認していたが、そんなはずもなく、終始不機嫌だった。
 そうして、皆のやり取りを眺めて笑っているうちに日が暮れ始め、辺りはすっかり暗くなった。
「そろそろ行くか」
「え?  どこに?」
 尋ねてから、私はハッと手を口に当てる。気づいたときにはもう遅い。ユウリは手を伸ばし、私の両頬を無言で引っ張った。
「ひはいひはい!」
「このボケ女は、一回刺激を与えないと思い出さないらしいな」
「いいなあ、ミオちんばっかりユウリちゃんにおしおきされて」
 ユウリは私の頬を離すと、今度はシーラの両耳を引っ張った。
「誤解を招くようなことを言うな!」
「わーい、ユウリちゃんからのおしおきだぁ♪」
  まったく効いていないどころか、とんでもない発言をしたシーラにこれ以上やっても無駄だと悟ったのか、すぐに手を離すユウリ。それをナギが呆れた顔で眺めていた。
「遊んでねーで、早く関所にいこうぜ。いい加減寒いんだよ」 
 そうだった。 イシスではわからなかったが、もう季節は冬を迎えていた。日が沈むや否や、冷たい夜風が肌にしみる。こんなところにいつまでもいる場合じゃなかったのだ。
「そうだな、バカザルの言うとおりだ」
「……同意してくれんのはいいんだけど、いい加減その『バカザル』呼ばわりするのやめてくんねえ?」
  疲れた表情を見せるユウリに対し、不満げなナギが声をあげる。
 ゲームがきっかけで少しは二人が仲良くなるかと思ったが、世の中そう簡単にはいかないようだ。
 まあそれは、私の胸の中だけにしまっておくとして、様子を窺いつつ再び関所に戻ってきた私たち。
 昼間はそこに立っていたはずの兵士は、夜になり見張る必要がなくなったのか、もうそこにはいなかった。
 扉に近づくと、ユウリは懐から何かを取り出した。暗くてよく見えないが、それを持ったまま扉の前まできて立ち止まった。
  よくみてみると、扉の取っ手の下の方に、鍵穴が見える。そしてその鍵穴に、何かを差し込んだ。
 そっか、魔法の鍵か!
 鍵を回すと、カチャリと小気味良い音が鳴り響いた。
「やっぱりこの扉は、ピラミッドにあったものと同じタイプみたいだな」
 そう言いながら、微かにほくそ笑むユウリ。ということは、最初から魔法の鍵で開けるつもりだったようだ。
「ねえユウリ、どうしてこれが魔法の鍵で開けられるってわかったの?」
「確証はないが、この扉が攻撃呪文に耐えられると聞いて、あの変態ジジイがいってたことを思い出してな」
「えーと、ヴェスパーさんのこと?」
「ああ。魔法の扉は、ピラミッドの宝を狙う盗賊や魔法使いの侵入を防ぐために作ったと言ってたからな。おそらくピラミッドの扉も呪文に耐えられるほどの代物だ。ならこの関所の扉も似たようなものだと思ったんだ」
「そっか、じゃあ呪文にも耐えられる扉なら、魔法の鍵があればどの扉でも開けられるってことだね」
 まさかこんなところで魔法の鍵が役に立つとは。
 とにかく、これでポルトガに行くことができるんだ。
「夜なら見張りもいないと思って来たが、まさか本当に誰もいないとはな。あきれてものが言えん」
「よっぽどこの扉を信用してるんだね」
 そうしみじみ言うのもつかの間、辺りは暗いとはいえ、ここにいつまでも立っていたら怪しまれるかもしれない。私たちは早々に関所を通ることにした。
 だが、ポルトガ領に入って間もない場所に、小さな建物が見えてきた。幸い明かりはついていないが、誰かいるのだろうか?
「何か怪しい建物があるな。調べてみるか?」
同じく建物に気づいたナギがユウリに尋ねる。
「ポルトガの兵がいるかもしれない。見つからないように出来るのかバカザル?」
「だからそのバカザルっての……、まあいいや。『鷹の目』ならここから様子を見ることが出来るはずだ」
 『鷹の目』とは、ナギの盗賊のスキルの一つで、遠くにある建物や町、ダンジョンがどこにあるかわかる便利な技だ。このくらいの距離なら、暗くても建物の内部まで把握できるという。
  ナギはじっと目を凝らして建物の様子を見た。
「……中は真っ暗で誰もいない。というか、中にも扉があるだけで、人が暮らしてそうな雰囲気じゃないな」
「そうか。なら今日はここで野宿するぞ」
  問題ないと判断したユウリは、ここで一晩過ごすことにした。建物に近づくと、周囲を警戒しながら外側の扉を開けた。
 中に入ると、ナギの言う通り目の前に扉がひとつあるだけで、他には何もない。扉の周りの壁にも窓ひとつないので、この奥に何があるのかもわからなかった。
「何だろうね、この扉」
「……一応、試してみるか」
 ユウリは先ほど使った魔法の鍵を再び取り出し、目の前にある年季の入った扉を開けようとした。だが、なぜか鍵穴は回らず、開けることができなかった。
「魔法の鍵でも開かないなんて……」
「ふん。俺たちの目的は今夜寝る場所だ。開かないのなら、ほっとけばいい」
 そう言うと、さっさと鍵をしまってしまった。切り替えが早いのか、それとも扉が開かなくて不機嫌になっているのか。
「寝るには狭いが仕方がない。すぐに寝る準備をして、明日の朝早く出発するぞ」
 ユウリの声に、各自野宿に必要な布や道具を荷物から引っ張り出し、屋外の時に使う簡易テント用の布を石造りの床に敷き詰める。残りの布は掛け布団がわりにし、皆固まるようにして横になった。
「おい、バカザル。もうちょっとそっちの方に詰めろ」
「何無茶なこと言ってんだよ! これ以上寄ったら身動きとれねえじゃねえか」
 端にいるユウリがナギを足蹴にしながら言う。
「手足が長いだけのサルなんだからどうにかしろ」
「あーそーだな。お前はそういう悩みがないみたいで羨ましいぜ」
「お前が無駄にでかいだけだろ。俺は平均的だ」
「もぉ~っ! 二人ともうるさいよぉ! これじゃ寝られない!」
 二人が口喧嘩を始める中、シーラがガバッと起き上がり、不満の声を上げる。
「そうかぁ? 少なくともミオは平気みたいだぜ」
「へ?」
 シーラの気の抜けた声が私に向かって聞こえてくる。けれどすでに私は瞼を閉じ、この騒がしくも心地よい空間に安堵していた。久しぶりに実家で寝ているような、そんな暖かさを感じながら。
 
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