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碧い銀河

作者:fw187
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自由惑星同盟、アーサー・リンチ少将
  謝罪の影響

 ヤン少佐に謝罪の際、リンチ少将は言葉を継いだ。
「私には到底、思い付けない。
 君は何故、冷静に対処できたのかね?」
 英雄に見えない青年が首を捻り、髪を掻く。
「失敗して当然、と思われたからでしょうか。
 誰も期待しなかった御蔭で重圧、責任感を免れた点は大きいです」

「エネルギー中和磁場を展開せず、隕石群を装う脱出案も見事だ。
 素晴らしい発想だが、どうやって培ったのだろう?」
 21歳の青年は、追撃を予想していなかったらしい。
 困惑の表情が漂い、慎重に言葉を選ぶ。

「低速で無防備の輸送船が無事、逃げる為には戦わない必要がありました。
 古代地球史には撤退、逃走の実例が数多く見受けられます。
 成功例の大半は敵の思い込み、常識を利用していました。
 帝国軍の盲点、と考えた時イオン・ファゼカス号の故事を思い出したのです。
 ドライアイス鉱床の荒削り、防御力場も無い塊は帝国軍に発見されていません。
 先人の知恵に倣った御蔭で、助かりました」
 エル・ファシルの敗将が頭を振り、溜息を吐く。

「『能ある鷹は爪を隠す』、かね?
 君は『人は外見に拠らぬ』の典型だな、アッシュビー提督の再来かもしれん。
 失礼な事を言ってしまった、誠に申し訳ない」
 元上司は頭を下げ、青年の表情が和む。
「どうか、気になさらないでください。
 私は歴史に興味がありまして、戦史研究科配属を望んでいました。
 よろしければ、閣下の許で微力を尽くします」

 リンチ少将は眼を瞠り、再び溜息を吐いた。
「残念だが、艦隊を指揮する機会は無いだろう。
 とんでもない醜態を曝した者には閑職、後方勤務が待っている。
 良くて情報部、或いは捕虜収容所勤務かもしれんな」
 黒い瞳が泳ぎ、無意識に髪を掻き毟る。
「私は惑星エコニア勤務を命じられましたが、お陰で興味深い人物と逢いました。
 アッシュビー提督の謀殺説に関する情報も得られまして、感謝しています」


 宇宙暦789年2月14日、エル・ファシルの敗将に捕虜収容所勤務の命令が届いた。
 ドワイト・グリーンヒル中将は事務出納能力に優れ、後輩の面倒見も良い。
 士官学校二期先輩の援護で要望は通り、プレスブルク中尉が面会室に現れる。

「私は元エル・ファシル星系警備艦隊司令官、アーサー・リンチ少将。
 7ヶ月前に捕虜となったが、軍の都合で帰還した男さ。
 同盟軍と帝国軍の戦闘は殆ど、フェザーン自治領の謀略かもしれない。
 捕虜交換の度、莫大な仲介料が領主の懐に流れ込んでいる。
 コステア大佐は年金の数十倍も経費を横領して、フェザーンの銀行に匿した。
 君が捕虜となった経緯も、元を辿れば善良な貿易商人を装う輩の陰謀だろう」 
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