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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第97話『予選③』

 
前書き
前回指摘を受けたので、予選の競技のルールをちょちょいと変更しました。先に確認して貰えれば幸いです。 

 
 
「最下位……!?」


後ろを振り返った晴登は、そう悟って驚愕する。周りの人がいなくなったのは、晴登が速かったからではなく、むしろ遅かったからだとでも言うのか。


「そうだ、腕輪!」


晴登は競技開始前にジョーカーが、腕輪で順位が確認できると言っていたことを思い出し、すぐに確認する。すると赤い水晶の中に、白く数字が浮かんでいた。これが順位ということらしいが……


「128位……」


うん、これは恐らく最下位だ。チーム数は把握していないけど、間違いないだろう。
つまり、本当に晴登が遅れているのだ。


「くそっ、加減してる場合じゃない!」


晴登は"風の加護"の出力を増加。どこまで保つかはわからないが、四の五の言っていられない。まだ集団は見える範囲にいるのだから。
最下位なんて冗談じゃない。少なくとも30位以内と決めたではないか。


「はぁっ、はぁっ……」


何とか加速して集団に追いつくことに成功するも、既に息が上がってしまった。これでは集団を追い抜くには至らないだろう。
ひとまず、後ろについて休むことにする。


「こんな時に飛べたらなぁ……」


空を行けば、こんな集団に邪魔される心配なんかしなくていいのに。現に飛んでいる人はドンドンと先行している状態だ。
しかし、今の晴登にはその望みは叶えることができない。だができないとわかっていても、ついそう思ってしまうのだ。


「いやダメだ、現実を見ろ。まだ始まったばかりじゃないか」


晴登は頬を叩き、気持ちを切り替える。まだ諦めるには早い。諦めなければ、未来は消えないのだから。


「まずはこの位置で様子を見よう」


今晴登がいるのは集団の最後方。一見順位は悪いが、集団が風よけになって逆に走りやすくなっている。また、ペース配分も周りに合わせればそこまで苦ではない。


「ギミックに賭けるしかないか……」


自分の実力で上位を目指すのは厳しいと悟った晴登は、虎視眈々とチャンスを狙うのだった。







『それでは、"組み手"のルール説明を始めます』


アーサーに話しかけられた以外は特に何もなく、ルール説明の時間となった。準備運動を終えた緋翼は、声の主であるジョーカーの方を向く。


『ルールはシンプル。制限時間1時間の内にこの森に潜む敵を倒し、その点数を競うものです』


どうやら"組み手"とは言っても、選手同士が争う訳ではないらしい。まぁ人間相手に気軽に刀を振りたくはないから、好都合なのだが。
しかし、倒した数ではなく、"点数"とは……?


『はい、疑問に思った方もいるでしょう。この競技における敵──これは召喚魔術による魔獣なのですが、それらには強さによって1から10の点数を振り分けています。弱い魔獣は点数が低く、強い魔獣は点数が高いと思っておいて下さい』

「ふむふむ」


なるほど、そういうルールか。
つまり、ちまちま弱い魔獣を倒すよりも、少しでも強い魔獣を倒していく方が有利だということになる。問題はどれくらい強いのか、だが。


『競技中、持ち点と順位は皆さんのお手元の腕輪で確認できます。しかし、魔獣の点数は倒すまでわからない仕様となっています。倒すのに時間がかかったのに1点、だなんて不運なことにならないよう注意しましょうね』


注意しましょう、と言われても、具体的にどう注意すればいいのだろうか。そもそも強さの基準がわからない訳だし。
でもとりあえず、逃げ足の速い魔獣は無視した方が良いということだけはわかった。


『最後に、魔獣はタダでは倒されてくれません。当然皆さんに反撃します。その際、過度にダメージを受けて戦闘不能となった場合、ゲームオーバーということで失格になります。その場合は腕輪が通知しますので、素直に従って下さい』


ゲームオーバーまであるなんて、思ったよりリスキーな競技だ。きちんと身の丈に合った敵に挑まないと、失格して何もかもがおじゃんになってしまう。それだけは避けたい事態だ。


『それでは5分後に競技を開始します。各自、この森の好きな場所からスタートして下さい』


ジョーカーはそう言うと、「5:00」と表示されたタイマーと思われる画面を空中に出現させた。どうやら、作戦を考える時間もあまり与えてくれなそうだ。


「どうしようかな……」


緋翼は、続々と森に入っていく他チームの選手たちについて行きながら、そう悩むのだった。






スタートしてから5分も経たずして、競走(レース)は変化の兆しを見せた。


「……なんか森に入ってきたな」


集団の後ろをついて行きながら、晴登がその変化に気づいたのはつい先程。広かった道幅もかなり狭くなり、頭上も木の葉が覆い始めてきたのだ。道こそあるが、間違いなく森に突っ込んでいる。


「そろそろ最初のギミックか……?」


レースなのにわざわざこんなルートを進むということは、そういうことではないのだろうか。
ならばこれはチャンス。このギミックを難なくクリアすることで、ひとまずこの集団よりも前に出るのだ。


「俺の得意そうな分野でありますように……」


晴登は密かに神頼みしながら、山道を駆けていく。
すると次第に道に凸凹が増えてきて、不安定になってきた。これは気を抜くと転びそうだ。天井も低くなってきており、飛んでいる人は堅苦しそうにしている。
おかげで集団のスピードがかなり落ち、危うく渋滞となっていた。


「これじゃ全然進めないじゃん……って痛っ!?」


進まないことを愚痴った矢先、目の前の人が急に止まるので背中にぶつかってしまう。これは本格的に渋滞してしまったようだ。
晴登は額を擦りながら、止まった原因を知ろうと前方に目を凝らした。


「……いや見えないんだけど」


悲しいかな、周りは全員晴登より歳上で、身長も高い。集団の後ろに位置する晴登が、前を確認できる訳がないのだ。
仕方ない。少し緊張するが、隣の背の高い優しそうなおじさんに訊いてみよう。


「あの、今どうなってるんですか?」

「ん? あぁ、どうやらこの先が分かれ道になってるから、どの道にするかってことで迷ってるみたいだね」

「げ、分かれ道……」


分かれ道と聞いて、つい最近の嫌な思い出がフラッシュバック。もうゾンビに追いかけられたり、地面から手が出たりする展開だけは勘弁だ。


「というか、レースなのに分かれ道とか用意するのか……」


レースは一本道がセオリーじゃないのか。分かれ道なんて聞いたこともない。一体どんな道が先にあるのかは知らないが、これでは運ゲーもいいところだ。


「いや待てよ、逆にありがたいかも……?」


しかし、今の晴登にこの勝負を実力で乗り越えることはほぼ不可能。それこそ、運に任せる方が勝ち目がある。
つまり、これは願ってもないチャンスなのだ。まだ諦めるには早い。

……おっと、そういえばまだおじさんにお礼を言っていなかった。


「あの、教えてくれてありがとうございました」

「あぁ、いいんだよこれくらい。それよりも、君はもしかして日城中の選手かい?」


ふと、隣のおじさんにそう訊かれてしまう。
影丸といい、この人といい、日城中はやはり何かと目立つらしい。そりゃ最年少チームだから仕方ないとは思うけども。


「はい、そうですが……」

「やっぱり。まだ幼いのに立派だねぇ」

「いえ、それほどでも……」


何を言われるのかと心配になったが、おじさんはただ応援するかのようにそう言った。


「僕の息子が君と同じくらいの歳なんだけど、比べてしまうとどうしてもそう思ってしまうんだよ」

「そ、そうなんですか」

「まぁ、あの子は魔術の才能がないから、この道には進めないんだけどね」


そう言うと、おじさんは乾いた笑みを浮かべた。

これは以前聞いた話なのだが、基本的に魔術の才能は遺伝に由来しないらしい。例えどんなに親が優秀な魔術師だとしてもその子供が優秀とは限らないし、逆に一般的な家庭から凄腕の魔術師が生まれる可能性もある。魔術って不思議だな……。


「……あの、1つ訊いてもいいですか?」

「ん、何だい?」


この時、晴登は無意識にそう言っていた。実は密かに胸に秘めていた疑問があったのだ。訊くタイミングは今しかない。


「どうして、この大会に参加するんですか?」


ここは魔術の大会。晴登のように部活動の一環として出場するならわかる。しかし、言い方は悪いが、魔術なんてこれっぽっちも知らなそうなこのおじさんが出場するのは、正直違和感でしかない。一体、何を求めているのか……。


「う〜ん、やっぱり賞金目当てかな」

「あ〜賞金ですか〜……って、賞金!?」


ここに来て知らない情報を得て、晴登は混乱。終夜はそんな話1度もしていなかった。
しかし、考えれば妥当な話だろう。この大会には学生だけではなく、大人たちも参戦する。優勝賞品が杖1本じゃ割に合わないというものだ。


「まぁ、優勝なんてできっこないけどね」


そう言って、おじさんは肩を竦めた。言わずもがな、覇軍(コンカラー)の存在のせいだろう。それ以外にも、強豪がたくさん立ちはだかっているはずだ。そもそも、たかがレースでこんな位置にいる時点で、勝ち目なんて最初からない。
それなのに、おじさんの表情はそこまで暗くはなかった。


「この大会が"魔術師の祭典"と呼ばれているのは知ってるかい? つまりはお祭りだ。参加しないともったいないだろ?」

「なるほど……」


おじさんはニッと笑ってみせた。その表情は彼の年齢を考えればとても幼く、心からこの大会を楽しんでいるのだとわかる。
晴登にもその気持ちはよくわかる。お祭りなら勝敗よりも楽しむことを優先したい。──いつもならそう思う。


「……でも俺は、勝たなきゃいけない」


今晴登が背負っているのは自分1人ではない。終夜や2年生を筆頭に、仲間の想いを一心に託されているのだ。勝つために、ここに来ている。
そんな晴登の様子を見て、おじさんがフッと笑った。


「やっぱり君は立派だよ。頑張ってね」

「は、はい!」


おじさんにそう声をかけられ、晴登は元気よく頷く。敵対してるのに応援までしてくれるなんて、何て良い人なんだろう。これじゃ、簡単に諦めるなんてできないや。





その後、集団は徐々に進み始め、ついに晴登は分かれ道の目の前にたどり着く。
道の数は3本。どの道も森の奥へと続き、違いがあるようには見えない。


「なら俺が行くのは……右だ!」


困った時は右を選ぶといういつもの癖で、晴登は右の道を選択する。
ちなみに、さっきのおじさんは真ん中の道を選んだようで、ここでお別れとなった。


「さて、かなり人が減ったな」


分かれ道が3本なので、単純計算で1つのルートの人数は3分の1。だからさっきよりも幾分走りやすくなったのだが、代わりに集団の風避けが無くなってしまった。地味に手痛い。


「さて、ここからどうなるか……」


果たして、分かれ道によって何かが異なるのか。そして異なるならば何が異なるのか。ギミックの内容? それとも距離?
……正直どちらもありえそうだが、しかしコースは全長15kmと決まっていた。よって、後者の可能性は低い。


「なら、違うのはギミックの内容、か」


晴登はそう結論付け、先を急ぐ。この際ゾンビだろうが手だろうが、出るなら出てこい。全て蹴散らしてやる。


そう晴登が意気込んだのも束の間だった。


「……は?」


分かれ道の先、森を抜けた晴登の前に立ちはだかったのは、見上げるほどに高々と聳える断崖だった。
 
 

 
後書き
……え、前回の更新からもう1ヶ月経ったんですか? どうも、波羅月です。

遅くなって大変申し訳ありません。夏休みが終わって忙しくなったのもありますが、レースの内容をあまり考えてなかったのも遅くなった理由です。結果ばっか考えて過程をスルーしてしまったやつです。反省反省。

かといって、次回以降がスムーズに進むかと言われればノーコメントですね。これは長丁場になる予感……気長に待って貰えれば幸いです。文字数を削れば多少は早くなるので、それも検討しておきます……。

今回も読んで頂き、ありがとうございました! 次回をお楽しみに! 
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