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最弱能力者の英雄譚 ~二丁拳銃使いのFランカー~

作者:土佐牛乳
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第二十五話







 ダン、ダダン、ダン、ダン、ダン!!!!

 凄まじい斬撃と、隙を見せないリズミカルな弾音が会場に鳴り響く。
 大剣は、全ての障害物を倒し、何もない更地のように、ランク祭戦闘エリアは変わっていた。
 数時間でこのような変貌はないと、実況は叫んでいる。
 それだけ、二人の戦闘は、攻防、回避があった。

 一つの山場を越えた時、二人は、止まり会話を始めた。

「そういえばお前、戦う理由を聞いた時に、とっさ彼女って単語が出たよな」

 俺は確かにそう聞いた確信、彼の――盾田剣士の行動原理からわかる。
 これほどまでに成し遂げようと脅迫概念をもって行動しているのは、誰かのためではないかと。

「フッ、隠しても仕方のないことか……」

 そう吐き捨てるように息を出すと、こう俺に言う。
 目は、下を向き、ゆっくりと俺と目線を合わせた。

「そうだ」

 はっきりと、堂々と、さも当たり前のように。
 それが盾田剣士だとも言っている答えだ。

 そして彼は語りだした。彼の行動原理、全ての始まりを。

「ほんの少し前、ちょうどお前と卍城が対戦をした次の日の話だ。俺は九州特区のESP議会招集会に招待された。忘れもしない、その日俺は出会うべくして彼女と会った」

 彼は目を瞑る、その過去が、彼にどんな影響をあたえたのかなんて俺にはわからない。
 だけど、これだけはわかった。彼が良い出会いをしたんだろうと。

「私もまだまだだな…… あろうことか、そんな彼女の笑顔、孤高の存在、その勇士に惹かれてしまったのだ」

 卍城のことは言えないなと、自身のことを戒める盾田。
 彼が、一人の女の子にそんな肩入れをするような男だとは思いもしなかった。
 それを続きも、黙って聞いていた。

「故に話しかけてしまった。
 そして彼女のそばにいたい、そんなことを不覚にも思ってしまったのだ」

 彼女がどんなことをしている人間だなんて俺にはわからない。
 だけどいつも厳格な彼がこんなにまで変わってしまったのは、盾田の言っている彼女と出会ったからだろう。

「彼女は、世界を愚行な神の手から救うために戦っていた。いままで何年もそれも一人でだ
 数えきれないほどの犠牲、代償、裏切りをしたと語っていた。
 そんな”悲しそうな”顔をしている彼女が今もこの記憶にしっかりと刻まれている。
 だから彼女の居場所を奪った。彼女があの時に見せた笑顔で暮らせるようにと
 私は彼女が愛している世界を、彼女の代わりとなり、救い成し遂げなければならん」

 彼はたんたんと俺に話している。
 その語り部は俺の方を見る。そして手に持っていたその大剣を俺に向ける。

「この悪魔の武器は彼女が持っていたものだ。彼女から奪ったからには私はやり遂げなければならない」

 目を下に、そして俺を見るために顔があがる。
 だからだろうか、かれの言うことに間違いがあると俺はそう思った。

「そこ子がお前のことをどうおもってるのかなんて俺には一切わかんねえよ
 だけどな! お前はあの子のそばにいたいと思っていったんだろう」

「……」

 彼はうつむきながら俺の話を聞いていた。
 まるで自分の心を殺してもみえるその顔に、過去の自分の面影があると感じる。
 俺は、あこがれている人になるためにどうしても戦いたかった。
 実戦授業を受けることができなかった俺には戦うことは許されなかった。
 そんな昔、雁字搦めの状態を経験した。
 だから、過去の自分を彼にも重ね合わせていたのかもしれない。
 でも、だからこそ彼に言おう。

「だったら傍にいろ! あの子が世界を助けようとしている信念さえも奪って!」

 銃を奴に構え、こうも叫ぶ。

「ほんとうはあの子の支えになりたいと思ったんだろう!?」

 あくまで俺の勝手な憶測にすぎない。
 だけどどうしても言わなければならないと叫んだ。
 それが彼にとって余計なお世話でもいい。

「……だからだ! 私は一人でやらなければならんのだ!」

 全ては自分が始めたことなんだと。
 そうとも意味が取れる言葉。

「あの子の代わりとなり、私の手であの子の笑顔、あの子が守ろうとした世界を救う!」

 搾り取るように彼はそういう。
 だけど…… だけど!!

「……もう辛いことは私だけで、いい!!」

 それでもと、彼は叫んだ。
 なんでだよ、もっと簡単なところに、ハッピーエンドがあるだろうが。

「馬鹿野郎! だからなんでそうお前は一人で背負おうとするんだよ! そんなのがかっこいいって思ってんのか!!」

「つらい思いをしている彼女の代わりとなる…… それは彼女が好きだからだ! ならやって当然だろう!!」

 だからこそ、誰か一人を犠牲にしてやっているこんな世界が大嫌いだと遺伝子レベル、いや運命レベルで分かっていた。
 そんなクソみたいなエンドなんて…… 俺はいらない。
 みんながハッピーになれるエンドを。
 それが間違いでも、そんなものは無いと言われても。
 彼のすぐそばにはあるじゃないか。

「本当に愛しているのなら、相手を支える! そうじゃねえのかよ!!」

 前方にいる彼の方へと俺は駆けだした。
 すぐそばにある、勇気を出せば彼とっては遠くても、すぐ近くの届けるハッピーエンドを教えるために。

「あのこが笑って暮らせるなら! 私はそれでいいのだああああああ!!!!」

 俺の全身を真っ向から否定しなければならないと、彼は絞り切った水の出ない布を絞るように叫ぶ。
 脊髄反射のように、彼は俺と同時に動いた。

「てめえは筋金入りの馬鹿だよ!!」

 銃を持った両手を彼に向け、同時に放った。
 俺の斬撃で血を浴びた愛銃たちは、淡い赤みかかった銀色となっている。
 火花は、飛び散る花火のように、弾丸を飛ばし、薬莢は前方へと飛んでいく。

「ケ、系:絶対領域⦅ランセーネン・シールド⦆!!」

 俺の攻撃に慌てて反応すると、シールドを展開する。
 しかし、そのシールドは、しっかりと見えるようになっていた。
 白い、煙のような、いや彼の心の強度のような壁⦅シールド⦆は音を立てて壊れる。
 一つの”何か”が壊れたようにも見えた。
 それを見計らい、彼の右肩へ向けて、弾丸を放つ。

「ん、あァ! ぐぁあ!」

 あっけなく当たった、弾。
 なぜあの大剣で防ぐことをしなかったのだろうと、そんな疑問が。
 ああ、そうか。








 ブウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ
 終わりのゴングが会場に鳴り響いた。



「お前の勝ちのようだな……」

 目の前で、糸を切れたように動かない糸人形のように手をぶらぶらと動かし、彼はそう告げる。
 膝は地に付き、抵抗はしないという意思表示が、彼から見て取れた。

「ああそうだ。そしておめえの負けだ」

 そう言い奴の髪の生え際に銃を突き付けていた銃を見て、こう聞いた。

「お前、その剣で銃を防ぐことくらいできただろう」

 彼の右前にある地のコンクリートにささった大剣を見る。
 禍々しく、罪の代償のような大剣は、その異質なオーラを放っていた。
 俺を何度でも切り裂いた力を持っているこの武器だ。

「彼女、の…… そんな気が…… ただそれだけだ」

 彼の顔が、はっきりと見えた。

「透明な武器だって使えたはずだろう。なんで」

 初戦に彼と戦った時に猛威を振るったあの見えない武器。

「不死身の生物を相手にあの武器は役には立たないだろう」

 人をUMAみたいに言いやがって。このやろう。
 まあ一度見た武器は対策が簡単だからな。
 それを聞いて、奴の頭につけた銃を放す。

「まあそうだな…… 何かで潰れそうなら他人を頼っていいんだよ、誰かを巻き込んでもいいんだ
 おめえの人徳でAランクの仲間が誰か助けになってくれるだろう?」

 俺は彼から視界を外し、

「……まあ俺もいるけど」

 そう一言だけ言って、照れを隠すようにして、頭を撫でた。
 反対側を向いているので彼の顔は見えない。

「ああ…… そうだな」

 彼は、声が小さくも、そう答える。

「だからあれだよ…… うーん」

 もうちょっと言うことがなかったのではないかと、必死に頭を回転させこう言った。

「お前が想っている彼女もさ、どんな人かーなんて俺にはわからない。だけど、お前は彼女を支えたかったんじゃないの?」

 彼の言っている彼女のことの気持ちはどうかなんてわからない。
 だけど本当に愛しているのなら、相手を支えるものだと思っている。
 ただそれは、俺の考えであり、ただ目の前にいる彼に押し付けただけだ。
 それが罪だとは俺は思わない。
 彼は、彼女の笑顔に、その闘っている姿に惹かれてしまったと言っていたからだ。
 ならかたくなに一人で背負わず自分を押し殺さずに、彼女に思いの丈をぶつけるべきだと俺は思う。

「たしかに…… 確かにそうかもな。だがこれを奪ったからにはあの時のようには戻れない」

 彼は下を向き、そう答えた。
 トップを背負っている男とは思えないような、自身のない表情である。

「いや戻れるよ、人生はもう一度やりなおせる! まあソースは俺なんだけど。ほら」

 それを否定する。
 だめならやり直せと、剣先生に教えてもらった。
 それの受け入りだけどね。

 地に座っていた彼の体を支えて、立ち上がろうとした。

「本当にお前はお人好しの間抜け野郎が無能ゴミクズ腋臭」

 顔は見えない。
 だけど、罵倒の言葉からは、感謝の気持ちがわかった。

「はいはい…… めっちゃおも!」

 そうして俺のランク祭は、幕を閉じた。

















 ◇ ◆ ◇




 ランク祭が終わった俺は、部屋でぼーっとテレビを見ていた。
 時刻はPM9:00、窓から見える夜景は星々が自身の存在を示すかのように光っている。

 俺だけしかいない部屋に、バラエティー番組の音声が聞こえる。
 あのランク祭が終わった後に、大丈夫だと言ったものの病院に無理矢理に転送された。
 医師は俺の能力についてどうやら知っていたらしく、話はすぐに終わり、帰ると午後の9時になったということだ。

 マイとユウの顔を見たいとドアを開けたが、誰もいない部屋にテレビだけが付いていたのだ。

 すると眠気が襲ってきたので、リモコンでテレビを消し、ベットへと腰かける。

 ベットの柔らかさを堪能した瞬間に、携帯端末からメールが届いた音がきこえた。

[ランク祭制覇おめでとう(ピースの絵文字)お祝いは明日の授賞式と同時に行う。今日はゆっくりと休みたまえ(下を出している絵文字)]

 剣先生の顔文字の独特なセンスに、ちょっとした笑いが出た。
 確認が終わり、体をベットに倒すと、じっとコンテナハウスの天井を見る。
 ああ、終わったんだなと、とくに考えることはなかった。
 ぼーっとして疲れているのだろうと自分を自己分析して、目を閉じた。

 するとまた携帯端末にメールが入った。

 ユウからのメールを枕から半分出した顔で見る。
 今日、マイはユウの家へと泊まるらしい。
 あの先頭の後だったので、顔を確認したかったのだが、まあ仕方ないと画面を消した。


 疲れた。


 とりあえず武器の手入れだけでもして、今日は眠ろうと、ベットから体を動かした。
 マガジンポーチも、ホルスターも盾田剣士との戦いで無くしてしまった。
 しかし、この2丁の銃だけは、運が良いのか手元に残っている。

 多分この先ずっと使っていくのだろうなと、考えながら、手入れを始めた。

 血がこびりついており、なかなか擦っても落ちない。

 30分くらいかけて一つを終わらせて、だいたい一時間くらいで整備は終わった。
 今日もありがとうと、一声かけ、予備のホルスターへしまう。

 急に脱力感に襲われ、床に倒れるように眠ってしまった。








 
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