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最弱能力者の英雄譚 ~二丁拳銃使いのFランカー~

作者:土佐牛乳
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第十九話






 激闘により、ランク祭戦闘エリアの障害物は朽ちた建物のようにバラバラであった。
 一つは、座を成すように、人型の形。もう一つは、極一転を狙ったように、大きい円を描いて、コンクリートが抉り取られている。
 床には二歩、三歩と、削り取られたように跡があった。
 正面には、対戦相手のゴウ。

「その傷の治り方…… お前が能力者だったなんてなあ!! 」

 奴はそう叫ぶと、右頬をクイッと上げ、口が片方上がる。
 そしてこうも。

「化け物が、この俺様がぶっ倒してやるぜ!!」 

 俺のほうへと右手をパンチをした、その腕は音をならして宙を切る。
 その言葉に、観客はヒートアップし、歓声はドームを反響するように響く。

「ああ、こいよ!! 俺を殺せるなら殺してみろ!!」

 そう答え、ホルスターから愛銃であるSIG SAUER P228 XXダブルクロスを取り出した。
 その銃は白銀の光沢を見せると、特注で改造された造形でこの手に食いつくように馴染む。

「残り三分弱ってところか、お前を倒すには十分な時間だなぁ!!」

 そう言い、中腰の状態で血の流れる傷口を擦る。
 攻撃をするためクラウチングスタートの構えをとる。
 あの傷跡は、始めて間もない時に当てた弾丸だ。
 接近してきたあいつを、人的な急所めがけて放った。
 それを奴は、急所を避けて、あの攻撃を食らったのだ。
 しかし、いくら急所を避けたとはいえ、あの場所の内臓をえぐって時間がそれなりに経っているためかなりのダメージがあるはずだ。
 なんて精神力だ、まあこっからは根勝負なんだけどな。

 超能力とはいえ、頭を狙われては再生は間に合わないだろう。
 頭への攻撃は、極力よく注意を働いてかわそう。
 奴の行動は、イノシシのように単純明快だと今までの戦闘で分かった。
 あの言いぐさだとあと少しで、奴は出血多量で倒れてしまうだろう。
 耐えて堪えて、耐える、避けられるならば避ける。そしがあいつに勝つ最後の手段だ。
 ああ、やってやるぜ。

 みっともないが、この作戦であいつに勝てる。

 奴が根をあげるのが先か、俺が根をあげるのが先か。
 これほどまでに、熱い試合はないだろう。

 超回復か、超攻撃、どちらが優れているか勝負だ。

「行くぜえ!!」

 初動、奴が動いた。

 その力は突如発射されたジェット機のように、勢いよくその体はこちらに向かってくる。

 その移動の衝撃に空気は切り裂けそうなほど、甲高い音を鳴らす。
 波のように空気の刃をまとい、あっという間に手の届く範囲まで来ていた。

「だりゃああああああああああああああああああああ」

 亜空間を移動したかのように、右手が腹を壊す勢いで向かってきた。
 剣先生に認められた自慢の反応と、今までの経験に基づいた読みで躱す。

 しかし激痛。
 わずかながらにかすれ、三本ほど肋骨を折られた。
 掠っていながらも、その攻撃力は常軌を逸している。

「クッ!!」

 横のステップで、攻撃を受け流しながら大きく距離を取る。
 距離を取る途中、体に先ほどと似た、縦の揺れが襲った。

 ――――ドクン。

 体に電流が走るような感覚。超回復で肋骨は手品のように、回復した。
 断りに反した力にタスクは、肋骨を撫でる。
 無茶苦茶な回復力に驚く。

 先ほどの動けないまでの負傷に、回復の力の発動は遅かった。
 なるほど、首から上までの損傷は治癒力が遅くなるということか。

 不完全ではない再生能力。

 まあこれくらいのハンディはあってもいい。

 すぐさま奴が着地した位置に、カウンターである銃弾を放った。
 奴は第二撃をするべく、中腰になって俺を見ている。

 俺の攻撃を見ていたのか弾を避けた。

 そのうちに障害物に撤退をする。

 リロードと、体力回復を目的にした行動だ。
 すぐさま、コンクリートごと突っ込まれては大変なので、その身を走らせる。

 物陰から、出た瞬間身を隠していたコンクリートが爆発したかのように木っ端みじんになった。
 奴が、障害物ごと攻撃を仕掛けたのだろう。

 砂煙の中、奴が動いた気流を捉え、走りながら弾丸を放った。

 煙の中に、一発、二発と弾は食われ、三発目を打ったと同時に、次の障害物へと隠れる。

 ――――フウと息をついた一瞬だった。

 ダイナマイトの爆発音のようなものと、気づけばその身は宙に浮いていた。
 左腕はは反対側に曲がっており、右脛から下は激痛が走る。

 すぐさま体の欠陥を察知し、俺の能力は発動した。
 腕は芯が通ったように元通りになり、足の痛みはなくなっている。
 しびれるような自身の能力で目覚めると、空中で体制を立て直す。
 立て直しながら太ももから、ナイフを取り出した。
 着地、奴が正面一〇メートル先で構えていた。

「これでぇ!! とどめええええええええええええええええええええええ」

 考える間もなく、奴は俺の方へと突進を始めていた。
 その速度に避けるという思考が考えつく前に、今度こそ、そのパンチは腹にあたった。
 その一撃に、スポンジのようにへこんだ腹はありったけの血、肉、内臓を飛び散らせ、俺は後方へと吹っ飛ぶ。
 体をくの字に曲がったと思いきや、ショットガンの弾のように俺の血肉が飛び出しているのが分かった。
 手に持っていたナイフは、宙を飛び奴の足元へと落ちる。


 戦闘エリアギリギリにまで吹っ飛ばされていた俺は、目の前の自身の血肉、内装に大きな咳と共に血を吐いた。
 赤い血の池は、俺の顔を反射して、目の前の内臓などからは生臭いにおいを放っている。
 俺の内臓なのかと気づいた時には、激痛と再生が始まっていた。
 そして、再生が終わった合図であるしびれるような感覚で、俺はゆっくりと立ち上がった。

 地に落ちていた内臓は凄まじい速度で乾燥すると、砂煙となって風と共に消えていく。

 そこには激痛を楽しんでいる俺がいた。
 Mという体質ではなく、自身の再生能力に面白いという感想が生まれたのだ。

 ――――この感覚、病み付きになる。

 なあこれが”力”ってやつなのかよ……
 このバケモノめいた現象が……

 たまらない。ああ、お前らは自分の能力⦅さいのう⦆にこんな思いを巡らせていたんだな。
 無能力と言われていた過去だったが、今の自分にとんでもないような万能感が芽生えていた。

 俺は、やれる。

 なあ、俺を見下していたお前ら、どうだ。

 俺はお前らよりやれるんだぞ。
 だからしっかりと見ていろ。

 ――――――俺の戦いを。



 覚醒せし感覚《Awake Sinn》――――――。


 意識が加速し、ゴウを除いた映像の簡略化が始まった。
 そして、背景は絵の具をにじませたように、歪んでいく。

 俺を立ったのを確認したのか、奴は攻撃をする構えをとっていた。
 脳の情報選択に痛覚の情報を消した。
 次に、いかに少ない移動で彼の攻撃を浅いダメージにするかそのことに重点を置く。
 吹っ飛ばされた攻撃の影響で、銃が奴の近くに落ちている。
 一つは奴の5メートル横に、もう一つは左後方の3メートル離れた位置だ。
 攻撃を加えるには、二つの銃を取り直さなければなければならない。
 なぜ避けることに専念せずに、攻撃を加える必要がるのか。
 少しでも時間を稼ぐことと、攻撃を躱すことが難しいからである。
 奴の攻撃回数はあと少しで終わりといったところだろう。
 腰にあるマガジンポーチの重さで、だいたいのいくつマガジンがあるか考える。

 ざっと九つと言ったところだろうか。

 敵を視界にとらえる。
 奴は休みも容赦もなく、攻撃態勢に入った。
 地をなぞるように擦ると、凄まじい眼光をこちらに向けてきた。

 ――――突撃。

 前転をするように、避けるが遅かったのか足にへと、その攻撃が当たった。
 足は宙に舞って、目の前に落ちる。
 血が水を出しているホースのように勢いよく噴出し、周り一帯は血の池と化している。
 足をわし掴み、切られた足へとくっ付けた。
 すると、再生能力が発動した。
 接ぎ木をするようにして、何倍もの速さで再生する足。
 しっかりと動けるようにはなっていた。

 全速力で、二つの銃をとり、それを後ろに渡すように構え、感を頼りに奴へと放った。
 そのまま倒れ込むように、体を転がし、奴の状態を見た。

「てめえ!! この場に及んでまだそんな元気があったのかよぉ!!」

 奴は噴笑しかけるように叫ぶと、アッパーパンチをする要領で俺の方へと中指を立てた。
 見ると右肩に銃弾が当たったのか、だらだらと血が流れ、地へと水たまりのように溜まっていく。
 あの損傷を見るに、最後の攻撃が仕掛けられてくるだろう。

「威勢がいいな。突進攻撃はこれで終わりか?」

「俺はやれるぜ。おめえはどうだ無能力者!」

「余裕だよ」

 多くを語る必要はないと思っていた。
 なぜならそれは、戦闘をしているからだ。
 残り少ない時間だと、俺とこいつの間ではわかっていた。

(最後に立っているのはこの俺だ)

 奴の本気はこれから来るだろう。

「ほんじゃまあ……」

 奴はそれでもと、その攻撃態勢を変えない。
 しかし、今までとは違うその雰囲気に、頬にビリビリとちらつくような緊張感が走った。

「行かせてもらうぜえええええええええええええええええええええ!!!!」

 絶叫、そして絶叫。

「ドロップウウウウウウ!!!!!!スタンプウゥウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!!!!!!!」

 来たッ!! 奴の至高にして、強烈にして、必殺であり最強の技。
 先ほどはまともに食らって、その威力にメンタルを持っていかれた。
 だが、今度は二度と根をあげることはない。

 ――――さあ、来い!!

 俺はモロに攻撃を受けた。
 ひたすら地面に力を入れて立っていた俺は、無残にも、空気に舞う埃のように吹き飛ばされた。

 一個目の障害物に当たると、その身とコンクリートが同時に吹き飛び、下半身が外れて、次の障害物へと休む間もなく飛んでいく。

 まともな人間ならば死んでいてもおかしくない攻撃に――


 ――――ゥアァッ!!


 口から固形物が出ていくのが分かった。
 そのダメージにも関わらず、たがが外れているであろう能力は、その体を意識共々再生させる。

「ああああああああああああああ!!!!」

 かすかな視界が戻ったと思えば、全身崩壊による激痛が俺を襲った。
 そして電撃が流れるようにその体を震わせると再生が始まった。

「ぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい」

 未だ続く凄まじい激痛に、がちがちと歯を鳴らし、再生を待っている。
 徐々に激痛が一つ一つ無くなっていき、感覚もだんだんと元の体に戻っている。
 その感覚を、痛みに狂った頭で感じ取り、視界はぼやけ口からはよだれが出ている。

 人間というものは慣れるといった環境適応術が備わっていると誰かが言っていた。
 しかし、この身が半壊した状態からは凄まじい激痛があった。
 その激痛に俺は慣れることができなかった。
 凄まじい激痛の前では、環境適応術など無に等しいのだとわかる。

 ――――俺は最後まで立っているんだ。

 そんなことを思いながら、足をガタガタ揺らしながら立った。

 下半身が無くなって、立てるようになった時間。
 おおよそ20秒足らずだ。

 とんでもないような自分の能力ににやけながら、奴の動向を見る。


 奴は殴り終わった状態で固まっていた。
 銃弾を食らった肩であるはずなのに、奴はとんでもない威力で俺に攻撃をした。
 とんでもないやろうだ。
 その固まっていた姿は、日本国歴史で有名な弁慶を思わせるような姿勢である。
 全身からの血の提供が止まり、ついに戦闘不能となったのだろう。
 奴は、最後までやり切ったのだ。

 固まっていた顔はなんだか満足げでもあった。

 ブウウウウウウウウウウウウウウウウ!!!!

 試合終了の合図が鳴り響く。

 会場全体からとんでもないような歓声が聞こえてきた。


 ああ、やりきったぜ。
 なんともやり切った笑顔がムクムクと湧き出てきた。
 すると後ろの方から聞きなれた声が聞こえる。

「タスクぅううううううう!!!!!!!!」

 それに気づいた俺は、その声の方向を振りむく。
 その最前列には、涙を流しているマイがいた。

 そんな心配そうな顔をしていた彼女に、ありったけの笑顔を見せる。
 そして勢いよく立てた親指を向けた。






     ◇ ◆ ◇







 試合が終わり、選手待合室に戻っていた。
 すると、勢いよくドアが大きく開いた。

「タスクゥウウウウウウウウウウウウウ」

 マイが来ていた。
 俺の全身を隈なく見ると、血まみれにもかかわらず抱き着いてきた。

「もう…… タスクのばかあああああああああああ」

 俺の胸に顔を押し付けるようにして叫んでいた。

「ごめんな、心配かけちゃって」

 彼女の後ろ髪を撫でる、その髪からはいい匂いが鼻に入ってくる。
 そのサラサラの髪、肩を震わせながら泣く彼女に、その時に言う言葉を言えずにただ抱きしめた。

 ずっとずっと彼女に、自分の存在をわからせるように、強く強く。

「なんでタスクが生きているのかなんてわかんない…… だけど、こんな戦いは二度としないで」

 そう言って彼女はさらに強く抱きしめた。

「わかった…… ごめんね」









 それから、彼女が泣き止むのを待ち、体を綺麗にして二人一緒に帰った。



 俺はずっと彼女の隣にいたいと思った。
 それが再確認できた。












 
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