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最弱能力者の英雄譚 ~二丁拳銃使いのFランカー~

作者:土佐牛乳
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第十八話






 視界が暗闇へとゆっくりと霞んでいく、奴の声が途切れ途切れに聞こえる。

「――俺のドロップスタンプをまともに受けて、体の形がまともだった人間はいねえ」

 ゆっくりと男は近づく、

 ザシュ、ザシュ、ザシュ、ザシュ――――

 近づくほどに四つほど、地を歩く音が聞こえる。

「だがおめえは、頑丈すぎる。バケモノかおめえはよお――」

 薄い黒い影がだんだんと近づいてくるのが見えてきた。
 体は力が入らずにいた、こんなところで何をしているんだ。
 ダメージが想像以上にあったのか、首の可動範囲が狭くなっている。
 そんな動かない体に、鞭を打ちながら、音の正体を確認するべく、顔を少しづつ上げる。
 首の可動範囲が明らかに狭くなっていた。
 だからだろうか、小さく動くごとに凄まじい激痛が伴う。



 しかし何かバケモノだ…… お前の力技の方がバケモノだよ脳筋能力者め。
 そんなことを心の中で告げ、かすかに口元が緩んだ。

 体が動かない。

 そう、常識を超える衝撃をモロに食らうと、バケモノなら見ず知らず、動かなくなってしまうのだ。
 ただ、俺の場合は背中から衝撃を受け止めたため、脊髄へのダメージが、キャパを超えていた。
 多分だろうが、背骨の大半は壊滅しているとみている。

 ち〇この感覚が無くなっていた。




 負け、か……


 なんでこう正面からの戦いを挑んだのだろうか。
 相手は、もう正面からしか攻撃手段はないと分かっていたのに。
 しかも、見るからに、突撃しか能のない人間だ。
 そんな人間に正面から挑んでしまった。
 俺は馬鹿だ。大バカ者だ。


 勝つなら正面からの戦いを避けるべきだったと思う。
 これらは言い訳にすぎない。
 正面から彼と一騎打ちをしようとしたら相手が強すぎた。
 ただそれだけの話。
 我ながらに、間抜けな話だ。

 体が遮蔽物のコンクリートにめり込んだまま、座っているように俺の体はなっていた。

「とどめだぜ…… 無能野郎」

 気づけば彼は、目の前に。
 その手が届きそうなほどの距離に、彼の言葉を聞き入れた。

 今になって、真正面から戦いを挑んで満足のような気分がたしかにあった。
 すがすがしくもあり、彼の行動をしっかりと見届けていた。








 この夢のような場面を淡々と見ていた。




 俺の人生は……







「お前のここまでの努力だけは認めるぜ。
 なんせお前は、卍城王也、盾田剣士と互角と、それ以上の力を見せたからな」

 薄くではあるが、何かを握りしめている手が頭上にあった。
 奴の腕であるとわかる。

「俺はお前のマジが見たかった…… だけどな相性が悪かったようだな……」

 間が3秒ほどあった。俺はただ彼の声を聴いていた。
 そうだ…… 俺を殺せ、殺してくれ。


 ズサッ!! 


 何かが、心臓へと突き刺さる感覚が、確かにあった。
 鋭利なものが、肉を切り、肋骨を断ち、無数の血管を切り刻んで進んでいく感覚。
 痛いという当たり前の痛覚すら俺には無かった。
 ただこれから殺されようと惨敗した人間の一生が終える映像だ。
 何か他人事のようにも思えてくる。
 誰の人生だ? ああそうだ俺の人生だ。




 こんなにも呆気なさすぎたんだな。










        ◇ ◆ ◇








 俺は誰なんだ?

 ――佐部タスクだ。



 何のために生きているんだ?

 ――憧れのあの人のようになりたい。そのために生きている。



 誰のために戦っている?

 ――それは…… 俺の……。



 では何のために戦っている?

 ――俺の強さを…… 証明するために。



 その先には何がある?

 ――わからない…… でも憧れのあの人のように、誰かを助けるためには、強くならなければならないと分かった。だから戦って強さを証明する。



 俺はすっと一人だった、だれかがこの手を差し伸べてくれてほしいと思っていた。
 ユウと初めて話した時も彼女からだった。基本受け身な俺だ。
 今は自分から接するようにはなったけど、結局は臆病なところは昔から変わっていない。
 そんな自分が誰かのために強くなりたいと思ってしまったのは、間違いなんだろうか。
 結局、今こうして戦えるようになったのは剣先生のおかげだからだ。
 やってみなければ、わからない。剣先生はそう言っていた。
 確かにそうだ、その場から動かない限り何も変わらないとは自分でもわかっている。
 答えも出ている、だけど一歩を出す勇気が自分にはない。
 結局はマイや剣先生に、何かを言われなければ動くことができないノロマなんだ。
 こんな自分で…… 何ができるんだろうか……

 所詮は甘ったれなんだ。
 切り捨てれば強くなれるのに、甘ったれゆえに切り捨てることができない。
 その考え方が今、この状況下ではっきりと表れている。

 このランク祭で――。

 俺は、目の前にいる男の前で、

 その恐怖に――

 圧倒的な敵の戦闘力に――

 肉体はボロボロにされ、動くことができなくなった。

 正面から立ち向かうだなんて、彼を舐めていた。とんでもない強さだ。
 無理だ、反応ができなかった。
 何が不死身の能力、再生の能力を持っているだ。
 所詮は、圧倒的不利な相手にはこうして、壁に打ち付けられるような雑魚無能野郎だ。
 ゴミなんだよ、こんな自分すら救えない俺には誰も救えない。
 生きる価値なし、思う存分殺してくれ。




 ――――――俺を殺してくれ。




 みっともなさすぎる、こんな自分が誰かにあこがれをいだいていたなんて……
 思い上がりにもほどがある、あこがれていた人にも失礼だ。

 自分が憎い、無能の俺に何ができる。

 このまま体は動かずに、俺は何も成し遂げることもなく、生涯を終えるんだ。
 さあ殺してくれ。


 これが生涯、最弱無能と馬鹿にされつづけて、何も掴むことができなかった人間の末路だ。





       ◇ ◆ ◇










 これから死ぬんだと。
 諦めていたんだ、もう駄目じゃないのかと。




 ドクッ!!




 瞬間、心臓を強く打ち鳴らしたような音が、俺を襲った。
 すると体のつま先から、細部にわたる隅々まで、とんでもないような衝撃。
 次に焦げるような痛み――
 この感覚…… デジャヴを感じさせる。
 凄まじい痛みに、痙攣のような体の揺れがあった。
 視界は電流が走ったように、直下型に揺れに揺れる。
 だが激痛は収まることはない、いまだつんざくような痛みが、全身に流れる。

「ああああああああああああああああああああああああああああ」

 空から雷が落とされたように、俺の体は絶叫と共に、その身を震わせた。
 俺は、いつの間にか声が出せるようになっていたのか、声を張り上げる。
 自身の体が埋め込まれていたコンクリートから飛び出すと、痛みに悶えるように全身をくねらせていた。
 そしてなぜか、突然と夢から覚めたように、体を自由に動かせるようになっていた。

「な、なんだあこれ!?」

 頭上、50センチほど離れたところから、驚いたような声が聞こえる。

 それが感知できるほどに、俺の五感は復活していた。
 まるで、悪い夢を見ていたかのように俺は両手で耳を塞ぎ膝の間で縮こませながら座る。
 全身からは冷や汗。
 そしてかすかではあるが、妙な震えが汗で冷え切った手先を震わせていた。
 右手には能力印が、ジリジリと焦がれるようにうずいている。

「うぅうううううううううううう」

 体から乾燥した皮膚のようなものが、ボロボロと落ちていく。
 傷だらけの体には、超再生の力が働き、きれいな皮膚が首筋から見えてきた。
 下に落ちた皮膚は、下に落ちると細かい粒子のようになり、風に乗って消えていく。

 幼い子供のようにうめき声をあげながら、自身の能力にただ震えていた。
 この感覚…… 思い出した。

「てめえ急にどうしたんだよ!! 何がどうなってんだ!!」

 ゴウが俺の醜態を見て、混乱しているようだ。
 その声には焦りも交じっており、目の前の現実を受け入れることができる状態ではなかった。



 俺は、現実を終えることができない。
 俺は、現実から逃げられない。


 俺は、死ねない。


 みっともなさすぎる。
 そんな情けない感想が俺の心の中で生まれる。







 その時だった。



「タスクゥッ!!!!!!、ここで終わらないよねッ!!!!!!!!」



 幾たびの歓声をすり抜けて、その声援は確かに俺の耳へと届く。
 会場のどこからか、聞き慣れた声が聞こえてきた。
 大好きでいつからかそばにいたいと思っていたあの子の声だ。

 この会場であの子が見ていたんだ、ここで終わるわけにはいかない。
 どんなに無様でも、たとえ負けたとしても、挑み続けろと剣先生は言っていたんだ。
 こんなところでべそをかいて…… 何をしていたんだ俺は!!

 うずいていた体制から立ち上がると、にじみ出ていた目元の滴を服の袖で拭う。

 そして自身の右頬を、力の限り殴った。
 折れたような音が鳴り、勢いに視界は大きく揺れ、意識が軽く飛ぶ、しかし気合は十二分に入った。



「オォシッ!!」



 俺は……
 唖然となって正面に立っていたゴウを視覚で捉え――
 何を弱気になっていたんだ。
 この体は綺麗になり、体中の傷は消え動かないと思っていた下半身は何もなかったように動く。



 そして俺はその右手を、力強くも天高くつきあげる。



「見ていてくれ!!!!!」



 喉が張り裂けそうになりながらも、あの子に届くように大きく叫んだ。
 そしてこうも叫んだ。



「諦めない限り俺は負けえねええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 手を目の前にかざし、その手のひらを対戦相手であるゴウに向け、ファイティングポーズを取る。
 この魂の叫びは自身の能力に対しての開き直りでもあり、この戦いで自身が知り得た教訓でもある。
 好きな子にとんでもなくみっともないところ見せてやるぜえええええええええええ!!!!


「そうこなくっちゃなあああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!タスクううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう!!!!」


 そう獣のように叫ぶと、すかさずゴウはクラウチングスタートの体制を取っていた。



 俺たちの戦いは!! これからだああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 
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