| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

おっちょこちょいのかよちゃん

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

79 凶暴な小学生

 
前書き
《前回》
 かよ子は隣のおばさんの甥、三河口がなぜ実家を離れておばさんの家に居候しているのか気になり出す。杉山達かよ子のクラスメイトや三河口の友人に隣町の子達がおばさんの家に集合した日、三河口は自分の過去を語り始める!! 

 
「それじゃ、俺が小学生の頃の話をすべて聞かせよう」
 かよ子は真剣な顔になりながら、話に耳を傾けようとした。

 神奈川県横浜市。とある小学校に一人の男子児童がいた。その男子は怒りっぽく、すぐ人間関係でトラブルを起こしてばかりいた。その男子の名前は三河口健といった。
 小学1年生の頃、ただ皆は休み時間に鬼ごっこをしていた。自分も皆と遊びたかった。だが・・・。
「あ、三河口はだめ」
「何でだよ、僕もやりたいよ!」
「ダメっつったらダメだ」
「何だよ、ケチ・・・!!」
 三河口は仲間外れにされたその哀しさと怒りを抱いた。その時だった。三河口は鬼ごっこしている皆をぶん殴った。それもかなり勢いよく。先生に呼び出されて叱られたのは言うまでもない。当然親にも電話が来た。母に叱られた。
 そして些細な事ですぐ喧嘩した。体育の授業でマット運動していた時、順番で揉めて相手を蹴り飛ばした。担任の先生からビンタを喰らってこう言われた。
「そんなに喧嘩すんならもう学校来なくていいよ!!」
 三河口は叱られて泣いた。体育館を抜け出して校庭の隅で泣き続けていた。学校はこんなに嫌な所だと思うと行くのも嫌になった。そして何をやっても親に叱られる。兄とも喧嘩してはいつも弟の自分がけしかけた、自分が原因だという理由で親にはいつも自分だけが怒られる。家に居場所もない。
(なんだよ、もう・・・)
 三河口には友達がいなくなった。休み時間は遊ぶことなく、図書室で本を読んでいるか、ただ机の上でボーっとしているだけだった。
 ただ、そんな彼にもただ1つだけの楽しみがあった。夏休みに静岡県清水市にある親戚のおばさんに行く事だった。そこの叔母やその旦那、従姉達は優しく、遊んでくれた。
(この家の子だったら、いいなあ・・・)
 三河口はいつも横浜の実家に帰る日になった時はその家や家族と別れるのが寂しくてたまらなかった。

 暴力的な児童は進級しても変わらない。次の担任の先生からも三河口の事は暴れすぎのゴクツブシとしか思われなかった。叱られる毎日だった。とある日だった。たまたま言い合いになった女子に怒りを表した時、手も触れずに念力の如く途中にあった机や椅子をなぎ倒し、壁に叩きつけた。その女子は大泣きして、保護者同士で謝罪する事態となった。
「アンタはどうしてそんな事ばかりすんのよ!!」
 母親に物凄く怒られたどころか、兄にも嫌な弟だといって激しく殴られた。だが、その時だった。兄が急に撥ね返された。そして三河口は兄への反抗の罰も併せて夕食抜き、家を出された。父親が帰ってきても母は父に入れさせないようにした。
 家に出されたままの男の子はここにいるのが嫌になってどこかへ行ってしまった。外は夜となって暗かったが、帰るつもりはなかった。やがて三河口は警察官に会った。
「君、こんな遅くに一人で歩いてちゃ危ないよ」
「あ、すみません・・・」
「おうちはどこだい?」
「・・・帰りたくない」
 三河口は何度もそう言ったが警察官はそうはいかなかった。三河口は交番へと連れて行かれた。学校で騒ぎを起こした事や兄弟喧嘩で家を出された事は一応喋った。とりあえず父が来てくれ、なんとか家に入れてくれたが、それでも母や兄との関係は険悪なままで何も変わらなかった。

 そしてこの凶暴な態度は教師にまで矛先が向かうようになる。3年生の頃の担任の先生には「何も成長してない」と言われ、教師を吹き飛ばした。4年生にはこんな自分が嫌だと思い、飛び降り自殺を図った事がある。その時だった。即死してもおかしくないはずなのに、なぜか助かった。自分は死んで当たり前だと思ったのに死ぬ事もできないのか。これが学校でも問題となり、少し学校を休むように言われた。母は夏休みに親戚のおばさんの家に連れて行かないと言った。しかし、事情を母から聞いた叔母はそれは可哀想すぎる、娘達も三河口と会いたがっていると言われて何とかなった。従姉達はそんな凶暴な自分を恐れずに可愛がってくれた。三河口自身もこの時にようやく自分が自分らしくいられるのはこの家にいる時ではないかと思った。だが、その叔母さんの家の娘達もいつまでもいてくれるわけではなかった。この間に長女のゆりが大学に進学するという事で一人暮らしをする事となり、清水を離れてしまった。

 5年生の頃の夏休み、三河口は従姉のさりと二人きりになる時があった。確か風呂から出た後にさりに部屋に呼ばれた時である。
「健ちゃん」
「さりちゃん・・・?」
「お母さんから聞いたんだけど、家でも学校でもとても辛い思いしてるの?」
「うん、怒ると急に暴れて自分でも抑えられないくらいになるんだ。それで兄貴からも嫌われたし、父さんや母さんも俺を少年院に入れようと考えてるんだって」
「ええ!?そんな、酷い!」
「それに、学校に戻ってもまた何か問題起こすんじゃないかって思うと心臓がビクビクして体もそわそわして・・・」
 さりはその泣きそうな従弟の様子が正常ではないと思った。
「健ちゃんはこの家の方がいい?」
「うん、いつも帰る度に寂しくなってしょうがないんだ」
「そうなんだ。私も寂しいわ。ゆり姉はもう家を出ちゃったけどあり姉ももう高ニだから再来年になったら家を出るかもしれないの。そうなると私一人よ」
「そうなんだ・・・」
「健ちゃんがここにいて私の弟になってくれたらいいかも」
「うん、俺もさりちゃんと一緒だったらな・・・」

「だが、俺は本当に少年院行きとなったんだ」
「ええ!?」
 皆は驚いた。今の三河口の性格からするとありえない事であろう。しかし、あれだけ暴れたというのならば仕方がないのかもしれないともかよ子は思った。

 そして、本当に三河口は県内の少年院に送られた。ここには万引きや置き引きなどの盗みをしたり、傷害事件を起こしたりなどした少年少女が集まっていた。三河口は社会復帰していけるのか不安に思いながらも矯正訓練を受ける事となった。兎に角感情的になる事を抑えよう、あんな恐ろしい能力(ちから)は封印しようと自分自身も努力した。そんな時、ある人物が面会に来た。なんと清水に住んでいる叔母だった。
「健ちゃん、元気にしてる?」
「叔母さん・・・。はい」
「あのね、健ちゃんが少年院(ここ)に出たらウチで引き取ろうと思ってね。今の家に帰ったって辛いんじゃないかって思ったんよ」
「は、はい・・・」
「大丈夫よ。ありは家をでちゃうけど、さりがまだいるし、さりも喜ぶよ」
「はい、ありがとうございます」
 三河口は兎に角叔母に恩に着るしかなかった。
(これで、俺は辛い思いをしなくていいのだろうか・・・)
 三河口は院内の少年少女とは特にトラブルは起こさなかった。そして出所する時には、中学生になる前となっていた。家に戻って実の家族と別れる事にはあまり寂しさを感じなかった。寧ろもう戻りたくないと思った。引っ越しは叔母が家に来て手伝ってくれたという。

 そして三河口健は中学生からは清水市での生活となったのである。 
 

 
後書き
次回は・・・
「親戚の家へ」
 清水での三河口の新たなる生活が始まった。小学生の頃とは全く違った環境や少年院での社会復帰の訓練の影響もあり、特に問題ない生活を送れるようになったのだが、その生活には別れもあった・・・。 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

感想を書く

この話の感想を書きましょう!




 
 
全て感想を見る:感想一覧