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英雄伝説~灰の騎士の成り上がり~

作者:sorano
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第107話



ユミルに到着したリィン達はリィンの実家にいるシュバルツァー男爵夫妻に会いに向かった。



~温泉郷ユミル・シュバルツァー男爵家~



「父さん、母さん、ただいま戻りました。」

「よく帰ってきたな、リィン。それとエリゼとエリスも。」

「ええ…………特にエリスはこうして無事な姿を見せてくれて、本当によかった……」

リィンの言葉に対してシュバルツァー男爵は笑顔で迎え入れ、シュバルツァー男爵の言葉に頷いたルシア夫人はエリスを抱きしめた。

「母様……今まで心配をかけてしまい、申し訳ございませんでした。」

「ふふ、いいのですよ。貴女がこうして無事に帰ってきた……それだけで十分です。」

「そうだな……エリゼも内戦でのユミルの件以降色々と辛い立場だったろうに、今までよく耐えてくれたな。」

「いえ……エリスの件も含めて色々と苦難の連続だった兄様と比べれば、それ程ではありません。」

エリスに謝罪されたルシア夫人は微笑みながら答え、ルシア夫人の言葉に頷いたシュバルツァー男爵に労われたエリゼは静かな表情で答えた。そしてルシア夫人とエリスが離れる様子を見計らったセレーネは前に出て上品な仕草で挨拶をした。



「お元気そうで何よりですわ、テオ様、ルシア様。特にテオ様は内戦時の傷がすっかり治っているようで本当によかったですわ……」

「フフッ、これもセレーネ嬢が私にかけてくれた治癒魔術のお陰でもある。内戦に続いて今回の戦争でもリィン達を支えている事……心より感謝している。」

「特に今回の戦争はリィンと共にトールズの生徒として過ごしていたセレーネさんにとっても色々と辛い出来事があったのでしょう……私達でよければ、いつでも相談に乗りますので、遠慮なく相談してください。」

セレーネの挨拶に対して静かな笑みを浮かべて答えたシュバルツァー男爵はセレーネに感謝の言葉を送り、ルシア夫人はセレーネに気遣いの言葉をかけ

「……お心遣いありがとうございます。その時が訪れれば、遠慮なく相談させて頂きますわね。」

ルシア夫人の心遣いに対してセレーネは再び会釈をして答えた。そしてシュバルツァー男爵夫妻とセレーネの会話が途切れる所を見計らったアルフィンは前に出て上品にスカートを摘まみ上げてシュバルツァー男爵夫妻に挨拶をした。



「お久しぶりです、テオおじさま、ルシアおばさま。お二方ともお元気のご様子で何よりですわ。それと……わたくしの浅はかさにより、お二方の祖国であるメンフィル帝国とわたくしの祖国であったエレボニア帝国が戦争をする事になってしまい、深くお詫び申し上げます。本当に申し訳ございませんでした……!」

「姫様……」

頭を深く下げて謝罪する様子をアルフィンをミュゼは辛そうな表情を浮かべて見守り

「どうか頭をお上げください、アルフィン殿下。私達の方こそ、ユミル襲撃後のリウイ陛下達への口添えを忘れたことで、このような事になってしまい、本当に申し訳ございませんでした……」

「しかも殿下はリウイ陛下達の要求に従い、既にアルノール皇家としての身分を返上し、祖国からの追放刑を受けたとの事………それらの件も含めて重ねてお詫び申し上げます……」

「わたくしの件に関しては、わたくし自身、自業自得だと思っておりますから、どうかお気になさらないでください。それにリィンさんとは”主と使用人兼愛人”という形になりましたが、わたくしにとって初恋の殿方の傍に一生いる事が許されているのですから、わたくし個人にとっては”幸せ”な状況ですわ。」

「アルフィン……」

アルフィンに続くようにそれぞれ謝罪したシュバルツァー男爵夫妻に対してフォローの言葉をかけた後微笑んだアルフィンの様子をリィンは静かな表情で見守っていた。



「そうですか………それでリィン。彼らはもしかして手紙に書いてあった……」

「はい、リウイ陛下達より任された遊撃軍――――――灰獅子隊の内、俺直々が率いる”リィン隊”に所属している者達の内、昔から親しい人物と今回の戦争の件で様々な事情によってメンフィル帝国の義勇兵として志願し、俺の部隊に配属されることになった人物達です。」

アルフィンの答えを聞いて安堵の表情を浮かべたシュバルツァー男爵はステラ達を見回してリィンに訊ね、訊ねられたリィンは答えた後エリゼ達と共に横に移動してステラ達とシュバルツァー男爵を対峙させた。

「―――お初にお目にかかります、シュバルツァー男爵閣下、ルシア夫人。私の名はステラ・ディアメル。メンフィル軍の訓練兵だった頃のリィンさんの相方を務めていました。」

「貴女がリィンの手紙にあったあの”ディアメル伯爵家”から出奔してメンフィル帝国に亡命したという………メンフィル軍の訓練兵として学んでいたリィンにとっては安心して背中を預ける事ができる相棒(パートナー)だったと聞いている。慣れない異世界での生活に加えて訓練兵だったとはいえ、軍人としての厳しい教育を日々学んでいたリィンを支えてくれたこと、感謝している。」

ステラが自己紹介をするとシュバルツァー男爵は目を丸くした後静かな笑みを浮かべてステラに感謝し

「いえ、私の方こそリィンさんには随分とお世話になり、支えてもらいましたからお互い様です。」

シュバルツァー男爵に感謝されたステラは謙遜した様子で答えた。



「どうも。リィンとステラの直接指導を担当していた”先輩”のフォルデ・ヴィントっす。俺に関しては、さぞ反面教師になるいい加減な先輩みたいな感じで聞いているんじゃないですかね?」

ステラの次に自己紹介をしたフォルデは軽く手を挙げた後苦笑しながら指摘した。

「貴方がフォルデ殿か。フフ……むしろその逆だ。素行の悪さはあくまで貴方の表層部分に過ぎない。その実、頭が切れ、気配りも利き、そして相当の腕利きだと聞いている。」

「おいおい……お世辞にしては、幾ら何でも持ち上げ過ぎじゃねぇか?」

「ハハ、そんなことはありませんよ。」

シュバルツァー男爵の言葉に対して苦笑したフォルデはリィンに視線を向け、視線を向けられたリィンは口元に笑みを浮かべて答えた。



「ミュゼ・イーグレットと申します。リィン少将閣下とエリス先輩には色々とお世話になりました。」

「ミュゼ君か。君の事情も聞いている。その歳で多くの重責を担う役目はさぞかし大変だろう。」

「いえ、リィン少将閣下が心の支えになってくれているので平気です。」

「あら、それはまた。」

「フウ……せめて、父様達の前でも遠慮して欲しかったのだけど。」

自己紹介をした後のシュバルツァー男爵の気遣いに対して答えたミュゼの答えにルシア夫人が興味ありげな表情を浮かべている中、エリスは呆れた表情で溜息を吐いた後ジト目でミュゼを見つめた。



「はは、エリスからも聞いてはいるがやはり只者ではないようだな。どうか、リィンとエリスのことをこれからもよろしく頼む。」

「はい。お任せください、”お父様”♪」

「どさくさに紛れてそんなことを言うなんて……本当に油断も隙もありませんね……」

シュバルツァー男爵の言葉に対して笑顔で答えたミュゼの答えを聞いたエリゼはジト目でミュゼを見つめた。そしてミュゼの自己紹介が終わるとクルトが自己紹介を始めた。

「クルト・ヴァンダールです。リィン少将閣下の指揮の下、日々研鑽を重ねております。」

「君が例の………ヴァンダール流には類稀なる双剣術の使い手か。優れた資質を持ちながらそれに甘んじず、誇示する様子もない。リィンかrまお聞いているが、その若さでは実に得難いことだ。」

「少し過大評価な気はしますが……」

「はは、決してそんなことはないさ。」

シュバルツァー男爵の高評価に対して気まずそうにしているクルトにリィンは口元に笑みを浮かべて指摘した。



「―――天使階級第六位、”能天使”ルシエルと申します。リィン少将には大恩があり、今回の戦争では”参謀”として我が智謀を……そして”天使”としての我が力をリィン少将の為に戦場で振るわせて頂いております。」

「ふふ、メンフィル帝国の本国――――――異世界には様々な種族が存在していて、私達の世界では伝承上の存在である”天使”も存在しているとは聞いているが……まさかその”天使”まで、リィンの為に力を貸してくれているとは。」

「もしかしてルシエルさんが以前の手紙に書いてあった、メサイアさんのように貴方に協力してくれている”天使”の方なのかしら?」

「いえ、ルシエルは手紙に書いてあった天使とは別の天使でして……ルシエルは紆余曲折があり、最近俺達の仲間になってくれた天使なんです。」

ルシエルが自己紹介をするとシュバルツァー男爵は静かな笑みを浮かべてルシエルを見つめ、興味ありげな表情を浮かべてルシエルを見つめたルシア夫人に訊ねられたリィンは静かな表情で答えた。

「先程ルシエル殿は”参謀”を任せられていると仰っていたことから、恐らく貴女には私やリィン達では決して及ばない叡智が身についているのだろう。どのような事情があって息子達に力を貸して頂いているのかは知らないが……どうか、その叡智と武で息子達がこの戦争で無事生き残る事ができるように、宜しくお願いします。」

「元よりそのつもり。リィン少将達には我が智謀と力を持って勝利への道を歩んで頂くつもりですので、どうかご安心ください。」

シュバルツァー男爵の頼みに対してルシエルは表情を引き締めて答えた。



「―――我が名はベアトリース。誇り高き”飛天魔”にして、最近リィン様の軍門に下り、リィン様の家臣となった者だ。以後お見知りおき願おう、リィン様のご両親殿。」

「え……リィンの”家臣”、ですか……?」

「フム……私は異種族の知識に関しては疎い為、”飛天魔”という種族はどういう種族なのかはわからないが……それでも、貴女は尋常ならぬ使い手の武人である事はわかる。そのような人物を”家臣”にする等、一体何があったんだ、リィン?」

「えっと、それなんですが――――――」

ベアトリースの自己紹介を聞いたルシア夫人が困惑している中、ベアトリースを見つめて考え込んでいたシュバルツァー男爵に尋ねられたリィンはベアトリースの事情について説明した。

「昨日にそのような事があったのか………フフ、まさかあのファーミシルス大将軍と同じ種族である人物を家臣にするとは、今回の戦争で飛躍的に剣士としてだけではなく、”上に立つ者”としても成長しているようだな、リィン。」

「はは……俺自身はまだまだ未熟者だと思っているのですが………それでも、陛下達から”軍団長”を任されている以上、陛下達の期待に応える為……そしてこの戦争を終結させる為にも、仲間や部下達と共に成長し続けたいと思っています。」

自分の説明を聞いて目を丸くしたシュバルツァー男爵に称賛されたリィンは苦笑しながら答えた。

「そうか……異種族の中でも尋常ならぬ使い手ばかりの種族である”飛天魔”としての力で、これからも厳しい道を歩むつもりでいる息子達を支えてやってくれ、ベアトリース殿。」

「無論そのつもりだ。リィン様を”主”として認めた以上、私はリィン様達の為にこの力を存分に振るうから、ご両親殿は安心してリィン様達の帰還を待っているといい。」

シュバルツァー男爵の頼みに対してベアトリースは堂々とした様子で答えた。



「あと自己紹介していないのは………」

ベアトリースが答えた後セレーネは気まずそうな表情を浮かべてアルティナに視線を向けたその時、アルティナは前に出て自己紹介を始めた。

「……アルティナ・オライオンです。………………」

「アルティナさん……?」

名前を名乗った後辛そうな表情で黙り込んだアルティナが気になったステラは不思議そうな表情を浮かべてアルティナに声をかけた。

「去年の内戦の際、”北の猟兵”のユミル襲撃に乗じてエリス様とアルフィン様を攫った張本人です。」

「アルティナさん……」

アルティナの告白にその場にいる全員が驚いている中ミュゼは心配そうな表情で見守っていた。



「わたしは本来ならここに招かれるべき存在ではありませんし、本当なら今回の戦争が終わった後にリィンさん達をわたしの命に代えてでも守り切った上でわたしが生きていたら謝罪するつもりでした。ですがせっかくの機会なので――――――あの時は、本当に申し訳ありませんでした。」

「アルティナさん……」

「………………」

(アルティナ……そこまで気にしていたんだな。)

辛そうな表情で過去の自分の罪を語った後シュバルツァー男爵夫妻を見つめて頭を深く下げて謝罪するアルティナの様子をエリスは心配そうな表情で見守り、エリゼとリィンは静かな表情で見守っていた。

「顔を上げなさい。」

シュバルツァー男爵にそう言われたアルティナは顔を上げてシュバルツァー男爵を見つめた。

「二人に怪我を負わせたわけでもないし、君は命令に従ったまでのこと。その意味でも非を感じる必要はない。」

「それは……」

「だが私にも言いたい事がある。」

シュバルツァー男爵が自分に対して何を言うつもりであるかを察したアルティナは辛そうな表情を浮かべて顔を俯かせたが

「ありがとう、アルティナ君。」

「え?」

シュバルツァー男爵から感謝されるという予想外の答えに驚いた後再び顔を上げてシュバルツァー男爵を見つめた。



「内戦後、クロスベルでの迎撃戦で捕虜になってリィン達に引き取られてからは、それ以降その幼さで今まで戦場続きだったリィン達をサポートしてくれたそうじゃないか。リィンとエリゼ、エリスの父親として、どうか改めて礼を言わせて欲しい。」

「い、いえ……それは、リィンさん達に”使用人”として引き取られたわたしの役目ですから。」

「フフ、だとしてもだ。」

「それに、今のあなたは自分で選んでこの場所にいるのでしょう?」

「……あ……はい……!今は自分の意志でリィンさんや皆さんのいるリィン隊に所属していますし、戦後はリィンさん達――――――いえ、シュバルツァー家の使用人としてリィンさん達をサポートするのがわたしの心からの望みです……!」

「アルティナさん……」

「いい返事だな。」

ルシア夫人の問いかけに対して一瞬呆けた後力強く頷いて静かな笑みを浮かべて答えたアルティナの様子をセレーネは微笑みながら見守り、クルトは感心していた。



「フフ、ならば君を歓迎しない理由はないな。こんなにも素晴らしい戦友に恵まれるとはリィン達も幸せ者だな。」

「ええ、俺もそう思います。」

そしてシュバルツァー男爵の言葉にリィンが頷いたその時

「うふふ、次は私達の番ね♪」

ベルフェゴールがリィンの傍に現れ、ベルフェゴールに続くようにメサイア達も次々とリィンの傍に現れた。

「べ、ベルフェゴール……それにメサイア達も……」

「す、すみません、リィン様。許可もなく勝手に出てきてしまって……」

「いや……元々ベルフェゴール達の事も紹介しようと思っていたから気にしていないさ。」

ベルフェゴール達の突然の登場に驚いたリィンだったが、メサイアに謝罪される苦笑しながら気にしていない事を伝えた。



「リィン、今そちらの女性達はメサイアさんのようにお前の身体から出てきたが、もしかしてそちらの女性達が手紙に書いてあった……」

「はい、ベアトリースのように新たに力を貸してくれることになり、”協力契約”を結んでいる異種族の人達です。」

シュバルツァー男爵に訊ねられたリィンはシュバルツァー男爵の推測を肯定してメサイア達に視線を向けると、まずメサイアが自己紹介を始めた。

「―――お久しぶりでございます、シュバルツァー男爵閣下、ルシア夫人。戦争中である今の状況で、お互い無事に再会することができて何よりですわ。」

「ああ。特にメサイアさんはセレーネ嬢共々内戦ではリィンを支えてくれたこと……本当にありがとう。――――――メサイアさんがメンフィル帝国と連合を組み、最近建国されたばかりのクロスベル帝国の皇族だという話には驚いたが……その様子から察するに、メサイアさんは今の立場を変えるつもりはないと判断してよいのだろうか?」

「はい、お父様とお母様に娘として……そしてクロスベル皇女として認知されても、リィン様の使い魔として務め続ける事も認めて頂いていますから、今まで通りの態度で接して頂いて構いませんわ。」

シュバルツァー男爵の確認に対してメサイアは頷いて答え

「そうか……機会があれば、リィンの両親としてご挨拶をしたい事をご両親に伝えて頂けないだろうか?」

「ええ、承りましたわ。」

シュバルツァー男爵の頼みにメサイアが頷くとベルフェゴール達はそれぞれ自己紹介をした。



「ハ~イ♪貴方達がご主人様の両親ね?私はベルフェゴール。”七大罪”の一柱を司る”魔神”よ。よろしくね♪」

「お初にお目にかかります。この身は我が主リィン様の”守護天使”に認めて頂いた”能天使”ユリーシャと申します。どうぞお見知りおきください。」

「同じくリィンをあたしの”主”としてリィンの”守護天使”になったユリーシャやルシエルと同じ天使階級第六位”能天使”レジーニアだ。この中ではベアトリースに次ぐ新参者だが、主に対する研究心は誰にも負けないと自負しているから、よろしく頼むよ。」

「―――アイドス・セイルーン。”慈悲の大女神”にして今はリィンの”運命”を見守る者よ。」

「貴女達が…………―――初めまして。リィンの父のテオ・シュバルツァーと申します。戦場ではリィン達の心強き仲間として共に戦って頂いている事……感謝しています。」

「テオ・シュバルツァーの妻のルシアと申します。どうぞお見知り置きを。それにしても……随分と綺麗な方々と一緒にいるのね、リィン?特にアイドス様は同性の私でも見惚れるような美人の女性だし、ベルフェゴール様のスタイルは女性なら誰もが羨むようなスタイルだし、手紙に書いてあったとはいえまさか”天使”が二人も一緒にいるなんて驚いたわよ?」

「ハハ……様々な奇縁があって、気づけばこうなっていたんです。」

ベルフェゴール達の自己紹介の後にシュバルツァー男爵と共に挨拶をしたルシア夫人に話を振られたリィンは苦笑しながら答えた。



「ふふ、挨拶はこのくらいにしてそろそろ昼食にしませんか。ちょうどお昼過ぎですし、皆さんもお腹が減っていることでしょう。」

「そういえば昼食はまだでしたわよね?」

「ええ、ブリーフィングを終えたリィンさんがわたし達にこちらに向かう事を提案されたのもつい先程ですし。」

ルシア夫人の提案を聞いてある事を思い出したアルフィンの確認に対してアルティナは頷き

「お言葉に甘えさせて頂きます。リィン少将閣下やエリス先輩が食べて育った郷土料理、楽しみです。」

「もう、ミュゼったら……」

「ふふ、すぐに用意できますから少し待っていてくださいね。」

ミュゼの言葉を聞いたエリスが苦笑している中、ルシア夫人は微笑んだ。



「今朝の狩りで良いキジ肉が手に入ってな。そちらも期待してくれていいぞ。」

「郷の近郊に連合軍が駐屯している今の状況で連合軍はよく狩りをする事を許可してくれましたわね……」

シュバルツァー男爵の話を聞いたセレーネは驚きの表情で呟き

「連合軍もアイゼンガルド連峰からは地形上の関係でエレボニア帝国軍が侵攻する可能性は低いと判断しているようでな。その為アイゼンガルド連峰方面に関しては護衛の兵付きという条件で許可されていたのだ。」

「わざわざ護衛の兵まで付けてまで狩りを許可するなんて、連合軍はシュバルツァー男爵家に相当気を使っている証拠ですね。」

「まあ、内戦の件がある上今回の戦争でユミルの連中には不自由をさせる羽目になっているから、可能な限りの便宜を図るようにしているんだろうな。」

「ええ、そうでしょうね。……後でエフラム皇子殿下達には改めてお礼を言っておきます。」

シュバルツァー男爵の説明を聞いたステラとフォルデは連合の考えを推測し、二人の推測にリィンは頷いた。



「あの……我が主の父君のご好意はとても光栄なのですが、この身とレジーニア、それにルシエルは”天使”の為、肉や魚等と言った他の命を犠牲にする食物を口にする事は非常に抵抗がありまして。誠に申し訳ございませんが、この身達に出して頂く食事には肉や魚を使った料理は省いてください。」

「まあ……そうなのですか。でしたら、代わりに食後のデザートを他の皆さんより豪華にさせてもらいますね。」

「というかそもそもあたし達”天使”は生きていく上で”食事”は必要ないのだけどね。」

「仮にも貴女はリィン少将に仕えている立場なのですから、せめてそういった事を言わない気遣いすらも貴女にはできないのですか。」

申し訳なさそうな表情を浮かべたユリーシャの申し出を聞いたルシア夫人は目を丸くした後答え、レジーニアの指摘を聞いたルシエルは顔に青筋を立ててレジーニアを睨んだ。



その後リィン達はシュバルツァー家で昼食を取った。



~食堂~



「フウ……人間が作る食事は久しぶりに食べたけど……中々美味しかったわ♪」

「ああ……私もこれ程の美味な料理は久しぶりだったな。」

「閣下が調達された山の恵みに夫人が菜園で育てられた野菜、ですか。」

「ふふ、野趣と滋味に溢れていてとても身体に染みました。」

「ボリュームも文句なしだったな。」

「デザートに出された野イチゴのタルトも絶品でした。」

「食後の紅茶も素晴らしい味わいです。」

食事を終えてそれぞれ食後の紅茶を楽しんでいる中、ベルフェゴール、ベアトリース、ステラ、ミュゼ、フォルデ、アルティナ、クルトはそれぞれ食事に対する高評価をし

「ただでさえ人数が多い事から、相当な手間がかかる事が予想されていたのに、肉や魚を口にすることができないわたくし達の為だけにわたくし達用の料理まで出して頂いた事には脱帽しました。」

「フム……今まで”天使”であるあたしは食事をする必要性はない為、これが初めての食事になったが………不思議なものだ。機会があれば、また”食事をしたい”という感情が芽生えているよ。」

「ふふっ、きっとレジーニアは初めて口にした食事を”美味しい”と感じてそんな感情が芽生えたのでしょうね。」

ルシエルは苦笑しながらルシア夫人の気遣いに対する感想を口にし、不思議そうな表情を浮かべて呟いたレジーニアの言葉を聞いたアイドスは微笑みながら指摘し

「なるほど……ということはこれがあたし自身の舌で”美味”を感じたことによる欲求―――――”食欲”か……食事を必要としない”天使”のあたしにもそんな感情が芽生えるなんて、これもまた興味深いね。」

「はは、みんな少し食べ過ぎたようだな。」

アイドスの指摘に納得したレジーニアが興味ありげな表情を浮かべて考え込んでいる中、仲間達の様子を見まわしたリィンは苦笑していた。



「フフ、みんな満足してくれたようで何よりだ。」

「リィン、食事の際に少し話が出たプリネ皇女殿下達もそうですけどステラさんと同じ貴方がメンフィル帝国軍の訓練兵時代にお世話になった上、貴方が率いている軍団の部隊長として貴方を支えてくださっているご学友の方々も夕食に招待してくださいね。」

それぞれ食事に対する高評価をしたリィンの仲間達を見回したシュバルツァー男爵は満足そうな表情を浮かべ、ルシア夫人はリィンにある事を頼み

「ハハ、わかりました。でもそうなると、少なくても人数は今の倍以上になりますから、夕食の場所は鳳翼館に大部屋を貸してもらった方がいいと思いますよ。」

「そうですね……それに、料理を用意する人達も母様達だけでは手が足りないでしょうから、私もお手伝い致します。」

「私も姉様と共にお手伝い致します、母様。」

「あの……!わたしも将来シュバルツァー家の使用人になる身として色々と学びたいですから、わたしも手伝わせてください……!」

「でしたらリィンさんの”使用人”を務めているわたくしも当然、お手伝い致しますから、遠慮なくこき使ってください、ルシアおば様。」

「お客様のアルティナさんもそうですが皇女殿下にまで手伝って頂くのはとても恐れ多い事ですが……お二方とも固く決意されている様子からして断る方が逆に失礼になりますから、お言葉に甘えて、4人ともお願いしますね。」

ルシア夫人へのリィンの指摘に同意したエリゼは手伝いを申し出、エリゼに続くようにエリスとアルティナ、アルフィンも手伝いを申し出るとルシア夫人は苦笑しながら答えた。



「では、私達は席を外すがどうかゆっくりしていってくれ。何もない所だが、足湯や温泉に浸かって日々の疲れを癒してまた明日から始まる戦いに備えてくれ。」

「何か不都合な事がありましたら、いつでも声をかけてくださいね。」

「了解しました。お二方のお心遣いに心よりの感謝を。」

そしてシュバルツァー男爵夫妻が退出の際の言葉を告げてユリーシャが感謝の言葉を口にすると夫妻はその場から退出した。



「……今回の戦争はお二方にとっては内心では辛い出来事でしょうに、そんな様子を一切顔に出さず私やリィン様達を気遣う事を最優先にするなんて、本当にいいご両親ですわね……」

「ああ……そんな両親に恵まれた俺は本当に幸せ者だよ。――――――それじゃあ食事も終わった事だし、みんなは夕食までそれぞれ郷で自由に過ごして日々の疲れを癒してくれ。」

夫妻が出ていった後に静かな表情で呟いたメサイアに指摘されたリィンは頷いた後その場にいる全員を見回して自由行動の開始を宣言し、リィン達はユミルでそれぞれ様々な方法で休暇を過ごし始めた――――――



 
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