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優勝した時に

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第一章

                優勝した時に
 木野未可子は恋人の氷川智昭に強い声で言い切った。
「私阪神タイガースが優勝するまで結婚しないから」
「そんなの何時になるんだよ」
 智昭は未可子に即刻言い返した。
「一体」
「一体って今年に決まってるでしょ」
 通酔い感じの眉にすっきりとした頬でやや茶色がかった波がかった髪を伸ばし後ろで束ねている。目鼻立ちはきりっとしている。背は一六〇位だ。
「それは」
「そうか?」 
 智昭はその未可子にどうかという顔で返した。色白で面長で強い光を放つ鋭い目を持っている、眉毛はきりっとしていて海苔の様に真一文字であるがそれぞれ離れている。茶色の髪を鬣の様にしており背は一七六ある。
「阪神だからな」
「阪神だからって何よ」
「いや、もうそれこそ」
 智昭は未可子にこうも言った。
「何時どうなるか」
「ピッチャーはいいじゃない」
 未可子はこう反論した。
「十二球団一よ」
「それはな」 
 智昭もそれは認めた。
「伝統的にいいよな」
「先発中継ぎ抑え全部揃ってて」
「防御率はいいな」
「去年だってね」
「ああ、けれどな」
 智昭は実は未可子に今プロポーズしたばかりだ、しかしあくまで阪神が優勝してからという未可子に言うのだ。
「打線駄目だよ」
「そうかしら」
「これも伝統だろ。ましてな」
 智昭は付き合ってもう五年の恋人にさらに言った。
「もう兄貴さんもいないしな」
「打線の柱がなくなったっていうのね」
「福留さんいるけれどな」
 それでもというだ。
「どうもな」
「大丈夫よ」
 未可子は強い声で言い返した、同じ職場で務めている彼に。そこで知り合って一緒に仕事をしているうちに付き合う様になったのだ。
「それは」
「そうか?」
「だから今年ね」
「阪神優勝したらか」
「そのプロポーズ受けるわ」
「それはやっぱり阪神ファンだからか」
「それもあるけれど実家のジンクスなのよ」
 未可子はこうも言った。
「京都のね」
「確かお前の実家って老舗の和菓子屋さんだよな」
「弟が後継ぐのよ」
「それで今修行中だよな」
「ええ、うちの景気がいい時はね」
 その時はというと。
「阪神も強くてね」
「優勝したらか」
「毎年いつも物凄く売り上げがいいから」
 その時はというのだ。
「だからいつもよ」
「阪神にはか」
「強くあって欲しいし」
「それで優勝したらか」
「その時にね」
 まさにというのだ。
「結婚しましょう、私達も」
「それじゃあそれまではか」
 智昭は未可子に困った顔になって述べた。
「俺達は」
「そう、我慢してくれるかしら」
「こだわり強いな」
「強いかっていうと」
 未可子も否定せずに答えた。 
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