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不知火の火

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第一章

               不知火の火
 遥かな昔のことである、景行帝は熊襲を討つことを決められた。
 その際帝は周りに言われた。
「朕がだ」
「行かれますか」
「帝ご自身が」
「そうされますか」
「そしてだ」
 そのうえでというのだ。
「あの者達を降そう」
「しかしです」
「熊襲の領地までは遠く」
「そこに行かれるまでは」
「構わぬ、赴く」
 大和からそうされるとだ、帝は周りに確かな声で言われた。
「だから船を用意してだ」
「そして、ですか」
「そのうえで、ですか」
「熊襲に向かわれますか」
「あの者達の地に」
「そうする」
 強い声であられたので周りも頷いた、そうしてだった。
 帝の親征が決まり帝ご自身が軍を率いられ熊襲の領地に向かわれた、その時に。
 八代の海を夜進まれていた時だった、夜であり。
 しかもこの海を知る者がおらず周りは帝に口々に頭を垂れて述べた。
「申し訳ありませぬが」
「海の路がわからなくなりました」
「このままではです」
「岸に辿り着くことも」
「左様か、ならだ」
 帝はその話を聞かれすぐにこう答えられた。
「どの船も近寄り動くでない」
「進まずですか」
「そうしてですか」
「おれというのですか」
「そうだ、夜の間は動かず」
 船はたがいに近寄り集まったうえでというのだ。
「そしてだ」
「夜を過ごし」
「そうしてですか」
「そのうえで、ですか」
「朝になってな」
 日が出てからというのだ。
「岸に向かうとしよう」
「はい、それでは」
「その様にしましょう」
 こうしてだった、軍勢は帝のお言葉通り今は海の上で動かないことにした、暗闇の中波音だけが聞こえる。
 だがある者が遠くにあるものを見て声をあげた。
「あれは」
「どうしたのか」
 帝はその者に声をかけられた。
「何があった」
「あれをご覧下さい?」
「あれは」
 帝はその者が指差した方をご覧になられた、すると。
 そこに火があった、それもただの火ではなく。
 橙色で海の上に燃えていた、帝はその火をご覧になられて言われた。
「あの火は」
「はい、海の上に浮かんでいますが」
「あの様な火があるとは」
「面妖ですな」
「全くであるな、しかも」
 その火をご覧になられているとだった。
 次第に増えていきやがて数百程になった、それで帝は言われた。
「まるでこの場を照らさんばかりだ」
「全くです」
「あの火は何でしょうか」
「海の上に灯るとは」
「面妖な火です」
「それもかなりの数ですが」
「わからぬ、だがあの火に照らされてな」
 そうしてとだ、帝はその火と火の周りを見て言われた。
「岸が見えた、ならな」
「その岸に向かって進み」
「そして陸地で休みますか」
「そうしますか」
「まだ熊襲までは遠い」
 その領地まではというのだ。 
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