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生きていた犬

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第一章

                生きていた犬
 佐古下徳治は獣医をしている、望んでそうなって夢を適えられて満足して働いている。だがそれでもだ。
 動物病院で働きつつその仕事の依頼にはいつも項垂れていた。
「あの、これもです」
「お仕事で、ですよね」
「必要な仕事だとはです」
 依頼先の保護施設の職員の一人太田優香に話した、その施設には多くの保護犬や保護猫がいるのだ。
「定員オーバーになって」
「それで、ですよね」
「収容上限を超えたら古い犬や猫から殺処分は」
「残念ですよね」
「この施設の考え方は変わらないですか」
 黒い髪の毛をショートにしていて穏やかで優しい顔を曇らせて言った、背は一七二程ですらりとした身体が白衣に似合っている。
「本当に」
「施設の中でも言われていますが」
 優香も暗い顔だ、茶色の長い髪を後ろで束ね奇麗な形の眉とはっきりした大きな黒い目で形のいい顎を持っている。背は一五八センチ位で服の上からも胸と腰の大きさと形の良さがはっきりとわかる。
「それでも」
「どうしてもですか」
「ここは保健所と同じですから」
「だからですね」
「上限を超えますと」
 収容出来る犬や猫のというのだ。
「その時は」
「保護犬や保護猫を引き取ってもらわないと」
「どうしても」
「独身やご高齢だと駄目とか安定した収入がないと駄目とか」
「引き取る条件をですね」
「あまり厳しいと」 
 その場合はというのだ。
「やっぱりです」
「引き取ってもらえないですね」
「はい」
 それはというのだ。
「そうなります」
「そのことも中で言われていますが」
「すぐにはですね」
「変わらないです」
「そうですよね、けれどです」
「それでもですね」
「折角保護しているんですから」
 それならというのだ。
「それ位のことは」
「本当に議論していますので」
「いい結果が出ることを望んでいます」
 その議論のとだ、こう言ってだった。
 佐古下は仕事にかかった、そうして目の前に一匹の黒犬柴犬によく似た外見で大きさは秋田犬と甲斐犬の間位の大きさの犬が来た。優しい目をしていて大人しかった。
 その犬を見て彼は言った。
「いい子ですよね」
「はい、凄く大人しくて」
 優香は佐古下に答えた。
「おっとりしていて」
「そんないい子でもですか」
「何人か引き取りたいって申し出た人がいましたが」
 それでもというのだ。
「条件に添えなくて」
「やっぱりそれですよね」
「申し出てくれる人はいるんです」
 そうした人はというのだ。
「本当に」
「それでもですよね」
「本当に条件が厳しくて」
「そこはもうですよ」
「緩やかにしないとですね」
「独身だと駄目とか六十歳以上もですよね」
「駄目です」
「あと安定した収入がないってのも」
 この条件もというのだ。
「もう、ですよ」
「条件としてですよね」
「それじゃあライターとかはどうなるんですか」
 そうした職業の人間はというのだ。 
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