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嫌いな猫が懐いてきたので

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第二章

「だからかしら」
「不愛想だからか」
「かえってそれが好きとか」
「不愛想なのが好きなんてないだろ」
 夫は妻に憮然とした顔で言った。
「そんなことは」
「けれど実際によ」 
 妻はさらに言った。
「私や紗理奈よりあなたに懐いてるでしょ」
「それはな」
「あなた嫌っていても意地悪とかいじめとかしないし」
「そんなことは弱い奴がすることだ」
 夫はすぐに返した。
「昔からそう思っている」
「ええ、あなたはそんなことしないわね」
「職場でも家でも何処でもな」
「そうよね」
「誰がそんなことするか」
 絶対にという言葉だった。
「本当にな」
「だからそうしたところがね」
「いいのか」
「何もしてこない、危害を加えないってわかっているから」
 だからだというのだ。
「マルもね」
「傍に来るのか」
「安心出来るからね」
「母さんも紗理奈もいじめないだろ」
「それでもよ」
「全く、変な奴だな」
「お父さん大きいし力も強いし」
 娘は父のそうしたところを話した。
「だから傍にいたら頼りになるから」
「それでか」
「傍にいるとか?」
「本当にお父さんは何もしないがな」
 父は憮然として言うばかりだった、そしてこの時もマルが傍に来ても一切何もしなかった。声もかけなかった。
 だがそれでもマルはずっと傍にいたしそれは食事の時も寝る時もだった、母や娘よりも彼のところにいた。
 父の態度は変わらない、やはり世話もしないし声もかけないが。
 それでも一緒にいた、そんなある日だった。
 マルがくしゃみをしたので母は言った。
「風邪だと思うから」
「病院に連れて行った方がいいわね」
「ええ、すぐに行きましょう」
「ならだ」
 父がここで言ってきた。
「車で行くか」
「ええ、獣医さん歩いてなら遠いけれど」
 妻は夫のその言葉に頷いた。
「車だとすぐだしね」
「だったらすぐに行くぞ」
「ええ、じゃあ紗理奈ちゃん行きましょう」
 母は娘に顔を向けて声をかけた。
「今から」
「それじゃあね」
「二人はマルを捕まえて籠に入れろ」
 父は二人に言った。
「マルは病院嫌いで行くとなると逃げたり暴れるだろ」
「それで捕まえるのに時間がかかるから?」
「それでなの」
「すぐに行くならな」
 こう言ってだった。
 父は車のキーを手に取った、それを見てだった。
 二人はすぐに籠を出して何とかアルを捕まえてその中に入れた。そうして父の運転する車で病院に連れて行って診てもらった。その診断結果は。
「軽い風邪ですね」
「軽いですか」
「ちょっとお薬を飲んでゆっくりしてますと」
 こう母に話した。
「それで、です」
「治りますか」
「はい」
 笑顔での言葉だった。
「そうなります」
「大したことないんですね」
「全く、ただ」
「ただ?」
「この子毛並みいいですね」 
 獣医はマルを見て言った。 
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