| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

A's編
  第六十三話 それぞれの穏やかな日常とスーパー銭湯   ★

side 士郎

「かっこよかった!
 私、将来ガンマンになろうかな」
「アリサちゃん、また」
「影響されやすいんだから」
「ふふ、アリサ、似合いそうだよ」
「でしょう」

 映画も終わり、新たな紅茶の準備をするために立ちあがる。
 しかし、アリサは映画を見るたびに将来が変わっているが、本気ではないとはいえ影響は受けやすいのかもしれない。

 まだアリサ、すずかの習い事までは時間がある。
 そして、俺のバイトも今日はすずかが習い事に行くまでだ。

 夜の鍛錬をするならなのは達と帰ると丁度いいか。

「まだ時間もあるしゲームでもしようか」

 そんなすずかの言葉を聞きながら新たな紅茶を取りに部屋を後にする。


 そして時間になったらなのはとフェイトと共に俺も送ってもらって、フェイトの家にお邪魔する。

「ただいま」
「「お邪魔します」」

 フェイトの続いて俺となのはが入るが人の気配がない。

「リンディさん達はいないのか?」
「え? う、うん。リンディ母さんとクロノは本局。
 アルフとユーノもついていってるよ。
 エイミィはアレックス達の所に行ってる」

 リンディさん達もバタバタしてるな。
 ユーノとアルフが向こうに行っているというとデバイスがらみか?

「なら夕飯まで軽くトレーニングしようか」

 フェイトの言葉で屋上に移動する俺達。

 なのはは不完全ながら戻った魔力で誘導弾を操作し、フェイトはデバイスなしでの高速機動でなのはの誘導弾をかわしながらなのはに迫る。
 なのはが誘導弾でフェイトにヒットを与えればなのはの勝ち。
 なのはの誘導弾をくぐり抜けてなのはに一撃、といっても寸止めだが入れたらフェイトの勝ちである。

 とはいえデバイスがないためなのはもフェイトもそこまで魔法が使えないので読み合いの方が主になるのだが。

 本日の初戦はというと 
 
「シュート!」
「しまった!」
「そこまでだな」
「勝利!」
「う~、私はこの機動じゃダメなんだね」

 今回の読み合いはなのはの勝ちだな。

「なら次は俺とするか?」
「あ、うん」
「なら、私は見学を」

 なのははある程度魔力が戻っているとはいえまだまだ完全ではない。
 それもあるので俺と向かい合うフェイト。

 フェイトは棒を俺は干将・莫耶サイズの木刀を投影し右手に持つ。

「それでは試合開始!」

 なのはの合図と共に構えるフェイトと自然体で構えを終えている俺。
 こうして向かい合うのも何度目かになるのでフェイトも俺がカウンター型というのはわかっているので迂闊に攻めてこない。

 ゆっくりと間合いを詰めてくるフェイト。

 距離は後一歩踏み込めばフェイトの間合いになる位置。
 武器の関係上、俺の間合いには一歩踏み込んでもあと半歩足りない。

 しかし最近はずっとフェイトがどう攻めてくるかばかり観察してたのも事実。
 たまにはこちらか仕掛けて見るか。

 あまり本意な動きではないが、虚を突くという意味では悪くない。
 予備動作なしに前に倒れるように獣のように体勢を低くし、足りない半歩を埋め、一歩を踏み込み、下から斬りあげる。

「っ! 下!」

 予想していなかっただろう一撃に後ろに飛びながら防ぐフェイト。
 そこに追い打ちをかける。

 さらに一歩踏み込みながら上体を元に戻し首への振り下ろすが、それは防がれる。
 そこから横に刃を薙ぎ、左手首を狙うがフェイトは半身を無理やり引きかわす。
 体勢が崩れているフェイトにさらに一歩踏み込みながら心臓に突きを放つが、棒で打ち払う。
 打ち払われた力を利用し、体勢を低くしながら太腿に斬撃。
 フェイトはそれをいまだ不安定な体勢にも関わらず再度後ろに跳びながら、棒を横に薙ぎ、俺の追撃を防ぐ。

 悪くない反応だ。

 攻撃は元々悪くなかったし、防御も悪くない。
 まあ、咄嗟に距離をとる癖があるが、これは高機動型かつ空中戦の経験なのだから仕方がないか。
 ただ相手が飛び道具を持っている場合は避けるにしても横に避ける癖をつけないと避ける事は出来ない。
 仮にフェイトが後ろに跳んでいる時に手に持つ木刀を投擲すれば、回避は困難になるだろう。
 これは後で少し話しておこう。

「士郎が先手をとるなんて珍しいね」
「たまにはな」

 そんな軽口を叩きつつ仕切り直す。
 ではちょっと意地悪ではあるが今度は少々トリッキーな攻め方をしてみるか。

「はあっ!」

 フェイトの身体の動きに気を配り、フェイトの踏み込みと同時に俺も踏み込む。
 左手でフェイトの棒を持つ手を受け止め、体の距離がほぼゼロになる。
 そして、あえて突きを放つように大きく振りかぶる。

「くっ!」

 咄嗟に俺から離れようとするフェイト。

 そのタイミングで

「はい」
「え?」

 木刀を軽く放り投げる。
 フェイトの意識が木刀に向き、俺は後ろに跳ぼうとしていた足を払う。

「きゃっ!」

 ってまずい。
 きれいに入り過ぎた。

 フェイトが完全に虚を突かれ、無防備に倒れる。
 咄嗟に手を伸ばし、フェイトが頭を打たないように抱き込みながら、俺もフェイトの足を払って片足だったので倒れ込む。

「すまない。
 大丈夫か? フェイト」
「うん。私はへいっ!!!」

 その瞬間、顔が真っ赤になるフェイト。

 客観的に見てみよう。
 左手はフェイトの棒を持つ手を握ったまま、右手はフェイトの後ろ頭にある。
 そして、フェイトに覆いかぶさっている俺。

「え、えっと……士郎になら何をされても平気だけど、その私達まだ子供だし、まだ早いと思うんだ」

 なんだかフェイトが暴走しているが、どうみても俺がフェイトを押し倒しているようにしか見えないよな。

「えっとフェイト、落ち」

 とりあえず顔が近かったので、顔を離して、落ち着けと言おうとした瞬間目の前を桃色の閃光が通り過ぎた。
 ……前髪が少し焦げたぞ。



「士郎君。何してるのかな?」
「なのは、何か誤解しているぞ」

 魔力がまだ完全には戻っていないはずだが、全身から凄まじい魔力が溢れてるんだが。
 ただし魔力光は桃色じゃなくて黒だが

「誤解って士郎君がフェイトちゃんを押し倒してる事?」
「そうだ」
「じゃあ、いつまでそうしてるつもりなのかな?」
「ああ、今すぐ立ち」

 上がろうとしましたよ。

「だ、だけど士郎なら嫌ってことじゃなくて」

 向こうの世界に行ってしまったフェイトに袖を掴まれている俺。
 ああ、このパターンってあれだよな。

 元いた世界でも何度かあった事だ。
 あの時はガンドだったけど

「士郎君の………バカ!!!」
「待て! なのっ!!!」

 過去なのはが放ったどの一撃より早い一撃が俺の眉間をきれいに撃ち抜き、意識を失った。



 それから数分後、意識を取り戻した俺。

「士郎君、ごめんね」
「私もごめん」
「ああ、大丈夫だ」

 非殺傷設定はかかっていたらしく、少し眉間がひりひりするが体には異常はない。

 とそろそろいい時間だ。

「なのは、時間は大丈夫なのか?」
「うん、士郎君とフェイトちゃんの家ならお父さんもお母さんも安心だからって」

 士郎さんと桃子さん、フェイトの家はまだしも俺の家も大丈夫なんですか?
 疑問が頭をよぎる。

 そんな時、なのはの携帯が鳴る。

「あれ? リンディさんだ。
 はい。なのはです」

 リンディさんから電話?
 まさかシグナム達絡みか?
 と思ったら

「今、マンションの屋上で練習を、はい、代わりますね。
 フェイトちゃん、リンディさん」
「あ、うん。
 はい、フェイトです」

 あまりにのどかだ。
 どうやら荒事ではなさそうだが。

「はい。聞いてみますね。
 士郎、なのは、リンディ母さんが今日は外食にするから一緒にどうって。
 もしよければリンディ母さんから、なのはのお家に連絡してくれるって」
「うん。私は大丈夫」
「俺も大丈夫だが、プレシアは?」
「プレシア母さんはもう仕事が終わったらしいから、一足先にこっちに向かってるからって」

 ハラオウン家で待ってプレシアと合流すればいいわけか。

「了解。なら俺も何の問題もない」
「うん。わかった。
 もしもし、はい、はい、わかりました。
 また後で。
 リンディ母さんもクロノももうすぐ帰るから、先にお風呂済ませちゃいなさいねって」
「うん」

 なのはは元気よく頷いているが、リンディさん、それは俺もここで風呂に入れという事なのでしょうか?

 そんな疑問が頭に浮かぶが、答えてくれる人は当然いるはずがなかった。




side フェイト

 お湯加減よし。
 準備は万端。

「士郎、なのは、お風呂お先にどうぞ」
「そんなフェイトちゃんのお家なんだから、フェイトちゃんお先に」
「そうだな。俺は一番最後でいいよ」

 なのはと士郎がそう言ってくれるけど。
 うん。やっぱりお客さんである士郎やなのはに先に入ってもらうべきだよね。

「やっぱりお先に」
「そんなそんな、フェイトちゃん」
「なのは、ほんとに」
「「……」」

 さっきからお互い譲り合って話が進まなくなっちゃった。

 う~、やっぱりこういうときは
 「なのは、一緒に入ろうよ」って誘うべきなのかな?
 あ、でもそれだと士郎を一人で待たせてしまうわけで。

 それにこっちの世界の常識でそんな事がおかしいってことが……でも一度士郎とは一緒に入っちゃってるからこの世界でもおかしくはないのかな。
 それだったら、なのはと一緒に入っても……でもそれだと士郎を一人で待たちゃう事になるから、それも悪いし。

 それになのはだけじゃなくて士郎も一緒なんて物凄く恥ずかしいし。

 そんな時、奥の転送ポートから

「あら?
 フェイトになのはさん、士郎まで。
 どうかしたの?」

 丁度いいタイミングで帰ってきたプレシア母さん。

「母さん、おかえりなさい」
「そんなとこでどうかしたの?」
「えっと……」

 そういえば母さんと毎日会うけど、別々に暮らす用になって一緒に入ってないし、久々に一緒に。

 でもその間なのはと士郎を待たせておくのも。

 いろんな考えが頭の中をぐるぐる回っていくのだった。




side 士郎

 お風呂に入る事になり、やけにフェイトが悩んでるが、何を顔を真っ赤にして悩んでるんだ?

 プレシアが帰ってきて、さらに悩み始めたようだし。
 そんなとき

「ただいま!」

 この声、エイミィさんか。

「いらっしゃい、なのはちゃん、士郎君」
「「お邪魔してます」」
「プレシアさんもおかえりなさい」
「ええ、エイミィもおかえりなさい」

 しかしプレシアとエイミィさんも普通に話すんだな。
 まあ、当然といえば当然か。
 管理局で一緒にいる時間も長かったこともあり、こちらではほぼ毎日顔を合わせてるだろうし。

「ところでこんな廊下で立ち話ってことは、お風呂はまだ?」
「はい。丁度入ろうかと話してたところです」
「それはグッドタイミング!」

 グッドタイミング?
 
「そしてこっちもグッドタイミング」

 エイミィさんの言葉とほぼ同時に

「こんにちは! お邪魔します!」
「お姉ちゃん?」
「美由希さんだな」

 リンディさんは高町家に行った事もあるし、フェイト達がこちらの世界に来た際に挨拶にも行っている。
 だがエイミィさんは高町家の人達と会った事があったか?
 リンディさんと一緒に翠屋に行った時にでも知り合ったんだろうか?

「エイミィさん、お姉ちゃん、いつの間に仲良しに?」

 なのはも同じ疑問を思ったのか、首を傾げている。

「そりゃ、下の子が仲良し同士なら、上の子もねえ」
「えへへ、意気投合したのは今日なんだけどね」

 なのはとフェイトもあまりの急展開に目を丸くしてる。
 それにしても意気投合したのは今日って、はっきり言ってもう数年来の友人って感じだ。

「でグットタイミングと言ってましたが」
「そそ、これこれ。
 美由紀ちゃんが教えてくれたんだけどね」

 エイミィさんが差し出す広告。
 そこには

「えっと海鳴スパラクーア、新装オープン?」

 俺は名前から予測がついたがフェイトは首を傾げる。

「えっとね、簡単に言うと皆で入る大きなお風呂屋さん」
「そうなんですか」
「スーパー銭湯とか言うよね」

 フェイトに説明をする美由希さんとエイミィさん。

 それにしても

「いつの間にこんなのが出来たんだ?」
「うん。全然知らなかった」
「それにしても種類が多いわね」
「あはは、この国の人はお風呂や温泉が好きな人が多いですから」

 俺となのはは、プレシアと広告を見ながら、スーパー銭湯が出来ている事に驚いている。

「で美由紀ちゃんと一緒に行こうという話になって、私は着替えを取りに来たわけだ」
「なのは達も一緒に行く?」
「え、いいの!」
「プレシアさんとフェイトちゃんも、士郎君も」
「皆で行こう」
「う、うん!」
「そうね」
「アリサちゃん達も誘ってみてもいい」
「いいよ、いいよ」

 女性陣は乗り気のようだ。
 俺も温泉などは嫌いじゃないので別にかまわない。

 ただ

「そうだ。士郎君も一緒に行くってことは一緒に入れるね」
「入りませんからね。美由希さん」
「ええ、いいじゃない。
 この前の温泉の時は一緒に入れなかったんだし。
 士郎君の年齢ならまだ女湯の方でも問題ないし」

 肉体的な年齢ならそうかもしれませんが、精神的な年齢で考えれば完全にアウトですからね。
 当然の事だが、女湯はお断りする。

 それにしてもなぜこうも美由希さんは俺と一緒にお風呂に入ろうとするのか。
 今回はなのはやエイミィさん達までいるのに。

 内心ため息をつきながら、スーパー銭湯に行く準備を始めるなのは達を見つめながら

「厄介な事が起こりそうなんだよな」

 妙な胸騒ぎを感じていた。




 そして士郎達が銭湯に行く準備をしている頃




side はやて

 小皿に少し取って、味見をする。
 ……うん。

「うん、仕込みはOK」
「あ~、いい匂い。
 はやて、おなか減った」
「まだまだ。
 このまま置いといて、お風呂に入って出てきた頃が食べごろや」
「うう~、待ち遠しい」

 夕食に匂いに空腹が限界なんか、ヴィータが伸びてしもうとる。
 これはこれで可愛いんやけど

「ヴィータちゃんとシグナムはこれでも食べてつないでてね。
 はい」

 そんなヴィータの様子を見かねたのか、シャマルがヴィータ達の前に和え物を置く。

「これは?」
「私が作った和え物よ。ワカメとタコの胡麻酢和え」

 お腹をすかせたヴィータが喜ぶと思うたんやけど

「……大丈夫?」
「大丈夫って!?」
「お前の料理はたまに暴発というか深刻な失敗の危険が……」
「見た目にだまされんだよな」
「ひどい!」

 確かにシャマルの料理の暴発に巻き込まれた事のあるシグナム達の気持もわからんでもないけど

「シャマルの料理もだいぶ上達しとるし、平気やよ。
 さっき私も味見しとるし」
「なら、安心です」
「いただきます!」

 シグナムとヴィータは正直さんやな。
 そんな二人の様子に、何やら視線を合わせて助けを求めとるシャマルと少し眉を歪めとるザフィーラ。

「シャマル、ザフィーラ困っとるやん。
 そんな細かい事で落ち込んだらあかんよ」
「あれ? はやて今の思念通話受けてないよね」
「思念通話してたん?」

 思念通話しとるとは思わんやった。
 シャマルの性格と表情から何となく言いたい事はわかったけど。

「失礼しました。お耳に入れる事ではないと思いましたゆえ」

 ザフィーラが頭を下げて謝るけど、私は気にしとらんし、それよりも

「ええよ、別に。
 ザフィーラ、滅多に喋らへんからたまに声を聞けると嬉しいよ」

 あまり喋らへんザフィーラの声を聞ける方が新鮮や。

 そやけど、シグナム達と一緒に暮らすようになってもう半年も経つんやな。

 皆の考えや性格もわかるんやけどリーダーのシグナムとザフィーラは言葉遣いが変わらんのがあれやな。

 まあ、こればっかりはもっとゆっくりと時間をかけていくしかないんやろうけど。
 もしかしたらずっと変わらんかもしれんけど、そんな未来を思い浮かべて苦笑してまう。

「そういえばそろそろお風呂の準備もできたかしら。
 お湯加減見てきますね」
「うん。よろしくな」

 お風呂場に向かうシャマルを見送りながら、シグナムとヴィータは和え物を食べ始める。

「ふむ。主はやての調理とは比べるべくもないが、シャマルのこれも悪くはないな」
「うん。とりあえず腹には入る」
「あかんで、シャマルかて努力しとるんやから」

 辛口な二人を軽く嗜めつつ、和え物に手を伸ばす。

「うん。おいしいやん。
 ほら、ザフィーラも、あーん」
「あーん」

 ザフィーラにも和え物を食べさせる。
 そんな時

「きゃああっ!!」
「シャマル?」
「なんだ?」

 シャマルの悲鳴が我が家に響き渡った。
 何事やろ? お風呂場で何かあったんやろうか?
 転んだりして怪我とかしとらんとええんやけど。

 心配やからお風呂場に向かおうとするよりも早く

「ごめんなさい!」

 リビングに駆け込んでくるシャマル。
 元気に駆けこんできたんやから、転んだりとかはしとらんみたいや。

「お風呂の温度設定間違えてて、冷たい水が湯船一杯に」

 崩れ落ちるシャマルってそんな落ち込まんでも、それぐらいの失敗誰にでもあるんやし。

「沸かし直しか」
「そやけどこのお風呂の追い炊き時間かかるからな」
「シャマル、しっかりしてくれ」
「ごめんなさい」
「シグナムさ、レヴァンティン燃やして水に突っ込めばすぐ沸くんじゃ」
「断る」
「即答かよ」

 普通はシグナムのような反応やと思うで。
 大切な相棒をそんな事に使おうとは思わんやろ。
 いや、それ以前に

「よう考えたら、こんなしょうもない事に魔力使ったらあかんやん。
 シャマル、ポストに入ってたチラシの束、まだ取っといてあるか?」
「はい。今週の分だけですけど」
「ちょっと持ってきてな」
「は、はい」

 私が何をしたいんかよくわからんで首を傾げとったけど、私の記憶が間違ってないんやったら、あのチラシがまだあったはずや。

 シャマルからチラシを受け取って

「え~と、あっ、これや」
「海鳴スパラクーア、新装オープン?」
「記念大サービス」
「なにこれ?」
「皆で入る大きなお風呂屋さんやね」
「皆でですか!?」

 シャマルが少し頬を染めて、驚いとるけど

「勿論、男女は別やで」

 混浴とかあったりするんやけど、ここにはないやろうしな。

「温泉に滝の打たせ湯、泡のお風呂に、バイブレーションボディマッサージバスに紅茶風呂。
 いろんなお風呂が十二種類もあるやて」
「それは素晴らしいですが」
「なんか楽しそう」
「それに新装サービスで安い。
 三名様以上やとさらに割引やて」

 新装オープンサービスと団体割引、これだけお風呂が多ければ面白そうや。

「これは行っとけ! 事ちゃうか?
 行ってみたい人!」
「「は~い!」」

 手を挙げたのはシャマルとヴィータの二人。

「我が家で一番のお風呂好きがなんや反応鈍いで」
「ああ、いえ」

 ん~、これは

(シグナムはまた身内の失態を主に補ってもらうのはよくないと思てるんか?)

 銭湯の事を説明しながら、思念通話でシグナムにだけ声をかけてみる。

(う、はい)
(何度目かの注意になるけど、シグナムはごっつ真面目さんでそれは皆のリーダーとしてええことやけど、あんままじめ過ぎるんはよくないよ)
(すみません)
(私がええ、言うたらええねん。皆の笑顔が私は一番うれしいんやから)

 皆のリーダーとしてしっかりしてくれるのもありがたいし、頼もしいのもホントや。
 やけど、なにより皆が笑っていられる事が一番うれしい事やから

(はい。申し訳ございません)
(申し訳んでええから、私を主と思ってくれるなら私の言葉を信じてな)
(はい。信じてます。
 我が主)

「そやから、シグナムも行こう」

 思念通話しながらシャマル達と話してたのをまとめるようにシグナムにもう一度尋ねる。

「わかりました。ではお言葉に甘えて」

 シグナムの返事に喜ぶシャマルとヴィータ。

「ザフィーラも行こうか」

 さっき手を挙げんかったもう一人の家族にも声をかけてみるけど

「お誘い誠にありがたいのですが、私は留守を預からせていただきたく」
「そうなんか?」
「夕餉の見張りもございますゆえ」

 そういえばザフィーラは狼のせいかお風呂が苦手やしな。
 それに一緒に行ってもザフィーラだけは男風呂で一人になってしまうわけやし。

 う~ん、士郎君も誘えば
 でも士郎君の家にも親戚の人が引っ越してきて一緒に暮らしてるてシグナムが言うてたから、急なお誘いも迷惑やろうしな。

 士郎君の家に住んでる人との初対面がお風呂いうのもアレやから今回は諦めようか。

「ほんならごめんな。
 ザフィーラは留守番いう事で」
「御意に」
「ほんなら皆、着替えとタオルを持ってお出かけの準備や」
「「おお!!」」
「シャマル、私の分も頼む」
「は~い」

 シグナム達と別れて、ヴィータと一緒に着替えを取りに部屋に行く。

 皆でお風呂やなんてすんごい楽しみや




side シグナム

 主はやてとヴィータ達が出掛ける準備を始めるために動き始めたのを見送る。

「主に窘められたか」
「ああ」

 ザフィーラの問いかけに一切躊躇うことなく頷いていた。

「だがなぜだろうな。
 恥いる気持ちはあるのだが、不思議と心が温かい」

 感じた事のない感覚。
 いや、主はやてと出会うまで感じた事のない事だった。

「真の主従の絆とはそういうモノなのだろうな」
「そうなのかな」

 今まで経験がない事でわからないが、穏やかに笑っているヴィータ達となにより笑顔でいる主はやての姿をみると心が安らぐ。

「不安もあるだろうが、心身の休息も戦いのうちだ。
 今は主と共にゆっくりと寛いでくるのがよかろう」
「うむ。お前の少し眠っておくといい。
 今夜も蒐集は深夜からだ」
「心得ている」

 今夜の事も話し終わった時

「シグナム、準備できたわよ」
「ああ、今行く」

 シャマルの呼び声に応え、主達の待つ玄関に向かう。

 しかし、真の主従の絆か。

 今まで私達が知る事のなかったモノ。

 その絆が主はやてと結べているのか不安もあるが、主のために蒐集しないという誓いを破ったとしても、あの方を守りたい。
 私はこれからも主はやてを守るために剣を執る事を躊躇う事はないだろう。

 そうだろ、レヴァンティン。

 私の心の呼びかけに首にかけた愛剣の鎖が静かにしっかりと鳴り頷いていた。 




side 士郎

 なのは達と別れ、男湯のロッカーに着替えを入れる。

 こうして男湯に来るだけでも少々揉めたのだが。

 理由は簡単。
 美由希さんが俺をここでも女湯に入れようとしたのだ。
 フェイトの家で言っていたのは冗談ではなかったらしい。

 そして勿論断ったのだが

「大丈夫。女風呂への男児入浴は十一歳以下って書いてるから」

 と連れ去られかけた。

 しかも最悪な事にエイミィさんは面白がって止めはしないし、プレシアも俺は子供だからと言って止めない。
 だが幸いな事になのは達はさすがに恥ずかしいと反対してくれたのでなんとか助かったのだ。
 なのは達には今度少し豪華なデザートを作ろう。

 そんな事を思いながら服を脱ぎ始める。
 しかしこうして服を脱いでいると少しではあるが視線を感じる。

 その視線に敵意や殺意はない。
 恐らく子供の俺に傷がいくつもあるのが原因だろう。

 まあ、ここまで来たら気にしても仕方がない。
 たまにはのんびりとお風呂を楽しむとしよう。

 空が見える露天風呂まであるらしいし、あとで行ってみるか。

 そんな事を思いながら、風呂場に向かった。




side フェイト

 こんな大きなお風呂二度目。
 ジュエルシードを探していた時に大きなお風呂は士郎とアルフと一緒に入った事があるけど、なのはやアリサ、すずか、友達と一緒に入るなんて初めての経験で少しドキドキする。

 あの時はあの時で士郎と一緒だったからドキドキしてたけど。
 
 プレシア母さんの背中を流して、なのはと一緒にプレシア母さんに体を洗ってもらって、なのはと髪の毛を洗い合ってる。

 プレシア母さんは洗い場の近くのジャグジーというお風呂で私達を穏やかに眺めてる。

 海鳴に引っ越してきて戦いもあったけど、こんなに恵まれてて幸せな光景が愛おしい。
 まだ戦いはあるけど誰ひとり、大切な人達が欠けることなく乗り越えたい。

 とそんな時背後に忍び寄る影。

「うりゃあ!!!」
「にゃああ!!!」
「きゃああ!!!」

 迫力ある声と共に降りかかるお湯。

「命中!」

 何が起きたのか混乱しながら声の方を見上げると

「ア、アリサ?」
「アリサちゃん?」

 体にタオルを巻いて仁王立ちしてるアリサがいた。

「もういつまで洗いっこしてるの」
「アリサちゃん、早く皆でいろんなお風呂に入りたいって」

 そういえば母さんとなのはと洗いっこばっかりでアリサやすずかと一緒に全然お風呂に入ってなかったかも。

「あはは、ごめんね」
「ごめん、つい」
「そんな洗いっこなんて家が近所なんだから家庭の事情が許せば毎晩だってできるでしょう。
 折角スパラクーアに来てるんだからここならではの施設を楽しまなくっちゃ」

 そうか。
 毎晩でも。
 士郎の家も近いし、プレシア母さんとも一緒に入ることだって出来るんだよね。

「そうだね。
 今日も譲り合うんじゃなくて一緒に入っちゃいばよかったんだね
 じゃあ、練習の後とか今度から一緒に入ろうか」
「うん」
「そういえば、フェイト。
 さっきエイミィさんに聞いたんだけど一人で髪を洗えないとか」
「エイミィ、なんで皆に言いふらしてるの」

 もう遅いけどちゃんと言っとかないと

「フェイトちゃん、髪長いもんね」

 すずかの言うとおり、長いから一人じゃ洗いにくかったりするけど、ちゃんと洗えるんだよ。
 ……目が開けれないだけだよ。

「洗えるよ。ほんとだよ」
「まあ、フェイトの髪を洗うのは今度私とすずかがするとして、行きましょうか」

 う~、なんか信じてもらえてない感じだけど、今は皆で温泉を楽しむ事にした。



side 士郎

 一通りお風呂を堪能したが、新装オープンで割引料金という事もあってか人が多い。

 そこで人が少ない静かなところに移動する。
 そこは

「それにしても、こんな銭湯にも露天風呂があるんだな」

 子供用の露天風呂である。
 無論大人用のもあるのだが、そこは人が多かったのでやめたのだ。

 そこまで広くはないが、幸いな事に貸し切りである様だから堪能させてもらうとしよう。
 それにこうして月を眺めながらの風呂というのも風流だ。

 まあ、不安な点としては子供用の露天風呂は混浴であるという事だ。
 十二歳以上の男児立ち入り禁止とのこと。

 子供用の露天風呂は混浴という事はアリサが調べていたから、いきなり入ってくる事はないだろう……たぶん。

 とその時、露天風呂への扉が開く音。

 俺が視線を向けている男湯の方の扉は開いていないので女湯の方。

「あ、お邪魔しますね」

 そして入ってくる聞き覚えのある大人の女性の声……大人の女性?
 それよりこの声って

「シャマル?」
「あれ? 士郎君」

 まさかと思って振り返るとタオルを巻いたシャマルとヴィータ、シグナム、そしてシグナムに抱かれたはやてがいた。

「なんでさ」

 な、なんでシグナム達までいるんだよ。

「子供用露天風呂とはいえ女性に年齢制限などはないらしい」
「係のおばちゃんが言ってたぞ」

 まずい、まずいまずいまずい。
 何がまずいって色々まず過ぎる。

「すまない。
 すぐ出るから」
「ああ、気にせんでええよ。
 確かにじっと見られたらアレやけど、ここは混浴なんやし。
 シグナム達もええやろ?」
「はい」
「士郎君なら」
「うん。士郎、間違ってもはやてをじろじろ見たりするんじゃねえぞ」
「そんな事をする気は毛頭ないが」

 はやて、ヴィータ、シグナム、シャマルの四人と一緒に入浴もまずい。
 確かに精神も肉体に引き摺られる形で多少幼くなっているとはいえ、完全に子供と同じとはいかないのだ。
 動揺するなというのが無理な相談だ。

 そしてなによりもまずいのが、海鳴スパラクーアになのは達と闇の書事件の関係者が勢ぞろいしている点である。

 これは一歩間違えば全てが破綻するんじゃ。

 なのは達とはやて達が出会うとする。
 はやてと出会うという事はシグナム達が傍にいるという事で、つまりは闇の書の主がはやてという事がばれる。
 完全に俺が隠そうとしていた事は全て破綻する。

 そして、俺自身もなのは達の味方につくか、シグナム達の味方につくか選択を迫られる事になる。

「シグナム」
「ん?」

 はやて達の意識が夜空に向いている時にシグナムを小声で手招きをする。

 シグナムも俺の意図を感じてか静かに傍による。



「どうかしたか?」
「……え? ああ、ちょっとまずい事があってな」

 近づいてきたシグナムの胸元に意識が向いてしまった。
 気をつけないと

「この前戦ったフェイト達がここに来てる」

 俺の言葉に目を見開くシグナム。

「偶然とはいえこんなとこで出会えばはやての事もばれる」
「そうなるだろうな」
「シグナム達はあとどれくらい?」
「私たちは最後に露天風呂に来たからな」

 ということは俺達の方が後から来たのか。

 来たタイミングと帰りタイミングが一緒だとはち合わせる可能性が高いのも事実。
 中ではち合わせなかった幸運、こればかりは広いスパラクーアに感謝だ。
 それ程広くなければ、もう戦いになっていただろう。

「なのは達はまだしばらくいると思う。
 あとシャマル達には伝えない方がいいと思う」
「ん? なぜだ?」

 今回のような事態でありながら、伝えるなという俺の言葉に首を傾げるシグナム。

「シャマルは突発的な事に弱い。
 ヴィータもこれを知ればピリピリするだろう。
 そうなればはやてが気が付くし、周りの客にもその空気は伝わる」
「なるほど下手に意識するよりも周囲に意識は最低限の方がいいという事か」
「そうだ。広いといっても同じ建物内だ。
 下手に警戒するよりも周囲にまぎれた方が誤魔化せる」

 正直言えばここまで会わなかった事が奇跡に近い。

 そして、こうして同じ場所に集まってしまったのだから、どうにか接触を防ぎたいところだが、この銭湯という場所が問題だ。

 男女が別の空間であり、俺の干渉はし難い。

 その中でうまくなのは達やエイミィさんに出会わないようにするとなると

「この状況だとこれしかないか。
 ―――投影、開始(トレース・オン)

 投影するのは装飾もされていない銀の腕輪。
 それに指先を切り、血を一滴垂らす。

「―――同調、開始」

 これでいい。

「シグナム、これを」
「これは?」
「簡易だが認識阻害の腕輪だ。
 これをつけていてくれ」
「すまんな」

 シグナムが左手首に腕輪をつける。
 その時

「さっきからなに二人でこそこそしとるん?」
「いえ、その大したことではないのですが」

 話し過ぎたらしい。
 はやて達の注目が俺とシグナムに向く。

「最近、鍛錬が出来てないからな。
 近いうちにやりたいなと話していた」
「うちのリーダーも士郎も好きだな」

 俺の言葉に呆れたような視線を向けるヴィータと苦笑するはやてとシャマル。 
 どうやら話の内容は聞かれなかったらしい。

「うちも一度士郎君とシグナムの鍛錬は見てみたいな」
「まあ、それは機会があったらな」

 さてこのまま一緒に入り続けるのも色々目のやり場に困るので

「さて、俺はそろそろあがるよ」
「主はやて、我々も」
「そやな。結構長湯してしもうたしな」
「だね。それにおなか減った」
「ですね。それじゃ」
「ええ、また」
「士郎君、今度はうちに遊びに来てな」
「ああ」

 はやて達と別れ、露天風呂を後にし、そのまま俺は風呂場から脱衣所に向かう。

 脱衣所で服を着て、髪を乾かしロビーに出るが、そこにははやての姿もなのは達の姿もない。

 瓶の牛乳を買い、目立たないところに座る。

 もしはやて達が出てきて立ち話をしている時に、なのは達が出てきて鉢合わせでもしたら目も当てられない。

 しばらくして出てくるはやて達。
 はやてが少しロビーをキョロキョロしているが、俺を探しているのだろう。
 隠れていて正解だったな。

 少し残念そうなはやてには申し訳ないが今回は我慢してもらおう。
 そしてスパラクーアを後にするはやて達。

 自動ドアから出る時、シグナムがこちらに視線を向けたので静かに頷き返す。

 どうやらうまくなのは達とは出会わなかったらしい。

 こんな幸運がいつまで続く事やら。
 同じ海鳴に住んでいるのだから偶然出会う可能性を考えておくべきだったな。

 まあ、今はこの幸運に感謝だ。

 それから二十分ぐらいしてお風呂から出てくるなのは達。

「は~、気持ちよかった」
「だね」
「露天風呂はすごかったね」
「士郎君は露天風呂行ってみた?」
「最後の締めに子供用のはな」
「む、ということはもう少し早く行ってたら士郎君と一緒に入れたのか」

 アリサ、すずか、フェイト、なのはも満足そうだ。
 それと美由希さん、もし少し早く来てたら恐らく温泉どころじゃなくなってましたよ。
 声には出さず内心ため息を吐く。

「エイミィ、待ち合せのお店はどこだっけ?」
「えっと駅前のお店なんだけど、地図は」
「駅前なら詳しいよ。案内してあげる」
「ありがと、美由紀ちゃん」

 美由希さんとエイミィさんを先頭に駅前に向かって歩くのをついて行く俺達。
 そんな時

「何かあったの?」

 小声で最後尾にいた俺に並び声をかけてくるプレシア。

「主と騎士がいた」
「……そう。嫌な偶然ってあるものね」
「まったくだ」

 俺の言葉に一瞬驚くも納得するプレシア。
 もっとも俺としては

「プレシアもよく気がついたな」
「ロビーから私達が出てきた時、安心したような表情を一瞬してたわ。
 お風呂から出てくるのを待っているだけにしては少し妙だったから」

 リンディさんといいプレシアといいよく見ている。
 そういえば桃子さんも俺のちょっとした表情を見ていたりするが、母親というのはそういうものだろうか。

 衛宮士郎になる前の母の記憶はなく、衛宮士郎になってから傍にいたのは親父と虎の姉だったからな。

「あ、リンディさんとクロノ君だ」

 リンディさんとクロノを見つけ手を振るなのは達。

 まあ、なにはともあれ
 今夜を無事に切り抜けられた幸運に感謝しておくとしよう。 
 

 
後書き
無事に今週も更新完了。

先週からの続きのサウンドステージネタでした。

そして今週の更新に合わせて五十六話、五十七話に挿絵を追加しました。

それではまた来週 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧