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Fate/magic girl-錬鉄の弓兵と魔法少女-

作者:セリカ
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A's編
  第五十九話 二人の母

side 士郎

 デバイスルームに入ると難しい顔をしてデータと睨みあうプレシアとユーノ。
 そして後ろからその様子を見ていたアルフがいた。

「アルフ、怪我は大丈夫なのか?」
「ああ、私はね。
 ていうかなのはとフェイトのとこ行かなくてよかったのかい?」
「なのはのとこにはフェイトが行っているはずだ。
 それにレイジングハート達も気になったし、俺が見せたゲイ・ボルクの管理局の反応も知りたくてな」

 俺のそんな言葉にどこか不満そうな表情を浮かべるアルフとユーノ。

 まあ、怪我をした二人の事よりもゲイ・ボルク使用に伴う管理局の反応を気にしたらそうなるだろう。

「プレシア、どうだ?」
「結構派手にやられたわね。
 レイジングハートは当然として、バルディッシュの方もコアにまでダメージがあるわね。
 ここまで酷いと自動修復で基礎構造を修復させたら部品交換も必要になるでしょうね。
 交換パーツに関してはリンディ提督が用意してくれるでしょうけど」

 部品交換が必要なほどとは、ジュエルシードの時も破損している時があったがアレよりもダメージはでかいという事か。

「管理局の方はまだ動きがないわね。
 もっとも、海鳴が関わった以上担当はリンディ提督達がなるでしょうし、緊急を要するデータは今回なのはちゃんを襲った相手のデータであって、貴方のデータじゃないわ」
「そうか。
 まあ、どちらにしろリンディさん達なら信用できるからな」

 そんな事をプレシアと話していると扉が開き

「フェイト、なのは」

 クロノに連れられたフェイトとなのはがやってきた。

「士郎君、ユーノ君、アルフさん」

 久しぶりのなのはとの出会いに言葉はなくただ見つ頷きあう。

「ユーノ、状態は?」
「プレシアにも見てもらってるけど、あまりよくない」

 クロノとユーノ、プレシアがデバイスの状況を話しあい、なのはとフェイトは傷ついた相棒を見つめる。

「そういえばさ、あの連中の魔法ってなんか変じゃなかった?」

 そんな中でアルフがそんな質問をした。
 シグナム達と手合わせは鍛錬でした事があるが実戦はないので、魔法に関してはほとんど知らないので個人的にも興味がある。

「たぶんアレはベルカ式だ」
「ベルカ式?」
「その昔、ミッド式と魔法勢力を二分した魔法体系だよ」
「広域攻撃や遠距離戦闘をある程度度外視して対人戦闘に特化した魔法体系。
 優れた使い手は騎士と呼ばれるわ」

 ベルカ式に騎士か。
 シグナムがベルカの騎士と言っていたのも頷ける。

「最大の特徴はカートリッジシステムと呼ばれる武装。
 儀式で圧縮した魔力の弾丸をデバイスに組み込んで瞬間的に爆発的な破壊力を得る。
 危険で物騒な代物だ」

 一種のブースターを積んでいるというわけか。

 どちらにしろシグナム達とは一度会いなのはを襲った理由を聞く必要はあるし、その返答の内容によっては戦う事になるかもしれない。
 話を聞く限りカートリッジシステムは戦うとなれば厄介なモノになりそうだ。
 それに俺とシグナム達が戦うとなれば一番悲しむのは間違いなくはやてだろう。
 だが覚悟は出来ている。

「フェイト、そろそろ面接の時間だ」
「面接?」

 思考を打ち切り、クロノの言葉に首を傾げる。

「保護観察官との面接だよ。
 なのはと士郎もお願いしたいんだが」
「なのはと俺もか?」
「ああ、特に士郎は会っていた方がいいと思う。
 レティ提督と同じで魔術の事を説明している人だ」
「なるほど。心得た」

 クロノ達にとって信用出来て魔術の事を話したもう一人か。

 リンディさん達が信用している人だから大丈夫だろうが、情報を持つ人とは一度顔は合わせておいた方がいいだろうな。

 そんなわけで、俺もクロノに連れられて面接官の下に向かう。

 クロノの案内について行くと、ある部屋の前でクロノが歩みをとめた。

「失礼します」

 クロノを先頭に続いて俺となのはとフェイトが部屋に入る。

「久しぶりだな。クロノ」
「ご無沙汰しています」
「そして、はじめまして。
 第97管理外世界、海鳴の管理者、魔術師・衛宮士郎君。
 私は時空管理局提督ギル・グレアムだ。
 といってももう現場からは退いて顧問官という立場だが」

 そういって笑みを浮かべ、手を差し出す男性。

「お初お目にかかります。
 グレアム提督」

 その手をしっかりと握り握手を交わす中で、僅かに細まる目元。

 リンディさんやレティさんと比べると警戒されているのがわかる。

 それに顧問官と言っていたが長年現場にいたのだろう。
 年を取っているとはいえしっかりとした体つきだ。

「さあ、立ち話もなんだ。
 お茶を入れるからかけてくれ」
「グレアム提督、それなら私が」
「ああ、衛宮君は本局で店を開くほどの腕前だったね。
 ならお願いしてもいいかな」
「はい」

 グレアム提督達がソファーに腰かけ、フェイトの資料に目を通しながら話すのをお茶の準備をしながら聞き、お茶を並べ、自分もフェイトの横に座る。

 それにしても保護観察官としてフェイトの自由を尊重しようとしてくれるところは素直に好感が持てる。

 それから少しフェイトと話をして、次に話題に上がったのはなのは。
 なのはの面接を多少兼ねているような感じもしたが驚いたのが

「私も衛宮君やなのは君と同じ世界の出身者。
 イギリス人だよ」

 という言葉である。
 
「基本的にあの世界の人間のほとんどは魔力を持たないが、稀にいるのだよ。
 私や君のように高い魔力資質を持つ者が。
 それに今回衛宮君という魔法とは別の魔術という技術を持つ者も現れた。
 ここ最近、管理局の中ではあの世界は管理外世界のでありながら注目度が高い世界になっているぐらいだ」

 笑いながらグレアム提督は話すが、高い魔力資質を持つ者が僅かながらでもいると言うのが驚きである。

 この調子だと他にいてもおかしくはない。
 そういえば俺が本局に初めて来たときにも
 「祖先に第97管理外世界の出身者の者もおり、意外と地球の文化が入ってきているのよ」
 とリンディさんが言っていた。
 
 その時はそれほど深く考えなかったが、本当に魔術師が過去又は現在、存在する可能性が高いと考えた方がいいのかもしれない。

 そして程なくしてフェイトとなのはの面接は終わり、二人は一足先に部屋を後にする。

 それからグレアム提督と俺で魔術について言葉をかわす。

 といってもそれほどかわす言葉はそれほど多くない。
 互いに改めて自己紹介をし、俺の投影について、そして投影に関する情報の秘匿など協力をしてもらえる事を改めて確認したぐらいだ。

 俺とクロノも部屋を後にする。
 その時

「提督、もうお聞きおよびかもしれませんが、先ほど自分達がロストロギア『闇の書』捜索、捜査担当に決定しました」

 今、クロノはなんと言った?
 闇の書がロストロギア?

 クロノとグレアム提督が何か言葉をかわす光景を目にしながらも、驚きを顔に出さないように思考する。

 ロストロギアと言う事は、ジュエルシードと同等の危険物だと?
 確かに戦闘可能な守護騎士を宿しているとはいえ、ジュエルシードのように世界を滅ぼすモノとは思えない。

 だがはやてが望んでいなかっただけならば?
 現に今、闇の書の守護騎士達であるシグナム達は魔力を集めている。
 その魔力を使って何をするというのか……。

「士郎?」
「ん? ああ、すまない。
 少し考え事をしていた」
「あと衛宮君。君に渡す物がある。
 時空管理局、ミッドの児童保護局からだ」

 書類のようだが、また余計なコトが書かれてそうだ。
 内心ため息をつきながら受け取った。



 そしてリンディさんの部屋に集まった俺となのは、ユーノ、クロノ、エイミィさん、部屋の主であるリンディさん、そしてテスタロッサ一家。
 椅子に座り、テーブル越しにそれぞれが向かい合う。

「さて、今回のなのはさんが襲われた事件ですが、なのはさんと士郎君の世界、第97管理外世界から個人転送でいける範囲に限定されています。
 事件担当は私達アースラスタッフですが、問題点があります」
「現在、アースラがメンテナンスのため使えないという事。
 アースラ以外の船も長期稼働可能なのは2カ月先まで空きがない」
「ということで第97管理外世界に活動拠点を作ろうと言う事なんだけど」

 リンディさん、クロノ、エイミィさんの視線が俺に向き、それに合わせ周りの面々の視線も俺に向く。

「本当なら海鳴に活動拠点を置くにしろ、置かないにしろ俺とリンディさん達で話しあえばいいんだが、新たな問題が浮上した」

 皆の真ん中にグレアム提督から先ほど渡された時空管理局の児童保護局からの書類を差し出した。

「児童保護局?」

 なのはが首を傾げる。
 
 ちなみに俺は翠屋の接客のため必要なので、ミッド文字をある程度は読めるようにフェイト達に教えてもらっているし、なのはもフェイトとの文通の中でミッド文字は覚えている。

「時空管理局の児童保護局からで、虐待という前歴を持つプレシアをフェイトと同居させることを容認できないというものだ」
「え? そんな心配もうないんじゃ」

 なのはの言うとおり。
 俺達の中にそんな心配をしている者はいないし、俺達から言わせれば
 「何意味のわからん事を言っている?」
 という感じなのだ。

 もっともこれは名目上の事であり

「士郎君が一緒に住むといっても二十四時間見張るわけじゃない上に、士郎君自身九歳と言う子供であるため、士郎君の家に児童保護局の職員が同居してしばらく様子を見る。
 または海鳴で児童保護局の職員とフェイトさんが一緒に生活をする」
「これが認められず、フェイトの身元引受人、保護者がプレシア・テスタロッサ以外認められない場合、フェイト・テスタロッサを海鳴にて生活させること自体を認められない。
 まあ、そういう名目で海鳴に管理局が滞在して士郎の魔術を調べようとするものだな」

 リンディさんとクロノの言葉に全員が児童保護局からの書類の意味を察した。
 この児童保護局だが、同じ管理局でもほぼ別組織となっているらしい。
 それでも上層部には繋がりはあるらしいのでこんな手の込んだ事をしてきたのだろう。

「でもこの要請って士郎が断るって言えばそれまでなんじゃ」
「だよね。
 仮にフェイトを連れていこうとした奴がいても士郎なら負けないだろうし」

 ユーノとアルフの言葉ももっともだが、それをすると

「極端な話にはなるが、それをやると子供の事を考えて動いた保護局に牙をむく、謎の技術を持った人間が出来上がる。
 さらに勝手な言いがかりをつけるなら、監視するという名目でプレシア達に非人道的な扱いをする危険がある人物を信用できないって情報操作を行えば、俺をすぐに捕まえることが出来なくても管理局の中で危険人物、又は犯罪者のリストに加えることが出来る」

 俺の言葉に嫌そうな顔をするユーノ達だが、やりようにやっては俺を犯罪者にする事も出来るのだ。
 仮に敵対したとしても人員不足と言う管理局から一時的に逃れても、追われる身となるのは変わらない。

 管理局のやり取りでは絶対にこちらから戦いを仕掛けてはいけないのだ。
 あくまで敵対する場合は管理局側から仕掛けたという事実が必要となる。
 
 管理局からから仕掛けた戦いになれば強硬派の人間への批判が上がり、クラウン中将達穏健派の方が力を増す。
 もし俺から仕掛ければ穏健派に批判が上がり、強硬派が力をつける事になるだろう。
 それは避けねばならない。

 まあ、実際には魔術技術を欲しがっている管理局がそこまで一気に強硬手段に出るとは思わないが、警戒して損はないし、余計な事をさせる隙を与えないに越したことはない。

「じゃあ、どうすんだい?」

 そう、アルフの言うとおりこれが問題なのだ。

「私の家に住むっていうのは?」

 なのはが手を挙げるが

「魔法と魔術に関する最低限の説明がいるし、最悪こちら側に巻き込みかねないから却下だ」

 なのはの家や月村家に下宿するという手もあるが、この場合は万が一、俺と管理局が戦闘になった場合に下宿先の人間を巻き込む危険が高いのでまずい。

 妥協して海鳴に保護局の人間をフェイトとアルフと共に住まわせる。
 又は同居する。

 ……絶対に却下だ。
 信用が出来ないし、下手をすればフェイトが海鳴に住んでいてもプレシアと会うのが難しくなりかねない。

 そうなると

「私がフェイトさんとアルフさんと一緒に住むというのはどうかしら?」

 リンディさんが案を挙げてくれる。
 
 リンディさんなら俺も信用できる。
 だが

「強硬派がリンディさん達になにも言ってこなければいいのだけどね」
「残念ながら、その心配はないとは言えないな」

 プレシアの言うとおり、これが原因でリンディさん達が強硬派の者たちから、魔術師と協力して情報を秘匿していると疑われかねない。

 仮に疑われたとしても保護者がリンディさんとなるのがフェイトのためであり、プレシアと一緒に住んでおらず、児童保護局の要望は十分に満たしているという明確な証明がほしい。

 そう、証明が……

「あ~、突拍子もないが一つ案が」

 俺の言葉に皆の注目が集まる。

「フェイトをリンディさんの養子として、海鳴でリンディさん達と共に生活をする」

 俺の言葉に固まる面々。
 そして

「「「「「「はい!?」」」」」」

 驚きの声を上げる者達と

「意外といい方法かもしれないわね」
「プレシアさんとフェイトさん、アルフさんが良ければいいですね」

 あっさりと納得しているプレシアとリンディさん。

「母さん!? それにプレシア何を言ってるんだ!?」

 クロノが声を荒げ、俺とプレシア、リンディさんを除く面々はクロノとの同意するように頷いている。

「まあ、落ちつけクロノ。
 この案でいけば保護局の要請通りにプレシアとフェイトは別の住居で生活をする。
 フェイトの保護者もリンディさんがなるし、リンディさんやクロノなら信用があるから海鳴に住んでも俺としては問題はない。
 それに養子縁組で明確な書類があれば、魔術技術を隠していると疑われてもあくまでフェイトの為を思っての行動であると証明が出来、強硬派の口もある程度は塞ぐ事は出来る。
 当然、保護局はリンディさんがフェイトの保護者として失格であるなんてことは言えないから保護局の口も塞ぐ事が出来る」

 ある意味理想的な状況であるが、当事者であるフェイトは迷っているように俯いていた。

 当然だが、この案はフェイトが納得し、受け入れることが絶対の条件だ。

「だけどこれはあくまでフェイトが良ければだ。
 フェイトはどうだ?」

 俺は静かにフェイトに問いかけた。




side フェイト

「だけどこれはあくまでフェイトが良ければだ。
 フェイトはどうだ?」

 士郎から問われる自分の気持ち。

 私がリンディさんの子供になる?

 リンディさんは本局で生活する上でも色々面倒を見てもらったし、とてもいい人だと思うし、もう一人母さんが出来たように感じた事も何度もある。

 だけど私がリンディ提督の子供になったらプレシア母さんはどうなるんだろう。

 私は母さんと一緒にいたいとずっと願っていた。
 私はそれを諦められるのだろうか。

 母さんから離れて、リンディさんを母さんと呼んで過ごすことが出来るのだろうか?

 それに母さんはさっき「意外といい方法かもしれないわね」って言った。
 やっぱり私はアリシアの代わりで、私なんか、いらないのかな。

 ぐるぐるといろんな考えが頭に浮かんでくる。

「フェイト、答えが出ないことがあれば聞いてくれ。
 そんな辛そうな顔をされると俺達も辛い」

 士郎の言葉にハッと皆の顔を見るとすごく心配そうに私を見つめていた。

「教えてちょうだい、フェイト」

 隣に座っている母さんが手を握ってくれる。
 それだけで安心できる。

 母さんはここにいるのだと

「その、もしも、もしもリンディ提督の子供になったら、私と母さんの関係ってどうなるのかなって」

 どこか答えを聞きたくないような小さな声の問いかけ。
 そんな私の言葉に

「何も変わらないさ」
「ええ、何も変わらないわ」

 静かにだけど優しげな士郎と母さんの声が返ってきた。

「例えリンディさんの子供になったとしてもフェイトがプレシアの子供というのは変わらない。
 当然住むところは、別にはなるがフェイトが望むなら表向きだけでプレシアと一緒に俺の家に住めばいい。
 あとはそうだな、フェイトのお母さんが二人になるぐらいだよ」
「そうよ。
 それにこれから研究や仕事で帰れない時もあるかもしれない。
 傍にいてあげることが出来ない時があるかもしれないわ。
 そんな時に頼る存在も必要になるわ」

 二人の言葉に不安が薄れていく。

「その、リンディ提督は、私なんかがリンディ提督の子供になってもいいんですか?」
「勿論よ。
 フェイトさんみたいな可愛い娘、大歓迎だわ」

 母さんとリンディさんの表情に私の不安は晴れていた。

「アルフはどう?」
「私はフェイトと一緒に行くだけだし、リンディ提督の所なら文句はないよ」

 共に行動することになるアルフはもう覚悟は決まっていたようでしっかりと頷いてくれる。

 片方の手で母さんの手を握り締めて、もう片方の手をリンディ提督に差し出す。
 その手をリンディ提督は笑顔で握り締めてくれる。

「こ、これから、よろしくお願いします。
 リ、リンディ母さん」

 たぶん、私の顔は真っ赤なのだろう。
 小さな声でだけどしっかりとリンディ母さんの子供になるという気持ちを込めて、母さんと呼ぶ。

「もう、可愛すぎるじゃない!」
「きゃっ!」
「うわっ!」

 アルフごと抱きつくように抱きしめられる。
 リンディてい、じゃなくて母さんとアルフの身体を支えられるはずもなく、プレシア母さんに倒れる。

「きゃっ」

 いきなりの事にプレシア母さんも抱きとめてくれるけど支えられない。
 だけど

「まったく」

 どこか呆れたような、優しい声がプレシア母さんの後ろから支えてくれる。

「リンディさん、フェイト達を押し倒す気ですか?」
「しょうがないじゃない。
 こんな可愛いの反則よ」
「まあ、その気持ちはわからなくもないですが」

 ため息をつきながら支えてくれる士郎。
 大切な母さんに、ずっとそばにいてくれたアルフ。
 そしてもう一人の新たな母さんの温もりをしっかりと私は感じていた。




side out

「フェイトちゃん、良かったね」
「だね」
「はい」

 リンディとプレシア、二人の腕の中で満面の笑みを浮かべるフェイトを見つめて、同じように笑みを浮かべるなのは、ユーノ、エイミィの三人
 それと

「まったく」

 母親の抱きつきに呆れながらも笑みを浮かべるクロノがいた。

「クロノ君もよかったね。
 フェイトちゃんみたいな可愛い妹が出来て」
「そ、それは」
「ふむふむ、まんざらじゃないようだし、ちゃんとクロノ君の事をお兄ちゃんと呼ぶようにフェイトちゃんに教えないと」
「エイミィ、君はまた余計な事を」
「あれ? お兄ちゃんじゃなくて、兄さんとかお兄様の方がよかった?」
「そういう問題じゃない」

 そして、相変わらずエイミィにからかわれ頭を抱えるクロノ。

 そんな二人を横目にフェイト達を眺めいていたなのはとユーノだが、ふとなのはが

「でもこうして見ると士郎君ってお父さんみたい」

 その言葉にエイミィもクロノをからかうのをやめて、クロノもそれに安堵しつつ、士郎を見つめる。

 フェイトとアルフの二人に抱きつくプレシアとリンディの二人の母親。

 そして、そんな母達と娘達を支えるお父さんである士郎。

 母親が二人というシチュエーションではあるが

「「「確かに、お父さんだ」」」
「ですよね~」

 明らかにお父さんのような立場である。

 なのはも同意を得られたことに満足気に頷く。

 だがこれから十年後、なのは自身母親として娘ともう一人の母親と父親に囲まれているとは夢にも思っていないし、当然他の誰も知らない事である。




side 士郎

 フェイトがリンディさんの養子になるのが決まってからの動きははやかった。

「士郎君、私達が生活するのって」
「勿論、海鳴で構いませんよ」
「なら、本局へのプレシアさんの通勤用の転送ポートもそこに」
「ええ、お願いします」

 俺自身がリンディさん達の海鳴での生活を認めたので、フェイトの養子手続きと海鳴での生活の部屋を借りる準備、さらに必要な機材の準備に取り掛かる。

 それと共に

「さて、私達アースラスタッフは今回ロストロギア『闇の書』の捜索及び、魔導師襲撃事件の捜査を担当する事になりました」

 俺となのは、フェイト、アルフ、ユーノ、プレシアも交えて、アースラスタッフと共にリンディさんからの正式な任務の話を聞く。
 ちなみに海鳴にはフェイトと共に生活するリンディさん、クロノのハラオウン一家とエイミィさんが滞在し、その他のスタッフ達は隣の遠見市に滞在することで話がついた。

「それじゃ、明日の朝から引っ越し作業を始めるから」
「了解です。明日は日曜日で休みですから朝にまた伺います」
「ええ、お願いね」

 リンディさんと最後の日程確認を行ったのだが、ふと違和感。

 明日が日曜なら今日は土曜日。
 学校は休みではあるが、なのはが襲われたのが昨晩、つまりは金曜の夜である。

「なあ、なのは」
「ん? どうしたの、士郎君」
「いや、昨晩外出した時って桃子さん達に許可は?」
「あっ!」

 やはりしてないよな。

 夜のうちにいなくなって朝になっても戻ってないなんて事になったら士郎さんや桃子さんが黙っているはずがない。

「リンディさん、今の時間は」
「えっと朝の五時よ」

 そう言えば結局色々あり過ぎて徹夜だな。
 って今はそれどころじゃない。

 朝のトレーニングを行い始めてからは、なのはは五時半には起きている時間だ。
 後三十分。

「リンディさん、転送ポート使います。
 でないとなのはが魔導師ってことを説明しないわけには」
「そうね。結局昨日は皆寝てないから一旦解散しましょう。
 クロノ、なのはさんと士郎君を転送ポートに送ってちょうだい」
「わかりました」

 というわけで慌ただしく俺となのはは海鳴に帰ってきた。

 帰ってきたとはいえなのはの家に直接転送するわけにもいかないので、人目がつかない海鳴公園である。

 さて本局からの転送なのでもはや時間がない。

「悪いがなのは急ぐぞ」
「え? にゃああああ!!!!」

 なのはを抱きかかえ、高町家へと跳んだ。

 そういえばフェイトを見送る時もこんなふうになのはが悲鳴を上げていたか。
 そんな事を考えつつ、周囲を確認しながら、なのはの部屋の窓から侵入する。

 なのはの部屋の時計で五時四十分。
 多少遅れたがこのぐらいなら誤魔化せるだろう。

「ありがとう、士郎君」
「いや、気にするな」
「うん、送ってくれたこともなんだけどね。
 言い遅れたけど……私を助けに来てくれて、ありがとう!」

 なのはの予想にもしなかった言葉に俺は戸惑った。

「……なのは、しかし、俺は君を守れなかった」

 俺がもう少し速く到着すれば、なのはが傷つくことはなかったかもしれない。
 改めて心の中で悔やんでいると、なのはは俺の手を握り締めて首を横に振った。

「そんなことないよ!
 士郎君が助けてくれなかったら、私はそのまま倒れて頭とかうっちゃてたかもしれないし、それに私、士郎君が来てくれた時、すっごく嬉しかったんだ!」
「なのは……」
「だから、ありがとう、だよ」
「……ああ」

 なのはのその言葉に自分の胸が少し軽くなったような気がした。

「あっ! 士郎君も急がないといけないのに止めて、ごめんね」
「いや、気にするな。また後で桃子さん達にも挨拶にお邪魔するから」
「うん!」 

 胸に少しの温もりを抱きながら、周囲に目を向けて、見られていない事を確認し、なのはに見送られながら俺は高町家から脱出した。

 なのはの手の温もりが残る手に心地よさを感じながら自宅に戻り、結界を本局に行く前の状態に戻す。

「さて慌ただしいが効率良くするとしよう」

 窓を開け、家の大掃除を開始して、食材などの買い出しなど、またここで問題なく生活出来るように作業を始める。

 そして、その作業が終わった時にはもう午後四時半になっていた。

「少し遅くなったが、挨拶に行くか。
 ……その前にシャワーだな」

 この時間なら翠屋でいいが、さすがに掃除やらなんやらで埃や汚れたまま行くのは問題なのでシャワーで汚れを落として挨拶に向かう。

 その時に士郎さん達にはフェイト達が海鳴に引っ越してくることも伝えておいた。




 そしてその夜。

「来たか」

 月の下で赤い外套を纏い、シグナム達と海鳴公園で向かい合う。

 シグナム達の恰好は昨日、なのはが襲われた時と同じ。
 恐らくはこれがシグナム達のバリアジャケットなのだろう。

 それに夜の呼び出しでは初めて四人が揃っている。

 間合いは五メートル。

 シグナムやヴィータは既に手に得物を持ち、俺も頭に設計図は出来ている。

 互いに戦う可能性を考えながら

「昨日の事、説明してもらうぞ」

 俺は静かに言葉を発した。 
 

 
後書き
というわけで第五十九話でした。

実はこの話も除外しようかと思ったのですが、リンディさんと士郎の繋がりを残す意味でとても丁度よかったのでこのままいく事にしました。

さあ、リンディさんのヒロイン参入は未だ検討中ですが、どうしようかな

それではまた来週お会いしましょう。

ではでは

貫咲賢希さんから案を頂き少し追記、修正しました。 
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