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少年は魔人になるようです

作者:Hate・R
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第124話 魔人は目覚めるようです

Side 愁磨

『融魂の創玉』が破壊され、中に俺()が溜めていた創力が俺に流れ込んでくる。

だがこれは副次的な能力だ。創造するのに、あらゆる可能性の"俺"が掛けた時間の集積、

実に『56億7000万年』。勿論無意味な時間ではない。釈尊入滅後、弥勒菩薩が人類

を救済しに現れるとされる時間にあやかった。


「―――何……!?」


ただの貯蔵に過ぎないが、この量を主神は無視出来ないし、する道理もない。

故に、能力の二番目。"主神は数秒間だけ俺とノワールに力を振るえない"。

数万の俺が56億年かけて創り出した数秒間。

僅かに見出したその刹那に、雌雄を決する為の第一の能力を行使すべく、ノワールに

"アトロポスの剣"を差し向ける。


「行くぞ、ノワール。」

「ええ、シュウ。」


両手を広げ、俺と剣を迎え入れる。

―――瞬間、身体が強張る。

これしか方法は無かったのだろうか?今更取返しもつかない。しかし、ノワールを犠牲に

する事が、本当に―――


「―――もう。」


その一瞬の表情を読み、苦笑すると、自ら剣に身を沈める。

―――そこで、迷いが吹き飛ぶ。最も愛する女に一番辛い選択をさせるような格好悪い所

をここで見せる訳にはいかない。

空いた左手で抱き寄せ、心臓を貫く。


「……さ、行きましょ。」

「……ああ、行こう!!」


いつもと変わらない調子で囁かれると、本当に敵わない。

『ノワールの心臓を貫き吸収した"アトロポスの剣"を握り潰す』。

これが、第一の能力発動条件。能力は―――――


「『俺とノワールの魂を一つにする』!!」


ただ、それだけ。

ただその為に途方も無い時間と、全ての"俺"と、愛する者の命を費やし。

"俺とノワールの能力が初期化されている事"、"『融魂の創玉』を俺とノワール以外が所持

している事"、"それを主神が『破壊』する事"、"全条件を俺とノワール以外知らない事"。

これを達成して、漸く得られた"数秒"と"融魂"。誰が見た所で割に合わないだろう。

唯二人―――


「―――馬鹿な、有り得ぬ!!」


―――俺と主神を除いて。


「それを成す為にここまでやって来たッッ!!」
ゴゥッ!!

ノワールの体が光の粒子となり、砕かれたアトロポスと共に俺の体へ吸い込まれていく。

他の魂をストックとして付随させる事は出来る。或いは己が魂に侍らせ壁とする事は出来る。

又は、魂の一部ずつを交換する事は出来る。


「―――完全に溶け合う、だと?それは我が最優先で禁じている筈だ!!

いや、例え我とて、二つの魂を持っては消え去ろうぞ!!」


魂とは、謂わば"存在"と言う蓋をされた容器に満ちる水だ。それも、1を僅かでも超えれば

破裂する入れ物に。その大きさは存在まちまちで、主神は桁違いだろうが、ノワールだって

人間や神と比べても比較にならない程だろう。それもまた、障害だった。

"俺"という入れ物では用が足りず、"ノワール"という存在では主神に勝てない。

だから、やることはひとつ。


「俺という入れ物を広げただけだ。」

「―――所謂、賢者や老龍の存在は確かにそうだ。しかしそれでは―――いや、そうか。」


魂が磨かれれば入れ物が大きくなる。その分魂も成長していく。

その繰り返しで高位の存在となっていくのだ。


「―――それと契約した者は同等の"格"を持つ、そうしたのは我だったが。

創造者であろうが幾億年経とうと到達しえぬ魂に至ったのは……。」


そして、ただ一つの例外。"主神が与えた契約の魔法"・・・いや、『創造』の力だ。

契約時にノワールから半分与えられる魂と神力に見合う"格"を持つ入れ物、と深く考えては

いなかったのだろう。

結果として、俺の肉体を創り変えた際に魂の入れ物まで見合う大きさに創り変えられた。

が、魂だけは変化・変質が禁じられていた為に効果が及ばなかった。・・・のだろう。

ここで矛盾が生じた。


「本来1:1である入れ物と魂の大きさに差が生じた。当然だ、今の今まで人間だったのと

最高の魂を足して2で割ったんだ。」

「―――故に貴様は、己だけ時間を操作した空間に座し、二人分の魂が入りきるまでに

入れ物を成長させた。」

「ああ、ギリギリだったよ。入れ物の用意も……俺とノワールの魂が溶け合うのも。」


明確な効果としていなくとも、主神の『創造』さえもし得なかった魂の融合。

・・・全ては時間だった。

互いが互いの魂を同量ずつ持っていたからこそ、同じ"者"とする為に魂は馴染み合い。

主神に届くであろう魂に成長するにも、最後に成し得る対策を創るのにも。


「俺は全ての世界から理不尽な悲しみを消し去る。その為には———お前が邪魔だ。」

「———我が創ったのだ、放って見るだけの何が悪い?」

「ああ、お前とは相容れない。だから……『創造』をやめよう。」

「———ハ。」


唯一自分に届き得る力を捨てる俺を鼻で笑う。・・・やめると言ってもその延長なのだが。

ノワールと俺の魂を一つにしても、純粋な創造の勝負では未だ到達しえない。

だから、『創造』をやめるのではなく———上を行く。


「『――流入』!」


『創造(Briah)』と来れば『流出(Atziluth)』と考えたが、"悲しみのない世界"を流出さ

せてしまえば、勝てたとしてもそれは恐らく閉じた世界になってしまう。そうではないんだ。

争いも、別れも、必要な事だ。ただそこに理不尽が無くなって欲しいだけなんだ。


「"———残酷な世界を知った
   Ich habe von der grausamen Welt erfahren.
  美しいという言葉の意味を知った
  Ich habe die Bedeutung des Wortes schön gelernt.
  悲しみなど無くなれば良いと
  Ich dachte, es wäre besser, wenn es keine Trauer gäbe.
  世界が優しさで溢れる様にと願った
  Ich hoffe, dass die Welt von Freundlichkeit erfüllt wird.
  友を失った 愛する者を失う人を見た 
  Ich habe einen Freund verloren. Ich habe eine Person gesehen,
  救えない命があった
  die einen geliebten Menschen verloren hat.
  ……故に決意しよう"」
  ……Also lasst uns entscheiden.

これは渇望ではない。これは願いだ。ただし、勝ち負けのある。


「" 時よとまれ
  Zeit ist selten
  時の歩みを止めないでくれ
  Hör nicht auf zu laufen
  時が巻き戻ったならば
  Wenn die Zeit zurückspult
  全ての願いを成就させよう
  Erfüllen Sie alle Ihre Wünsche.
  全てが望む世界に"」
  In der Welt, die alles will.

だからこそ、この"基準"となった世界に俺達を『流し入れる』。

この世界を、全ての世界を俺と為し、根幹に俺達の願いを顕わす。


「" おぉ、主よ! 私はあなたを罰する!
  Oh Herr!  Ich werde dich bestrafen!
  悲しみのない世を 
  Eine Welt ohne Traurigkeit
  今こそ―――私が成ろう!!
  Jetzt ist die Zeit für mich zu sein!
  『―――Eheieh』!!!"」

「―――小賢しいッ!!」


主神が攻撃してくるが、ノワールと一つになった瞬間から既に流入は終わっており、その

程度では効果はない。

これはただの宣言だ。ここで決着をつける、と!!


「『―― 創  神(EL-Eloah va Daath)』!!!」
ドンッ!!

俺の髪が黒く染まり、槍のようになった『アトロポス』が現れる。

騎士服は至極簡素な物へと変わり、"力"を成すだけの存在だと強調する。


「行くぞ、主神。―――まぁ、全力でなぁ!!!」

「―――被造物風情がぁ!!!」


世界を創り変えようとする魔人と、世界を創った神の最終決戦が始まる。


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