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銀河転生伝説

作者:使徒
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第19話 リップシュタット連合の終焉


苦戦するリップシュタット連合軍はガイエスブルク要塞での籠城戦に備え、未だその支配下にある植民星からの搾取を強めた。
だが、民衆側も今回の内戦によって貴族支配のたがが緩んできたことを敏感に感じ取って
反攻の気運が高まりつつあった。

ブラウンシュバイク公の領地の一つであるヴェスターラント――ここを統治するブラウンシュバイク公の甥シャイド男爵は更なる弾圧を加えたが、先の理由から大規模な暴動を招き、シャイド男爵は民衆に殺されるという事件が起こる。
その知らせを受けたブラウンシュバイク公は激怒し、ヴェスターラントへ核を撃ち込むよう命令した。

その情報は貴族連合の内通者によって、直ちにラインハルトとオーベルシュタインに知らされる。

当初、ラインハルトは止めさせようとしたが、オーベルシュタインの説得によりあえてヴェスターラントを見殺しにし、貴族たちを非難する政治喧伝として使うことを決断した。

本来なら、ラインハルトはそれに最後まで反対し続けたかもしれない。
例え、明確な阻止命令を出さず、オーベルシュタインの策謀と相まって阻止することができなかったとしても……。

しかし、ハプスブルク大公という大貴族であり強敵でもある存在が、ラインハルトに彼らを見殺しにすることを決断させた。

そして、悲劇は起こった。

ヴェスターラント200万人の民衆が、数十発の核ミサイルで残らず死滅する。

地は渇き、元が緑豊かな場所だったと分からぬほど荒れ果てた大地……。
この世の地獄が、そこにあった。


* * *


惑星ヴェスターラントにおける虐殺は帝国全土に大きな波紋を呼んだ。

ブラウンシュバイク公の残虐さがクローズアップされるに連れ、相対的にローエングラム候ラインハルトに対する期待が高まり、帝国軍の若き英雄は今や帝国人民の英雄と成りつつあった。
未だ貴族軍の支配下にあった各地の植民星は一斉に離反し、ガイエスブルグは完全に孤立した。

そのガイエスブルクでも兵士のサボタージュや反攻が表面化し、脱走してラインハルト軍に身を投じる者が数多く出た。
貴族や士官からの投降者も続出し、絶望した貴族の中には自殺する者が相次いだ。


<アドルフ>

「それにしても、酷いものだな……」

「うむ、ここまでする必要はなかっただろう」

ファーレンハイト、レンネンカンプが嫌悪感を隠さずに言う。

まあ、普通はそうだろう。
俺も知識で知っていたとはいえ、実際に生の映像を見ると……。

が、ここで彼らには真実を知ってもらわなければならない。

「ブラウンシュバイク公はもちろんだが、ローエングラム候もな」

「と、言うと?」

「この映像、あまりに完璧に映り過ぎていると思わないか? それも最初から」

「!! まさか……ローエングラム候は」

ほとんどの者が気づいた。
ラインハルトはヴェスターラント200万人を政治喧伝の為に見殺しにしたと。

「あくまで想像だ。が、私ならガイエスブルク要塞に間者の1人や2人潜り込ませておく。事実、私のところに間者から報告が来たよ。『ブラウンシュバイク公がヴェスターラントへの核攻撃を命じた』とな」

周りから息を飲む音が聞こえる。

「もっとも、ここからでは遠すぎる上に時間もないため動きようがなかったが………」

「これが……ローエングラム候のやり方だというのですか」

「何度も言うが、あくまで私の想像だ。何の確証も無い。が、私自身はラインハルトは完全に黒だと確信している」

部屋に、深い沈黙が訪れた。


* * *


リップシュタット連合軍の貴族たちは最後の戦いに打って出た。

追い詰められ、窮鼠と化した彼らは予想以上にしぶとかったが、6度目の攻勢に出たとき、一気に押し戻された。
攻勢が限界点に達していたのだ。

それを見逃すラインハルトではない――というより、ラインハルトはそれを待っていた。
総攻撃に転じ、圧倒的な火力で貴族連合軍を粉砕する。

その頃、ガイエスブルク要塞では内通者が反乱を扇動し、要塞主砲の制御室を占拠することに成功した。

その報をオーベルシュタインから聞いたラインハルトは強襲揚陸艦を出し、要塞の占拠を命じた。

・・・・・

ガイエスブルク要塞へどうにか辿り着いたブラウンシュバイク公は、誰も居ない広間で一人、誰かを探しまわっていた。

「誰か、誰か居らんのか!」

「閣下」

そこに現れたのは、拘禁されていたアンスバッハ准将だった。

「アンスバッハ御前に」

「おお、アンスバッハ。こんなところに居ったのか。牢にも居らんので逃げたと思ったぞ」

「部下たちが出してくれまして、勝手なことを致しました」

「うん、それはよい、それよりもだ。こうなっては致し方ない、講和の用意をせよ」

「講和と……おっしゃいますか?」

「そうだ、小僧の覇権を認め、ワシを始めとする貴族はやつを全面的に支持する……そうだ、エリザベート! ワシの娘をくれてやろう。さすれば、やつは先帝フリードリヒ4世陛下の義理の孫となり、簒奪の汚名を着ることなく至尊の地位に付ける。これは悪くはあるまい」

「無益です。ローエングラム候は貴族の支持など必要としないでしょう」

「で、ではハプスブルク大公ならどうだ?」

「それも無益です。ハプスブルク大公もフリードリヒ4世陛下の孫。戦前ならまだしも、今となっては閣下の支持など必要としないでしょう」

「では、では奴等はどうあってもこのワシを殺すつもりだと申すのか? 帝国貴族中、比類無き名門の当主たるこのワシをか!」

「ああ、まだお分かりになりませぬか。それだからこそローエングラム候はあなたを生かしてはおけないのだという事が。ヴェスターラントに代表されるように、民衆に酷い仕打ちを続け、民衆から搾取し続けてきた帝国貴族を一掃する。それを為すことこそ彼の寄って立つところなのです」

「分かった……ワシは死ぬ。だが、あの小僧が帝位に付くのはだけは許せん! アンスバッハよ、何としてでもやつの簒奪を阻止してくれ。それさえ誓ってくれれば、ワシの命など惜しみはせぬ!」

「分かりました。誓ってローエングラム侯を地獄に落として御覧にいれます。ヴァルハラにてお待ちください」

「そうか……そうかよし。……っ…ところでな、なるべく楽に死にたいのだが………」

「毒になさるがよろしいでしょう。実は既に用意してあります」

アンスバッハ、毒の入ったワインをグラスに注ぐ。

「ア…アンスバッハ、やはり……な…領地や財産を全て差し出してもいいから命だけはまっとう出来ぬものかな。ワ、ワシは……ワシはその……ワ…ワシは、ワシは死ぬのは嫌だ!」

それを聞いたアンスバッハが振り向くと、後ろに控えていた兵士たちがブラウンシュバイク公の両腕を掴み、取り押さえる。

「名門の最後のご当主として、どうか潔いご最後を」

そう言って、アンスバッハはブラウンシュバイク公の口に毒入りワインを流し込んだ。

帝国の名門ブラウンシュバイク公爵家の当主として、栄華を誇った者の最後だった。

「……よし、公爵の体を収容して運び出せ」

「はっ」

兵士たちはブラウンシュバイク公の亡骸を死体袋に入れ、運び出す。

「(これで貴族連合は終わった。だが、まだローエングラム候が勝つと決まったわけではない)」

その後、アンスバッハはガイエスブルク要塞を脱出した。
主君であるブラウンシュバイク公の遺体と、その娘エリザベート・フォン・ブラウンシュバイクを連れて。

また、シュナイダー少佐に説得され、自害を思い留まったメルカッツも戦場から離脱していった。


宇宙暦797年/帝国暦488年 9月。
ガイエスブルク要塞は落城し、リップシュタット連合軍はここに壊滅した。
 
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