| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

凍り豆腐

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
< 前ページ 目次
 

第一章

                凍り豆腐
 伊達政宗は都でその話を聞いて笑って言った。
「その話はそれがしも知っておりますぞ」
「伊達殿もですか」
「何しろそのみちのくの者故」
 覆面の男大谷吉継に右目に眼帯をした隻眼の顔で答える。
「もう子供の頃から幾度もです」
「聞かれていますか」
「雪女はもうあちらでは冬になれば」
 それこそというのだ。
「いつもの様にです」
「聞くものですか」
「他にも雪女の亭主の雪男だの子供の雪ん子だの」
「雪にまつわる妖怪は多いですか」
「左様です、ですから」 
 それでというのだ。
「それがしもです」
「聞いておられますか」
「左様、ただ大谷殿のご領地も」 
 そこもとだ、政宗は大谷に笑って言った。
「雪が多いですな」
「はい、ですがそうした妖怪の話はです」
「ござらぬか」
「あるとは聞いておりませぬ」
 こう政宗に答えた。
「越後や甲斐にはある様ですか」
「左様でござるか、しかしみちのくではですぞ」
「雪女の話は多いですか」
「はい、ただそれがしはです」
 政宗は自分のことも話した。
「会ったことがありませぬ」
「左様ですか」
「これが」
 どうもという口調での言葉だった。
「ありませぬ」
「では」
「機会があれば会ってみたいものですな」
 政宗は笑って話した。
「それがしも」
「そうですか、ではご領地に戻られ」
「その時はです」
 雪女と会う機会があればというのだ。
「是非妖怪とです」
「話したいですか」
「そう考えています」
 こう言うのだった。
「是非共」
「何でもその寒さで凍らせて殺すとか」
「ははは、面白いですな」
 政宗は大谷から雪女が人を殺すと聞いて笑って述べた。
「ではそれがしは厚着をして」
「そうしてですか」
「雪女と会いましょうぞ」
「厚着に勝てるか」
「その勝負をしましょうぞ、戦の場で殺し合いをする方が」
 彼がこれまで多く経てきたそちらの方がというのだ。
「妖怪と会うよりずっと難儀でありましょう」
「そう言われますか」
「何でしたら」
 政宗は大谷に不敵な笑みで言った。
「その雪女を城に呼び」
「そしてですか」
「酒でも酌み交わしたいですか」
「左様ですか」
「伽とは言いませぬぞ」
「それは、ですか」
「おなごにいきなり伽を命じよと言うのも無粋」
 政宗は今度は明るく笑って話した。
「それはそれなりの付き合いが出来て」
「そして程よい時にですか」
「誘いをかけ相手が頷いてするもの」
「それがおなごとの伽ですな」
「それはおのこでも同じこと」
 政宗はそちらも嗜んでいる、それで言うのだ。
「ですから」
「それはしませぬか」
「まずは飲みたいものですな」
 その雪女と、というのだ。 
< 前ページ 目次
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧