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俺様勇者と武闘家日記

作者:星海月
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第1部
アッサラーム~イシス
  宝箱と罠

 ユウリと合流し、早速私たちは来た道を戻り外に出た。やっと日の光を浴び、思わず大きく伸びをする。外にいるときはうんざりするような暑さだったが、地下から戻ったときに感じたのは、長い冬から解放され、暖かな春がやってきたような心地よさだった。
「そういえばユウリ、穴に落ちたとき怪我とかしなかっ……ぎゃああああっっ!!??」
 最後尾のユウリの方を振り向いたとたん、私は彼の体のあちこちに血がついているのに気づき、絶叫した。
「どうしたんだよミオ……って、どわああああっっ!!??」
「……お前ら、人をバカにしてるのか?」
 血塗れ勇者……もといユウリが憤然とした態度で私たちを睨みつける。
「いやいやお前、気づいてねーの? なにしたらそんなに血だらけになるんだよ」
「ていうか大丈夫なの?! 怪我してるんじゃないの?!」
 生々しい血を見て慌てふためいた私は、ユウリの体をまじまじと眺めた。よくみると体のあちこちが擦りきれていて、服の上からじんわり血が滲んでいる。だがそのままにしておいたのか血が乾き、こびりついたようになっている。
「箇所は多いが、大した怪我じゃない。穴に落ちたとき、罠があって回避しきれなかっただけだ」
「穴に落ちたときって……落とし穴以外にも罠があったの?」
「落ちてから下の階に行くまでの間の壁に、スパイクのようなものや、不規則に刺さってある鉄の棒が打ち付けてあった」
「ひぇっ……」
「落ちる瞬間俺はそれを難なく回避したが、もし俺じゃなかったら、確実に死んでたな」
 そう言い終わると、ユウリは今ごろになって回復呪文を唱え始めた。あとで聞いたら、地下にいたときは呪文がなぜか使えなかったらしい。それですぐに怪我が治せなかったんだそうだ。
 それにしても一体どうやって回避したんだろう。確かに物音はしてたけど、まさかそんな超人的なことをやっていたとは。大袈裟でなくユウリの言うとおり、彼でなければそこで串刺しにされていただろう。
「穴の下には、無数の白骨死体が積まれていた。落ちたやつは皆あそこで死んだみたいだな」
「ひえぇ……。よくユウリちゃん無事だったね」
 シーラの言うとおり、そんな死と隣り合わせの場所で、よくユウリは生き残ったものだ。
 でも私たちが通ってきた場所にも骸骨があった。てことはユウリ以外にも生き延びた人はいたということだ。
 けれど出口までたどり着けなかった、あるいは出口とおぼしき場所までたどり着けたが、石で塞がれていたので自力では開けることができず、息絶えてしまった、そんなところだろうか。
「しかし俺としたことが……。あんな初歩的な罠に引っかかるとはな」
「オレも『盗賊』だなんて名乗っておきながらあんな罠を見抜けなかった……。次は絶対回避してやる」
 ユウリとナギ、男二人は苦虫を噛み潰すような表情でぶつぶつと呟く。
「わ、私も次は絶対気を付けるよ」
 まさかピラミッドに入ってすぐにこんな恐ろしい罠を目の当たりにするとは思わなかった。半端な覚悟で来たら、すぐに命を落としてしまうかもしれない。私は上ずった声を出しながらも体を奮い立たせ、先に進む決意を固めた。



 再びピラミッドの中へと入った私たち。先程の落とし穴を警戒し、進めそうな道を地道に探し続けた。そして念のため、これまたナギがレベルアップして得た特技『盗賊の鼻』で、この階の宝の数を調べることに。するとこのフロアには、1つだけお宝があることがわかった。
「ホント?! じゃあそれが魔法の鍵なのかも!」
「ああ。だから今から宝箱がどこにあるか探すぞ。ただ、宝箱があるからってむやみに開けたら危険だから、まずオレに教えてくれ」
 ナギによると、この『盗賊の鼻』の能力、あくまで『宝』の数がわかるだけで、『宝箱』の数がわかるわけではないのだ。宝箱の数と実際に入っている宝の数が違えば、どこに何があるのか実際に開けてみないとわからない。
 まずは、ユウリが落ちた穴のある十字路まで戻る。前と左右の三方にある通路のうち、左側の通路を調べることにした。
「この先に、開けた場所がありそうだな。もしかしたら何かあるかもしれないから行ってみようぜ」
 夜目の利くナギにしたがい、あとに続く私たち。落とし穴の場所は壁づたいに歩き、一歩一歩ゆっくりと足を下ろしながら進む。かなり時間のかかる歩き方だ。
 やがて、小部屋のような場所に出ると、目の前に堂々と小さな宝箱が数個並んであった。いかにも取ってくださいと言わんばかりの存在感を放っている。
「ねえ、これって、この中のどれか一つに宝が入ってるってことだよね?」
「ああ。けど、明らかに怪しいよな」
 私とナギが交互に顔を見合わせる。ユウリも眉間に皺を寄せ、どうするべきか決めかねていた。
「『インパス』が使えれば、罠かどうかわかるんだがな」
『インパス』って?」
「魔法使いが使う呪文の一つで、宝箱に何が入ってるか知ることができる。青なら宝、赤なら魔物という風にな」
「へえ~! 便利な呪文だね」
「レベル20前後でないと習得出来ないけどな」
 うわあ、それじゃあ結構高レベルの呪文ってことか。今の職業でも一つレベル上げるだけで大変なのに、魔法使いでレベル20まであげなきゃならないなんて、よっぽど才能がなきゃできない。
 と、話が脱線してしまったが、とにかく私たちは、この怪しい宝箱をどうするべきか悩んでいた。悩んだ挙げ句、ユウリは意を決したのか宝箱を開けることにした。
「おい、バカザル。罠かどうか確かめろ」
「はいはい。わかってますよ」
 ぶつくさ文句を言うナギだったが、その手際はさすがだった。鍵穴や箱のわずかな隙間を念入りにチェックし、反応を確かめる。
「……一通り見たけど、魔物がいる可能性は低いと思うぜ」
 何となく自信なさげに言うナギ。ユウリは鼻を鳴らし、 
「……まあ、最初からすべてお前に期待はしてない。もし魔物だったら俺がすぐに攻撃する。その間、お前らで追撃しろ」
「……ああ」
「うん、わかった!」
「了解っ☆」
 そう言うと彼は、ゆっくりと宝箱に手をかけた。すると、開けてビックリ、中は空っぽだった。当然、魔物もいない。
「なあんだ、空っぽかあ」
「くっそ~、思わせ振りな置き方しやがって!」
「ねえねえ、この箱、お化粧道具入れに使えない?」
 私たちは、思い思いの言葉を口にする。だがユウリは、「油断するな」と言いながら、残りの宝箱も開けてしまった。
「ちょ、ちょっと待って! そんないっぺんに……」
 だが、どの宝箱も空だった。これにはさすがに、がっかりというか、小馬鹿にされている感じがして内心苛立った。皆も似たように感じたのだろう。
「……王家の宝を狙う連中を欺くための罠か、あるいはすでに何者かに中身を取られたか。どっちしろここに用はない。他にも宝箱はあるはずだ。別のところにいくぞ」
 気を取り直し、今度は今来た通路と反対側通路に行ってみる。そこもまた同じような小部屋で、おなじように宝箱が並んでいた。
「どうせここも同じなんだろ? さっさと開けるぜ!」
 今度はナギが、続けざまに勢いよく宝箱を開ける。確かに空箱ばかりだったのだが、最後の一つに手を伸ばした瞬間、宝箱自身が動き出したではないか!
「わっ、なんだこれ?!」
「離れろ! 『人喰い箱』だ!!」
 ユウリが鋭い声で叫ぶ。反射的にナギが後ろに飛び退くと、宝箱の開閉口からは白い目玉のようなものが見え隠れしていた。その目玉はギョロギョロと辺りを見回すと、私たちに気づいたのか、いきなり跳び跳ねてこちらに襲いかかってきた。
「アストロン!!」
 瞬時に、私たち全員の体が鋼鉄と化していく。人喰い箱の攻撃は受け付けないが、代わりに私たちもまた動くことができない。とりあえず不意打ちを防ぐことは成功したが、アストロンが解けたあと、どう戦えばいいのかわからない。
 ここはユウリの判断を仰ぐしかない!
 一定時間経ち、アストロンの効力が消える。ばっとユウリの方を見ると、彼は魔物の方を向いたまま後ろにいけと、手で合図している。「後方に回れ」ってこと?
 皆後ろに退き、同時にユウリが一歩踏み出した。鞘から抜いた剣を構え、人喰い箱の攻撃が来る前に彼は駆けだして先制攻撃をした。それほどダメージは与えられなかったのか、魔物は一瞬怯んだあと、そのまま勢いよく突進してくる。
 それを予想してたのか、ユウリは右に避け難なくかわす。すると、勢い余った人喰い箱は、目の前の石壁にぶつかった。大きな衝撃と破壊音が響き渡る。見ると、石壁の部分は大きくえぐれており、人喰い箱の攻撃力の強さが窺える。
 ユウリは再度、息つく間もなく、いまだ動けない人食い箱の背後ががら空きになったところを袈裟斬りにした。
「くっ、まだダメか」
 たたらを踏んで、誰にともなく呟くユウリ。どうやら魔物の体力は予想以上に高いらしい。私たちも加勢に行きたいが、ユウリですら苦戦している相手に勝てる自信などなく、その場で踏みとどまらざるを得ない。
 そうこうしてるうちに、再び人喰い箱はユウリに向かって襲いかかろうとしている。これも避けるのか、と思いきや、足元がふらついてるではないか。見ると、顔には脂汗が浮いており、左腕には新たに血が滲んだ跡がある。
 ちょっと待って、まさか、攻撃を食らった?! でも、一体いつ?!
 さっき避けて、そのまま魔物が壁にぶち当たったときだろうか? ということは、完全に回避できなかったんだ。
 私はたまらず、前に出ようとした。しかし、
「来るな!!」
 ユウリにぴしゃりと止められた。でも、負傷してるのに助けにいけないなんて、辛すぎる。
 歯がゆさだけが残る中、ユウリは苦痛で歪んだ表情を自ら消し、一瞬目をつぶった。集中しているのか、これまでにないプレッシャーを感じる。
 人喰い箱が次の攻撃に備え、こちらを振り向いた瞬間だった。
「ライデイン!!」
 声高にそう呪文を唱えると、真上に掲げたユウリの右手から光が集まりだした。その光から放たれているのは稲妻のようであり、周囲の大気を震わせるほどの威力がうかがえる。
 ユウリが右手を下ろし魔物のいる方へと向けると、稲妻は複数の光の竜となって対象を貫いた。
 焦げ臭い匂いが充満すると、人喰い箱は灰となって消えた。
「すっ、すごい……」
 私たちが呆気にとられていると、人喰い箱を倒したユウリは、怪我がひどいのかその場に膝をついた。私が駆け寄ると、彼はすぐさま回復呪文ををかけた。
「ベホイミ」
 確かベホイミは、ホイミよりレベルの高い、上位回復呪文だ。それを使わなければならないほど、酷い怪我だったのだろうか。
「大丈夫!? ユウリ」
 血の染み付いた左腕をちらっと見る。肉が裂け……いや、詳しい説明は省くが、パッと見てこれは重傷と思えるくらいの傷の深さだった。全然大丈夫ではないのがわかる。
「悪い。オレが考えなしに宝箱開けちまったから……」
 傷が塞がり始めると、ユウリは深く息を吐いた。
「全くだ。このバカザル」
 それだけ言うと、ユウリは多少ふらつきながらもその場に立つ。心配そうにシーラがユウリの体を支えようとするが、彼は手で制した。
「一度、町に戻るぞ。体勢を整える」
 一瞬戸惑ったが、すぐに理解した。このまま先には進めない、というリーダーの判断だ。
 この状況で先に進むのは、無謀すぎる。私たちは是非もなくうなずきあい、ユウリの呪文で町へと戻ることにした。



 結局宝箱を一つも見つけることが出来ず、イシスに帰って来た。その夜、酒場で食事をすることにし、明日の予定をたてることにした。
「結局さっき見つけたので宝箱全部かな」
「いや、まだ入り口から見て正面側の通路は調べてねえ」
「でもでも、あの建物っておっきいよね? 階段とかあるんじゃない?」
「階段か……。とりあえず、その探索してない通路を調べてみるぞ」
 大皿に乗ったスモークチキンをかじりながら、ユウリが言った。先ほど酒場のマスターから借りた羊皮紙とペンを広げ、紙に地図を描く。
「……これが一階だとして、俺たちが落ちたのが地下。ここから上に上がる階段がここで……」
 と、みるみるピラミッド内部の地図が出来上がる。なるほど、こうやって地図にして描けば、自分達がどこに行ったかが一目でわかる。
 わからないのはさっき言った通路のみだが、建物全体の規模から察するに、そこから先も何があるかわからない。
 パンとシチューを掻き込みながら、ナギが十字路のところに指を置く。
「ひゅーひおのほほーおはいほいはほーはひーへ」
「ごめんナギ、飲み込んでから話して」
 まあ、なんとなくだけど、『十字路のところの罠も描いといた方がいいんじゃないか?』とか言ったんだと思う。たぶん。
 私はサラダを口に運び、ふと思い出した。
「そういえば、一階では呪文が使えたけど、なんで地下では使えなかったんだろ?」
「さーな。曲がりなりにも墓だし、なんか呪いでもあるんじゃねーの?」
「やだ、怖いこと言わないでよ!」
 お化けとか幽霊が苦手な私は、ナギが変なことを言うので急に怖くなってしまった。
「今はそんなことより魔法の鍵を探すことが先決だよ! 地下のことはとりあえず今は放っておいて、明日は残りの宝箱を探しにいこうよ!」
「お前が言い出したんだろ」
 ユウリが冷静に言い放つ。その横で食事を終えたナギが一息つくと、
「でもよ、今日だけであれだけ罠があったんだぜ? 明日になったら忘れてるぞ、きっと」
 確かに、こうして紙に描いていけば確認することは出来るのだが、探索しながら地図を作るなんて、とてもじゃないが、出来るわけがない。
 ん、待てよ…?
 私はあることを思い付き、ユウリに尋ねてみる。
「あのさ、明日ピラミッドに行く前に寄りたいところがあるんだけど、戻るまで待っててもらっていい?」
「オレは別にいいけど、どこに行くんだ?」
 ナギを含め三人が一様に私に注目する。私は今思いついたことを説明した。
「……なるほどな」
 納得してくれたのか、リーダーのユウリは意外にもあっさり了承してくれた。ただ、少しでも時間に遅れたらおいてくぞ、と言い残してくれたが。
「それなら今日は早めに宿に戻ったほうがいいよな。おいシーラ、そろそろ切り上げるぞ」
 ナギが食後のデザートを食べ終えると、ジョッキを片手に飲み干すシーラを小突く。
「そーだね! あ、おじさん、ワインあともう一本ちょーだい!」
「わかってねーじゃねーか!」
 その後ワインを惜しむシーラを無理やり引きずり、酒場を後にする私たち。
 ごめんね、シーラ。明日こそは、魔法の鍵を見つけるから。
 私は夜空に向かってそう誓ったのだった。 
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