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GATE ショッカー 彼の地にて、斯く戦えり

作者:日本男児
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第18話 千堂の力 後編

 
前書き
投稿が遅くなりすみません。
千堂の怪人態の命名や第2章、第3章のプロットを作ってたら遅くなりました。
しかしその分、2章、3章の投稿はよりスムーズになると思います。

今回で第1章は終わりです。
それとようやく千堂の怪人態が登場します!
それではどうぞ!!! 

 
襲撃者達はショッカーの支配に反対するレジスタンス組織、アンチショッカー同盟の人間だった。

同組織は先のショッカー警察による検挙で日本支部の幹部のアジトが強襲され、貴重な同志達が殺された。また南米ではアマゾン支部の武器製造工場が破壊されたという。そこでは銃器だけでなく闘争用のガイアメモリやアストロスイッチも製造していたために組織にとって大きな損失となってしまった。

このまま敗北続きでは世界各地に散らばる2号〜Jまでの仮面ライダー達やショッカーに不当に投獄されている仮面ライダーBLACK RXこと南光太郎様に会わせる顔がない。
そこで彼らはこの世界を訪れているという異世界の来賓を人質にとり、ショッカーにこれまでに逮捕された同志達や南光太郎様の解放を要求する計画を立案した。
異世界で『正義ヅラ』するショッカーにとって来賓の少女達の身に何かあったとなればこれからの『異世界征服』に甚大な影響を及ぼしてしまう。最悪、占領地で住民の反乱が起き、撤退を余儀なくされる事態になる。


それを防ぐ為ならどんな要求でも奴らは飲む。それが彼らの"ヨミ"だった。


この作戦は日本支部と東南アジア支部のの一部の幹部の独断であり、アンチショッカー同盟全体の意思ではない。
当然、仮面ライダー達が聞けば「何の罪もない異世界の少女を利用するなんて…ゆ"る"さ"ん"!!」と怒りを顕にして嘆き悲しむだろうがショッカーに勝つためには手段を選んでられない。
これは自由を取り戻す為の聖戦なのだ。


「あの娘らはこれからどうするんですか?」


アジトである廃工場内で部下が襲撃部隊の隊長に尋ねた。


「ん?ああ、俺もよくは知らされてはないんだが、これから湾内に停泊しているフェリーに運び、そこから東南アジア支部のアジトに運ぶ手筈らしい……」


男達の密談は続く。


一方、レレイ達は後ろ手に縛られ、この廃工場の隅に寝転がされていた。ロウリィは未だにライアー・ドーパントによる精神支配を受けており、頼りにならない。3人の心は恐怖や焦燥感で覆い尽くされていた。逃げ出すことも考えたがすぐに諦めた。この廃工場内だけでも30人程の男達がいたからだ。
仮にこの拘束を解いて逃げたとしてもすぐに捕らえられ、今以上に酷い目に合うのは確実だった。




しばらくすると男達の内、数人が近づいて来た。


「手荒なまねしてごめんねー。でも君らがいればショッカーも下手な真似できないでしょ?」


「あとちょっとの辛抱だと思うからさぁ。耐えてくれるよね?俺らの要求をショッカーが飲んでさえくれれば大丈夫だから」


男達は一方的な会話は進む。
レレイは振り絞って声を出す。


「……私達なんかでショッカーは要求を飲んだりしない。あの人達は……」


レレイはあの人達と言ったが脳裏には千堂が浮かんでいた。しかし、おそらくショッカーは要求を飲まない。異世界人……それも敵国の人民を助けるメリットなどない。そう分かっているのにどうしても脳裏に浮かぶ"あの人"に助けを求めてしまう。


「何、こいつ。俺らより独裁者の味方なわけ?」


「ねー、暇だからコイツらで遊ばね?そもそも異世界から来て安全に帰れるとか思ってたの?」


男の1人がレレイの顎を掴み、上を向かせる。
レレイの恐怖が最高潮に達した。


(助けて!!!)


その時―。



ドガァァァァン!!!!



もはやそれは破壊音というより破裂音だった。
"その男"の強烈な一蹴りは頑丈そうな鋼鉄製の壁をいとも容易く粉砕した。
薄暗い工場内に突然、光が差し込む。
逆光を浴び、千堂はそこに立っていた。


不穏分子の男達はレレイ達から手を離し、千堂の方を向く。


「し、ショッカーの手の者か!?なぜここが分かった!?」


そう言ったのは先程、レレイの顎を掴んでいた男だ。男はナイフを腰から引き抜くと千堂に向けて突進する。


「「危ない!!」」


レレイとテュカが叫ぶ。



ゴキッ!!!


骨が大きく折れる音が鳴り響いた。
無論、男のナイフが千堂に刺さった音ではない。千堂が向かってくる男の顎をかかとで蹴り上げたのだ。
男は千堂に蹴り上げられ、頭蓋骨が砕け、そのままの勢いで天井に叩きつけられた。


「なぜここが分かったかだと?そんなの俺が改造人間だからに決まってるからじゃないか」


不穏分子達は千堂の「改造人間発言」に軽くパニクるが千堂はレレイ達の方を見ると優しい口調で言った。


「遅くなってすまない。助けに来たぞ」


ようやくレレイ達の恐怖心が薄れていった。
するともう1つの影が工場内に入る。


「隊長!レレイさん!ご無事ですか!?」


千堂に続いて加頭も工場内に突入したのだ。


「加頭か……ショッカー警察は?呼んだのか?」


「はい。もう10分ほどで到着するようです」


警察が来ると聞いて不穏分子達がざわつく。逃げようとしているのだ。千堂はそんな彼らの様子を軽蔑と怒りの籠もった目で一瞥した。


「10分ねえ……この人数を無力化するには十分過ぎる時間だな」


!!!???


千堂のその言葉は不穏分子達だけでなく加頭まで驚かせた。しかし、千堂の力の籠もった態度や溢れ出る雰囲気がそれがただの虚言ではないことを表していた。


「加頭、あの娘達を頼んだ。俺は目の前のクズ共を片付ける」


「……分かりました。お気をつけて」


加頭はレレイ達に駆け寄って縄を解いた。


「少しの間、目をつむって下さい。あと耳も塞いでいてください………危険ですから」


優しく諭すようや加頭の言葉にレレイ達は「分かった」と自由になった両手で耳を塞ぎ、ぎゅっと目をつむった。
千堂はそれをチラリと目をやって確認するとゆっくり息を吐くように不穏分子達に言った。





「全く……異世界の少女達でさえ偉大なるショッカーの思想や理想に感動したってのに……」



「お前ら不穏分子ときたら!!!」



軍服の男…千堂は怒りに顔を歪ませ、容赦のない視線を"敵"に向けた。
それと同時に周囲にただならぬ緊迫感と迫力を撒き散らした。


「大首領様のお作りになった平和で公正な世界秩序を破壊すべく暗躍し、そのために平和に暮らす人々を利用する!!」


千堂は両腕をクロスさせ、顔の前まで持ってきて目を強く瞑った。
そして―


「俺はそんなお前らを許さない!!!」




ドンッッ!!!!


目をカッと見開いてクロスしていた両腕を腰元までグッと引き、"リミッター"を解除する。
すると突如、発生した衝撃波が不穏分子(アンチショッカー同盟員)達を襲い、ズンと大気を震わせた。同時に千堂の身体をドス黒い黒雲のような靄がモクモクと包みこむ。


「変身ッ!!!」


稲妻の様な赤黒い閃光が靄の中で起こると、千堂の姿は変わり、黒い靄は晴れていく。
そこには"人間態"の千堂はいなかった。




不穏分子達は『白銀色の狼男』を見た。



それは素体となった『狼』の能力を十分に使う為のショッカー怪人としての恐ろしいまでのいかめしい姿。

狼男の象徴ともいえる鋭い犬歯を口から覗かせ、頑丈そうな全身の肉体を覆うのは銀色のゴワゴワとした固い毛。
右胸部にはショッカーのシンボルである鷲のマークが赤く彫られ、腰にはショッカー怪人であることを示す銀色の鷲のベルトをしていた。


そしてこの姿となった今、千堂印一という人間態の時の名前を一時的に捨てる。そして怪人態としての名前を名乗るのだ。


「平和を乱すその野望!偉大なる大首領様に代わって打ち砕く!!聞け!
我が名はアングヴォルフ!!偉大なるショッカーの秩序の守護者である!!」


千堂もといアングヴォルフは名乗り口上を上げると脚をドっと開いて目を見開き、獣の威嚇のような臨戦態勢を取る。


「う、うわぁぁぁぁ!!!」


恐慌状態になった不穏分子の1人が持っていた自動小銃を千堂に発砲する。


パパパパパパ!!!
 

全弾命中するもアングヴォルフはまるでポップコーンでも投げつけられているかのように全く動じない。


「嘘だろ!?これは対改造人間用の銃弾なんだぞ!?何故死なない!?」


「何故かだと!?俺のこの力は偉大なる正義(ショッカー)の恩恵に日々感謝し、鍛錬を積んでいるおかげだ!!お前らとは根本から違うんだよ!!!」


ヴォルフは彼らの中に踵落としを食らわせるとそのまま近くにいた固まっていた2人組の不穏分子に鋭い爪を持つ手で貫手を放った。合計3人。3人もの人間が一瞬にして固い地面に転がる。


それからは正に一方的な攻勢だった。無謀にも突撃をしてくる者が数名いたがそういった者は拳を叩きつけられ、吹き飛ばされた。
次々と不穏分子達が宙を舞う。


アングヴォルフは千堂"だった"頃には見せなかったニヒルな笑みを浮かべた。特有の細長い口から犬歯が覗く。


「な、何が改造人間だ!!これでも食らえ!!」


『コックローチ!!』


男の1人はコックローチ・ドーパントに変身し、千堂を窒息させようと勢いよく粘液を飛ばした。
それを見たヴォルフは飛んでくる粘液弾をスルリと避け、そして空間を断つかの如く、高速でコックローチ・ドーパントの背後へと周る。


「速いッ!?」


「お前が遅えんだよ!!」


ドスッ!!


鋭い爪を持った腕で手刀を作るとコックローチ・ドーパントの胴体に貫通させる。そこまでの一連の動作はとりまきの不穏分子達にとって肉眼で捉えるのがやっとであり、アングヴォルフは煩わしそうに蹴りを入れてドーパントの肉体から腕を引き抜いた。
ドーパントは爆発を起こし、変身前の姿に戻って倒れるとメモリが排出される。



絶句。



不穏分子達はパニックに陥る。改造銃だけでなくガイアメモリで超人的な力を手に入れたはずの仲間ですらロクな抵抗もできずに瞬殺されたのだ。

  

(撤退すべきだ。目の前の怪人は強すぎる。このままでは皆殺しにされる!!)



しかし、その直感を必死に隊長は追い払う。異世界の少女達という交渉材料を得ておきながらみすみす逃げるという愚行はできない。



「ひ、怯むなァ!!一斉に攻撃すれば流石に奴も倒せるはずだ!!!」


それを聞いた男達は一斉に持っていたガイアメモリを起動して変身する。


『スイーツ!!』
『アームズ!!』
『アイスエイジ!!』


隊長も例外ではなくガイアメモリを取り出して変身した。


『ライアー!!』



スイーツ・ドーパントは凝固性のクリームを千堂の足元に放って見動きできないように拘束し、アームズ・ドーパントは腕を機関銃に変えて弾幕を張り、アイスエイジ・ドーパントは冷凍ガスを放射した。ライアー・ドーパントも杖から黄色の光弾を放った。


多種多様な攻撃が混ざりあったことによって爆発が起き、その余波で地面のコンクリートが砕けて周りに飛び散る。黒煙が辺りを包み込んだ。



「やったか!?」


いくら改造人間といえど、あれだけの集中砲火を受けて生きていられるはずがない。即死だ。誰もがそう思った。
―そうなるはずだった。






「ウオオオオオオオーーーンンン!!!」


"遠吠え"が聞こえ、ドーパント達は目を剥く。次第に煙が晴れて全貌が明らかになる。
その狼男は大地に何事もなかったかのように道路のアスファルトに両足で立っていた。ダメージを受けた様子は見られなかった。



「う、嘘だ……生きているだと?それも無傷で?」


「おいおい、痛くも痒くもなかったぞ。やはりお前ら不穏分子の力なんてこんなものなのか?」



余りの光景にドーパント達は狼狽える。
こちら側のありとあらゆる攻撃がまるで意味をなさないことに絶望し、膝をつく者も出てきた。


「ありえない!!あってはならない!!量産型のメモリとはいえ、あれだけの集中攻撃を受けて無傷でいられるなんて!!!」


「ク、クハハハハ!!!悪いな。俺は生命力は高い方でね!この程度の攻撃じゃ死なないんだよ!!」
   

そんな中、ドーパントの1人がハッとした顔をして我に返ったように叫ぶ。


「分かったぞ……お前の正体を!!第4世代!!お前は第4世代の改造人間だな!?」



その言葉に隊長ことライアー・ドーパントはふと昔、聞いたとある情報を思い出した。




新型改造人間。通称『第4世代』。


確か、アンチショッカー同盟日本支部が数年前に財団Xの通信網をクラッキングして手に入れた極秘情報の中にそんな文言があったはずだ。


それまでショッカーが作る改造人間には大きく分けて3種類がいた。

1種類の生物素体で造られた"ショッカー怪人"、2種類の生物の特徴を掛け合わせた"合成怪人"、生物と機械を融合させた"機械合成怪人"などの創設期に造られた「第1世代」。
メカニックなスーツを装着し、汎用性は高いが拒絶反応(リジェクション)という欠陥がある「第2世代」。
機械合成怪人をコンセプトにナノロボット技術で造られた「第3世代」。



しかし「第4世代」はそれまでの改造技術の粋を集めて作られたという。
さらにその情報には「それまでに造られた同タイプの改造人間や異種族を研究、改良を加えて設計された」や「仮面ライダー達の息の根を完全に止められる改造人間をコンセプトに造られた」などといった突拍子もないとしか言いようがないような内容が続いていた。



その情報を聞いた時、自分や日本支部の幹部達はいくらショッカーといえど、仮面ライダーを倒せるなど、そんなバケモノじみた怪人を作り出せるわけがない。きっと自分達を騙すための欺瞞情報だと思っていたのだが……。


しかし、その情報が真実で、目の前に立ち塞がっているのがその第4世代なのだと考えれば今現在の惨状も最も納得がいく。
だとすれば勝てるはずがない。


「そうだ。俺はその第4世代の改造人間だ。偉大なるショッカーが作り給うた改造技術の塊だ。正直、貴様ら、クズにこの力を使うのが勿体ないくらいだ」


静かに息を吐くような、そして殴りつけるような口調で不穏分子を嘲笑った後、千堂はドーパント達の方へと駆け出した。



一瞬。
本当に僅か1〜2秒ほどの一瞬のことだった。
まるで瞬間移動でもしたかのようにドーパント達との距離を詰めた。


アングヴォルフは勢いよく、スイーツ・ドーパントに強烈な蹴りをいれた。するとスイーツ・ドーパントはいとも容易くボールのように蹴り転がされてしまった。
隣にいたアイスエイジとアームズのドーパントも巻き込まれる形でなぎ払われた。3人は折り重なるようにして地面に倒れ伏す。


「う、うう……」
「グ、グハァ!!」


地面に倒れた3人は何故か不自然なまでに身体を痙攣させた。よく見るとその身体は『ボドボド』で時々、"青白い電流"が走っていた。そしてその電流は次第に全身を支配し―。


「「「グゴワァァァァ!!!!」」」と情けのない声を上げて爆発し、コックローチ同様にメモリブレイクされた。


「余りにも弱すぎる…まぁ、粗悪な量産型のメモリならこんなものか」


アングヴォルフが呆れたような態度を見せるとライアー・ドーパントが急に怒りの声を上げた。


「キ、キサマ!アイツらに何をした!?」


ライアー・ドーパントは叫ぶ。部下を殺されて情緒不安定になっているように見えた。


「別に……ただ蹴り上げた時に電流を流しただけだ」


「電流だと!?」


「そう、第1世代のクラゲウルフ先輩の持つ放電能力。それを多少、強化してスイーツの奴に流しただけだ。まぁ、他の奴も巻き込んで感電するのは予想外だったがな」


「クラゲウルフ……?……!!!まさかお前、過去の怪人の能力を!!!」


「その通り!ショッカーに属する全ての狼型怪人、狼型異種族を研究して造られた俺は彼らの能力を全て、使えるんだ!」


「そ、そんな………」



(勿論、欠点はあるがな……)


ヴォルフは内心でそう独白する。
確かに千堂ことアングヴォルフはこれまでに造られた狼型怪人や狼型異種族の能力を使えるが、それはあくまで理論上の話。
実際には1度の変身で使えるのは3つまでが限度だ。もしも1度の変身中に何種類も能力を乱発すれば肉体や精神の許容量を大幅に越えてしまい、よくて『暴走状態』、最悪の場合は死に至る。
そのため、戦闘中といえどむやみやたらに能力を使うことができず、まっぱら肉弾戦となってしまうのである。

今回の場合は先程、クラゲウルフの能力を使ったのでそれ以外の能力を使うとなると残り2種類ということになる。
しかし、アングヴォルフにとって目の前にいる雑魚共は他の能力を使うまでもなかった。



ジロリとライアー・ドーパントの方を見る。ドーパントは思わず後ろ向きに倒れる。


「『ライアー』か……確か、相手に嘘を信じ込ませる能力だったな……」


だとすればロウリィを傷つけた張本人。
仇敵でも見つけたかのようにその腹に飛びかかった。
暴風を生み出しそうな勢いで千堂はライアー・ドーパントの顔面を容赦なく殴りつけ、頭を掴んで勢いよく地面に叩きつけた…電流を流しながら。



「ギャアアアアア!!!痛ァァ!!」


ライアー・ドーパントは激しい痛みに泣き叫ぶが千堂は無視し、さらに片足で頭を踏んで見動きを取れないようにする。それどころか踏みつけていた足を上げては何度も踏みつけた。


「安心しろ、お前もお前の部下も殺しはしない。ショッカー警察に引き渡さなければならないからな……だが異世界の少女を傷つけた罪、それだけはここで償ってもらおうか」


やがてぐったりとして動かなくなったライアー・ドーパントを担ぎ上げると、宙高くに放り投げた。
そして爪先に電流を溜め、ドーパントの方に向けた。


「……爆ぜろ」


千堂が静かに呟く。すると起こったのは―。

閃光―。
青白い稲妻がまるで意思を持ったかのようにライアー・ドーパントに直撃し、空中で爆ぜる。


ドォォォーーーン!!!


ドサッ!

隊長はメモリブレイクされて部下同様、固い地面に叩きつけられた。ピクピクと痙攣し、白目を向いて気絶している。

残りの不穏分子達は僅か10人ほどだった。頼みの綱である隊長やドーパント達が負けてしまい、絶望しているようにも見えた。彼らをキッと睨みつけるとその内の1人が恐怖に顔を歪ませながら叫んだ。


「何故だ!?何故、貴様らショッカーは俺達の意見を聞こうとしない!?何故、『自由』を求める俺達を一方的に弾圧するんだ!?」


「そうだ!俺達が悪いんじゃない!!俺達は改造人間の少数支配を変えようとしてるだけだ!人民の為なんだよ!!」
 

生き残るために、見逃してもらおうと不穏分子達は必死に目の前の狼男を説得しようとする。内心ではこんなことしても無駄なのは分かっていたが何もしないよりはマシだった。
しかし、アングヴォルフは怒りに拳をプルプルと震わせ、叫んだ。


「黙れぇぇ!!愚か者がぁぁ!!!」


!!!!!!!!!!!!


一瞬、その場がシンと静まり返った。まるで狼の遠吠えのように響き渡ったその怒声にその場の誰もが凍りついた。
アングヴォルフは続けた。


「何が『自由』だ!何が『少数支配の打倒』だ!その為に一般市民をテロに巻き込むのか!?その為に何の罪もない異世界の少女を拉致するのか!?矛盾してるじゃないか!!
お前らはいつもそうだ!!矛盾だらけの独りよがりな正義を掲げ、暴力に走る。そのせいで罪のない人が苦しんでも『聖戦』と言って知らん顔!
そんな奴らの話など誰が聞こうとするか!!」


「でも!ショッカーは人間のことを人的資源と呼んでるじゃないか!!
『資源』だぞ!『資源』!まるでパーツや道具みたいにモノ扱いだ!人間はもっと自由で気高い存在なんだ!それに改造人間なんか生命に対する冒涜だ!!」


「『人的資源』と呼ぶことの何が悪い!!この世界に生を受けた以上、ショッカー世界を構成するパーツとして大首領様の為に働くのは当然だ!!
それにショッカーは旧世界の政府と違い、人民を肌の色や性別、種族で差別しないじゃないか!!全人民がショッカーの前では公平!!その中で学問やスポーツで、競い、争い、勝ち残った『優秀』な人間を改造し、その他大勢の人民を正しく導く!! 

これこそがショッカーの理想とする社会(ユートピア)だ!!!
それを生命への冒涜だぁ!?侮辱するのも大概にしろ!!!」


アングヴォルフは怒りの余り、血管という血管が浮き出て千切れそうだった。改造人間であるため、そんなことは実際には起こらないが…。
しかし、不穏分子達は反省の色を全く見せず、なおも説得しようとする。


「もういい!お前らと話した俺が馬鹿だった!!大人しく降伏しろ!!」


そう言って不穏分子達の方へとゆっくりとにじりよる。


「く、来るなぁぁぁ!!!」


1人が叫んだのをきっかけに次々と他の不穏分子も叫び始める。


「ウワァァァ!!!」
「このバケモノがぁぁ!!」
「このショッカーの犬めぇ!!」


おまけに彼らはこれ以上の抵抗は無駄だというのに懲りずに小銃を乱射する。中にはまだ隠し持っていたガイアメモリを起動してドーパントに変身するまで現れた。


『マスカレイド!!』
『ナイトメア!!』
『ダミー!!』
『マネー!!』


そろいもそろって戦闘向きではないドーパントばかりである。皆、それぞれの遠距離技を放つ。
しかしヴォルフにはそれらの攻撃がポップコーンどころか発泡スチロールの欠片でも投げつけられているかのように何も動じない。


「煩わしい……さっさと終わりにするか…」


爪先から広がった青色の稲光が全身を覆い尽くす。
強力な電流が千堂の体内を駆け巡る。
片腕をソッとドーパント達に向けると静かに祈るように言い、そして叫んだ。


「全ては栄えあるショッカーと偉大なる大首領様の為に………喰らェ!!!」


その瞬間、千堂の片腕から丸太ほどの大きさの真っ白な電光が蛇のようにうねりながら打ち出された。
美しい閃光の花がドーパント達に直撃し、その過剰なまでの電気エネルギーのせいで周囲に強烈な爆風が起きる。



「グワァァァ!!」
「ギャアアア!!」
「じ、自由…バンザァァイ!!」



ドーパント達は強烈な高圧電流と衝撃に火花を散らしながら爆発を起こして変身が解除される。変身前の人間の姿となった彼らは気絶し、硬い地面に倒れ、メモリは体外にはじき出されて粉々に砕け散った。


「終わったな」


そうしてアングヴォルフは瞬時に変身を解除して人間態の千堂に戻った。






(さすが隊長。圧倒的なまでの強さだ俺なんか遠く及ばない)
加頭はそう思いながら死屍累々となった周囲を見渡す。全員、重症ではあるが死んではいない。

あの戦闘の中でも死なない程度に手加減をしていた。そしてそれをするだけの余裕が千堂にあったということが実践経験の少ない加頭にも分かった。ショッカー警察に引き渡すという思惑があったにせよ、数十人も殺さずに無力化するのは至難の業だ。
しかし当の隊長はそんなことを気に留めていない様子で
「レレイ、テュカ、ロウリィ、もう目を開けてもいいぞ」
と大声で言った。


思えば千堂隊長は常に誰かの為に行動していた。炎龍戦にしても、今回の戦いにしても誰かを救う為だけに力を使っている。
その気高い姿に加頭は心の中で感動した。そして自分がそのような人物の部下として働いていることに誇りを持つのだった。そして少しでもこの人に近づけたらと加頭は思わずにはいられなかった。






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レレイside

ドンという激しい打撃音やドォーーンという爆発音がしたと思ったら「もう目を開けてもいいぞ」というセンドウの声が聞こえて、私はゆっくりと目を開く。
視界が光を取り戻す。
しかし、センドウを見て背筋が凍るような感覚に見舞われた。
千堂の身体におびただしい血が付着していたからだ。


「ち、血が!!怪我してるんじゃ!?」


テュカが心配の余り、叫んだ。


「俺のじゃない。気にするな」


チラリと工場の片隅に目をやると先程の男達が重なるように倒れていた。
あれだけの人数をたった1人でやっつけたというの?
どれだけ強いの、センドウは?
そして私達の為に単身、助けに来てくれた。あの恐怖で動けなかったあの状況から。
色々な感情や思いが駆け巡る。


「どうした?何で泣いてるんだ?もしかしてさっき俺が声を荒げてしまったのが聞こえたのか?もし、そうならすまない。」


泣いてる?言われてから目元を拭ってようやく気づいた。1度、気づいてしまうと堰切ったように涙が止まらなくなる。


「怖かったよな。あんな目にあって。もう2度とこんなことが起こらないように悪い奴は捕まえていく。だから、どうかこの世界のことを……ショッカーのことを嫌いにならないでくれ」


優しさの籠もったと同時に懇願するようなセンドウの声に余計に涙が出てくる。優しく頭を撫でる手にジンワリとした暖かみがあった。


「あ、ありがとう……助けに…来てくれて」


「ああ、どういたしまして」


やがてセンドウは立ち上がった。センドウにはそのつもりはないのかもしれないが、私にはセンドウが私達を置いてどこかに行ってしまう気がした。
そう思った私は大きな声で呼び止めた。


「ちょっと待って…!もう少し一緒にいてくれる?」


私の問いに千堂は少し、考えている様子で手を口元に当てて黙って立つ。そして—。


「門までな…基地内なら安全だ」


そう言って目深に被り直した千堂の口元は優しい微笑みを浮かべているかのように見えた。
 
 

 
後書き
・アングヴォルフ (変身者 千堂印一)

ニホンオオカミの改造人間。
第4世代の怪人であり、ゾル大佐の黄金狼男を始めとするこれまでに造られた狼型怪人やウルフオルフェノクなどの狼型異種族を徹底的に研究・改良を加えて制作された。改造手術の執刀医はハインリッヒ博士。

ニホンオオカミの改造人間ということもあり、元々は赤茶色の毛並みをしていたがウルフオルフェノクの因子の影響で改造手術中に銀色に変色してしまった。そのおかげで人間態でも高速移動が可能となっている。

新型ウルフビールスa型という未知のウィルスを体内で生成する能力も持ち併わせており、これの作用で千堂は驚異的な再生能力を持つ。
詳しくは前回、後書きの『新型ウルフビールスa型』についての解説を参照。


作者から……
次回は第1章と第2章を繋ぐ『間章』を予定しております。また第2章からはオリキャラが2、3人登場予定です。お楽しみに。 
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