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七人ミサキ

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第一章

                七人ミサキ 
 讃岐の海に不気味な話があった。
 海に姿は見えないが何かが出て祟るというのだ、その祟りはというと。
「憑いて殺すそうだ」
「そして自分は成仏するらしい」
「海にいるらしい」
「七人いるとのことだ」
「本当かどうかわからぬが」
「これはまことのことか」
 都でもそのことが話題になっていた、宮中でも公卿達が話し花の御所でもそれは同じだった。それでだった。
 将軍である足利義満もどうかという顔になって幕臣達に話した。髭は生やしているがそれは整え服も髷も公卿のものである。はっきりした目で何処か剽軽な感じがする。
「若し讃岐の話がまことであるのならじゃ」
「放ってはおけませぬな」
「民を祟り殺すなぞ」
「その様なことは」
「それでじゃ」
 幕臣達にこう言うのだった。
「余はことを収めようと思うが」
「それならばです」
 義満の言葉を受けて管領の細川頼之が言ってきた、公卿そのままの恰好となっている義満とは違い武家の服を着ている痩せた老人だ。
「やはり僧侶を向かわせるべきです」
「それか宮司であるな」
「はい、話を聞くと怨霊の類です」
「怨霊ならばその祟りを鎮めるものでじゃな」
「ここはです」
「僧侶か宮司であるな」
「そうなりますので」
 だからだとだ、細川は義満に話した。
「この度は」
「そうであるな、ではな」
「その様にされますな」
「そうしよう、しかしじゃ」
 ここで義満はどうかという顔になってこう細川に言った。
「余の親しい坊主と言えばな」
「ああ、あの小坊主ですな」
「一休じゃ、あ奴が真っ先に思い浮かぶが」
「ではあの小坊主に言ってもらいますか」
「あ奴はまだ子供だが頓智だけでなくな」
「学識もありますな」
「よく学んでな」 
 日々そうしていてというのだ。
「経もよく読む」
「先々楽しみですな」
「余はいつもしてやられてるがな」  
 義満は苦い顔でこうも言った。
「だからな」
「それで、ですな」
「余としてはな」
「一休は行かせたくないですか」
「しかし今都で第一の坊主といえば」
 それはというと。
「やはりな」
「まだ子供ですが」
「あ奴じゃ」
 一休こそがというのだ。
「だからな」
「ここはですな」
「あ奴に行かせるか」
「そうしてですか」
「その祟りを鎮めるか」
「では」
「すぐに一休を呼ぼう」 
 義満は断を下した、そしてだった。
 彼はすぐに一休を花の御所に呼んだ、そうして彼に事情を話すと。
 小柄な小坊主でありながら彼は臆することなく明朗な声で義満に答えた。
「わかりました、ではです」
「すぐにか」
「はい、讃岐に向かい」  
 そうしてというのだ。
「祟りを鎮めてきます」
「そうしてくれるか」
「すぐに戻ります」
「すぐに行ってか」
「そうしてきます」
「讃岐は遠いぞ」
 義満はここで思わせぶりに笑って一休に言った。 
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