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祖母が言うと

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第一章

                祖母が言うと
 三島徹の家は地元では結構有名な企業を経営している、昔は地主であり資産も結構ある。それでだ。
 猫を多く飼っても大丈夫だ、だが。
 家の次男で高校生である徹は家のあちこちにいる猫達を見てどうかという顔で言った。
「うち今猫二十匹いるよね」
「二十一匹だよ」
 彼の兄で大学生の浩太が答えた。二人共面長で眼鏡をかけていて黒髪で外見はよく似ている。だが兄の髪の毛はオールバックで弟のそれはセンター分けだ。二人共背は一七二位で痩せている。
「今は」
「前まで二十匹だったよね」
「この前お祖母ちゃんが拾ってきたんだよ」
「また一匹拾ってきたんだ」
「そこの灰色の猫な」
 兄は部屋の隅っこで丸くなっているその猫を指差して話した。
「お祖母ちゃんがジンって名前付けたよ」
「何時の間に」
「三日前な」
「また増えたんだ」
「けれど飼えるだけのお金うちにはあるしお祖母ちゃんが面倒見てるしな」
「いいっていうんだ」
「お前も別に猫嫌いじゃないだろ」
 兄は弟に問うた。
「そうだろ」
「まあね」 
 弟もこのことは否定しなかった。
「実際嫌いじゃないよ」
「そうだよな」
「うん、けれど家中猫だらけだから」
 それでというのだ。
「ついね」
「言っただけか」
「そうだよ、また一匹増えたんだね」
「お祖母ちゃんが言うには猫は福を招いてくれるだろ」
「だから多ければ多いだけいいんだ」
「しかも世話してるとぼけないそうだからな」
 兄は弟にこのことも話した。
「だからな」
「いいんだ」
「ああ、とにかくもう一匹増えたからな」 
 それでというのだ。
「そのことは覚えておいてくれよ」
「二十一匹になったことだね」
「そのことはな」
「わかったよ」
 兄とこうした話をした、とにかく徹の家は猫が非常に多く文字通りの猫屋敷だった。和風の家だったので余計にだ。
 屋敷そして猫屋敷と言えた、その猫屋敷の庭の縁側の下にだった。
 また猫が来た、今度は野良猫だったが。
 その猫好きの祖母の静江、小柄で小さな垂れ目で髪の毛はすっかり白くなった彼女がこんなことを言った。
「三毛猫でね」
「今縁の下に住んでるんだ」
「そう、それでね」
 祖母は徹にも話した。
「ずっといついてね」
「その猫も飼うんだ」
「そうしようね」
「これで二十二匹か」
 猫の数をだ、弟は述べた。
「そうなるんだ」
「そうだね、けれど」
「それでもなんだ」
「祖母ちゃんが育てるから」
 その猫もというのだ。
「あんた達も宜しくね」
「僕達も面倒見るから」
 孫は祖母にこのことも約束した。
「家族だから」
「他の子達と一緒にだね」
「そうしていいよね」
「勿論だよ、じゃあその子もね」
「うちの猫としてだね」
「可愛がっていこうね」
 こう話してだった。
 一家はその猫も迎え入れた、猫は祖母が縁の下から家の中に入れた。三島家では猫は家猫にするのだ。
 三毛猫は雌で祖母がハナコと名付けた、引き取ってすぐに不妊手術に連れて行ったが。 
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