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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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最終章:無限の可能性
  第258話「始まる最後の戦い」

 
前書き
最終章突入。
最初以外、ほとんどの話が戦闘になりそうです。
 

 














 神界のどこか、闇に満ちた場所にて、一人の神が狼狽えていた。

「……まさか、あそこまで追い詰めてなお足りないとは……!」

 その神の名はイリス・エラトマ。
 優輝達が撃退した分霊ではなく、正真正銘本体のイリスだ。

「……いえ、違いますね。最後の最後で詰めが甘かった、と見るべきですね……。“念のため”と敗北を想定して分霊にしたのが、むしろ間違いだった……!」

 念を入れた事、それがむしろ敗北に繋がったのだと、イリスは悔やむ。
 だが、既に過ぎ去った事だ。後悔を早々に切り上げ、“次”を見る。

「まだです……まだ、終わっていません……!」

 別の分霊を通じて見るのは、自身と対極に位置する“性質”の神。
 その勢力との戦いだ。

「(未だに勢力は拮抗。むしろ、まだこちらが押していますね。ですが、それもいずれは逆転するでしょう……)」

 神すら洗脳する力で、イリスの勢力は数を増やし続けている。
 相手も洗脳を解いて来るが、それでもまだイリスの方が優勢だった。
 しかし、相手が対処するようになって、徐々に逆転を始めている。

「……ならば、それまでにこちらが彼を手に入れるまで……!」

 だが、目的を達成すればそれは最早無視できる。
 目的……即ち、優輝を手に入れる事だ。

「待っていてください……!絶対に、絶対に手に入れて見せます……!」

 憎悪でありながら、どこか愛に満ちた感情で、イリスは決意を口にする。

「そちらが一縷の可能性すら掴むのならば、私はそれすら呑み込んで見せます……!」

 “闇”が溢れる。
 その量は、分霊のイリスが出したそれと比にならない。

「そもそも、あの時私の欠片が邪魔しなければ……!」

 もう一人のイリスがいなければ、優輝が正気に戻る事はなかった。
 否、優輝を正気に戻すまでのどれか一つの要素でも欠けていれば、優輝を正気に戻す事は出来なかったはずなのだ。
 だというのに、覆された。それがイリスは気に入らない。

「何が恋したからですか……!それだけで、“領域”外の力を使うだなんて……!あり得ない、あり得るはずがないんですよ!」

 端的に言えば、イリスはもう一人のイリスに嫉妬していた。
 自分は“闇の性質”だ。闇を操り、希望の光すら呑み込む“闇”だ。
 生まれてからずっとその“性質”に従い、力を振るって来た。
 言わば、それ以外に生き方を知らないのだ。

「どうして“闇”が“可能性”を拓くんですか!どうして、希望を、光を示す事が出来るんですか!あり得ません、そんなの、私じゃない……!」

 嫉妬して、信じたくなくて。
 だからこそ、否定する。
 “今度こそ”と、再び優輝を手に入れようとする。
 結局“闇”は“闇”なのだと、再臨した“可能性”を呑み込もうとする。

「……決着をつけましょう。ユウキ・デュミナス……!私は、貴方の“可能性”を今度こそ呑み込んで見せる!」

 そう言って、イリスは洗脳した神々を再び優輝達の世界へ差し向けた。









   ―――イリスは気づいていない。

   ―――“負けるかもしれない”。そう考えておきながら勝とうとする。

   ―――それこそが、“可能性”を掴む事に他ならないという事実に。





























『状況は理解したよ』

『こっちもある程度回復したから、戦闘には参加できるよ』

 優輝と優奈が創った仮拠点で、緋雪達は伝心によって幽世と連絡を取っていた。
 とこよと紫陽に状況等を説明したのは鈴だ。

「避難状況はどう?」

『海鳴市の住民は大体来ているよ。だけど、やっぱり情報が行き渡っていない他の地域はまるでダメだね』

『被害状況は現世と比べたらかなり少ないよ。こっちには神も“天使”もほとんど来ていなかったから』

 “ほとんど”と言うだけあって幽世にも敵は来ていた。
 だが、幽世に住まう何人もの式姫や妖によって足止めされ、撃破されていた。
 物量をものともしない強さではあるが、だからと言って“領域”が砕かれない訳ではないと言う事だったのだろう。

『悪路王が幽世中に情報を伝達してくれて助かったよ。おかげで、幽世も一丸となって撃退に協力していたみたいだし』

 中でも、幽世に戻っていた悪路王が活躍していた。
 とこよの言った通り、情報を行き渡らせただけでなく、幽世だからこそ発揮できる本来の力で神界の神とも渡り合っていたのだ。

「そっか……」

「大体無事ならいいわ。それで、次の戦いはどうするの?」

 鈴が問いかける。
 最後の戦いでは、神界に突入する組とそれ以外でグループ分けする予定だ。
 とこよと紫陽は神界に行ったこともあるので、突入も地球に残るのも選べる。

『あたし達は残って防衛するよ』

『うん。本当は負けた借りを返しておきたいんだけどね。それは攻めてきた神に代わりを務めてもらうよ』

「えっ、そうなの?」

「……姉さん達の事だから、てっきり突入するんだと……」

 緋雪と葉月が驚く。
 二人共……特に葉月は、とこよと紫陽がそう簡単に引き下がるような性格じゃない事を知っている。
 それなのに、二人は地球に残る事を選んだのだ。

『あたし達は、やっぱり土地に強さが由来しているからね』

『神界に行っちゃうと、神降しも出来ないし、強さが制限されちゃうんだ』

「……そっか、確かに、それなら残った方が戦力として発揮できるね」

 とこよは幽世の守護者で、紫陽は幽世の神だ。
 どちらも、地球……それも日本にいるからこそ発揮できる力を持つ。
 それをわざわざ捨ててまで神界に突入するメリットが少ないのだ。
 だから、二人とも残って防衛する事を選んだ。

「……もしかして、椿さんも……」

「ええ。突入はしないわよ」

 緋雪の呟きに、いつの間にかいた椿が返答する。

「私も日本由来の神だもの。本領を発揮するには、防衛に務めた方が効率がいいわ」

「やっぱり……」

「一応、葵なら行けるわよ」

「かやちゃんと一緒にいたいけど……いや、我儘言ってられないね、これは」

 いつも二人一緒である椿と葵だが、ここに来て分断する事になる。
 だが、戦力を考えればこれが妥当だ。

「地球に由来する力の持ち主は、総じて突入には向かないわ。……式姫や神である私達もその理由で突入出来ない。だから、託すわよ」

「……うん。任せて!」

 他にも、鈴や葉月、那美や久遠と言った面子も残る事に決めたらしい。
 彼女達の場合は、突入しても足止めや突貫出来る程実力がないからだ。









   ―――こうして、最後の戦いの準備は整っていった















「―――以上です。どうか、戦闘態勢だけは崩さないようにお願いします」

 それから数日後。各々の連絡は終了していた。
 リンディも本局へ連絡を済ませ、最低限の情報は伝えておいた。
 尤も、その本局も先日の襲撃で壊滅状態だ。
 情報があっても耐え凌ぐのが精一杯だろう。

「お疲れ様です。艦長」

「……聞けば聞く程、常識から外れるわね……」

 エイミィに労わられながらリンディは疲れたように溜息を吐く。
 地球からの襲撃を受けた時、リンディは大破したアースラを足場に神と戦った。
 結果は惨敗だったが、それでもかなり耐えた方だ。
 ……しかし、だからこそ“次”も出来る気がしなかった。

「妥協を知った身だから、なのかしらね。何度でも立ち上がれるあの子達が羨ましいわ。……本当にね」

 艦長という立場になるまでに、リンディは何度も挫折や妥協をしてきた。
 その結果なのか、“意志”を強く長く保つ事が出来ないのだ。
 出来たとしても、それは大切な何かを守るためだけだ。
 優輝達のように、攻め入る程の“意志”はない。

「プレシアみたいに、執念深ければもう少し何とかなったのかもね」

「それは……」

 プレシアは一時期アリシアを生き返らせるために犯罪に手を染めた。
 そうしてまで愛娘を生き返らせたい、そんな執念が、今も別の形で生きている。
 そのおかげで、プレシアはリンディと違い、また神界に立ち向かっているのだ。

「善であろうと、悪であろうと、“可能性”は平等……か」

 優輝の説明が終わった後、リンディは疑問に思った事を尋ねていた。
 もう一人のイリスのように、“闇”の存在が真逆の力を示す事があり得るのか、と。
 その返答が、リンディが今呟いた言葉だ。

「……なら、私ももう少し頑張らないとね」

 結局は、自分の“意志”次第だ。
 そう念を入れるように自身に言い聞かせ、自分に出来る事に専念した。





「……これで突入する面子は全員か」

 優輝が手に持ったメモ帳を見ながら確認する。
 そこには、神界に突入する者の名前が記載されていた。
 元々神界に突入出来るのは一度行った事のある者だけにするつもりだったのだが、実力や環境の都合上、防衛に残った方がいい者もいた。
 そのため、一回目の突入の時よりも人数は減っている。

「本来なら不足していると断言する所だけど……」

「この世界から神界に戻ろうとする神の足止めの必要もある。そこを考えれば、妥当とも言える。……それに、何も勝てないからと諦めて突入しない訳じゃない」

 飽くまで最高のポテンシャルを発揮するために防衛に残るのだ。
 決して無意味ではない配置だと、優輝は言う。

「……そうね。残ると決めた人は突入する人達を信じ、託したのだもの」

 優奈もそれに同意し、優輝はメモ帳を仕舞った。
 ふと視線を上げ、同時に遥か上空へと転移する。

「………かなり荒らされたな」

「通常の通信網は全滅よ。どこもかしこも、大規模な自然災害に見舞われたような状況になってる。発展途上国や自然災害の対策が甘い国は本来なら壊滅しているわね」

 生死の概念が曖昧になった事により、動かせる人材はかなり残っている。
 建物や生活に必要なインフラなどは壊滅したが、今は何とかなっている。
 ……ただ、復興にはかなり時間が掛かる事になるだろう。
 それほどに、地球に齎された神界からの攻撃の被害は甚大だ。

「ッ!」

 一瞬、優輝は力を籠める。
 すると、理力がいくつもの画面のように散らばり、そこに景色が映し出される。
 地球以外の、様々な次元世界の映像だ。

「……人口に比例して被害は大きいな」

「そりゃあ、襲撃の数が違うものね」

 ミッドチルダやベルカは地球と大差ない被害を受けていた。
 魔法の有無で若干地球よりマシではあるが、そこまで差はない。
 一方で、人の少ない次元世界は大して被害を受けていなかった。
 人が少ない分、襲った神の数も少なかったからだろう。

「どうするの?わざわざ様子を見たって事は、世界中の人達も奮い立たせるつもりなんでしょう?“可能性”を拓くために」

「ああ。だけど、今はまだだ。今希望を持たせたら、すぐに絶望に戻されて今度こそ立ち直れなくなるかもしれない」

 今の優輝と優奈ならば、被害の出た建物などは即座に修復できる。
 だが、今は敢えてそれをしない。

「タイミング次第と言う事ね」

「希望の後の絶望と絶望の後の希望とじゃ、全然違うからな」

 そこまで言って、優輝は映像を消す。
 そして、そのまま皆の下へと転移で戻った。







 優輝が転移した先では、戦闘準備を終わらせた面々が立っていた。
 全員、戦意を滾らせているのが目で分かる。

「……よし、まずは配置に就いてくれ」

 そう言って優輝や優奈、神界の神々がゲートを開く。
 事前に相談して、初手の防衛時にどこを守るか決めておいたのだ。
 特に、式姫達は今まで暮らしてきた場所に愛着があるため、そこに向かっていった。

「最初の攻撃が一番キツイと思え。後は、司と祈梨で何とかする」

 作戦は既に全員に伝えてある。
 ここで要となるのは天巫女である司と祈梨だ。
 厳密には必要ではないが、手っ取り早い“きっかけ”となる。

「第一波、第二波までは対処が出来るが……それ以降は、各々で防ぐしかない」

「第一波は儂が“廻す”事でカウンターとし」

「第二波は私とソレラで凌ぐって事だね」

 開戦と同時に神界から攻撃が飛んでくる事は簡単に予想出来る。
 耐えられるとはいえ、先制攻撃を甘んじて受けるつもりはなく、天廻、エルナ、ソレラの三人で第二波まで防げるように備えておく。

「そのためにも……ソレラ」

「はい。……一足先に、“根源”と繋がっておきます」

 天廻はともかく、エルナとソレラの場合は少し小細工をする。
 そのままでは、エルナの“守る性質”ではソレラだけしか守れない。
 そのため、守る対象であるソレラを世界の“根源”と同化させる事で、ソレラを守ると同時に世界そのものも守れるようにする事で対処するのだ。

「いくらなんでも大量の攻撃を凌ぐだけでかなり力を持っていかれる。……しばらく儂らは戦えなくなると心得るのじゃ」

「なぁに、神界に突入する頃には回復してるさ」

 神界に突入する前に、ある程度攻めてきた神を抑え込む必要がある。
 そうしなければ、突入した所で挟み撃ちになるだけだ。
 だからこそ、一度撃退の形で数を減らす。
 その後、残りの戦力だけで抑え込めるようになってから突入という算段だ。

「……それじゃあ、開戦だ」

「私と姉さんで封印を解きます。合図はそちらが」

「ええ」

 ソレラは既に“根源”と同化し、天廻も“性質”を解き放つ体勢だ。
 開戦の合図は優奈に任せ、優輝は各地へ繋げていた通信を止める。



「―――行きます!!」















 刹那、極光が空を埋め尽くす。
 同時に、優奈が合図の思念を送り、戦闘が始まった事を全員が認識する。

「ッ……!予想通り、初っ端から来たか……!」

 極光の規模は先日の襲撃の時よりと同等だ。
 だが、今回はそれが地球だけでなく他の次元世界でも同じ事が起きていた。
 純粋な理力による蹂躙は、単純な力では決して敵わないだろう。

「互いの“性質”による影響を恐れ、純粋な理力を使ったようじゃな。……じゃが、それこそがお主らの敗因じゃ!!」

 しかし、その極光には一切“性質”が適用されていない。
 “性質”同士で影響を出さないように、純粋な理力のみにしたのだ。
 確かに、これだけでも本来ならひとたまりもないだろう。
 純粋な理力とはいえ、真っ向からでは太刀打ちできないのだから。
 ……しかし、それを天廻が覆す。

「“廻せ”!!」

 直後、迫って来た極光が反転する。
 純粋な理力と言う事は、“性質”による干渉も可能なのだ。
 今回はその“性質”の力を極限まで高め、この世界に飛来した極光を“廻す”事で反転させ、凌ぐと同時に反撃したのだ。

「ぐっ……ぅ……!」

 空が極光に染め上げられる。
 同時に、天廻が力を使いすぎたためか膝を付いた。

「第二波よりも先にこちらから仕掛けるぞ!!」

 なにはともあれ、これで先制攻撃を無力化した。
 それだけでなく、手痛い反撃を喰らわせたのだ。
 この絶好の機会を逃すはずもなく、各地のメンバーが一斉に戦闘を開始する。

「はぁっ!!」

 転移と高速移動を併用し、優輝が神の一人に肉薄して一撃を叩き込む。
 現在、優輝は地球ではなく無人の次元世界にいる。
 イリスの最終的な狙いは結局優輝だ。
 それを逆手に取り、地球への被害を減らすために無人の世界に来ていた。
 その狙いは上手く行き、優輝以外誰もいない次元世界にも関わらず、大量の神々がその世界に来ていた。

「(まずは狙い通り。一人を狙うのにこれだけの数。互いの“性質”で干渉しないためにも、確実に“性質”を使う頻度は減る!)」

 他にも優奈や他の誰かと共に戦う手もあった。
 だが、敢えて狙いを一人に絞らせる事で、“性質”を使いづらくさせる。
 そんな目論見が優輝にはあり、事実それは成功していた。

「くっ……!」

「“性質”さえなければ、理力の合わさった導王流に負けはない!」

 純粋な理力による攻撃を悉く躱し、受け流し、防ぐ。
 その合間にカウンターが敵へと突き刺さっていく。

『第二波!!』

 だが、優輝以外の各地はそうはいかない。
 どこも同じように突貫はしたものの、抑えきれない部分が再び攻撃を放つ。
 それらが極光となり世界を襲い―――

『させないさ!!』

 エルナが“守る性質”によって全ての攻撃を防いだ。
 世界の“根源”と同化したソレラを守る事で、この世界に放たれた攻撃を防ぐ事へと結びつけ、無理矢理全ての攻撃を防いだのだ。

『しばらく後は、頼んだよ……!』

 無論、“性質”を最大限使ったとはいえ、多勢に無勢。
 たった一回凌いだだけで、エルナは力尽きた。
 ……しかし、それで十分だ。

「―――捕捉、並列展開。……往け!」

 世界中に現れた神々へ向けて、優輝が遠隔から攻撃を放つ。
 理力と創造魔法による剣が、次元を超えて敵へと向かう。

「ちっ……!」

 第三波を放とうとしていた一部の敵は、その対処で攻撃が止められる。

「捉えました!」

「行きますよー!」

 その後押しに、ルビアとサフィアも同じく遠隔攻撃で牽制をする。
 青と赤の極光が散らばり、各次元世界へと飛んでいく。

「こうすれば、牽制をする僕らをさらに狙う。そうだろう?」

「ぐっ……!」

 直後に優輝を狙って一人の神が肉薄してきた。
 牽制が邪魔ならば、それを放つ術者を倒すのはセオリーだろう。
 しかし、優輝は導王流でむしろ反撃を与える。

「来いよ。僕は神界の神でありながら、この世界で育った人間でもある。……要は、ここは僕のフィールドだ。容易に勝てると思うなよ!」

 理力を扱えるようになり、さらには神としても覚醒した。
 それに加え、優輝には今まで人として生きた経験がある。
 それも、ただの人ではなく可能性を掴んできた導王としての経験が。
 戦闘技術だけを見れば、今の優輝はかつてのイリスとの戦いの時よりも、遥かに上回っている程なのだ。
 ……そんな優輝を、神界の神々とはいえ簡単に仕留められる訳がない。
 ましてや、イリスに洗脳されて“性質”を万全に振るえないような神では。

「どうした、純粋な理力では、僕には届かないぞ?」

「くっ……!」

 “当たらない可能性”を引き寄せ、さらに理力で攻撃そのものを転移させる。
 攻撃を躱しつつ、その攻撃をそのまま反撃に使って遠距離攻撃を無効化していく。
 最小限の動きで攻撃を凌いでいるとはいえ、転移や移動は繰り返される。
 当然、移動範囲も大きくなるため、誰もいない無人世界を舞台にしたのだ。

「(そして、こうして僕を早く仕留められないのであれば……!)」

 完全に優輝が予測した通りに戦闘は続いていく。
 敵と戦闘しつつも、優輝は牽制を止めていない。
 そして、優輝の牽制が止められないのであれば、せめて牽制の数を減らそうとするのが戦闘における定石だろう。



「ッ……!」

 優輝がいる場所とは別の無人世界。
 そこにも多くの敵が襲撃していた。

「(彼が止められないのであれば、こちらに力を割いて来る、ですね……!)」

 そこにいるのは、ルビアとサフィア。そして優奈と緋雪、帝だ。

「戦力をある程度集中させてそれを撃退。……それが私達の役目よ!」

「うん!」

「ああ!」

 優輝と違い、ルビアとサフィアでは牽制しつつ大量の敵と戦う事は出来ない。
 そのため、護衛として優奈達がついているのだ。
 三人共、今では神界の神相手でも決して引けを取らない。
 だからこそ、二人の護衛としてこのポジションについた。









「―――小賢しい真似をしてくれますね」

 それらを、神界にある世界との出入り口から眺める存在がいた。
 これらの事態を引き起こした張本人であるイリス……その分霊だ。

「前回と違い、確実な迎撃態勢を取っていたようですが……」

 そう言って、イリスが掌を世界に向け……

「……いえ、訂正しましょう。……確かに小賢しいですが……だからこそ、全力で、油断なく、確実に潰さなければなりませんか……!」

 それを、背後に向けると同時に“闇”で薙ぎ払う。
 直後、その“闇”と理力の剣がぶつかり合った。

「ッ……!」

 剣と“闇”が相殺され、それを見越したかのように蹴りが迫る。
 イリスは障壁を張る事で蹴りを防ぐが、再び剣が迫る。

「しまっ……!」

 再度剣と拮抗。そうした瞬間にイリスは吹き飛ばされた。
 原因は障壁を突き破って来た理力の矢だ。

「……本当、不愉快極まりないですね、貴女達は……!」

「分霊程度であれば、主様が出るまでもないですからね」

「私達が相手です。イリス」

 下手人はミエラとルフィナだ。
 攻めてきた神々の中を潜り抜け、こうしてイリスの分霊の所まで来たのだ。
 
「私を抑えるという事自体は、確かに良い対処法でしょう。……ですが、ここに私が一人だけでいると思いですか?」

 ルフィナの矢を弾きつつ、イリスはそういう。
 ここは世界と神界を繋げる出入り口だ。
 そして、今世界には神界の神々が襲い掛かっている。
 となれば、出入り口も敵の勢力圏なのだ。

「もちろん、思っていませんが?」

「ッ!?」

 当然、ミエラとルフィナも分かっていた。
 だからこそ、イリスも孤立させる。
 ルフィナの放った矢を基点に、ミエラが連続転移する。
 ルフィナも同じように転移し、徒手による近接戦をイリスに仕掛ける。

「くっ……!」

 イリスは“闇”を、ミエラとルフィナは理力を纏わせ、徒手で戦う。
 障壁が何度も張られる度に、即座に破壊し、インファイトを繰り広げる。
 増援まで時間はない。そのため、狙いは一瞬で決める。

「はっ!」

「なっ……!?」

「シッ!」

 ミエラが攻撃を受け止める。
 直後、ルフィナと転移で入れ替わる。
 イリスは攻撃を防がれた体勢で、入れ替わったルフィナは攻撃を放つ体勢だ。
 姉妹故の特性を生かした入れ替わりの転移を利用し、防御不可の蹴りを放つ。

「かはっ……!?」

 無論、倒しきれる威力ではない。
 しかし、蹴り飛ばした方向にはある物があった。

「これ、は……!?」

「高みの見物なんて、させませんよ……!」

「貴女も、落ちなさい……!」

 事前にルフィナが放った矢によって、陣を組んでいた。
 その術式は長距離転移。
 行き先は、優輝や優奈がいる場所とは別の無人世界だ。





「やってくれましたね……!」

「相手の有利はもちろん、ただ単に対等な条件で戦う訳がありません。……こちらに有利な状態に引きずり込んでこそ、確実に勝ちを掴めるのですから」

「貴女に対して油断も慢心もする訳がありません。貴女が油断しないように、こちらも決して油断をしないのですよ」

 異常気象により、人が住めない次元世界。
 火山や雷雨が吹き荒れる世界で、ミエラとルフィナがイリスと対峙する。

「ですが!まだ負けた訳ではありません!」

「ええ。ですから、確実に倒しますよ」

「前回は遅れを取りましたが、今度はそうはいきませんよ……!」

 一つと二つの理力がぶつかり合い、戦いが始まった。













   ―――決戦は、まだ始まったばかりだ















 
 

 
後書き
“廻せ”…天廻の“性質”によって、攻撃のベクトルを回す言霊のようなもの。基本的な“性質”の使い方ではあるが、規模が規模なのでこれだけでかなりの消耗となる。


とりあえず、戦闘開始です。
エラトマの箱による“領域”の侵蝕がなくなったため、以前よりも“性質”の影響を脱しやすくなっています。おかげで、描写していない面子も割と戦えています。 
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