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戦国異伝供書

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第百話 両翼を奪いその十四

「父上も兄上も早く旅立たれたが」
「それでもですか」
「うむ、わしは孫がいてもおかしくない歳になった」
「だからですか」
「うむ、それでな」
「腹を切られてもですか」
「よい、ではな」
「それではですな」
「わし一人が腹を切って済めば」
 それでというのだ。
「よいわ、だからお主はな」
「何があってもですか」
「兄達を支えていくのじゃ、頼むぞ」
「さすれば」
「うむ、ただ織田殿はどうもな」
 その信長のことをさらに話した。
「無闇な殺生はされぬな」
「そういえば桶狭間でも今川殿のお命は奪いませんでしたな」
「ご子息と共に捕虜にされたがな」
「出家してもらって終わりましたな」
「そして戦でもな」
 この時もというのだ。
「無闇な殺生はされず敵兵はご自身の軍勢に組み込むかそう出来ぬなら返されておる」
「返されていますか」
「どうも後でご自身の民になるからな」
「そうお考えで、ですか」
「それでじゃ」
「返されていますか」
 元清は父に問うた。
「その様にされていますか」
「捕虜はな」
「軍勢に入れることが出来ぬ兵なら」
「首を切っても普通にじゃな」
「ありますな」
「しかしな」
 それはというのだ。
「織田殿はその兵もやがてご自身の兵になる」
「今は他の家の領地の兵でも」
「やがてはな」
 自分がその領地を治める様になればというのだ。
「そう考えてじゃ」
「捕虜にした兵はですか」
「命は取らぬ」
「返されていますか」
「そうしておられる、賦役もな」
 捕虜に対してのそれもというのだ。
「されぬ、あの御仁の政は全く違う」
「他の御仁とは」
「そのことしかと学ばねばな」
 元就は信長についてはこう語った、そうして彼のことをより知ろうと思いつつ尼子家との戦も進めていくのだった。


第百話   完


                  2020・6・1 
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