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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Saga9-B語り継がれざる狂気~The End~

†††Sideアルテルミナス†††

魔術も神秘も無い私は戦力外として後衛に回された。触れられるものであれば例外なく分解する私のスキル、エクスィステンツ・ツェアレーゲンが無くたって、自慢の格闘技だけでも最強だって自負してた。それが今じゃ護るべき魔力結晶の側で、イリス達の戦いをモニター越しで見ているしか出来ない。

(あのルシルが、あそこまで感情を爆発させて戦うの初めて見た・・・)

“T.C.”が私たちに披露した植物を操る魔術を見たルシルは半ば暴走状態に陥って、たった独りで炎の魔術を使って戦闘。まぁルシル単独でも十分やれてると思う。コード・ロキっていう炎を装備する術式で、木々を焼き払っていくし。

『彼、すごいね。まるで炎そのものだ。しかもなんて綺麗な蒼色。魅了されちゃうよ』

魔力結晶“アポローの輝石”を護る、この第25管理外世界ヴォルキスの住人から神と敬われるアンティロープ――オバラトル氏が、わざわざ思念通話を使ってルシルをそう称した。独り言だと思うけど、『ですね』と同意しておいた。

「あれ? セレスとクラリスが戻ってくるね」

「どうしたのかな・・・?」

クララとセラティナが首を傾げて、私も「本当だ」って頷く。ルシルと“T.C.”は今もなお交戦中で、イリスとミヤビは少し離れたところでそれを見守って、セレスとクラリスはこちらに向かって走って来ていた。

『どうしたの?』

『ルシルの暴走を止められないなら、もうそのまま相手させるみたい。で、輝石奪取の本命が来るかもってことで、私とクラリスも輝石の護衛に回ることになったの』

『あのT.C.は派手に暴れすぎ。まるで陽動してるみたい』

『確かにね』

――エル・ディアブロ・デ・ラ・プランタ――

ここで“T.C.”は新しい魔術を発動した。草木で組み上げられた巨人の上半身という魔術だ。ここまで離れていてもビリビリと感じる、その巨人のヤバさ。とは言ってもルシルはこれまでにアイツの生やす植物をすべて焼き払ってる。だからアイツがどれだけヤバい魔術を使っても、あのルシルなら、って考えていた。

「「「あ・・・!」」」

――レプロチェ――

私とセラティナとクララは、ルシルが蔓に拘束されたのを見た。でも、ここからじゃ何もフォロー出来ない。イリスとミヤビだって、ルシルの暴走の所為で完全に出遅れた。だからルシルが巨人の拳の直撃を受けるその様を、ただ見ているしか出来なかった。

「そんな・・・!」

「クララ!」

「判ってる!」

転移スキルを持つクララに、遠くにまで殴り飛ばされたルシルを助けに行ってもらう。魔術に非殺傷設定なんてものはなくて、死ぬときは本当に死ぬ。モニターで見た限りルシルは防御術式を使ってなかったみたいだし、下手したら重傷を負ってる可能性もある。

――青々と広がるは果てに死地なる定めが草原――

『イリス、ミヤビ! ルシルはこっちで対応するから、そっちはそっちで出来ることをして!』

『判った! そっちも気を付けて!』

『ルシル副隊長のこと、お願いします!』

イリスとミヤビが戦闘に入ったのを確認して、「クララ、そっちの様子は!?」と通信で連絡を入れると、『今はアイリが、ルシルの内から治癒魔法を掛けてる』と返ってきた。

『こちらアイリ。ルシルの意識が戻れば戦線復帰できるけど、今すぐは無理みたい!』

『・・・セレスとクラリスはごめん、戻ってきて。ルミナ達はそのまま輝石の護衛を!』

――草は茂り、花は咲き、樹は満つ――

イリスの指示に従ってセレスとクラリスは来た道を戻り、ルシルに代わって戦い始めたイリスとミヤビの元へ。それをまた見送る私は「はぁぁぁ・・・」大きな溜息を吐いた。そんな私の様子にセラティナが「不満?」って聞いてきたから、「割とね。魔術師じゃないからしょうがないけど」って零す。

――蔓蔦はうねり、花弁は舞い、地気根は蠢く――

「分解スキルは魔術には通用しない、か。ルミナのスキルに神秘が乗れば魔術にも通用するって話だけど」

「その方法が無い以上は、T.C.との戦いのときは常に後衛組ってこと。特騎隊は私の力を存分に発揮できる居心地の良い場所なのに、戦力外通告食らってヘコむのもしょうがない。あー、しょうがないが口癖になりそう」

『人の一生は私から見れば本当に短い。でもだからこそ、たくさんのイベントが凝縮されてると思うんだよ。楽しいこと、悲しいこと、ごちゃ混ぜの人生は山あり谷ありだよ、お嬢さん』

『えっと、どうもです』

――其は絶望なりや。否、希望なり。恐れることなかれ――

まさかオバラトル氏からフォローが入るとは思わなかった。私は氏にお礼を言いつつ、モニターに視線を戻す。イリスの神秘を乗せられる絶対切断スキルがあれば、炎じゃなくたって植物くらい簡単に料理できると考えていた。イリスの攻撃は植物の巨人に当たってはいるけど、どれも決定打になっていないように見える。

「シャルの攻撃、ひょっとして効いてない?」

『イリス、魔術とスキルはちゃんと使っているの?』

セラティナの疑問は私も抱いたから、集中の邪魔になるのを解かっていながらも思念通話でイリスにそう尋ねると、『当たり前でしょ! なのにコイツ、全然効いてない!』と焦りに満ちた返事が来た。

――其は醜悪なりや。否、美麗なり。蔑むことなかれ――

『あり得ません! シャル隊長の魔術は、ルシル副隊長の魔術にも通用していたんですよ!? それを、このような犯罪者の魔術に後れを取るなんて・・・!』

ミヤビが巨人の攻撃を受け止めて、その隙にイリスが攻撃を加えるという戦術で、巨人を構築している草木は斬れてはいる。けど、絶対切断という名に相応しい切れ味は発揮できていない。あれだとただの魔術の斬撃だ。

「というか! イリス! ルシルから預かってたでしょ! 対魔術用の武装!」

“T.C.”が魔術を扱える集団だと仮定した際、ルシルがイリスに渡した武装ならきっと・・・。私のその言葉にイリスは『あっ!! しまった、普段使わないから忘れてた!』なんて言うから、うっかり過ぎて呆れた。

――愚かしき者に美しき粛清を(センテンシア・コンデナトリア)――

ここでイリス達と合流したセレスの氷結魔術が発動。イリスとミヤビが同時にジャンプした瞬間に地面が一瞬で凍り付いて、植物の巨人も腰の部分が地面に接しているから凍っていく。

――フェアシュテルケン・ガンツ――

――煉牙灼熔 爆帝 双焔掌――

そこに“シュトルムシュタール”全体に魔力を付加したクラリスと、両腕に炎の竜巻を渦巻かせているミヤビが接近。クラリスは金棒の方でぶん殴り、ミヤビは両掌底を打ち込んだ。外側だけじゃなく内側も完全に凍結されたため、巨人は轟音を立てて崩壊した。

――其は悪性なりや。否、良性なり。危ぶむなかれ――

「炎で燃やすんじゃなくて、凍結すれば良かったみたい。ルシルも、植物には火なんてセオリーに縛られなかったらきっと・・・」

「責められないでしょ、そこは。私だって炎熱を使えたら使っていたし、何より過去の記憶の影響もあるみたいだし」

クララやアイリからの連絡はまだない。今もルシルの治療を行ってるんだろう。モニターにはイリス達に包囲された“T.C.”が肩を竦めてる様が映し出されてる。イリスは前から“キルシュブリューテ”を、クラリスは後ろから“シュトルムシュタール”を突き付け、ミヤビが最大警戒で“T.C.”の手から杖を取り上げて、セレスは凍結封印のために全身から冷気を放出しながら手を伸ばした。

――我は植物の神に愛されし申し子。我が言の葉に今こそ応じよ――

――創世結界フィエスタ・デ・デスペディダ――

その時、私たちの視界に広がる世界が一変した。深い森に囲まれた石畳のステージや多数の石柱は消え、オバラトル氏と4本の石柱結界に護られた魔力結晶、“アポローの輝石”はそのままに地平線まで広がる平原。

「創世結界・・・!?」

名前の通り世界を創るという魔術。イリスやルシルも発動できる、最高位の術式だ。ルシルの言だと創世結界を発動できる魔術師は、魔術師が跋扈していた当時ですらほんの一握りだって話だ。

『世界が変わった!? すごい! これも異世界の魔法かい!?』

オバラトル氏は大興奮しているけど、魔術を知る私は心穏やかにはいられない。すぐアイリに『ルシルは起きた!?』って確認をするけど、返ってきたのは『ルシルとクララと逸れた!』という焦り。

『こちらイリス! 侵入者の姿をロスト! それに、ミヤビ、セレス、クラリス! どこに居るの!?』

創世結界内でもモニターは使えるようで、イリスがモニターを用いて全体通信を掛けた。すぐさま『セレス健在』『クラリス健在』『ミヤビ健在です』と返答があり、『セラティナ、オバラトル氏、健在!』『アイリ健在! ルシルの行方は不明で、現在捜索中!』『クララ健在! アイリとルシルを捜索中』と入り、私も『アルテルミナス健在!』と報告。

『了解。アイリとクララ先輩はルシルの捜索をそのまま続けて。他のみんなは、オバラトル氏を目印に集ご――』

――真技ディオス・デ・ラ・プランタ――

イリスがそこまで言いかけたところで、周囲からドンッと轟音と共に強烈な魔力反応が発生した。バッと後ろに振り向けば、「うそ・・・」と思わず漏らしてしまうほどに信じられない光景があった。

「植物の巨人・・・!」

私の視線の先では、草木で組まれた10体の巨人が今まさに構築されている途中だった。まずい、と思った。でも私だと魔術で作り出されたモノは破壊できない。モニターを見れば、イリス達の所でも巨人が組み上げられ始めているのが判る。それでもイリス達が戻ってくるのを待つ? あり得ない。イリス達の応援を待つことは出来ない。だからここは私が出ないと。

「エクスィステンツ・ツェアレーゲン!」

――ゲシュヴィント・フォーアシュトゥース――

分解スキルを限界まで発動する。付加するのは両腕と両膝。足の先はダメだ。地面を分解して、文字通り墓穴を掘ることになるから。続けて高速移動魔法を使って、太ももまで組まれた先頭の巨人に向かって突っ込む。先頭の巨人が最も早く造り出されているから、後ろ向きに転倒させてドミノ倒しにしてやる。

「ツェアラーゲン・・・」

先頭の巨人まであと1回地面を蹴れば到達できる距離にまで近付いたところで、右腕を振りかぶる。そして地面を蹴って巨人の額に向かって跳んだ。

「シュラァァァーーーーク!!」

振りかぶっていた右拳を額に向かって繰り出す。拳から伝わってくるのは植物特有の硬軟じゃなくて、鋼鉄を殴ったような手応え。転倒させるどころかこちらが弾き返されそう。

「上等!」

続けて左拳を打ち込んで、その反動で後ろへ向かってバク転。足元に魔法陣の足場、シュヴァーベン・マギークライスを発動して着地。

「倒れろぉぉぉーーーー!」

――ルフト・クーゲル――

空気を殴ることで生まれる拳圧攻撃を連続で放つ。神秘は無いからダメージはほぼ0だろうけど、魔術だろうと衝撃だけはきちんと通る。でもまぁ、こんなちゃちな攻撃だとよろけもしないか。

「ならば!」

両拳に魔力を集束させつつ、足場を階段状に展開してさらに上空へと駆け上がる。その間にも巨人はくるぶし辺りまで出来上がっていく。くるぶし辺りですでに30m近い身長。巨体ゆえに動きは鈍いだろうけど、それでもあんなのが暴れだしたら厄介だ。
巨人の高さを超えたところで最上段の足場から飛び立ち、落下しながら高速連続前転。遠心力に加えて全力の分解スキルによる右踵落としを、「おらぁぁぁぁぁぁぁ!!」打ち込んだ。弾き返された反動でバク転して、巨人の顔面側へと落下。

「ムート・フェアナイデン!!」

魔力集束拳撃を、最初は左、続けて右と額に打ち込む。強烈な魔力爆発で私は後方へ吹っ飛ばされた。で、巨人はというと「くそっ、よろけもしない!」ことで、いよいよ私は役立たず確定へ。

(上がダメなら下を攻めるしかないか)

諦めの悪さは尋常じゃないよ、私は。落下しながらも巨人の首に蹴り、胸に肘内、腹に正拳突き、局部に後ろ回し蹴りを打ち込んでいく。そうして地面に激突する前に浮遊魔法を使ってゆっくり着地。その頃には巨人の足は完全に出来上がっていて、今まさに歩き出そうとしていた。

「せいやぁぁぁぁぁぁ!!」

――ツェアラーゲン・シュラーク――

分解スキルを右脚に付加して、そのまま地面へ突っ込む。私のスキルによって大地は大きく分解されて、深さ20m、直径40mの大穴を開けてやる。そこは巨人の1歩目である右足の着地地点。すでに足が下ろされ始めていて、今さら穴を避けられないはず。
案の定、巨人の右足は大穴にすっぽりと収まってそのままバランスを崩した。問題は後ろ向きじゃなくて、前に向かって倒れようとしたこと。ま、時間を稼ぐことは出来るから前向きに倒れても結果オーライ。そう考えたけど、先頭の巨人の背後で造られ終えた2体の巨人が、先頭の巨人の肩を掴んで転倒を阻止。

「はあ!?」

転倒を免れた巨人は、眼球なんてものがないポッカリ空いた目と口を私へと向けた。何か仕掛けてくるって、直感が働いた私はすぐにその場から離れる。

――アレグレ・バイレ――

直後に巨人目と口から、私くらいの大きさをした何かが何百発と連射されてきた。地面に着弾したソレをよく見てみれば、「種?」のような物だった。種からも神秘を感じる。私のスキルじゃ破壊できない。

――カニョン・デ・ヒラソル――

向日葵(ゾネン・ブルーメ)・・・?」

何百個の種から生えてきたのは巨大な向日葵。一体なにをするのかと思えば、花の中央が灯りだした。何かが来ると判断したから、グッと足に力を込めたその時、その灯りは砲撃として発射されてきた。

「っとと!」

一気に何百発ならまずかったけど、前列の数十本からの同時発射ということもあって回避は容易かった。

――クテル――

次々と造り終えられる巨人の体の至る所から、遠距離斬撃の如く鋭い葉が何百枚と放たれた。さらに巨人たちは円陣を組むかのように移動を開始。包囲されるような状況は回避しないと。

――アグッハ・ヴェネノーサ――

葉っぱカッターに向日葵の種弾丸に加えて、毒々しい色の棘が連射されてきた。さらに巨人たちによる直接攻撃も追加。30m以上の巨体のくせして割と俊敏に動いて、私を踏み潰そうとしたり蹴ろうとしたり、捕まえようと手を伸ばしたりと、私を害すための行動に移った。

「(結界内だからと言ってどこまで削っていいのか判らないけど、もうこれしか・・・!)あんまり使いたくないけど・・・。ドゥルヒブレッヒェン・デア・グレンツェ。・・・ぅぐ、あぐぅ・・・!」

それらの攻撃を掠りながらも回避して、分解スキルのリミッターを解除。全身が軋みを上げ始める。

――クスクスクスクス――

頭の中にフェードインしてくる笑い声。子供の頃は私もそんな笑い声を出していたけど、ある事件を機に改めた。大鎌型の神器を持つリンドヴルム兵との戦いの最中に私の胸に去来した、人類に対しての強烈な負の感情。私にも前世の記憶とかがあるのかは判らないけど、もしあの負の感情が記憶の中から溢れ出したものなら、私の前世は何て恐ろしい人間だったんだろう。

(あー、やっぱりキツイな~)

スキルの限界突破はその頃から身に付いたものだ。分解効果の範囲がとんでもなく広がった分、自分の体にもダメージが入るようになったばかりか、負の感情が苛むようになった。だから時間を掛ければ掛けた分、私はきっと私じゃなくなる。

「だからと言って、イリス達を待って全丸投げなんてしたく・・・ない!!」

物心つく前から私が持っていた漆黒に輝く六角形型の腕輪、“ツァラトゥストラ”。どこで作られたのか、どういう材質なのか、どういう機構なのか、そう言った正体も未だに不明。魔力の集束量の上昇、出力・運用力の向上、分解スキルを円滑に発動できるように作られているため、デバイス登録してある。

――殺せ。壊せ。滅ぼせ。亡くせ。人類を。自然の毒を。動植物の害を。亡くせ、滅ぼせ、壊せ、殺せ――

「う、うる・・・さい・・・うるさい!」

両腕にはめている“ツァラトゥストラ”の6つの側面、計十二面に刻印されている十字架が黒く光りだす。そして“ツァラトゥストラ”は、はやての“シュベルトクロイツ”のような円のある十字架へと変化。この状態が私のスキルの限界突破形態だ。

「おおおおおおおおおおおおお!!」

――グローセス・クラーター――

横棒の片方で地面を穿つと、その地点を中心に直径500m、深さ100mの大穴を瞬時に開ける。10体の巨人は足場を失ったことで落下を開始。自我が無い所為か何の反応もなく落ちていく。そんな中、私に最も近かった巨人が手を伸ばしてきた。

「触るな!」

“ツァラトゥストラ”を振るって、私を握ろうとする巨人の手の平に打ち付けた。魔術である創世結界によって造られた大地をも穿てるようになっている私の分解スキル。それゆえに、巨人の手も一撃で粉砕してやることが出来た。

――手だけで満足? 違うよね? 全部、全部潰すの。足を、腹を、胸を、首を、頭を。潰せ潰せ潰せ――

どんどんハッキリしてくる声と憎悪。かぶりを振って、決して憎悪に支配されないように「黙れ・・・!」声を出す。
そうして巨人たちは穴の底へと落ちた。埋められたら良いんだけど、残念ながらそんな魔法もスキルも持っていない。念のために穴の縁から底を見てみると、巨人たちは腕を伸ばしたり、よじ登ろうとしたりとしていた。でも無駄な足掻きだ。穴の側面は何のコーティングもされていないから、よじ登ろうとすれば崩落する。自分で自分の墓を埋めるようなものだ。

――トドメを刺さないの? 馬鹿なの? 潰せ。徹底的に。完璧に。完全に。一切合切の容赦なく――

「ふ・・・ふ・・・クス・・・クスクス」

口が自然と歪み、そんな笑い声が零れてくる。すぐにハッとして左手で口を押える。限界突破形態の持続時間、つまり負の感情に支配されるまでのおおよその時間を、リンドヴルム事件からたびたび計ってきていた。結果、スキルの限界突破時間は徐々に長くなり、逆に感情に支配される時間が短くなっていく、と判明した。

「り、リミッター解じ――・・・!」

最後まで言い切ることが出来なかった。何故なら大穴からカンコンカンコンと木と木がぶつかり合う音がフェードインしてきたからだ。早鐘を打つ心臓を抑えるかのように胸を押さえ、「来る!」と“ツァラトゥストラ”を構える。

――エクスペクタクロ・デ・コミコ――

「木人形・・・!」

何十体という木で出来た人形が、ゴキブリみたくワラワラと大穴から這い出てきていた。

――クスクス。壊し甲斐のある木偶人形じゃない。振るえ、私の第四偽典で薙ぎ払え――

「っ・・・!? 手が、勝手に・・・!?」

右腕だけが私の意思とは無関係に動き、“ツァラトゥストラ”を振るい始めた。そして迫りくる木人形たちを次々と粉砕していく。

――そろそろ体、私にちょうだい?――

全身が総毛立つ。このままだと確実に乗っ取られる。それが判った私は、敵の軍勢に包囲されつつあるというのに「リミッター解除・・・!」を行った。“ツァラトゥストラ”は十字架から腕輪へと戻り、魔術にも通用していたスキルもその効果を失った。待っているのは、木人形に対して何も抵抗手段を持たない私の・・・敗北。

「私はどうして・・・魔術師じゃないの・・・?」

泣き言は言いたくないけど、「出ちゃうんだから、しょうがないじゃない!」って叫んで、私は効かないと解かりながらも木人形たちに殴りかかった。 
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