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魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~

作者:かやちゃ
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第8章:拓かれる可能性
  第256話「攻略作戦」

 
前書き
前回まだ説明出来ていなかった部分は、今回ついでに説明する形になります。
 

 








「……本気なの?」

 リンディが優輝の発言に思わずそう呟いた。
 だが、優輝は当然だとばかりに深く頷く。

「元々、イリスは僕を狙ってきていた。なら、僕がケジメを付ける」

「このままだと確実に再びこの世界は襲われます。その対処も必要です」

 ミエラが優輝に続けるように補足する。
 イリスは優輝に執着している。
 それこそ、優輝を洗脳した際に、他の繋がりを消そうとした程だ。
 だからこそ、この世界は再び襲われると読んだ。

「実際は、このまま防衛に徹していても戦いは終息するだろう。“光の性質”の神達が束になれば、イリスを倒す事は可能だからな」

 創造魔法で出したホワイトボードに、簡単な勢力図を描く。
 イリスの勢力は強大に見えて、それでも絶望的とは決して言えない。
 “光の性質”の神達も同等の戦力を保っているからだ。
 さらには、“性質”に囚われていない神のほとんどがイリスと敵対している。
 甚大な被害は出るかもしれないが、それでもイリスは四面楚歌に近い状態なのだ。

「だから、先程時間稼ぎだけで十分だと言ったんですよー」

 ルビアが笑って誤魔化すように言う。
 本当に、耐えるだけで後は他の神がやってくれるのだ。

「敢えて聞くぞ。……あれだけしてやられて、黙って終わるのを待つか?」

「ッ―――!!」

 ……だが、ここまでイリスにしてやられて、黙って待つつもりはなかった。
 その意志を示すように、まず神夜が真っ先に立ち上がった。
 “弄ばれた”と言う点において、神夜は最もイリスにしてやられた存在だからだ。

「……まだ挫けていないのに、ここに来て引き下がるなんて真似、する訳ないよ」

「例え私達が戦わなくても、優輝君は戦うつもりなんでしょ?……だったら、私だってじっと待ってるなんて出来ない」

 緋雪、司が続けて戦う意志を示す。
 強大な敵だった。圧倒的な力を持っていた。
 それでも、負けた事が悔しかった。……だから、立ち上がる。

「神格の成り立ち……いえ、神という在り方自体が違うとしても、同じ神として指を咥えて待っているなんてゴメンよ」

「……一度くらい、神界の神を見返したいわ」

「……まぁ、一度“可能性”を拓いた皆ならそうなるだろうな」

 三人だけでなく、戦場で戦い続けた全員が同じ想いだった。
 神界での敗北を悔しく思い、今こそ反撃するべきだと、そう考えていた。

「どの道、時間を稼ぐとしてもその間防衛する必要がある。……いや、イリスの事だ。もう一度この世界に攻めてくるだろう。それを撃退し、さらに攻め入る必要がある訳だ」

「確か……優輝が倒したイリスは分霊だったのよね?……なら、次に攻めてきてもまた分霊。だからこちらから攻め入る訳ね」

「ちなみに、僕が神界で足止めした際のイリスも分霊だった。いっぺんに出せる数は少ないが、出せる回数は無制限だ。分霊を使って何度でもイリスは攻めてくるだろうな」

 言わば、本体さえ倒されなければ負けはないのだ。
 だから分霊を送ってくるのだろうと、椿は解釈した。

「本当、規格外ね。いくら神でも、何度も分霊を生み出してそれを倒されれば、力は削がれていくというのに……神界の神はそうじゃないとはね」

「神と名乗ってはいるが……実際は、便宜上そう名乗っているだけの別の存在だ。所詮は、他の世界の名称を利用しているだけに過ぎないからな」

 概念や法則そのものが形を取っている存在なだけで、“神”ではない。
 だが、神に近いからこそ、神界の神本人もその名称を使っているだけなのだ。

「神にしろ、神でないにしろ……そんな規格外の相手に勝算があるのね?」

「当然です。……尤も、最低条件として全員が全員の“可能性”を信じ、そして拓く必要がありますけどね」

 リンディの問いに優輝は力強く答える。

「僕の“可能性の性質”は、これまで共にいた事で全員に浸透している。その影響を上手く使えば、神界の神だろうと倒せるはずだ」

 “そしてもう一つ”と続け、優輝はもう一つの勝算を言う。

「人の持つ千差万別の“性質”及び“領域”だからこそ、相手の“領域”を砕く事が可能になる場合がある。……本来、人の“領域”は神界の存在には及ばない。だけど、それは同じ分野で戦った場合だ」

「……つまり、相手の弱点を突く……?」

「その通りだ司。例えば炎と水の“領域”が戦えば、どうあっても水の方が勝つ。余程自力の差がない限りな。結局は、相性なんだ」

 相性さえ良ければ、人間が神界の神に勝つ事も可能なのだ。
 そして、それを既に成し遂げた人物がここにはいる。

「その最たる例が……帝、お前だ」

「……やっぱり、俺なのか。……でも、俺の場合相性どころかごり押していたはずなんだが……相性なんてあったのか?」

「あー、人の“領域”について説明不足だったな」

 そう言って、優輝はホワイトボードに図を描く。
 人と神界の神。そしてそれぞれの“領域”だ。

「神界の存在の場合、この“領域”の形は決して変わらない。“性質”によっては表面上は変えられるだろうが、中心部分は不変だ。その“領域”が変わってしまえば、もう別の存在となってしまうからな」

 “領域”を簡単な円で表す。
 中心にある円は決して形を変えず、変えられるとしてもその外にあるもう一つの円……つまり表面上のモノだけなのだ。

「僕も優奈も例外じゃない。人に転生した事で、人と同じような“領域”を持った。……でも、その根幹は神界の神のままだ。形は変わらないままなんだ」

 図に変化を加えつつ、優輝は解説を続ける。

「だけど、人……厳密には、神界以外の存在は違う。その環境によって性格が変わるように、千差万別、変幻自在なんだ。本人に自覚はなくてもな」

 人の“領域”をスライムのように不定形な図形として描く。

「帝の場合、憧れた力を再現する事で、相手を乗り越える“領域”へと変質させた。結果、実際の戦闘ではゴリ押しだろうと敵を倒せたんだ」

「……なるほど……」

「当然、限定的な変化だ。帝が力を再現しているその間しか変質していない。今はいつもの、普通の人としての“領域”に戻っている」

 “性質”を上手く使えば、大抵の相手に対して有利を取れる。
 帝は意図せずにそれを成し遂げていたのだ。

「相手に対して有利な“領域”へと変える。……言葉にすれば難しく聞こえるが、要は挫けず、諦めず、相手を乗り越えればいい。一縷の可能性に賭けて、それを掴み取ればいい。全ては、それぞれが持つ“意志”で決まる」

「……そこに帰結するのね」

 洗脳されていた祈梨が言っていた“意志”の力。
 本来の法則はぼかされていたが、結局間違ってはいなかったのだ。

「神界の存在は、良くも悪くも規格外だからな。決まった“性質”に沿うような強さや力を持っているが……それが殻を破る事はない。対し、人はその真逆を行く。総合的に見れば神界に劣るのは確実だ。……だけど、“意志”一つでそれを覆すのも、また人なんだ」

「……相変わらず、無茶を言ってくれるわね」

 一通り聞いて椿が嘆息する。
 神としての視点も持つ椿からすれば、優輝の言わんとしている事は理解出来た。
 だからこそ、“無茶”だと言わざるを得なかった。

「相手は絶対的に格上。それでも勝て……そう言いたいのね?力でも“領域”でも劣っていたとしても、“勝つ”という執念のみで勝って見せろと……」

「ああ」

「いくら何でも無茶振りが……あぁ、そう。そういう事なのね……」

 言葉の途中で、椿は納得したかのように言葉を止める。

「かやちゃん?」

「……貴方もまた、“性質”に沿っている訳ね。人の“可能性”を信じて、きっと成し遂げてくれると、そう信じているのね」

「そうだ。僕もまた、“性質”からは逃れられない。だから、人の“可能性”を信じて、託す事にしたんだ。……それが、最善だと思ってな」

 “性質”に沿うと言っても、応用が出来ない訳ではない。
 優輝は“可能性”を全員に託し、それを拓く事で突破口にするつもりなのだ。
 
「それは最早、勝算なんて……!」

「ない訳じゃないわ。……最高の前例がここにいるのだから」

 誰かの言葉を、優奈が否定する。
 そして、優奈がその“前例”として帝を示す。

「帝は、力を……それどころか、“姿”やエアを奪われた状態で、“意志”のみで神界の神達を圧倒した。……今の帝は本来なら一般的な魔導師程の強さしかない。それでも、“意志”だけで圧倒出来るんだ」

「だからと言って、同じ事が出来るとは……」

「限らないな。でも、“意志”で戦力差を覆せるのは分かっただろう?……後は、実際に戦う本人次第だ」

 それはつまり、裏を返せば優輝は信じているのだ。
 皆が、勝ちを掴む事を。

「……どうやら、態々言わなくても良かったみたいね」

 そして、その意図が分かったのか、全員の決意は固まっていた。
 優奈もそれを見て、優輝に笑みを向ける。

「―――よし、なら、攻略の軽い流れを説明する」

 優輝も満足そうに笑みを浮かべ、ようやく本題に入った。

「まず、初手からイリスの……いや、攻めてくる敵の想定を上回る」

「攻めてくる……という事は、受け身なのね」

「ああ。敵を迎え撃つのに、僕らが育ってきたこの世界以外に最適な場所はない。人の“領域”だからこそ、敵は本領を発揮できないのだからな」

 むしろ、準備をしている相手に攻め込む方が愚策だと、優輝は言う。

「だけど、相手もそれを想定した戦力を投下してくる。……だから、こちらはさらにそれを上回る戦力が必要だ」

「そのために、私達が……」

「いや、ここで出番が来るのは皆じゃない」

 先程言った“意志”でそれを撃退するのかと思ったが、優輝が否定する。
 否定した優輝は、そのまま祈梨へと一度視線を向けた。

「皆も見ただろう?もう一人のイリスが何かしていたのを」

「そういえば……」

 消滅する前、イリスは世界中に光を放っていた。
 今まで説明に出てこなかったため、半分程の者は失念していたようだ。

「もう一人のイリス……これについて説明していなかったな。彼女は、かつての戦いで封印される時、砕けた“領域”の欠片が僕らと同じように人に転生した結果、生まれた存在だ」

「お兄ちゃんと、同じように……」

 明らかに雰囲気が違っていた。
 それは人として生きた経験が変えたからなのだろうと、見た者は思う。

「転生したイリスは、人の可能性を見てきた。……その結果、“闇の性質”であってもそれ以外のモノを示せると理解出来たんだろうな。……最期に、希望を残していった」

 そう言って優輝は掌の上に金色の炎のようなものを灯した。

「これはその一端だ。僕の中に残っていた、イリスの示した希望の光だ。……これが、今はこの世界に散らばっている」

「……それを利用するの?」

「ああ」

 緋雪の言葉に優輝は頷く。
 そして、“なにより”と言葉を続ける。

「イリスの侵略を良しとしないのは僕らだけじゃない。……いや、むしろ僕ら以上に良しとしない存在がある」

「え……?」

「“世界そのもの”だ。世界の意志が、イリスの侵略に抵抗していた。本来であれば、“エラトマの箱”によってこの世界はイリスの領域と化していた所を、世界の意志が押し留めていたんだ」

 祈梨達神界の神以外、全員が初耳だった。
 自分達の知らない所で、世界そのものがずっと抵抗していたのだ。

「イリスの残した希望が、世界に力を与えた。……後は、実際に戦いになってからのお楽しみだ。この世界が育んだ力は、ずっと残っているからな」

「世界が育んだ力……?」

「生きとし生ける生命が紡いで来た歴史は、今もなお“世界”に刻まれ続けている。神話として、伝説として、英雄譚として、な。人の可能性が紡いで来たその歴史は……人理は、決して神界の者に劣らない」

 そう語る優輝は、どこか遠くのモノを見るようで、絶対的な信頼が籠っていた。

「一度世界の根源に繋いだ司なら、分かるだろう?」

「………うん」

 何をするのか、司には理解出来た。
 推測は間違っているかもしれない。だけど、どういった力を利用するかは分かった。

「世界そのものの力を侮っちゃいけない。個々人が強ければ強い程、また世界も強くなる。世界の力は即ち、その世界に住まう者の全ての力なんだからな」

 数多の生命を内包する“世界”が、弱いはずがない。
 そう優輝は言っていた。

「話を戻そう。“世界”の力で攻めてきた敵を撃退、ないし足止めをする。今この場にいる何人かも同じように戦うかもしれないが、そこは采配次第だ」

「でも、前回みたいにイリスも攻めてくるんじゃ……」

「分霊は来るだろうな」

 司の言葉を優輝は肯定する。
 そう。優輝が言う“攻めてくる”という状況は、先程までの戦いと全く同じだ。
 であれば、イリスもまた分霊を使って攻めてくるのは明白だった。

「分霊の相手は決めてある。……かつての戦いでも、同じだったからな」

「……という事は……」

 奏の視線が優輝からずれる。
 そこには、優輝の眷属であるミエラとルフィナがいる。

「分霊であれば、私達で十分です」

「主様が神として覚醒した今、私達も強くなっていますからね」

 先程の戦いでは勝てなかった二人だが、今は違う。
 優輝に引っ張られるように、二人も本来の力を取り戻している。
 イリスの分霊が相手なら、もう負ける事はない。

「そういう訳で、ミエラとルフィナがイリスの分霊を相手する。その間に、反撃の余地が出来るまで敵を撃滅。済み次第、神界へと突入する」

「突入するメンバーは決めているの?」

「基本、前回も突入したメンバーだ。ただ、その内何人かは残る事になる」

 リンディの問いにすぐ答える。
 一度でも神界に突入した者が行った方が、対応はしやすいだろう判断からだ。

「……少数精鋭による奇襲……?」

「その通りだ」

 奏の呟きに、優輝は同意を返す。

「真正面からぶつかり合った所で、こちらの戦力が先に尽きる。そもそも、足止めをされているとイリスの分霊がさらに追加されてしまう。……故に、短期決戦でイリス本体へと肉薄する必要がある」

 足止めを喰らえば食らうだけ、不利になる。
 それならば速攻を仕掛けるしかないと、優輝は言う。

「作戦としては簡単だ。立ち塞がる敵が現れる度、突入部隊の内数人……出来れば一人だけで、敵の相手をして他のメンバーを先に進ませる」

「……囮、って事ね……」

 一対一でさえ勝てるかわからない相手を、少数で足止めする。
 それがどれだけ難しいのか、わからないはずがない。

「敵の数自体は、この世界を襲う分と、“光の性質”の神の勢力にぶつける分に割かれて、そこまで極端に多く出来ないはずだ。そして、敵が足止めを無視するという事も、あり得ないと言えるだろう」

 普通なら、足止めされていると分かれば目の前の敵を倒す必要はなくなる。
 厳密には優先順位が変わるため、相手をしていられなくなるはずだ。
 だが、それは起こりえないと優輝は言う。

「それは、どうして?」

「前回突入した際に体験しただろう?同じ場所であるはずにも関わらず、戦場が分断されたというのを。あれと似たようなモノだ」

 アリシアの疑問に優輝はそう答えた。
 前回突入時の初戦闘において、優輝達はそれぞれの神の相手をする際、大した距離も離れていないにも関わらず、戦場が完全に分断されていた。
 空間そのものを隔てたように、外部から干渉される事も、逆に干渉する事も出来ないようになっていた。
 今回も、その性質を使うというのだ。

「単純な戦場の分断だと、空間関連の“性質”相手には突破されてしまう。そこは皆の“意志”に掛かっているから注意だ」

「“逃がさない”という“意志”があれば、敵に逃げられる事はなくなるはずよ」

「……アレか」

 優奈の補足に、帝が実際にやった事を思い出す。
 力を失った状態でも、その“意志”だけで相手の行動を封じる事が出来る。
 理論にピンと来なかったが、実際に体験していた事で理解出来たのだ。

「ともかく、ごく僅かの人数で敵を足止めして、本命のイリスに最高戦力をぶつけるというのが大まかな作戦だ。……質問は?」

「最高戦力……と言うのは、君か?」

 質問したのはクロノだ。
 祈梨や天廻など、他にも神界の神はいるが、誰が最高戦力かはわからない。
 だが、優輝はかつてイリスを封印している。
 そこから、優輝が最高戦力なのかと、クロノは考えていた。

「……結論から言えば、神としては天廻様の方が強い。だけど、イリスはそれ以上の強さを持つ。その上で勝利を掴むとすれば、最適なのは僕だろうな」

「“可能性”を掴む……と言う訳か」

「その通りだ」

 これもまた、相性の問題だ。
 単純な神の力としてでは、イリスに勝てる神は神界でも少ない。
 だが、相性のいい神であれば、実力で劣っていても勝つ事が出来る。
 それこそ、“可能性の性質”である優輝ならば、一対一であれば最低でも引き分けに持ち込む事が出来る。

「他に質問は?」

「襲ってくる神の内訳は推測出来ないかしら?」

「ほとんどは出来ないな。だけど、神界突入後に立ち塞がる神は少しだけ推測できるかもしれない。至極単純な予想だけどな」

 今度の質問は椿によるものだ。
 神の特徴が予想出来るのならば、対策も出来ると考えたのだろう。
 だが、優輝はそれを実質出来ないと答えた。
 その上で、ごく一部だけ分かるかもしれないと言う。

「神の力にも相性があるのはもう分かっているな?神の弱点を突けるのと同じように、当然ながら僕らにも弱点はある」

「……そうね」

「例えば椿は、近接戦が弱点だ。対策はしていても、克服しない限り弱点には変わりない。……敵は、確実にその弱点を突いて来る」

 ただでさえ強力な“性質”が、苦手な部分をついて来る。
 その厄介さが今更わからない程、皆馬鹿ではない。

「じゃあ、もしかして……!」

「司、奏、緋雪の場合だと……一度自分を倒した神が来るだろうな」

「ッ……!」

 前回神界に突入し、撤退する時。
 足止めに残った司達は、弱点を突いてきた神になす術なく負けた。
 今度も同じなのだろうと、優輝は言う。

「そこから、敵の特徴は予測できる」

「なるほど……。弱点を突かれても負ける訳ではない。それでも“意志”の力で勝って見せろ……そう言いたいのね」

「勝つ必要はないが……弱点を突かれても負けないようにするには、それこそその意気でやらないと戦いにならないだろうな」

 相手は苦手分野をついて来る。それでも勝て。……つまりはそう言いたいのだ。
 最早、ただの行き過ぎた根性論だ。

「……上等だよ。そんな単純な精神論でどうにかなるなら、何とかなるよ」

「もっと複雑な攻略法だとどうしようかと思ったけど、そんな大まかなだけならどうにでも出来る。……ううん、してみせるよ」

 葵と緋雪が不敵な笑みを浮かべてそう返事をする。
 それに続くように、他の皆も次々と奮い立つ。

「……そうこなくちゃ」

 元々、もっと緻密な作戦や、綱渡りのような戦術が必要だと思っていた。
 だが、それらを全て精神論だけで補えると分かれば気分的にも楽だ。
 依然勝つには難しすぎる相手だが、既に皆は希望に満ちていた。
 ……これもまた、イリスの遺した“可能性”のおかげなのかもしれない。









「―――それじゃあ解散だ。ここに来ていない人にも伝えておいてくれ」

 その後、しばらく細かい質問に優輝は答え、話は終わる。
 まだ目覚めていない者や、各方面へ現状の報告などの用事がある者への情報共有はリンディ達に任せ、他は休息に入る。

「……ふぅ……」

「お疲れね」

「まぁ、計何十年か振りに神としての態度を演じていたからな……。良くも悪くも、僕は人に染まっていたらしい」

 優輝も一息つき、そこへ優奈が話しかけてくる。

「でも、プラスの方が大きいでしょう?」

「……まぁな。人の生を過ごしたおかげで、お前と言う特殊な分霊も得たからな」

 優奈は優輝の半身……つまり分霊だ。
 尤も、本体そっくりではなく、こうして“女としての可能性”を内包しているため、かなり違う性格をしている。

「先に言っておくわ。今の貴方ではイリス本体には勝てないわよ」

「知っている。……同時に、再びお前と一つになれば勝機がある事もな」

「なんだ。把握していたのね」

 特殊な分霊……それはつまり、普通とは違う事になる。
 普通であれば力が削がれる事のない分霊だが、優奈の場合は違った。
 神としての力も分けているため、本来の優輝よりも弱くなっているのだ。
 だが、再び一つになればそれも元に戻る。

「……悪いが、一つに戻るつもりはない」

「っ、自分から“可能性”を捨てる気?」

「お前こそ、帝に何も言わずに消えるつもりか?」

 同時に、それは優奈の消滅を意味していた。
 今回ばかりは、優輝も優奈も一つになって無事で済む“可能性”が見えなかった。
 
「な、んで、帝がそこで……」

「お前がどう思っているにしても、あいつはお前を想っている。それに気づいていながら、勝手に消えさせる訳にはいかん」

「………」

 広い目で見れば、ただの自問自答だ。
 だけど、既にお互いに別の存在だと認識していた。
 だからこそ、優輝は優奈の消滅の道を選ばない。

「二兎を追う者は一兎をも得ず……既に僕は一兎を追っているんだ。その上で、先の見えない“可能性”を掴む事は出来ない」

「……そう。さすがに、限界なのね……」

「限界は超えられるさ。……だけど、だからと言って自分から無理しても“可能性”は掴めない。分かっているだろう?」

「それは……そうね……」

 今まで幾たびも奇跡を起こしてきた。
 だが、それらは全て自分達で限界を超えてきたからこその産物だ。
 自分から奇跡を望んだ程度で、起こるはずがない。

「まったく、同じ“可能性の性質”を持っているというのに、視野が狭まっているぞ。前までの僕を見ているようだよ」

「何ですって……?」

「僕らだけで背負う必要はない。……人の“可能性”、見せてもらおうさ」

 その言葉に、優奈は目を見開く。

「……そう、そうね。……私達は“可能性の性質”を持つ神。人の可能性を信じてこそ、私達は私達たらしめる。……信じて、みましょうか」

「ああ。既に“可能性”は拓かれている。……人の底力をイリスにも……いや、神界全てに見せてやればいい」

 夢幻のような“可能性”だ。
 ……それでも、ゼロじゃない。それだけで、二人が信じるに値する。

 根拠も、理屈も存在しない。
 ただ“可能性”を信じるだけ。
 ……それが、それこそが“可能性の性質”たる所以なのだから。











 
 

 
後書き
イリスが優輝に魅せられたように、優奈も帝に魅せられました。そのため、人並み以上に帝を気にしています。
そして、優輝もそれに気づいているため、優奈の消滅を選びませんでした。

次回が8章最終話です。 
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