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非日常なスクールライフ〜ようこそ魔術部へ〜

作者:波羅月
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第86話『スタンプラリー』

林間学校が2日目を迎えた。今日もいい天気で、雲一つない快晴だ。逆に言うと、燦々と照りつける太陽の光を遮るものが何も無いから、夏らしい暑さが晴登たちを襲う。


「あっついな〜」

「この天気で山を歩き回るのか…」

「一苦労しそうだね…」


朝食を終え、本日のメインイベント、『スタンプラリー』の集合場所である、とある山の麓へと集まった晴登と伸太郎と狐太郎。今は班員と別れて、3人で集まっている。


「結局聞き逃しちゃったな…」


そんな中、晴登は密かにため息をつく。
何を聞き逃したかというと、ずばり昨日の恋バナの続きのことだ。今日がその花火の日だというのに、結局噂の内容も何をすればいいのかも詳しく聞けなかった。あの班員の男子とはスタンプラリーで別行動することにしたから、訊くタイミングが全然ないというのに。


「なぁ、スタンプラリーのチームってどうするんだ?」

「え? あぁ…どうしよっか。俺たち3人だけだと寂しいから、結月とか莉奈とか大地とか誘いたいかな。それでいい?」

「はいよ。お好きにどうぞ」

「僕も三浦君に任せるよ」

「ありがとう2人とも」


承諾が得られたので、晴登は辺りを見回してそのメンバーを探す。まだ誰とも組んでいなければよいが・・・


「おーいハルトー!」

「あ、結月。えっと、お、おはよう…」

「うん、おはよ〜・・・って、何で目そらすの?」

「あ、いや、何でもない!」


突然の結月の登場に、昨日の恋バナが頭を過ぎった晴登は、つい挙動不審になってしまう。ダメだ、今は昨日のことは忘れた方がいい。


「それより今日のスタンプラリーだけどさ──」

「いいよ! 組もう!」

「即答!? まだ何も言ってないのに・・・いや、合ってるけども。でも良かった。それと莉奈知らない?」

「リナならボクと組んでるから、すぐ来ると思うよ。あ、ほら」


結月はそう言って自分が来た方向を振り返ると、確かにこちらに向かって走ってくる莉奈の姿が見えた。


「もう結月ちゃんったら、いきなり走らないでよ〜」

「ごめんごめん、ハルトが見えたからつい」

「昨日あんな話しておいて、よく平然としていられるね…」

「あんな話?」

「ううん、何でもない!」


莉奈が何やら気になる言い方をするが、晴登には教えて貰えないようだ。女子トークというやつだろうか。うん、わからん。
そして、相変わらず結月の一言が気恥ずかしい。


「それで、どうせ晴登は私と結月ちゃんと組むんでしょ?」

「え、何でわかったの…?」

「いや流れ的にわかるでしょ。それで後は・・・大地を探してる感じ?」

「お前はエスパーか」

「だーかーらー、晴登の考えてることなんてお見通しなの」

「ぐっ…」


何か言い返してやりたいところだが、図星すぎてぐうの音も出ない。ふざけてるようで、時々察しが良いのが莉奈のずるい所だ。

しかし、中々大地が見つからない。組んでくれると思っていたが、自意識過剰だっただろうか。それだと少し恥ずかしいのだが・・・


「お、いたいた。晴登ー」

「あ、大地。探してたんだよ」

「そうだと思ったよ。悪いな、連れて来るのに手間取っちまって」

「連れて来る…?」


ようやく出会えた大地が、何やら意味深な一言を放つ。晴登が疑問に思っていると、大地の背後から彼女は現れた。


「どうも、またお会いしましたね」

「戸部さん!?」


にっこりと微笑む優菜がそこにはいた。






「それでは、今からスタンプラリーの説明を始めます」


集合時間が過ぎ、皆がグループに分かれて整列した前方で山本が説明を始めた。

それにしても驚いた。まさか優菜とまで組むことになるとは。昨日もそうだが、最近大地と優菜の仲がやけに良い気がする。水着を買いに行った日、2人で帰っている時に何かあったのだろうか。まぁ、考えてもわからないのだが。

…あ、そうなると班員の男子には申し訳ないことしたな。後で謝っておこう。何となく。


「ルールは簡単です。この山の中にあるスタンプを多く集めたチームの優勝です」

「……ん?」


頭を切り替えて、説明を聞こうと思った晴登は、早くも疑問符を浮かべた。なぜなら、知っているスタンプラリーのルールと大きく違っているからだ。
普通スタンプラリーでは、スタンプを全部集めるのが前提のはずだろう。それなのに、多く集めるだとか、優勝だとか、そんなルールは聞いたことがない。何だか嫌な予感がする。


「山の中には、合計100個のスタンプを用意しています。それを制限時間内に、できるだけ集めるのです」

「ひゃっ…100!?」


ほら出た。だが何かあるとわかっていても、やはり驚いてしまう。100個のスタンプラリーとか、全部集めさせる気があるのだろうか。途中で飽きてしまいそうだ。


「制限時間はこの後9時から17時までの8時間。昼食は12時からこの場所で配布しますので、各チーム取りに来てください。もちろん、昼食抜きで探すのも1つの作戦ですよ」


そしてとんでもない制限時間の長さだ。普通、昼を跨ぐだろうか。やっぱりおかしい、この学校の行事は。


「範囲はこの山の麓から頂上まで全てです。範囲外との境界は目立つようにテープで示しているので、滅多なことがなければ外に出る心配はありません」

「ホントに大丈夫だろうな…」


伸太郎が気にするのも無理はない。何せ昨日、消える通路という滅多なことが起こってしまっているのだ。ふとした拍子に範囲外に出てしまえば、それは遭難と相違ない。


「まぁ大丈夫だろ。気にすんなって」

「お前が一番の心配の種だよ…」


相変わらず楽観的な大地に、晴登は嘆息する。今日は絶対に大地を先頭にはしないでおこう。


「そしてスタンプを100個ないし、一番多く集めたチームには、優勝賞品を用意しています。皆さん、ぜひ奮って頑張ってください」

「「「おおぉぉぉぉ!!!!!」」」


優勝賞品と聞いた瞬間、生徒たちのボルテージがいきなり跳ね上がった。これは確かにテンションが上がる。
しかし今の言い方だと、100個集めれば即優勝ということになる。仮に、多くのチームがスタンプを100個集めてしまったらどうするのだろうか。それとも、"そうならないための工夫"がされているというのか。


「何だかんだ、普通に面白そうじゃん」

「そうですね。普通のスタンプラリーよりは刺激がありそうです」


莉奈と優菜がワクワクしながら言った。確かに、対戦形式というのは男子的にとても心が躍る。これは優勝目指して頑張るしかない。


「何て言ったって、このチームには成績トップ3が揃ってる!」

「だからどうした」

「あまり関係ないと思いますよ」

「俺もそう思う」

「あれぇ!?」


優勝を確信して生まれたやる気が、その3人に一瞬で削がれる。いや、あまり関係ないというのは事実だけども。それでも、少しくらいは調子に乗ってもいいじゃないか。


「これで説明は終わりです。今は8時50分ですので、10分後にスタートします。スタンプラリーの用紙を受け取ったチームから、好きな場所に移動してください。もちろんスタートするまで、見つけてもスタンプを押してはいけませんよ?」

「「「はーい!」」」


なるほど、開始場所は統一しないのか。統一してしまったら、皆が同じ所に行くから勝負にならないしね。


「じゃあ俺が用紙貰ってくるよ」

「お、ありがと大地。・・・それじゃあ、どこからスタートしようか?」

「できれば、スタンプを見つけている状態で開始したいですね」

「でも、すたんぷってどこにあるの?」

「それは探すしかないだろうよ。この学校のことだから、ただ置いてあるだけってことはないだろうな」

「隠されてたりするのかな?」

「え〜めんどくさいな〜」


各々が思ったことを口に出す。いくら制限時間が8時間もあるとはいえ、100個もスタンプがあるのだ。隠されている可能性も視野に入れておいた方がいいだろう。

おっと、周りのチームが動き始めた。とりあえず、まずはこの場所から動いた方が良さそうだ。


「それじゃあ大地が戻り次第、出発しようか」

「「了解!」」






「・・・あった」

「・・・あったな」


大地が用紙を貰って来て、いざスタート場所を探そうと山に入って早5分。今晴登たちの目の前には、地面から膝くらいまでの高さの赤い直方体が鎮座している。そしてその上にはスタンプが置かれていた。


「別に隠されてなかったな」

「だね。普通に見つかっちゃった」


伸太郎と狐太郎が言った。確かに、この赤いスタンプ台は木の下に堂々と置かれている。まして道沿いだ。見逃す方がありえない。


「他のチームはいないし、ここからスタートでいいかな」

「「「了解!」」」


皆の返事が重なり、結束力を感じた晴登は口角を上げる。何だろう、今すごくリーダーっぽいぞ。ちょっと嬉しい。


「それで、この後はどう進みますか?」

「あ、それは考えてなかった…」

「普通に山登ればいいんじゃないの?」

「それもそうか」


優越感に浸っていた晴登に、早速優菜からの質問が飛ぶが、とりあえず結月の言う通り山を登ることにする。スタンプを集めつつ、山登りもできて一石二鳥という訳だ。勝負も大事だが、せっかくなら楽しんでやりたい。


「お、そろそろ始まるぞ」


大地が腕時計を見ながら言った。いよいよ始まるのか。楽しみだ。


「5、4、3、2、1、0──」


大地のカウントが0になると同時に、森中にブザー音が鳴り響いた。なるほど、こうやって知らせるのか。でもこれで気兼ねなくスタートできる。


「よし、まず1個目のスタンプ確保!」

「14って書いてるな。全部に番号が付いてる感じか」

「なるほど。なら14番の欄に押さないとな」


晴登は手始めに、目の前のスタンプを用紙の14番の欄に押す。スタンプの模様は味気ないただの赤い丸で、特に意味は無さそうだ。
それにしても、用紙に100個の欄があるのは実に圧巻である。これは本当に途方もない。


「それじゃ、登って行こうか。目標100個だ!」

「「「おー!」」」


しかしそれでも100個を目指してしまうのは、やっぱり男子の性というものだろう。
晴登一行はスタンプラリー兼ハイキングを開始したのだった。






開始してから1時間が経った。思いの外スタンプは容易に見つかり、今のところそこまで苦労はしていない。ただ・・・


「1時間で集まったスタンプは10個・・・なるほど、こりゃ100個集めるのは厳しそうだ」


大地の言う通り、このペースだと8時間でスタンプを100個集めるのは難しい。いくら見つけやすい場所にあるとはいえ、山の中でそれを見つけるには多少の時間を要する。


「なら走って探す?」

「断る」

「暁君ならそう言うと思ってたよ」


それならばと、短絡的な考えを晴登が冗談混じりに言うと、もちろん伸太郎に拒絶された。正直晴登自身も嫌である。山の中を駆け回るのはもう懲り懲りなのだ。翌日、脚が筋肉痛になって大変だったし。


「別に全部集める必要はないんじゃない? この感じだと、どの班もコンプは無理だろうし」

「できる限り集めるしかないようです」

「やるしかない、だね!」


女子3人が口々に言った。その通りだ。一にも二にも、晴登たちができることはスタンプを集めることだけ。実際に100個集めるのが無理だろうと、目標100個を変える訳にはいかない。


「よし、とりあえず次のスタンプを探さなきゃ──」

「ねぇ、あれ見て!」


晴登が言いかけた途端、狐太郎が声を上げた。つられて彼の指差す方向を見てみると、確かにそこには赤いスタンプ台がある。


「いや待て、何の冗談だ」

「やっぱりそういうことしてくるんだな…」


伸太郎と晴登だけじゃなく、この場の全員がその光景を見て嘆息する。

──なぜならそのスタンプ台は、高く聳える断崖の中央に位置していたからだ。
 
 

 
後書き
いよいよ始まりました、スタンプラリーです。え、ラリーじゃない? 細かいことは気にしないでください(適当)

さてさて、さすがに100個のスタンプラリーは誰もしたことがないでしょう。もし、したことがあったという人は教えてください。1000個に書き直します(雑)

切り立つ崖の壁にスタンプ台。どうやって設置してるのか甚だ疑問ですが、果たしてこのスタンプを押すことができるのか。次回をお楽しみに。
今回も読んで頂き、ありがとうございました! では! 
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